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■おそらくはそれさえも平凡な日々■

西東慶三
【0759】【海塚・要】【魔王】
 個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
 そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。

 この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
 多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。

 それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
 この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。

−−−−−

ライターより

・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。

 *シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
 *ノベルは基本的にPC別となります。
  他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
 *プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
  結果はこちらに任せていただいても結構です。
 *これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
  プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
  あらかじめご了承下さい。
Truth in Hands

〜 本当の願い 〜

 声が聞こえた。

『私はずっと一緒だから――だから、二人で答えを探しにいこう――?』

 歌姫のその言葉が、どれだけ嬉しかったことか。

 本当にそうできるとは思っていなかった。
 いや、それを望んではいけないのかもしれないとさえ思っていた。
 風野時音(かぜの・ときね)にとって、それは何よりも強く望んでいたことで。
 そして同時に、何よりも避けたいと思っていたことでもあった。

 目に見える傷は無数に、そして目に見えない傷はそれよりさらに多く。
 心と身体に数え切れないほどの傷を負っている時音を受け入れることは、その傷の呪いを全て受けることを意味していた。

 だから、本当の願いは心の底に閉じこめて、二番目の願いを願った。
 せめて、歌姫を傷つけないように。彼女を死なせないように。
 本当は、二人で一緒に生きたいと願っているのに――その願いを幾重にも鎖で縛り、心の奥にしまい込んだ。





 けれども。
 歌姫の想いの前では、そんなことは無意味だった。
 彼女は時音の「二番目の願い」などには目もくれず、彼の「本当の願い」を叶えようとしてくれた。
 ――それが、彼女の「本当の願い」でもあったから。

「……君が想ってくれるなら、君が信じてくれるなら、空を飛ぶ事だって湖の水を飲み干すことだってきっとできる」

 ずっと言いたかったこと。
 ずっと言えなかったこと。
 それが、自然と心の奥底から、そこに閉じこめていたはずのものから溢れ出してくる。

「単純なようで、でも難しくて、けれど本当に素敵な事」

 時音自身が作り出した心の鎖は、歌姫の想いに触れるたび、一本、また一本と崩れては消えていった。
 そして――その最後の一本が切れて地に落ちた音が、時音の耳にははっきりと聞こえた。

 心の鎖が全て崩れ去った後には、まるで最初からそんなものなどなかったかのように、時音の本当の願いだけが残されていた。
 時音は、改めてそれを見つめ――。

「君に逢えたその時に、もう全部報われてたんだ」

 どうして、今まで気がつかなかったんだろう?
 気づくまでに、ずいぶんと時間がかかってしまったけれど――今は、自然とそう思えた。

 気がつくと、もう動かす力などないはずの手が動いて、歌姫の手をとっていた。
 まるで、そうすることが当たり前であるかのように。

 時音は祈るように願いを込めた。
 自分の力が彼女を害さないように。彼女と共に生きていけるように。
 彼の、いや、二人の「本当の願い」が叶うようにと。

 その願いに応えるかのように、柔らかな光が広がり、やがて全てを包み込んでいった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 本当の姿 〜

 一体、いつから気を失っていたのだろう?

 歌姫が意識を取り戻した時、辺りは奇妙なまでに静まりかえっていた。
 まだ意識がはっきりとしないまま、自分の手を、腕を、身体を見る。
 無数にできたはずの傷が、一つとして見あたらない。

 まるで、全てが夢だったように。

 動くともなく動いた拍子に、懐中時計の鎖が手からこぼれ落ちてしゃらりと音を立てる。
 その決して大きくないはずの音が、この静かな空間ではまるで響き渡るかのようにさえ思えて。
 その音で我に返った歌姫は、一瞬不吉な予感に襲われた。

「まさか……失敗した?」

 と。

「ううん、成功したよ」

 不意に、背後から聞こえた声は――まぎれもなく、彼女の想い人の――時音のものだった。
 
「時音!」

 振り向いた歌姫の目に映ったのは――なぜか、いつもとは少し違った時音の姿だった。
 黒かったはずの髪は銀色に、瞳は蒼に変わり、肌はまるで透けるように白くなっている。
 その様子は、まるで月の精のように思えた。

