■D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜■
遊月 |
【3636】【青砥・凛】【学生、兼、万屋手伝い】 |
草木も眠る丑三つ時。とは言え皆が皆眠るわけでもない。
眠れずふと外に出てみれば、見覚えのある姿。
振り向いたその人は、「お茶でもどうか」と尋ねてきた。
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【D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜】
(寝付け、ない……)
透き通る青い瞳を窓の外の月に向けながら、青砥凛は思った。
ぼんやりと、大きな月を眺める。
闇夜を煌々と照らすそれは、ただ静かにそこにあるだけだ。
自然と、思いを巡らせていた。
しかし、まるで迷路に入り込んでしまったかのようにぐるぐると同じことばかり考えてしまう。
「…散歩…してみようかな」
ぽつり、と誰にともなく呟く。
(こんな日は、身体を動かすといい)
そう考え、ふらりと外に出る。
何かが起こる――と、何故かそう思った。
◆
歌を、口ずさむ。
有名な海外ロックバンドの曲を、至極小さな音量で、密やかに。
これは凛のちょっとした癖のようなものだ。
そうしていつものように歩いていた凛は、ふと視界に映った白銀に足を止めた。
月夜に映える白銀の髪はまるでそれ自体が光を放つかのようで、けれどその人が纏う雰囲気は儚く、今にも夜闇に消えてしまいそうにも思えた。
(あ…、宵月…さん……?)
それは先日不可思議な出会いを果たした宵月で――。
「ああ、どなたかと思ったら、青砥さんでしたか。こんばんは」
くるりと凛を振り向いた宵月は、笑ってそう挨拶してきた。
「…ん…こんばんは…」
それに挨拶を返して、凛はほんの僅か口元を緩ませた。
外に出るときに感じた『何かが起こる』という予感――それは彼に会うことを示していたのだと思ったからだ。
「それにしても、こんな夜更けにお1人でお出かけになるのは、少し危険なのではないですか? 昨今は物騒だと言いますし――…と、余計なお世話かもしれませんね。年をとると口煩くなってしまってかないません。…それはともかくとして、せっかくこうして会ったのですし、もしよろしければ一緒にお茶でもどうでしょう。近くに知り合いのやっている喫茶店があるのですが…」
宵月の言葉をゆっくりと脳内で咀嚼する。そして凛は口を開いた。
「……お茶? 僕、お茶好きだし……いいよ…」
「それならよかった。少し歩くことになりますけれど、よろしいですか?」
「…うん……」
尋ねてくる宵月に頷いて、小さく呟く。
「今日は、誰かといたかったから……」
その言葉が聞こえていて敢えて何も言わないのか、それとも本当に聞こえていないのか――宵月はふわりと凛に微笑みかけて、「では、行きましょうか」と手を差し出してきた。
「………?」
小さく首を傾げる凛。それに気づいた宵月が、自分の差し出している手に視線を落として苦笑した。
「――…ああ、すみません。昔の知り合いと、よくこうして一緒に出かけたので、つい。…では、改めて、行きましょうか」
差し出していた手を引っ込めて、宵月は凛の隣に立って歩き出す。それに合わせて足を踏み出した凛は、ふと思った。
(手をとったほうが、よかったのかな……)
歩き出してしまった今となっては、その真偽は闇の中だったけれど。
◆
宵月の知り合いの喫茶店は、小ぢんまりとしていてどこかほっとする雰囲気の店だった。
明らかに営業時間外だというのにさも当たり前のように入る宵月も宵月だけれど、それに文句も言わず、やっぱり当たり前のように応対した店主も店主だと思う。もしかしたらよくあることなのかもしれない。
店主オリジナルブレンドだという紅茶を口にしながら、心地よい沈黙に身を委ねる。
そして宵月を見て、その左耳に光る紅いピアスが何となく気になって、口を開いた。
「その、ピアス……」
「ピアス? これのことですか?」
自身の左耳を指して宵月が答える。凛は頷いた。
「カガリ、さん…と……お揃い……?」
あまりじっくりと見たわけではないが、どうやら同じ意匠のようだし揃いのものかと思ったのだ。
案の定、宵月は肯定を示す。
「ええ、揃いというか――もともとは一組のものなんです。それを片方ずつ着けているんですが…。私とカガリはあまり同調率が高くなかったので、補助の役割も果たしていたんですけれど……」
そこまで言って、宵月は少しだけ目を伏せる。そこに憂いを――翳を見た気がして、凛は居た堪れない気持ちになった。
しかしその憂いは一瞬で、宵月はふわりと笑むと、何かをごまかすように軽い口調で続けた。
「ああ、これはどうでもいい話でしたね。どうにも、青砥さんと話していると口が軽くなってしまうようです」
『同調率』――とは一体なんだろうと、少し思った。けれど宵月が『どうでもいい話』だと言って断ち切ってしまった流れを蒸し返すのも憚られて、とりあえずまた紅茶を口に含む。
(おいしい、な……)
ほう、と一息ついて、宵月に視線を合わせれば、にこりと綺麗に微笑まれた。
「美味しいですか?」
「……ん……おいしい…」
「それはよかった」
やわらかく笑う宵月も、その心地よい雰囲気も、母を思い出して懐かしくて。
何となく嬉しい、と思う。
今はただ、それだけでいいような気がした。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3636/青砥・凛(あおと・りん)/女性/18歳/学生、兼、万屋手伝い】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、青砥様。ライターの遊月です。
「D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜」にご参加くださりありがとうございました。
お届けが遅れまして申し訳ありません…!
宵月とのお茶…というかむしろ会話、如何だったでしょうか。
宵月がうっかり口説き文句みたいな台詞を言い出したりして、必死で修正しました…そんなキャラじゃないはずなのに。どんどんお母様から離れていってるんじゃないかと戦々恐々としています…。
当たり障りの無い感じで、かつちょっとだけ伏線を入れてみたり。
ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
リテイクその他はご遠慮なく。
それでは、本当にありがとうございました。
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