■D・A・N 〜First〜■
遊月 |
【3636】【青砥・凛】【学生、兼、万屋手伝い】 |
自然と惹きつけられる、そんな存在だった。些か整いすぎとも言えるその顔もだけれど、雰囲気が。
出会って、そして別れて。再び出会ったそのとき、目の前で姿が変わった。
そんなことあるのか、と思うけれど、実際に起こったのだから仕方ない。
そんな、初接触。
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【D・A・N 〜First〜】
それは、何ということのない黄昏時のことだった。
ショートカットの黒髪に青い瞳が印象的な“少年”――否、“男装の麗人”である青砥凛は、学校からの帰途を辿っていた。
急ぐでもなく着実に一歩一歩歩んでいた凛は、ふと前方に見えた人影に視線を向けた。
橙色の陽光に映える金髪が、一番に目を引いた。そして自分のものよりも深みのある青色の瞳も。
派手なわけではない、けれど整った顔立ち。無駄なく柔らかな所作。それらがあいまって、一種独特の雰囲気を作り出していた。
その人は凛の視線にも他の人がちらちらと向けている視線にも気づかぬ風にすたすたと凛の横を過ぎ去っていった。凛もその人から視線を外し、また帰途を行くことに意識を向けた。
何らかの偶然がなければそのまま二度と会わないだろう、そんな接触、――…のはずだった。
「ねぇ、そこの――お嬢さん、でいいかな。黒髪の男子制服着てる、そこの子。……君だよ君」
通り過ぎていったはずのその人が、そんなことを言いながら凛の肩を叩かなければ。
「……え、…僕…?」
「そう、君。…『僕』って、もしかして男の子? …ん、やっぱり違うね。骨格も『色』も女の子のものだし」
なにやら1人で納得している。せっかくなので、凛はその人を真正面からゆっくり見ることにした。
外見からすると自分よりは年上だろうか。少なくとも成人はしているように見える、中性的な美貌の男性だ。
顔かたちは日本人そのものに見えるが、眩い金髪も深い青の瞳も天然のようだ。もしかしたらハーフか何かなのかもしれない。
そうやって凛が観察してる間に、目の前のその人は当初の目的を思い出したらしかった。
「…って、それはともかく。あのさ、これ君のじゃない?」
そう言って差し出された手のひらの上には、とても見覚えのある青いピアスがあった。
「あ……これ、僕の……だ…」
凛がそう言えば、彼はにこりと笑んだ。
「大切なものなんじゃない? 失くさないように気をつけないとダメだよ」
亡くなった母に貰った、大切なピアス。
彼が拾ってくれなければ、そのまま失うことになっていたかもしれない。
「――…ありがとう……」
ふわりと笑んで、礼を告げる。
凛が表情を変えるのは珍しいことなのだが――面識のない青年がそれを知るはずもない。
青年は肩を軽く上げ、「いえいえどういたしまして」と軽く答えた。その拍子に長めの金髪がさらりと揺れ、隠れていた耳が露わになる。
(赤い……ピアス………?)
そこに光っていたのは、血の様に赤い石。意匠は違うものの、それもまたピアスだった。ただし、何故か右耳にしかついていない。
別に片耳にしかつけていないのはおかしいことではない。ファッションの一部としてならありだろう。
けれど、何故か気になった。
凛の視線に気づいたのか、青年は右耳に手をやり――どうしてか、痛みをこらえるような、切なげな表情をした。
(何か、ある……の、かな…?)
