■D・A・N 〜First〜■
遊月 |
【7266】【鈴城・亮吾】【半分人間半分精霊の中学生】 |
自然と惹きつけられる、そんな存在だった。些か整いすぎとも言えるその顔もだけれど、雰囲気が。
出会って、そして別れて。再び出会ったそのとき、目の前で姿が変わった。
そんなことあるのか、と思うけれど、実際に起こったのだから仕方ない。
そんな、初接触。
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【D・A・N 〜First〜】
その日、鈴城亮吾は適当に暇つぶしの散歩をしていた。ただそれだけだった。
……はずなのだが。
「? どうしたの? この店好みじゃないかな」
どうしてほぼ初対面の人間と洋服店に居るのだろうか。
自分を伺う金髪碧眼の長身の人物を見ながら、亮吾は事の起こりを思い返した。
◇ ◆ ◇
(あー、いい天気だなー…)
そんなことをぼんやりと考えながら、亮吾はふらふらと気の向くままに散歩をしていた。
そして。
「あ、」
「うわっ?!」
誰かの声が上から落ちてきたのと同時、どんっ、と何かにぶつかった。
衝撃でそのまま地面に尻餅をついてしまう。
―――…バシャッ。
「………………………あ。」
「あちゃー」とでも言いたげな声と共に、何かが降ってきた。
とりあえず液体のようだが――。
突然の出来事に呆然としている亮吾の前に、誰かが屈む。
「ごめん、大丈夫? ちょっと考え事してて気づかなくて」
申し訳なさそうな顔で亮吾を覗き込んできたのは、陽射しに透ける綺麗な金髪に冬の青空のような透き通った青の瞳を持つ美青年だった。
ちょっと呆気に取られるくらい整った顔に至近距離で迫られ、思わず後退さった亮吾は、何かが手に当たるのを感じて反射的にそれを掴んだ。
そしてそれに視線をやると――。
(紙、コップ……?)
そう、それは何の変哲もない紙コップだった。
それを理解した瞬間、先程何かを被ったことを連鎖的に思い出す。
(ってことは俺これ被ったのかよ!)
よくよく見れば紙コップの中には茶色っぽい液体が入っている。それと(認めたくないが)自分から香ってくる匂いを考えれば、恐らく自分はコーヒーを被ったらしい。頭から。
なんか色々げんなりしている亮吾に、手が差し出された。金髪碧眼の人物が差し出しているのは考えるまでもなく分かったが、なんだか癪なのでその手を無視して自分で立ち上がる。
それに気を悪くした様子も無く、青年は亮吾に頭を下げる。
「ホント、ごめんね。怪我はない?」
「……怪我はねぇけど」
怪我はないが、精神的ダメージはある。というか服がコーヒーでぬれてしまった。
と、いうか。
(うわ、こいつ背ェ高っ!)
向かい合って立ったことで分かった相手の身長に、亮吾は心中で声を上げた。
亮吾とはゆうに頭一個分は差があるだろうか。自身の身長の低さを気にしている亮吾からすると羨ましいことこの上ない身長だ。
「ああ、服にもかかっちゃったか……。そのままにしたら染みになっちゃうよね」
何かを考えるようにする青年を、亮吾は不機嫌顔で見遣る。
「とりあえず近くに知り合いの家があるんだ。まずはそこでシャワーでも浴びてくれるかな。そのままで帰すわけにもいかないし」
「は?」
いきなりの言葉に、ちょっと間抜けな声を漏らしてしまう亮吾。
「ああ大丈夫。別に人攫いとかじゃないし、怪しいお仕事の人でもないから。純粋に君をそのまま帰すのが嫌なだけだから。というわけで、行こうか」
「って、ちょ、待て、」
「服はクリーニングに出せば大丈夫かな。とりあえず今日のところは何か別の服を買って――今時の子ってどういう服が好みなのかな? まあそれは追々考えよう」
「聞けよ人の話!」
半ば引き摺られるようにして、亮吾は青年曰くの「知り合いの家」まで連れて行かれてしまったのだった。
それからは知らない家のバスルームに放り込まれるわ、仕方なくシャワー浴びて出てくれば自分の服がなくなってて代わりに新品の服がおいてあるわ、裸で居るわけにも行かないからそれを着ればそのままなんか高そうな洋服店に連れてこられるわ――。
そして現状に至る、というわけだ。
「あのさ」
「何? 鈴城くん」
「ケイさんって強引だって言われねぇ?」
ケイ、というのはこの金髪碧眼の青年の名前である。「知り合いの家」とやらに連行される途中に自己紹介し合ったのだ。とは言えお互いの名前くらいしか知らないが。
ケイは「んー」と少し考える素振りを見せたが、すぐににっこりと笑って答えた。
「言われることもあるかもねぇ」
(言われなきゃおかしいっての)
心中で呟く。人好きのする笑顔を始終浮かべてはいるが、ケイは人を振り回すタイプの人間のような気がする。
「それより、服決めてくれないと。遠慮しなくていいよ?」
「別に買ってもらわなくてもいいって。今着てるやつがあるし」
この服も出来れば返したいくらいだ。というか何故自分に合うサイズの服がぽんと出てきたのだろう。ケイもケイの知り合いも、明らかに亮吾より大きいサイズなのだが。
「駄目だよ、それじゃ俺の気がすまないからね。決めてくれないと俺が適当に買って押し付けちゃうよ?」
「押し付けるって、オイ……」
「んー…。じゃ、すいません、この子に合いそうな服を適当に見繕ってくれますか? そうですね、十着くらい」
「ちょっと待てッ!!」
笑顔で恐ろしいことを言ったケイを慌てて止める亮吾。
「どうしたの?」
「………わかった、俺が決める。決めるから、適当に十着包ませるのは止めろ」
