■猫とリボン■
ひなし |
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】 |
テーブルを囲む能力者たちは、誘いあって訪れたのか、はたまたこの場で意気投合したのか、談笑しながらお茶を楽しんでいるところだった。
彼らのほかに客の姿はない。
この店、もののけ喫茶『のら丸』はいつも閑古鳥がないているが、どういうわけか、彼らはここを気に入っていた。
これでもう数度目の来店になる。
品揃えは多少奇妙ではあるが、意外なことにどれも味は悪くない。
はずんだ話も穏やかに余韻を残しながらまとまり、ティーポットが空になった、ちょうどその時のことだ。
和やかな空気をぶつりと切って、畏縮して固くなった声が響いた。
「お客様」
見れば、テーブルから少し離れた場所に、猫背をさらに丸くして縮こまり、『のら丸』唯一のウェイター、猫屋敷・瞬灯が立っていた。
給仕に徹する普段の彼は、いつも落ち着いて無気味な笑顔を作っているのだが、この時ばかりは違った。
まるでどんな顔をすればいいのかわからず、笑みを顔に貼付けたまま、眉尻を下げて所在なく視線をさまよわせている。
続く言葉も歯切れが悪く、詰まっては慌てて言葉を探すというありさまで。
「……あの、その……ええと、つまり、お願いがあります」
やっとのことでそれだけを述べたのだった。
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