コミュニティトップへ



■応接室にて■

川岸満里亜
【7164】【シシト・ウォルレント】【トールギスト】
「いらっしゃいませ。お嬢様は、ただ今外出しております」
 応接室に通される。
 6畳ほどの小さな部屋には、美しい風景画が飾られている。
「こちらで少々お待ちください」
 勧められるまま、ソファーに腰掛ける。
 スーツの似合う紳士的な青年だ。
 この青年が人間ではないなどと、誰が信じられるだろうか。
 言葉も、行動も滑らかで表情もある。

 さて、彼女が帰宅するまで、この青年に何かを聞いてみようか。
 それとも、別の誰かを呼んでもらおうか――。
『応接室にて〜研究対象〜』

 平日の昼下がり。
 呉水香、苑香姉妹は学校に行っており、ゴーレムの時雨が一人、留守番をしていた。
 時雨は現在外出を禁じられており、家の掃除をしたり、陽が射し込む部屋で読書をしながら主の帰りを待っていた。
 そんな折、一人の青年が呉家を訪れたのだった。

「水香さんは学校ですか……」
 シシト・ウォルレントは、時雨に勧められ応接室のソファーに腰掛ける。
 一礼をして、時雨は出て行ってしまう。
 研究施設や、マスターである水香嬢の研究について訊こうと思っていたのだが――学校に行っているとなると、まだしばらくは戻らないだろう。ゴーレム製作者として有名な呉・水香という女性が、まだ高校生だとは知らなかった。
「失礼いたします」
 コーヒーを淹れて、時雨が戻ってきた。
 軽く礼をして、シシトの前に受け皿とコーヒーの入ったカップ、ミルクに砂糖、スプーンを並べる。
「もうしばらくお待ちくださいませ。あと数分もすれば、家政婦が戻りますので」
「あ、待ってください」
 礼をして立ち去ろうとする時雨を引き止める。
「少しお話しをしませんか?」
 掌を向いのソファーに向け、時雨に座るよう促す。
 時雨は「では、失礼します」と言い、シシトの向いに腰かけた。
 ……
 ……
 沈黙が続く。
「なるほど、こちらから話しかけなければ、会話にならないのですね」
 普通の人間ならば、目を逸らして話題を考えそうなものだが、目の前の青年ゴーレムはまるで命令を待つかのように、真直ぐにシシトを見ているだけだった。
 “空っぽの器のような人”だと、シシトは感じていた。
 話すことで満たすことができるか? この器を、どこまで満たすことができるのかはわからないが試してみようと思い、口を開く。
「お名前は、時雨さん、でしたよね?」
「はい」
「僕は、水香さんの研究に関心を持ち、伺ったわけですが、実はあなたのことも非常に興味深いと感じているんです」
「はい」
 一度目の返事と微妙にトーンが違う。録音された声ではなく、彼自身の感情が表れた声だった。
「この世界に生まれて、どのくらいですか?」
「およそ2年です」
 時雨の言葉に、シシトは軽く頷いた。
 2年にしては上出来だ。物腰も、流暢な言葉にも関心する。人間よりも知能が高いようだ。
「あなたは一つの身体、一つの脳、一つの魂――そして、二つの記憶を持っていますね?」
 その質問には、時雨は即答しなかった。僅かに驚いたように眉を顰めている。
「いえ、今の今までは知らなかったのですが、こうして近くで拝見し、あなたの発する気の流れから、感じ取りました」
「……はい」
 時雨の返事を聞くと、シシトはカップを口に運び、コーヒーを一口飲んだ。
 カップを置いて、再び時雨を見る。外見は、自分より少し年上に見える。
「その理由を教えてくださいませんか?」
 穏やかに問いかける。
「……」
 返答に困る時雨に、自身の所見を述べてみる。
「ゴーレム時雨の記憶と、前世の記憶といったところでしょうか?」
「……はい」
 時雨が表情を曇らせる。
 彼の表情は人間そのものである。
「僕は、トールギスト――霊術士です」
 怪訝そうな時雨に、シシト説明を付け加える。
