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■D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜■

遊月
【7092】【美景・雛】【高校生・アイドル声優】
 草木も眠る丑三つ時。とは言え皆が皆眠るわけでもない。
 眠れずふと外に出てみれば、見覚えのある姿。
 振り向いたその人は、「お茶でもどうか」と尋ねてきた。
【D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜】


 ぱちっ、と美景雛は目を覚ました。
(目、覚めちゃった。今何時だろう……)
 時計を見れば、見事に真夜中。仕事が早く終わったので早めに寝付いたのだが、まさかこんな時間に目が覚めるとは。
 とは言えあまりにもいい目覚めだったために、二度寝する気にもならない。
「……散歩でもしようかなぁ」
 何となく呟く。それは悪くない考えのように思えたので、早速雛は外に散歩に出てみることにしたのだった。

  ◆

(あれ、あの人……)
 真夜中ということであまり人通りの多くない辺りを散策していた雛は、前方に見えた人影に目を瞬かせた。
 綺麗な黒髪にすらりとした長身。全身黒尽くめの服なので幽霊とか危ない仕事の人とかかと思って一瞬びくっとしてしまったが、あれは――。
「美景さん、だったか。こんな時間にこんなところで何をしている?」
「は、はいぃっ?!」
 すっ、と何の予備動作もなしに振り向いたその人に尋ねられて、雛は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
 まさか自分に気づいているとは思っていなかったからだったのだが、そんな声を上げられたら声をかけた方はちょっと気まずい。
「……俺はそんなに驚かれるようなことを言ったか……?」
 心底不思議そうに呟く。そしてああ、と何か納得したように小さく頷く。
「俺のことを覚えていないのか。まぁ一度会っただけだからな、それも無理ない――」
「お、覚えてますっ! 月華さんですよね!?」
 覚えていないわけがない。あれだけインパクトのある出会いだったのだから。
 勢い込んで言った雛に、月華は少々面食らったようだった。
「……そうだが。何だ、覚えていたのか」
「覚えてないはずないじゃないですか」
「それもそうか。……それで、こんなところで何をしている? 女性がこんな時間に1人で外を歩いているのは感心しないが」
「ちょっと散歩をしようと思って。それに私、結構強いんですよ」
 その言葉に月華は何かを考えるように小さく首を傾げた。
「その散歩は、何か目的があるのか?」
「え?」
 散歩に目的、とはどういうことだろう。散歩自体が目的ではダメなのだろうか。
 雛の戸惑いを表情から読み取ったらしい月華は、無表情ながらどこか困ったような声音で言った。
「ああ、すまない。言葉が足りなかったようだ。その、――散歩ついでにどこかへ行くなどの用があるのかと思ってな。ただ時間を潰すだけならば、お茶でもどうかと。1人でも大丈夫だと言うからには何らかの根拠があるのだろうが、それにしてもこのまま見過ごして何らかの事件に巻き込まれでもしたら寝覚めが悪い。…とどのつまり自身の精神安定のために誘っているのだが、それでもよいならば…」
(ええっと、つまりお茶に誘ってくれてるんだよね…? なんか色々理由?とか付け加わってるけど、結局はお茶のお誘いだよね?)
 自分なりに月華の言葉を要約した雛は、改めて月華に向き直る。
「是非お願いしますっ!」
 満面の笑みで告げた雛に月華は無表情で「そうか」と頷くと、雛をとある場所へと誘ったのだった。