「……髪と目」
 
 つい口をついたその呟きに、時音は一瞬ぽかんとした顔をしたが、すぐにこう説明した。
「風野は本当はこういう色なんだよ。母さんもそうだった。
 隠れるのに目立つから、術で小さい頃に変えられてたんだけれど」

 まだ知らないことがあったという驚きと。
 まだ知らなかったことを知れたという喜びと。

「そっか。君は初めて……見たんだった」
 今さらながらそのことに気づいた時音に、歌姫は軽く笑いかける。
「大丈夫。可愛い」
 すると、時音は少し困ったような顔をした。
「――隊長に女の子の服を小さな頃着せられそうになった事があって。
 だから……少しだけ複雑な気持ちだけど、君だから。うん……ありがとう」

 その言葉に歌姫がくすりと笑うと、今度は時音が何かに気づいたように口を開く。

「それより君もだよ。思ってた通り。歌と同じくらい綺麗な声」

 ……声?

「えっ?」

 驚きのあまり声が漏れ――その声が自分の耳に届いたことに、歌姫はもう一度驚いた。
 歌うことしかできなかったはずが、いつの間にか普通に言葉を話せるようになっていたのだ。

 そんな歌姫に時音が笑いかけてきて、歌姫もそれにつられるように自然と顔がほころぶ。
 そうして二人は少しの間笑いあい……やがて、不意に時音が歌姫を抱き締めた。

「無茶しすぎだよ。でも、無事でよかった」

 そう告げる時音の声が、震えているのがはっきりとわかる。
 最初から強い決意を持ってことに臨んだ彼女とは違って、時音はずっと不安で仕方なく――それだけに、今はひときわ安堵しているのだろう。
「本当に良かった……ありがとう……ごめん。言葉が溢れてどう言えばいいか……」
「――大丈夫。全部分かってるから――」

 言葉などなくても、想いは通じ合っている。
 これまでと同じように――あるいは、これまでよりもさらに強く。

 そのことを証明するかのように、二人が外への扉の方に目をやったのは、ほとんど同時だった。

 二人でやらなければならないことが、まだ少し残っている。
 言葉にすればほんの少しだが、実際にやるにはとてつもなく大変なこと。

 それでも。

『「――二人でなら――きっと」』

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 最後の賭け 〜

 歌姫の眷族となり、妖怪になったことで、ひとまず時音は救われた。
 とはいえ、その深すぎる傷が瞬時に癒えるわけではなく。
 一言で言えば、今の彼は――あるいは、今の彼の身体は、とても戦える状況にはなかった。

 そして一方、歌姫は特に傷を負ってはおらず、また異常結界に対抗できる力もある。
 しかし、彼女には戦うための能力が絶対的に欠如していた。

 つまり、今の二人は、どちらも「一人では戦えない」のである。

 だから、二人が選んだのは「二人で戦う」という道。
 憑依に近い術を行使し、歌姫の身体と異常結界除去能力に、時音の戦闘能力を合わせて戦うという道だった。





 時音と同じ銀の髪に変じた少女が、手にした光刃を振るう。
 その一振りで、怨念の海が文字通り真っ二つに裂け――訃時(ふ・どき)の本体たる「私」と、白い少女の二人だけを閉じこめる形で、桜の結界が形成された。

 これが、訃時の言う「私達」に邪魔されず、「私」と決着をつけるための唯一の方法。
 とはいえ、その代償は決して少ないものではなく――懐中時計の作動時間や、二人を重ねている術、そして結界の維持などにも力を使うことを考えると、おそらくこの状態を維持できるのはもって十分程度と言ったところだろう。
 まさに最後の賭けであるが――他に、方法はないのだ。

 ところが。
「でも、それでもまだ足りない」
 微かな笑みを浮かべて、訃時はそうはっきりと口にした。
「既に放たれた『私達』は……数多の人と自然を取り込み拡大を続けている。
 それを集め、結界を襲い、歌姫さんに傷を与える」
 結界によって外部へと閉め出してはいるものの、外部で「私達」が暴れることまでは、二人の力ではどうすることもできない。
 そして、その「私達」の外部からの攻撃が激しくなれば、当然結界の維持により多くの力を割かなくてはならなくなるし、万一結界が破られるようなことがあれば。

「……未だ不利なのは貴方達の方」
 訃時のその言葉は、まぎれもなく真実だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 相変わらずな人々 〜