少し、興味がわいた。
しかし、彼と自分とは初対面だ。不用意に訊ねることは止めておいた方がいいだろう。
ふと、黙り込んでいた青年が空を見た。そして、呟く。
「ああ、……時間、か」
言葉と同時、彼の輪郭が揺らいだ。
目の錯覚かと思う。しかしそれは違うようで。
沈みゆく夕日の最後の一欠片が照らす中。
色彩が褪せて、薄れる。空気に溶ける。
そして極限まで薄れたそれは、陽が完全に沈むと同時、再構築される。
揺らいだ輪郭は、僅かに形を変化させ、はっきりと。
褪せて薄れた色彩は、色を変え、鮮やかに。
先程まで居た人物とは全くの別人が、そこにいた。
雪のように白い肌、それ自体が光を放つような白銀の髪。
穏やかに細められた瞳は、紅玉の赤。
ゆったりとした雰囲気を纏ったその人は、伏せていた瞳を上げて凛を見た。
銀髪から覗く左耳の赤いピアスが、やけに印象的だ、と凛は思った。
「まったく――カガリにも困りましたね。何も知らない人の前で、変化するなんて。ああでも、人除けをするくらいの余裕はあったみたいですけれど」
苦笑しながらそう言って、それから凛に柔らかな笑みを向ける。
「すみません、驚かせてしまったでしょうか。――見たところ、貴方も『そういう世界』を知らないわけではなさそうですから、大丈夫だとは思いますが……」
『そういう世界』とは、異能を持つものたちが集まる、東京の裏側を示す比喩だろうか。
どういう意味にしろ、凛はそれほど驚かなかったので、首を振っておいた。
それにほっと息をついたその人は、改めて凛に向き直ると口を開く。
「自己紹介がまだでしたね。私は宵月といいます。先ほど貴方と言葉を交わした金髪に青い目の男がカガリ。私とカガリは全くの別人なんですけれど、今は同じでもありまして――そうですね、外観の変化を伴う二重人格みたいなものでしょうか。実際には違うんですが、理解の上ではそれでも間違いではありませんし。太陽が出ている間はカガリが、太陽が沈んでからは私が、こうやって存在できるのです」
「カガリ、さんと……宵月さんは………別人だってこと、だよね……?」
「まあ、突き詰めて言えばそうですね」
シンプルな凛の言葉に、宵月は穏やかに笑った。
(なんか……あの人と、雰囲気……似てる…?)
穏やかな空気を纏い静かに笑む彼に、母が重なる。
そして、親近感と懐かしさも同時に感じた。
きちんと説明などをしてくれるところからも、なんとなく頼れる人のような気がする。
「ああ、カガリが何か失礼なことをしませんでしたか? 私は『視え』ないので、少し気になるのですけれど…」
宵月の言葉に、凛はゆっくりと首を振った。
「ピアス、拾ってくれた……し。いい人……だと、思う……」
「それなら、よいのですけれど。……何か、カガリも感じるところがあったのかもしれませんね」
後半は小さく呟かれ、凛にはあまり聞き取れなかった。
「少し、引き止めてしまいましたね。暗くなってしまいました。…もしよろしければ、お送りさせていただきますが。ええと、――お名前は?」
「青砥、凛……」
「青砥凛さん、ですか。貴方によく似合う、綺麗なお名前ですね。……それで、どうしましょうか?」
訊ねられ、凛は考える。
別に送ってもらう必要はない。暗いとは言ってもそれほどでもないし、凛は武道も一通り習得しているから、危険が迫っても自分で対処できる。
けれど、このまま彼と別れてしまうのは、なんとなくもったいない気がした。
「もう少し……お話、したいから………一緒に、歩きたい…な……」
そんな凛の言葉に、宵月はやわらかく笑って、答えた。
「ええ、よろこんで」
そして二人並んで、歩き出したのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3636/青砥・凛(あおと・りん)/女性/18歳/学生、兼、万屋手伝い】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、青砥様。ライターの遊月と申します。
「D・A・N 〜First〜」にご参加くださりありがとうございました。
専用NPCカガリと宵月、如何でしたでしょうか。
どちらがメインかの指定がありませんでしたので、悩んだ挙句に心持ち夜メインにしてみました。
カガリはマイペース気味でちょっとつかみ所のない感じ、宵月はおっとり、でも説明等はきちんとやる真面目さん、という感じでしょうか。
ちょこちょこ伏線を交えつつ。でもさらっと流していただいてもOKです。
夜NPCとお母様の雰囲気が似ている、とありましたので、宵月書きながら大丈夫なのかとどきどきしてました。
お母様の雰囲気から外れていないといいのですが。
ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
リテイクその他はご遠慮なく。
それでは、本当にありがとうございました。
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