■着ぐるみ乱DE舞ー■
CHIRO
【2887】【ニアル・T・ホープティー】【異世界技術者】
 今日は広場で催される豊穣祭。さぁさ、皆で着て飾って踊りましょう。
 え、豊穣で何で皆着ぐるみなのかって? 祝いの席に、そんな事を気にしちゃいけません。

 焚き火を囲んで、荷車に積まれた果実を一齧り。
 ……? 弦楽器、打楽器。軽快な音楽の音に混じり、もう一つの音が紛れて来たよ。

 ――……盗賊だ!!

 って、ちょっと待って。
 僕達、私達――着ぐるみ何ですけど?!
 着ぐるみ乱DE舞ー

「きゃああああ!!」

 広場の只中で上げられた、祭の雰囲気にそぐわぬ女性の悲鳴に、先まで奏でられて居た陽気な楽器の音が、ぱたりと止む。
 一人、また一人と、声を上げ恐怖に歪んだ女性の視線の先を辿り。認めた光景へ、広場一帯が間も無く混乱を極めた。

 黒の衣でその身を統一し、ある者は民家の屋根から。またある者は街路から広場へ躍り出た凡そ十数名の盗賊達は、奉られた作物を奪取し無益にも、飾られた豊穣の儀式を慈悲の欠片も無く打ち壊して行く。

「おい、ついでにそこらのガキも拾って行け! 若い奴隷は高く売れるからなぁ!!」

 下卑た笑いと共に、一団の頭領と思しき男が周囲の仲間にがなり立てれば、傍らに添う二名の盗賊達が早速とばかりに避難の機を損ねた、白兎の着ぐるみを着込んだ少年―――アオイの腕を、乱暴に掴み上げた。

「何だよ、あんた!? 痛いじゃんか! このっ、とっとと放せ!!」

「うるせぇ、大人しく付いてきやがれ!!」

 じたばたと暴れ、その場から逃れようとするアオイを二人がかりで締め、余りの抵抗に片割れが、アオイの首元へとナイフを突き付けんとした、その時。

「は〜い! どいてどいて下さ〜い!!」

 緊迫した雰囲気とは裏腹に辺りに響き渡った、澄んだ少女の声色に、場が一瞬硬直し。盗賊の一団までもが、今正に語り掛けられた声の方向へと首を巡らす――……と。

 ガッショァアアアアン!!!

 大仰な金属音を立て、その身の丈、大男並みの大きさを誇る直立パンダ型ロボットスーツを着込んだ娘、ニアル・T・ホープティーが先に捕らわれたアオイを背に、愛らしくも威風堂々、頭領の眼前へと立ち塞がって居た。

「なっ、何だてめぇは!?」

「ええい! 悪党に名乗る名など、有りませ〜ん!」

「何、ガキが舐めた事言ってやがるっ。てめぇら、ついでにそいつもふん縛れ!! もうこんな所に用はねぇ、とっととずらかるぞ!!」

 定番宜しく、お決まりの台詞を言い放ったニアルに歯噛みした頭領が先の二名に命ずるも、一向に返って来ない返事に何かしらの異変を察してか、恐々とニアルの足元に視線を移す。
 其処には案の定、と言った所か、ニアルの着込んだスーツの足元から覗く、部下達の無惨な姿。

「正義の使者、パンダーマンアルファ! 街の人達を傷付けたその所業……今謝るなら、優し〜く捕まえちゃうだけで、許してあげますよっ」

「こ、こいつ……っ! おい、集まれ! 野郎共!!」

 後日、思えば。その時点で彼等はニアルの言う通りお縄なり、撤退をして置けば良かったのだと、さぞかし後悔に浸った事であろう。
 号令を聞き入れ続々と集まる盗賊達に、徐にニアル……もとい、スーツの右腕が掲げられ。

 ズドドドドドドドド!!!