 一方。
 結界の外にも、この状況をしっかりと把握している者がいた。
 意外や意外、と言っては失礼かもしれないが、金山武満その人である。
「結界張ってタイマンってのはいいけど、外の連中もどうにかしないとまずいんじゃねえのか!?」
 もっとも、結界の外で「私達」の脅威に直接さらされていることを考えれば、それも無理もないことかもしれない。

 そして当然、そのことは彼の後方で戦っている水野想司(みずの・そうじ)も重々承知しているようだった。
「その通りだよ☆ その為には君と要っちの力が必要さっ☆」
 その言葉に、武満が想司の方を振り返り……天使のような笑顔を浮かべて、両手に「法王☆幻魔拳」を持った彼の姿に絶句する。
 いくら「巨大化&パワーアップ」が果たせるとはいえ、その代償はあまりにも高すぎる……というよりマヌケすぎるので、それだけは避けたいところだったのである。

「ちょ、ちょっと待て早まるな!」
 慌てる武満に、想司は笑顔を浮かべたままこう続けた。
「そうじゃないよ☆ この短剣を手分けして桜結界の四方に打ち込むのさっ♪」
 予想外の言葉に、武満が安心半分戸惑い半分といった顔をする。
「そうすることでこの結界を中心とした十字架魔法陣を生成っ☆
 それでこの桜の力を増幅させれば、その破邪力は闇の住人には一撃必殺の破壊力さ☆」
「なるほど! それでここに集まってるやつらを一掃しようってわけだな!?」
 想司の説明でようやっと合点のいった武満であったが、やはり何かひっかかるものがあった。
「……でも、なんか忘れてるような気がすんだけどな」





 その頃。

(破邪っ!?)

 ある意味すっかり忘れ去られてはいたが、二人の会話を聞いているものがもう一人いた。
「法王☆幻魔拳」の副作用で、「全身の骨格が感電の古典的表現みたく金色に七日七晩耀き都会の夜を煌々と照らし続ける事になる」というトンデモな目にあったまま倒れていた魔王・海塚要(うみずか・かなめ)である。
 あれ以来ずっと倒れっぱなしの要であったが、実はとうの昔に意識は戻っていた。
 
(目が醒めたら毒虫ならぬ黄金何とかになっていた逆境も不屈の精神で乗り越え!
 仮面の謎キャラ的に乱入しようと寝た振りしてたのが仇に!)

 世界の危機だろうとなんだろうと、気にせず自分の美学を追究し続ける男。
 とはいえ、今の骨格ギラギラの状態で仮面の謎キャラを気取られても周りは引くと思うが。

(ここで何か作戦を実行されたら我輩も死ぬので……はっ!そうか!?
 此処で敢えて名乗り出ればそれは我が身を省みぬ男の子の浪漫を体現できる好機っ!)

 自分の危機すら一切気にせず、自分の美学を追究し続ける男。
 しかし、残念ながらそんな彼の美学につき合ってくれるほど世の中、というより暴走する十四歳は甘くはなかった。

「要っちの体は僕が魔法糸で操るから問題は無いよ☆ さあ、始めようか!」

 そんな声と同時に、いきなり身体が硬直する。
 どうやら、寝たふりをしている間にどさくさにまぎれていろいろ細工されていたようである。

(ぬおおっ!? ふ、不覚!)

 悔しさでのたうち回……ろうとしても、身体が硬直していてのたうち回れず、ダブルの悔しさを味わうハメになってしまった要の耳に、想司の楽しそうな声が聞こえてきた。

「好機を即悟れないなんて……修行不足だよ要っち☆」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1219 / 風野・時音 / 男性 /  17 / 時空跳躍者
 1136 /  訃・時  / 女性 / 999 / 未来世界を崩壊させた魔
 0424 / 水野・想司 / 男性 /  14 / 吸血鬼ハンター(埋葬騎士)
 0759 / 海塚・要  / 男性 / 999 / 魔王

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武改め西東慶三です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
 ノベルの方、完成が遅れてしまいまして誠に申し訳ございませんでした。

・このノベルの構成について
 今回のノベルは、基本的に四つのパートで構成されています。
 今回は一つの話を追う都合上、全パートを全PCに納品させて頂きました。

・個別通信(海塚要様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 正直コメントが難しいのですが、魔王様はあらゆる意味でお変わりないようで何よりです、ということで。
 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。