■雪月花：１ 当て無き旅人■
李月蒼 |
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【7061】【藤田・あやこ】【エルフの公爵】 |
ずっとずっと探していた……。
独りの旅が何時からか二人になった。
誰かが隣にいる、そのことはお互いの支えになった。
嬉かった。ただ…嬉しかった。それを声や態度に表すことは無かったけれど。
今はまだ当ての無いこの旅に、俺たちはただ『みちづれ』がほしかった――…‥
「ねぇ……柾葵(まさき)、先はまだ遠い？」
声に出すは一人の少年の声。声変わりは疾うに済んでいるはずだが青年と言うにはその声は高い。しかしその見かけは十分青年と言えるものを持っていた。表情にはまだ幼さを残してはいるが、身長は成人男性の平均を超えている。
ただ、サングラスの奥に見える目はその表情に似合わず冷ややかにも思えた。その理由と言えるのは恐らくそれが何も映し出さない瞳、光を感じない眼だからなのだろう。
そして、その少年の隣に立つ……彼よりも更に背のある一人の男性。柾葵と呼ばれた青年は、ただ少年の問いかけに首を縦に振る。しかし一瞬の後それが少年には見えていないことに気づき、そっと少年の右手を取った。
「洸(あきら)……、まだ 遠いよ……？」
掌に書かれた文字を読み取り、洸と名前を書かれた少年は苦笑する。
「うん、判ってるよ柾葵。でも俺、そろそろ疲れたんだ」
言うと同時、少年の膝が崩れ、青年がそれを必死で支えようとした。
しかし互いに体力は限界に達し、少年の体を受け止めた青年の体も、やがて膝からがっくりと落ち、冷たい冷たいアスファルトに突っ伏した。
目の前にはもう街明かりが見えるというのに、そこに手は届かぬまま。
そっと二人 意識は遠のいていく。
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[ 雪月花１ 当て無き旅人 ]
――秋の空の下
ずっとずっと探してた。
独りの旅が何時からか二人になった。
誰かが隣にいる、そのことはお互いの支えになった。
嬉かった。ただ…嬉しかった。それを声や態度に表すことは滅多に無かったけれど。
今はまだ当ての無いこの旅に、俺たちは多分『みちづれ』がほしかった。
この偶然の出会いが、この先の互いにどう影響するかなど…誰にも分かりやしない――
「ねぇ……柾葵、先はまだ遠い？」
声に出すは一人の少年の声。声変わりは疾うに済んでいるはずだが青年と言うにはその声は高い。しかしその見かけは十分青年と言えるものを持っていた。表情にはまだ幼さを残してはいるが、身長は成人男性の平均を超えている。
ただ、掛けたサングラスの奥に見える目は、その表情に似合わず冷ややかにも思えた。
そして、その少年の隣に立つ彼より更に背のある一人の男性。柾葵と呼ばれた青年は、ただ少年の問いかけに首を縦に振る。しかし一瞬の後それが少年には見えていないことに気づき、そっと少年の右手を取った。
「洸……、まだ 遠い……？」
掌に書かれた文字を読み取り、洸と名前を書かれた少年は苦笑する。
「うん、判ってるよ柾葵。でも俺、そろそろ疲れたんだ」
言うと同時、少年の膝が崩れ、青年がそれを必死で支えようとした。
しかしゆらぎ、やがて落ちゆく二つの影――…‥
歌を口ずさんでいた。まだ昼間だというのに、人通りなど全くない道で。
謡い、歩むたびに揺れる髪は黒く長い。今は真っ直ぐと前を見据える目も髪の色と同じ黒で、見た目は何処にでも居る女性だった。
まだ陽は高いものの、吹く風は冷たく、彼女は思わず歌うことを止めると空を仰ぐ。その視線の先では薄雲が流れていた。
「――――……」
声は届くようで誰にも届かない。届いていない。この高い空にさえ。そう、多分誰の心にも、何処にも届かないから――彼女の歌は売れないのかもしれなかった。そして彼女自身も売れないことを自覚し、突破口を求めようとこうして旅に出ている。
そんな旅の道すがら、彼女は偶々出会った――否、この場合見つけたというのが正しいのだろう。偶々ぼんやりと足を止めた視線の先、そこには道端に倒れこんでいる二人の男の姿があったのだ。
「…………」
こんな人通りのない道でどうしたものかと考える。それ以前に、どうしてそこに人が倒れているかなどの思考にはたどり着かなかったようだが――気にせず、自分のことだけを考え進めばいい…そうは思うが、やはりゆっくりと歩みを再開した足は二人から先へ動くことはなかった。
人通りも無ければ車も通らない道だ。それでも、道に人が二人転がっていたら…そんな考えが僅かに脳裏を過ぎったのかもしれない、寝覚めが悪い気がした。
彼女はその場に立ち止まると、またゆっくりと空を見上げる。雲の流れは速く、景色はどんどん変わりゆく。ただ、目の前の二人と自分の時間だけはゆっくり流れているように錯覚した。