「死者の霊を召喚して予言などを行なう者ですよ。しかし、僕は少し違いましてね。僕の力は――外なる神秘や霊体、魔の住人等だけでは無く、心の中の自分、感情から来る魔、精神世界の住人達も存在しますから。その外なる魔こそが、トーテム……内なる魔がペルソナです」
 更に時雨は眉を顰めた。
 生まれて2年のゴーレムには難しかったようだ。
「あなたの魂も、呼ばれてこの世界に在るのでしょう? 呼んだのは主である水香さんですか?」
「はい。しかし、正確には水香様ご自身が呼んだわけではありません。水香様にそのようなお力はありません。私の主は普通の人間です」
 この言葉は、非力な彼女を守るための言葉でもあるのだろう。
「では、他の人物の関与により呼ばれたのですね。それはこの世界に存在する人物ですか? それとも、あなたが昔生きていた世界に存在している人物ですか?」
「……後者です。シシト、様」
 時雨が手を組みながら、戸惑い気味に続けた。
「あなたは、魔の住人等だけではなく、と言いました。では、魔の住人を呼んだり、送ったりすることも出来るのでしょうか? そして、精神世界の住人についても、語られました。では、私の魂がもし――向こうの世界に戻ったとしても、こちらの記憶をあなたの力で呼び起こさせることができるのでしょうか? 一時的に私の魂をこちらに呼ぶことは可能ですか?」
「……不可能ではないと思いますが。それには、もう少し詳しい話を聞かせていただかないと、判断できません」
 シシトの言葉に頷き、時雨が語りだした。
 自分の魂は、『悪魔契約書』という本により、この世界に呼び寄せられた。
 この身体の命の源として。
 時雨としての生活には満足していて、今の人生を楽しんではいる。
 だけれど、自分の中のこの魂は、昔の自分の身体に戻らなければならなくなる可能性がある。
 『悪魔契約書』による契約には、対価が必要だ。
 時に、それは多大な犠牲を伴う。
「ですから、もしお力を貸してくださる方が、こちらの世界にいるのなら、他に様々な手段が考えられると思うのです」
 コーヒーを飲みながら時雨の話を聞いていたシシトは、彼の話が終わると手を軽く口に当てて考え込む。
「そうですね……。研究の一環として協力できる範囲であるのなら考えたいところですが、あなたの説明は曖昧すぎて、正直まだ状況がよく理解できていません。その悪魔契約書とやらを見せていただくことはできますか?」
 その言葉に、時雨は首を左右に振った。
 保管場所も知らないらしい。
「では、水香さんはあなたの前世の世界の、どういった力を持った相手と契約を交わしたのですか?」
「わかりません。水香様自身も詳しいことはわかっていないのだと思います。ですが……兄ならば」
「兄? あなたの他にも男性型のゴーレムがいるのですか?」
「いいえ、前世の兄です。こちらの世界に来ています」
 近々、その“兄”と、水香、そして水香の作ったゴーレム達で話し合いの場を持つらしい。
「その時……いいえ、それ以後、もし、自分が動かなくなったとしても……水香様の研究に興味を持ち続けていてくださるのなら、またこの家を訪ねてください」
 時雨は立ち上がって深く頭を下げた。

 この時雨という人物に興味はある。水香の研究にも。
 しかし、足を踏み入れていいものか――。
 なんだか、また厄介な事件に巻き込まれそうな予感がする。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7164 / シシト・ウォルレント / 男性 / 21歳 / トールギスト】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

ライターの川岸です。
初めてのご参加、ありがとうございました!
悪魔契約書についてお書きいただいたので、悪魔契約書本編の話題も入れさせていただきました。
分かり難いようでしたら、納品済みのゲームノベル『悪魔契約書―魔皇子―』『悪魔契約書―魂の記憶―』をご覧いただければと思います。
それでは、またお会いできましたら、幸いです。