  ◆

「ああそうだ、これを」
「はい?」
 月華の案内で辿り着いた小ぢんまりとした喫茶店の一角に、雛と月華は向かい合って座っていた。
 こんな真夜中にやっている喫茶店があることに驚いている雛をよそに月華はマスターらしき人と二、三言交わして席についてしまったので、雛も慌ててその向かいに座ったのだ。
 そしてその直後に月華が先の言を発したのだった。
 言葉とともにテーブルの上に出されたのは、何の変哲もない茶封筒。
 月華が目線で受け取れと言うので、首を傾げつつ手にとって開いてみると。
「おかね……?」
 そう、その中に入っていたのはいくらかの紙幣だった。なんというか、こうポンと渡されても困るような額の。
「先日の陽葉の食事代と、迷惑料のようなものだ。足りないならばまた後日――」
「いえ全然足りなくないです…っ!」
 足りないどころか多すぎるくらいだ。というか迷惑料が多すぎである。
「あの、こんなに頂かなくてもいいんですけど」
「そうか? まあそう言わず受け取っておけ。あって困る類のものではあるまい。多い分は利子とでも思っておけばいい」
 どんな高利貸しだ。極悪金利業者より酷い気がする。
 どこからどうつっこめばいいのか雛が頭を悩ませていると、先程月華と言葉を交わしたマスターらしき人が雛たちに近づいてきた。
「お待たせいたしました。当店裏メニュー・気紛れティーです」
「……そのネーミングはどうにかならないのか」
「ならないな。注文する客滅多に居ないから」
「いっそただのブレンドティーでいいだろう」
「それじゃつまらん」
「そういう問題か?」
 などという会話をテンポよく交わし、マスターらしき人は月華と雛の前にカップとソーサーを一組ずつ置いて去っていった。
 ちょっとついていけていない雛をよそに、月華は優雅にカップを口に運ぶ。
 そして一口飲んで、雛に一言。
「飲まないのか?」
「いや、あの、これ、は?」
「オリジナルブレンドの紅茶だそうだが」
「……私の分ですか?」
「そうだ。ああ、紅茶が嫌いだったか?」
「違いますけど…………。うう、いいです、もう何も気にしないことにします」
「? そうか」
 いつ頼んだのかとか代金はとかマスターらしき人とは顔なじみなのかとか、色々訊きたいような気がしないでもないが、いちいち気にしていては、いつまでも月華のペースのような気がする。
 気を取り直そうと、雛は運ばれてきた紅茶をちょっと冷まして飲んでみた。
(あ、美味しい……)
 なんだかちょっと幸せな気分になった。夜風に当たって冷えた身体も暖められる。
 それに後押しされるように、雛は口を開いた。
「あの、月華さん。ちょっと質問してもいいですか?」
「質問? 何についてだ」
「月華さんについて、ですけど」
 雛の言葉に、月華は一度目を瞬き、それから口を開いた。
「俺について? 何故だ?」
 心底不思議そうな声音の月華に、雛は当然のように答えた。
「『ともだち』になりたいからです!」
「とも、だち……?」
「そうですっ」
 力強く頷く雛に、月華は少し何かを考える素振りを見せ、それから「まあ、構わないが」と答えた。
 許可も貰ったので、雛は早速月華に問いかけてみる。
「えっと、月華さんって誕生日いつですか?」
「誕生日。生を受けた日、か…。そうだな、確か冬だったと思うが。その年一番の寒さ、と言われていたが、雪は降らず月が煌々と照っていた夜だったらしい」
「え?」
「詳しくは覚えていない。そういうことに頓着のない一族だったものでな」
 何を言ったものかと雛は悩む。しかしいい考えが浮かばなかったので、次の質問をすることにした。
「じゃあ、歳はおいくつなんですか?」
「……いくつに見える?」
「え、ええっとぉ……にじゅっさい、よりは上に見えます」
 まさかそう返されるとは思わず、意味もなくしどろもどろに答える。
 すると月華はふ、と口元に笑みを滲ませ――。
「まあ、当たりだな。少なくとも美景さんよりは年上だ」
 そう言う月華は確かに笑んではいたのだけど、何かを憂うような瞳をしていた。
 しかしそれは一瞬で、次の瞬間にはデフォルトらしい無表情に戻っていたが。
 気のせいか、とも思うが、なんだか釈然としない。
 とりあえず、さらに質問を続けてみる。
「それじゃ、家族構成とか」
「把握してない」
「………………………は?」
 あんまりに予想外の答えにちょっと間抜けた声を漏らしてしまった。
「血縁関係が複雑だったのもあるが、『家族』と過ごしたことが殆どなくてな。まあそれは俺だけではなく、一族の殆どの者もなのだが」
 まずいことを訊いてしまったのではないかと思ったものの、月華は至極淡々と喋っている。全く気にしていないようだ。
(掴めない人だなあ……)
 心中で呟いて、雛はまた一口、紅茶を口に運んだのだった。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7092/美景・雛(みかげ・ひな)/女性/15歳/高校生・アイドル声優】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、美景さま。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜」にご参加くださりありがとうございました。

 月華とのお茶の時間、如何だったでしょうか。
 思った以上にマイペースな月華に振り回される感じにしてみました。大丈夫でしたでしょうか…。
 月華は意外に人当たりがいいようです。自分の中の主軸に沿って動いているだけなのですが。
 なんとなく、美景さまを気に入っているっぽい感じがします。
 少しでも楽しんでいただけることを願って。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。