■応接室にて■
川岸満里亜 |
【6424】【朝霧・垂】【高校生/デビルサマナー(悪魔召喚師)】 |
「いらっしゃいませ。お嬢様は、ただ今外出しております」
応接室に通される。
6畳ほどの小さな部屋には、美しい風景画が飾られている。
「こちらで少々お待ちください」
勧められるまま、ソファーに腰掛ける。
スーツの似合う紳士的な青年だ。
この青年が人間ではないなどと、誰が信じられるだろうか。
言葉も、行動も滑らかで表情もある。
さて、彼女が帰宅するまで、この青年に何かを聞いてみようか。
それとも、別の誰かを呼んでもらおうか――。
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『応接室にて〜実験〜』
朝霧・垂はデビルサマナーである。
高等学校にも通っている彼女だが、テスト前の為、今日の授業は午前中だけだった。
呉・水香、苑香姉妹の高校のテスト期間は、垂の高校より遅いと聞いている。
ゴーレムの契約に関しての事情を知る人物として、垂は呉家への出入りを許されていた。尤も、呉姉妹かゴーレムがいる時に限るが。
姉妹のいない時間を見計らい、呉家にやってきた垂は、居間に通され寛いでいた。
出された煎餅を齧りながら、テレビを見て過ごす。
今、この家にいるのは、ゴーレムの時雨と垂だけだ。
「緑茶がよろしいですか? それとも紅茶にいたしますか?」
時雨がポットとティーパックを持って現れた。
「あ、いーのいーの。それよりさ」
垂はにっこり笑いながら、時雨を見上げた。
水香が好みに作り上げたというだけあり、かなりの美青年である。
長身でスタイルも良い。
優しげな雰囲気や、品は、身に付けたものではなく、本来の彼の個性だろうか。
「ちょっとお願いがあるんだけど」
テレビを消し、垂は立ち上がる。
「なんでしょう?」
笑みを浮かべたまま、垂は時雨の黒い瞳を真直ぐ見つめながら、強い眼でこう言う。
「“時雨、私を殴って”」
その言葉に、時雨は怪訝そうに眉を寄せた。
「何故ですか?」
至極真っ当な問いであった。
「理由は考えなくていいよ」
そう答えた後、垂はもう一度言うことにする。
「“フリアル、私を殴って”」
「ですから、何故ですか? 人間に手を出してはいけないと、強くいわれています」
水香にそう命じられているため、時雨は人に手を出したことがない。自分が襲われた時でさえ、振り切っただけで、相手を傷つたりはしなかった。
「うーん、そっか」
垂は、単純に、自分を殴れと時雨に言ったわけではない。
彼女は今、ケルベロスを自身に憑依させた状態にある。
サマナーである垂は、魔力を込めて相手の名前を呼ぶことで、対象を従わせることができる。……のだが。
時雨は無反応であった。
水香の命令が勝ったせいなのか、彼が垂の力を受け付けない体質なのかは、これだけでは判断できない。
垂は半眼を閉じて、力を抜き、憑依を解いた。
そして、小さく呪文を唱え、ケルベロスを召喚するのだった。
居間に現れた複数の首を持つ獣に、時雨の目が変わる。
「何をお考えですか?」
緊張を帯びた声だった。片足を後ろに引く。臨戦態勢だろうか。
「大丈夫だよ、襲わせたりはしないから」
今度は垂自身ではなく、ケルベロスに命令させる。
時雨、自分を殴れ、フリアル、自分を殴れと。
その命令に対し、時雨は首を左右に振った。
言葉は発しない。流れ込む意思に対し、抵抗しているようだ。
「なるほど、あなたは立派だよ、時雨」
吐息をつくと、垂はケルベロスを指輪に封じた。
垂が送った魔力は、知能の低い生物ならば抵抗できないが、意思を持った人を操るほどの力ではなかった。
あのジザス・ブレスデイズと名乗る男が、時雨を操って従わせようとしたのかを判断するために行なったのだが、どうやら強制的に操り、引き寄せたのとは違うようだ。
「一体、何をさせようというのですか? 私は機械で出来たロボットではありません」
時雨は不快感を露にしていた。
「ごめん、ごめん」
水香が作ったゴーレムは、意思能力と、人間に勝る知力を有している。
無断で実験をしてしまったことに、少し反省をする垂であった。
「じゃあさ、ちょっと話聞かせてよ。あ、紅茶頂くねー」
ティーカップにティーパックを入れて、ポットのお湯を注ぐ。時雨の分も淹れて、時雨の前にだした。
「あのジザス・ブレスデイズって男に、来いって言われた時、今と同じような感覚受けなかった?」
時雨はカップを受け取り、一口紅茶を飲んだ後、こう答えた。
「同じではありませんが、あの一言は、耳ではなく身体――魂、でしょうか。“時雨”の感情以外の何かに反応いたしました。操られたのとは違います。自分の中に確かに、あの方の側に行きたいという意思が存在したのです」
「うーん、つまり、その一言にはやっぱり魔力が込められてたんだろうね。あなたの魂に直接呼びかけた。その呼びかけに、心が反応した……」
ということは、命令ではなく、“フリアル”の意思だったのだろう。
「で……? 今のあなたはどう思ってる? 記憶、戻ってきてるんでしょ?」
垂の問いに、時雨は押し黙った。
垂は煎餅を齧り、紅茶を飲みながら、時雨の次の言葉を待った。
答えない彼に、更に問いを投げかける。
「……主を取るの? 兄を取るの?」
「水香様です」
その問いには即答であった。
「だけれど、それは“時雨”の意思です」
続けた言葉は、小さな声であった。
魂の記憶に苦しめられているようだ。
それとも、“時雨”という器に苦しめられているのだろうか――。
「ただいまー!」
元気な声が響き、大きな足音と共に、襖が開けられる。
「時雨ー! 元気だった〜っ!?」
部屋に飛び込んだ水香が、時雨の腕をぎゅっと抱きしめた。
「おじゃましてるよ〜」
「ああ、いらっしゃい。護衛ありがとねー」
軽く手を上げた垂に、水香はそう答えた。
さて、状況を把握するには、この奇天烈少女にも話を聞かねばならない。
垂は煎餅を齧りながら、タイミングを待つことにする。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【6424 / 朝霧・垂 / 女性 / 17歳 / 高校生/サマナー(召喚師)】
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■ ライター通信 ■
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ライターの川岸です。
発注ありがとうございました。
ところで、できればお願いなのですが、垂さんのサマナーとしての能力ですが(特にケルベロスの能力)、詳しい設定があるようでしたら、能力欄にでも書いていただければとても助かります。描写や行動の幅が広がると思いますのでっ。
それでは、引き続きどうぞよろしくお願いいたしますー。
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