「ぎゃああああああ!!」

「ひいいいい!!」

 直後先端から発射された、パンダの稚児を模したマシンガンが彼等を襲い、スーツがのしのしと歩を進めるそれだけで、一人、また一人と盗賊達が地にひれ伏す。

「さあっ、最後は貴方一人だけなのです!」

「ぐっ……――!」

 ニアルの発する言葉通り、後、一人残る頭領をじりじりと壁際へ追い遣り。今、正にスーツによる、裁きの鉄槌が下されん……と言う時。

 ガ、ガガ……プス……ッ!

「あ、あれれれぇ?」

 気の抜けたニアルの声色と、スーツの奥から聞こえて来る唸る様な轟音に、その場に居る者全員が些か引き攣った笑みを見せ、背に冷や汗をかく。

 まさか……―――と。

 誰もが予感を確信へ移ろわせた、刹那。

 ドガアアアアアアン!!!

 スーツを形作るありとあらゆるパーツを素っ飛ばし、憐れ、直立パンダ型ロボットスーツは今――一生の幕を閉じた。

「「「…………………」」」

 爆心地から花を咲かせた様に散った各々の身ながらも、抱える心境は一様で。
 内、爆破の直撃を食らったであろう頭領の意識は既に無く、一転爆心の元に居て、身を煤だらけにしながらも瓦礫の中からひょっこりと上半身を起こしたニアルへと、爆発に巻き込まれたアオイがうつ伏せに横たわった儘その顔だけを上げ、掠れた声で現状には些か場違いな、けれど至極的確な問いを掛けた。

「……あれ……着ぐるみとは、言わないよな……?」

「いえいえっ! 拾ったものを、ちょこっと改造してみたんです〜」

 ――……どこで!?

 それ以前に今の今まで、先の格好で豊穣祭に参加して、それが着ぐるみとして認められて居たこの街の大らかさに、アオイは最後の気力を奪われ再び、ぱたりとその頭を地上へと沈める。
 ニアルの周囲に広がるは、力尽きた盗賊達、逃げ損ね巻き込まれた、着ぐるみを脱ぐ間も無く倒れる街の人々、吹き飛んだ建物の瓦礫と、ほんの少しばかり……と信じたい、方々に散る火の粉。
 それらを改めて見回して、唇に人差し指を添え、一考。そして。

「これにて、一件落着〜……ですか?」


 後日、無事に盗賊の一団がお縄となり、ニアルの活躍が報じられた新聞が発行された。
 ――……が、その一面を飾る、黒煙漂う広場の中。地に伏す盗賊達に立ちはだかる、直立パンダ型ロボットスーツを纏ったニアルの後ろ姿を激写した、提供者不明の写真はまるで彼女こそが侵略者宛らであったと、話題にのぼる際には朗らかな笑みを連れ立って、暫しの間街中に語り継がれた、と言う。

 了

〔登場人物(この物語に登場した人物の一覧)〕

【2887 / ニアル・T・ホープティー (にある・てぃ・ほうぷてぃ) / 女性 / 10歳(実年齢12歳) / 異世界技術者】
【NPC / アオイ (あおい) / 男性 / 14歳 / 郵便屋】

〔ライター通信〕

《ニアル・T・ホープティー様》

 この度は、「着ぐるみ乱DE舞ー」へご参加を頂き、誠に有難うございました。
 ニアル様の予想外の出で立ちでの豊穣祭へのご登場に、盗賊団の撃退が一層華々しい物になったのではないかな、と思います。
 最終的に、大ピンチこそが盗賊の頭領のトドメを刺す好機と転じましたが、こちらがニアル様のお人柄に添う一幕となりましたら幸いです。

 ご入り用で有りましたら、イラストレーター、ボイスアクトレスでも同名にて、NPCを共有する個室を擁しておりますので、興味を持たれましたらこちらもお目通しを頂ければ幸いです。

 それでは、ニアル様のまたのお越しを、心よりお待ちしております。

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