どれほどの時間が経ったかは分からない。ただ、高かった陽が、気づけば沈みかけているのを見れば、数時間があっという間に経過していたのかもしれない。
「……っ？」
不意に届いた音に、思わず顔をそちらへ向ける。見れば、倒れていた男の内、少年が顔を上げていた。
「あ、目ぇ覚めた？」
声を掛ければ、彼は小さくかぶりを振ってみせる。それは多分、否定の意味ではなく、しっかりと目が覚めずそうしたのかもしれない。
「――夢の中でヘンな歌が聞こえて目が覚めた…気分が凄い悪い頭痛い……雑音…」
開口一番そう言う少年に、彼女は僅かに顔を引き攣らせた。
「気分悪いって……雑音で悪かったね…」
何時の間にか又、無意識に歌を口ずさんでいたのかもしれない。しかしそれを雑音呼ばわりされる言われは無く、それでも思わず吐いた悪態は彼には聞こえない程度に留めておいた。そのお陰か少年の耳には届いていなかったようで、彼はただ「それで、誰？」と冷たい声で問いかけてくる。
「藤田あやこ二十四歳、ジャズとクラシックが得意の歌手…まぁ、売れないんだけど……歌手！ あなたは？ こんな所で寝てどうしたのよ？」
そう彼女――あやこが名乗れば、彼は溜息混じりに呟いた。
「やっぱり年上…なんですか、失礼しました。でもまぁ……確かに売れるわけがないでしょうね、アレじゃ」
そしてあやこの問いに答えること無く続く毒舌に、彼女は顔を顰める。
「むっ、そんなこと言うなら、何処がダメか教えてよ。っていうか、さっきの私の歌だって分かってて言ったわけ!?」
最後の最後でようやく反応したあやこに、少年はやれやれと言わんばかりに目を逸らし呟いた。
「他に人が居なかったんだから当たり前じゃないですか。それに、あの歌声と今の声とで確信しましたし、何より悪態まで吐いたくせに。というか、……何言ってんですか？」
だが、やはり少年も最後の最後で我に返る。言われている意味が全く分からなかった。いや、今この場でいきなり出てくるような言葉であるわけがないと――そう思い、冷静に聞き返したつもりだった。しかしあやこもあやこで、やはりよく理解できていなかった。否、あやこにとってはこれがごく自然な流れだったのかもしれない。
「なんだ全部、聞こえてたのか。で、何って何が？」
「勿論ダメ出しの辺りですけど」
即答した少年に、あやこは「あぁー」と唸った後、コホンと一つ咳払いをしては言う。
「私の歌がダメなのは分かってる。でも何がダメか、どうすればいいのか分からないからこうして旅に出てるの。ただ良い悪いじゃなくて、文句言うならダメ出しの一つや二つはしてよ！」
「……無茶苦茶な…」
思わず苦笑いを浮かべた少年に、あやこは引き下がる様子は無い。
「いいでしょ、別に減るもんじゃないし」
「嫌です。減ります。労力と神経が。それにそれはあなたの勝手な都合ですから、俺にそんな義務もありませんし」
一気に捲くし立てた少年に、あやこは思わず無言で思い切り頬を膨らました。
「そんな顔されたって…というか、一体何考えてるか分かりませんけど初対面ですよ？ ……余計な時間も取りたくないんで」
言いながら立ち上がる。
「……誰かにこんなに関わるほど暇じゃない、もう行きますから……ほら、起きろ」
そういうと、少年は隣で未だ寝転がったままの青年を蹴り飛ばした。どうやら二人は知り合いのようだった。そして恐らく、その見た目ほど蹴りに力は入っていなかったのだろう。青年は声を上げることも無く、ただゆっくり目を開ける。そして、少年を見た後あやこの存在に気づき首を傾げてみせた。その動作を見ると、まるで少年よりも子供のようだ。
「…………？」
声は無い。ただ、ジッとあやこを見た後、不意に青年は俯いてしまった。少年が青年の肩を揺らし先を急こうとする。青年に反応は無い。
「おは、よう？」
思わずかけた言葉。青年の肩が僅かに上下した。特別威圧感のあるような声でもなければ、突然大声を出したわけでもない。ただ青年は、あやこの挨拶から暫くした後、ゆっくりと顔を上げた。
「……………………」
やはり言葉は無い。代わりに他の動きはあった。コートのポケットからメモ帳とペンが出され、そこに何かが書かれて行く。
ペリッと一枚、破かれあやこに渡されたメモの切れ端。右手で受け取ったそこには、綺麗な文字で小さく『おはよう？』とだけ書かれていた。要するに筆談である。
「ん？ もしかして言葉がノラないの？ それってイライラするよねぇ。私も歌ってる中でそういうことあるからさ」
「…………」
あやこは首を傾げ、推測から共感の言葉を向けるが、青年からあやこへ向けそれ以上の動作は生まれない。ただ、青年は少年に向き合うと、今度は彼の手を取りその掌を指でなぞっていった。
「誰って――…確か通りすがりの売れない歌手藤田さん二十四歳」
分からない。
