■応接室にて■
川岸満里亜 |
【6424】【朝霧・垂】【高校生/デビルサマナー(悪魔召喚師)】 |
「いらっしゃいませ。お嬢様は、ただ今外出しております」
応接室に通される。
6畳ほどの小さな部屋には、美しい風景画が飾られている。
「こちらで少々お待ちください」
勧められるまま、ソファーに腰掛ける。
スーツの似合う紳士的な青年だ。
この青年が人間ではないなどと、誰が信じられるだろうか。
言葉も、行動も滑らかで表情もある。
さて、彼女が帰宅するまで、この青年に何かを聞いてみようか。
それとも、別の誰かを呼んでもらおうか――。
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『応接室にて〜疑問〜』
私服に着替えて戻った呉・水香に、時雨が茶を出す。
家政婦も戻り、夕食の準備が始まっている。苑香もそろそろ戻る頃だ。
「では、夕食の準備を手伝って参ります」
そう言って時雨が席を外した後、朝霧・垂は雑談を切り上げ、本題に入ることにする。
「ねえ、水香さんが持ってる『悪魔契約書』、どうやって入手したの?」
「んー、なんで? それが分かるとどうにかなるわけ?」
菓子を食べながら、逆に水香が垂に尋ねた。
「本の存在自体ではなくて、入手ルートが気になるんだよね。時雨達の兄を名乗るあの男は『下級生物にされた魂の状態で、さほど力を持ってない』って言ってたけど、なら何故この世界に『死んだはずの彼の魂が存在』するのかが疑問でさー」
「うーん」
菓子を取る手を止め、水香が考え込む。
垂は続けて自分の考えと疑問を投げかける。
「しかも完璧に記憶を持った状態だったよね。人が実験等の理由で魂を契約し、記憶を取り戻させたのかもしれないけど、ならなぜ『今のアチラの世界』の状況を知っている? 異世界への移動なんで、かなりの力を持った上級種族しかできないと思うんだけどなぁ……」
「うーん」
唸りながら、水香は机に身体を倒した。
「わかんなーい。もー頭ん中ごちゃごちゃでさー。最近寝れないこと多くて、考えも全然まとまんないよ」
大きなため息をついて、眼を閉じた。
「だから、入手経路教えてくれない? 私の知識でわかることがあるかもしれないし」
「それもわからない。だって、生まれたときからあったんだもん。おじいちゃんの形見なんだ、あの本」
水香と苑香の祖父は、優れた発明家だったという。
その祖父が残した研究材料、資料の一があの『悪魔契約書』であった。
祖父とは小さな頃に、共に発明をしたことがある程度で、本の詳しい入手経路など聞いてはいない。
また、祖父の後を継いだのは水香であり、水香の両親や親戚で祖父の研究について詳しく知る者もいないとのことだった。
「ただいまー」
声と共に、襖が開き、呉・苑香が顔を出した。
「垂さんこんにちはー。あれ? お姉ちゃんどうしたの?」
「疲れてるみたい」
垂は小さくため息をつく。
このままでは、結論が出ないまま、約束の日を迎えそうである。
「苑香さんは、悪魔契約書の入手ルートについてお祖父さんから聞いてない?」
一応妹の方にも、同じことを聞いてみることにする。
「聞いてない。というか、そんな本があることすら最近まで知らなかったし」
「そっかー」
「あの……水菜達の兄っていってた人、あの人も悪魔契約書の契約でこっちの世界に来たのかな」
そういえば、あの日、自分は水香と共に先に男の元を離れてしまったが、苑香達はその後も男から話を聞いていたはずだ……。
「うん、私もなんかひっかかってさー……」
垂は先ほど水香にした説明と同じ説明を苑香にもしてみせる。
すると苑香はこう答えたのだった。
「あの人、『あなたは何故記憶があるのか』って質問に、『私達の世界の下等生物というのが、この世界の人間だからだ』って答えたの。それってつまり、元の世界で復活し、復活した姿でこちらに来たってことなんじゃないかなーって思って。あの本の契約では、魔族をそのままの姿で召喚するには多大な犠牲が必要みたいだけれど……」
「なるほど!」
水香が身体を起した。
「人間1人を呼ぶには、人間1人の命が対価なはず! だから、何者かが悪魔との契約で彼を送ったか、呼び寄せたんじゃないかな。自分の命と引き換えか、他人の命かはわかんないけどね」
「対価か……面白い」
垂はにやりと笑った。
自分の知らない分野の話だ。
「『魂との契約の方法』もだけどさ、確か、皇族とか下級とか選んで契約してたみたいだけど、私達サマナーの契約方法とはかなり違うんだよね。サマナーなんてガチンコ勝負でひれ伏せるか、馬が合わないと契約できないんだよね〜」
「それは……あなたは自分で召喚相手と直接交渉、契約をするんだろうけれど、私は悪魔と契約して、悪魔の影響下にある魂をもらったから。んー、私がもらった魂は、命のエネルギー。元々魔族の皇族だった人物に宿っていたエネルギーをもらったってところ。あなた達が契約している魂は……ええっと、よくわかんないけれど、その人物自身ってところ? 幽体みたいなものでしょ。契約して使役だとか召喚させるってことが私にはよく理解できない。時雨はフリアルとかいう皇族が宿った人形じゃなくて、ゴーレムの時雨という一つの生命体なのよ。フリアルが持っていた力を使えるわけでもない」
「ふーん。水香さんの捉え方は、ちょっと違う気もするけれど……。なんかますます興味が出てきたよ」
様々な命の形がある。
様々な契約の形もある。
非常に興味深い。
悪魔契約書――手にとって見てみたいものだ。
垂の中に、そんな思いが生まれていた。
「あ、夕飯できたみたい。難しい話はこれくらいにして、ご飯にしよっか」
「さんせー。時雨も一緒に食べよー!!」
苑香と水香が立ち上がる。
「じゃ、私はそろそろ」
「垂さんの分も作ってもらったから、食べてってー」
立ち上がった垂だが、苑香に止められ、座りなおした。
「泊まっていってくれてもいいのよ。ちゃんと守ってよね、私の時雨を!」
我が侭な水香の言葉にも随分なれた。
苦笑しながら、待つことにする。
香ばしい匂いが漂ってくる。焼肉だろうか?
垂は煎餅に伸ばした手を止めて、テーブルの上を片付け始めた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【6424 / 朝霧・垂 / 女性 / 17歳 / 高校生/サマナー(召喚師)】
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■ ライター通信 ■
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ライターの川岸です。
発注ありがとうございました!
垂さんの疑問、少しは晴れましたでしょうか?
またお付き合いいただければ幸いです。
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