「そう? じゃ、ゆっくり決めてね。何着でもいいから〜」
輝かんばかりの笑顔で言ったケイに、なんだかはめられたんじゃないか、と亮吾は思った。
◆ ◇ ◆
「本当にそれだけでいいの?」
「これでいい。っつーかなんでこの店高いのしかねぇんだよ。こんなん気軽に着れるか」
「だって俺の行き着けここしかないんだよ。ここって高いんだ? 知らなかった」
(どこのブルジョワジーだお前…)
心中でつっこむも声には出さない。なんか疲れた。
「あ、もうこんな時間だね。やばいなぁ」
沈みゆく夕日を見て、ケイが呟く。
「は?」
何がヤバイのだろう。まさか門限とかあるのか、大の大人に。
「んー、でも大丈夫かな。何となくだけど、そういう感じするし」
わけの分からないことを言うケイを見上げると、ケイは笑っていた。
どこか、陰のある瞳で。
「ね、今からちょっと不思議なことが起こるんだけど、『化け物ー!』とかって言わないでね。傷つくから」
「え、」
「いやまぁ言わないとは思うんだけどね。念のため」
そう言ったケイの顔の輪郭が、揺らぐ。色彩が褪せて、薄れる。空気に溶ける。
そして極限まで薄れたそれは、陽が完全に沈むと同時、再構築される。
揺らいだ輪郭は、先ほどよりもややしっかりした身体を形作り。
褪せて薄れた色彩は、色を変え、鮮やかに。
そして先ほどまで陽月が立っていたそこには――…見知らぬ男。
日に当たったことがないような白い肌、肩につくほどの夜闇の如き黒髪。
鋭い対の瞳は、髪色よりなお深い漆黒。
夜を纏った男は、目の前で起こった現象に開いた口がふさがらない亮吾を見てため息を吐いた。
「まったく、ケイにも困ったものだな。何を考えているのだか…まあ、いつものことだが。……大丈夫か、少年」
「……………………へっ?!」
軽く放心状態だったために妙な反応をしてしまった。ちょっと恥ずかしい。
「驚くのも無理はないが……しかし、見たところ少年にも『何か』あるだろう。種類が違うのだろうが、そうまで驚かれるといっそ愉快だな」
くつくつと笑う男。
呆然としている亮吾をよそにひとしきり笑った後、男は亮吾をとっくりと見つめ、頷いた。
「なるほどな、ケイが構うわけだ。あいつを思い出させる感じがする。……外見は全く似てないが」
そして闇に染まり始めた空を見上げ、さて、と呟く。
「私はともかく、少年はそろそろ家に帰るべきではないのか? 家族が心配するだろう」
「え、ちょ…っ、」
「ではな」
「待ってくれ!」
反射的に亮吾は男を引き止める言葉を発していた。それに男は驚いたような顔をする。
「……どうした?」
「あ、いや、その」
自分でも何で呼び止めたのかよく分からない。でも何故か、そのまま別れてはいけない気がしたのだ。
「ええっと、その、名前なんて言うん…です、か」
「名前?」
(ってオイ何言ってんだよ俺! 口下手なのは分かってたけど唐突にも程があるだろ! っつーかマジで何で呼び止めたんだ…!)
内心頭を抱えている亮吾に気づかぬ風の男は、どこか懐かしむような雰囲気を纏いながら答える。
「私の名前、か……『シン』という。…少年は『鈴城亮吾』君だそうだな」
「え、なんで名前――、」
この男の前で自身の名を言った覚えはないし、名前が分かるようなものを持っているわけではない。それなのに告げられた自身の名に驚きを隠せない亮吾を見て、男は言う。
「ケイに名を告げただろう? ケイと私は――そうだな、表裏一体の存在とでも言おうか、記憶を共有しているのだ。元は全くの別人なのだが、今は同じでもある。太陽が出ている間はケイが、太陽が沈んでからは私が、存在できるのだ。そうだな、理解する上では外見の変化を伴う二重人格とでも言ったところか。実際は違うが」
(別人だけど、別人じゃなくなったってことか…?)
なんか自分でもよくわからない理解の仕方だ。けれどそうとしか取れない。
混乱気味の亮吾を黙って見ていたシンは、ふう、と息を吐くと「とりあえず、」と口を開いた。
「何の用があるのかは知らないが、立ち話もなんだろう。落ち着いて話せる場所に移動しないか」
シンの提案に、亮吾は一も二もなく頷いていたのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【7266/鈴城・亮吾(すずしろ・りょうご)/男性/14歳/中学生】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、鈴城様。ライターの遊月と申します。
「D・A・N 〜First〜」にご参加くださりありがとうございました。
専用NPC・ケイとシン、如何だったでしょうか。
ケイに振り回されおもちゃにされ、というよりは流れに流され振り回され、という感じになりました。
ケイは、なんというか、鈴城様の反応を楽しんでるっぽい気がします。表にはあんまり出ていないかもしれませんが。
仲良くなる過程を色々すっ飛ばした感溢れている気がしますが、ご容赦を…。
シンはシンで、ケイに負けず劣らず性格が捻くれてそうです。
でも妙に鈴城様を気に入ってる様子。…まるっきり子ども扱いしてますが。
ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
リテイクその他はご遠慮なく。
それでは、本当にありがとうございました。
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