「――――……」
何が起こっているのか、あやこにはよく理解できなかった。
「何なんだ？って――……俺が聞きたい」
ただ、そこでは何かしらの疎通があるらしい。少年は言葉にし、青年は手を動かし、時折頷いては首を振る。
「とにかくもう行くんだ、無駄に詮索しても意味はない」
そう言い少年は青年の手を引き、無理矢理起き上がらせては立たせた。大きな身体に纏った、この時季にはまだ少しばかり外れた黒のロングコートが揺れる。
「ねぇねぇ、私もついて行っていい？」
「…………あの、また唐突になんですか？」
踵をかえしかけた背にその言葉を受け、少年は振り返らないまま問いかけた。
「此処で会ったのも何かの縁？」
「別に妙な歌を聴かされた出会いで縁なんて感じませんよ、俺は」
少年の隣では、青年が不思議そうに首を傾げている。既に少年が余りにもウンザリし、返答することさえ面倒になるほどの事の成り行きを、彼は半分以上知らないせいだろう。
「でも…何か見つかる気がして――」
「何をしているかも、何処に行くかも分からない相手について行くんですか？ それで良いんですか、二十四歳ですよね？」
あやこの言葉を遮る少年の声は、やがて感情を含まなくなった。苛立ちすらその言葉の中からは消え、ただ淡々とあやこに問う。大人びた見た目ではあるが、そういう少年は一体幾つなのか、あやこは疑問に思った。
そして対抗しようと口を開いた瞬間、それを素早く察知したのか「ダメです」と否定の言葉が続く。
「あなたとは歩いている目的が違います。あなたはあなたの探してるものを見つければいい」
「じゃあ私も同じ方向なんだ。だからせめて途中まで――？」
「じゃあって…………」
呆れた声の後、少年は僅かに顔だけあやこに向け、苦笑いを浮かべながら言った。何を言っても無駄だと、ようやく察したのだろう。
「…………俺達は俺達のペースで行きますから…あなたがどう動こうともう勝手ですけど、相手はしませんから。勝手に自分の目的果たして、勝手にしてください」
そうして、止めていた足を動かし始めた。青年もそれに続く。
ただあやこは何故か確信していた。この二人は自分の求めるものを持っているのだと。女の勘、なのかも知れない。
「ねぇ、二人とも名前は!?」
いつの間にか多少距離が離れてしまった二人の後を急いで追い、あやこは二人に問う。
青年は振り返りもせず、歩みを止めることもない。それは少年も同じだった。ただ少年はそのまま、聞こえるか聞こえないか程度の声で話し出す。
「……洸。こっちは、柾葵」
躊躇いを見せたものの、それは自分と青年の名らしきもの。
「洸に柾葵……」
その名前を早速声に出すと、あやこは薄い笑みを浮かべた。
何かを察したのか、洸が歩いたまま僅かにあやこの方を見る。そんな彼に、あやこは告げた。
「これからよろしく！」
それはまだ 冬の訪れの遠い秋の出来事――…‥
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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→PC
[7061／藤田・あやこ／女性／24歳／女子高生セレブ]
→NPC
[ 洸・男性・16歳・放浪者 ]
[ 柾葵・男性・21歳・大学生 ]
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、ライターの李月です。この度は雪月花１ 当て無き旅人にご参加ありがとうございました。
最初に…二人をどうするかが全く書かれていなかったので、このような結果になりました。
また、一部NPC設定に関しての部分は、ある状況が発生しない限り初対面でいきなり知りえない部分であり、プレイングで強引にまず結果を作るのはアウトとなります。その点ご注意ください。
又、出会いの形がイレギュラーとなっているので、二人に関しての情報も必要最低限のことしか引き出せていません。
同行理由に関しては通常であればそれほど悪くないのですが、初対面の状況や二人との考えの相違からこのような形になりました。
洸に関しては反応の通りです。元々彼の苦手な女性像に部類されているのも有るのですが…。
柾葵に関しては、いきなり踏み入ってはいけない場所に踏み入ってしまったため、一線を引きました。
とは言え、この先の付き合い方次第で、仲良くなれればいつか願いは叶うかも…しれません。
まだ歩き出し間もないこの世界は、途中離脱可能、追加シナリオも可能な世界です。
もしお気に召され、次回に興味を持たれましたら引き続き二人に同行してみてくださればと思います。
それでは、又のご縁がありましたら…‥
李月蒼
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