■絵本倶楽部■
紺藤 碧 |
【7061】【藤田・あやこ】【エルフの公爵】 |
どこかのファーストフード店だろうか、それともどこかの教室?
4人の中学生があーでもないこーでもないと言葉を交わす。
その中心にある机に置かれているのは、何も書かれていない真っ白な本。
そう、これから物語を考えるのだ。
ここではないどこか。
今とは違う自分。
「じゃぁ…僕、が……書いて、いく…ね」
本を広げてペンを持ったのは、4人の中で一番見た目が小さい柊秋杜。
その隣でいすの背もたれにどっぷり背中を預け、瀬乃伊吹が眉根を寄せる。
「主役どんな感じにすれば面白いかなぁ」
と、ネタを探して辺りを見回せば、びしっと真正面からチョップが入った。
「いでっ」
「主役もだけど、テーマも設定もまっさらなんだけど」
思いっきり突っ込んだ草薙高良は、額を押さえる伊吹とは裏腹に平然としている。
「ねぇ」
くいくいっと、袖が引っ張られる感覚に高良が視線を向ければ、
「あの人、主役にしてみるとかどうかな?」
最後、柏木深々那がふと通りかかった人を指差していた。
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絵本倶楽部
どこかのファーストフード店だろうか、それともどこかの教室?
4人の中学生があーでもないこーでもないと言葉を交わす。
その中心にある机に置かれているのは、何も書かれていない真っ白な本。
そう、これから物語を考えるのだ。
ここではないどこか。
今とは違う自分。
「じゃぁ…僕、が……書いて、いく…ね」
本を広げてペンを持ったのは、4人の中で一番見た目が小さい柊秋杜。
その隣でいすの背もたれにどっぷり背中を預け、瀬乃伊吹が眉根を寄せる。
「主役どんな感じにすれば面白いかなぁ」
と、ネタを探して辺りを見回せば、びしっと真正面からチョップが入った。
「いでっ」
「主役もだけど、テーマも設定もまっさらなんだけど」
思いっきり突っ込んだ草薙高良は、額を押さえる伊吹とは裏腹に平然としている。
「ねぇ」
くいくいっと、袖が引っ張られる感覚に高良が視線を向ければ、
「あの人、主役にしてみるとかどうかな?」
最後、柏木深々那がふと通りかかった人を指差していた。
深々那が指差した先に視線を向ければ、そこで一人ハンバーガーをほおばっていた女性に眼が留まる。
「まぁ…確かに特徴……個性的、だね」
「……だな」
どこか引きつったような高良と伊吹の声音に、本に顔を落としていた秋杜が顔を上げる。
しかし、彼らがひきつったのは女性の容姿ではない。そのハンバーガーの食べっぷりだった。
ふと視線を感じて、女性はハンバーガーを食べる手を止め、顔を上げる。
女性が視線の先を探して顔を動かすと、4人の中学生と思いっきり目線がかち合った。
「見ていたのはあなた達ね」
女性、名を藤田あやこは、4人が座るテーブルまで歩み寄ると、その机に置かれた真っ白の本を見て、微かに首をかしげメンバーを見やる。
「物語を、考えてたんです」
それで、主役が決まらなかったから……と、高良の後ろに隠れるようにおずおずと深々那が告げる。
「へぇ。まぁ、幸い商才を武器にセレブの末席に生き長らえているこの私、世が世ならとうに命は無い筈。純白のドレスを纏い王統を名乗ってみても傍目には人外……」
ポカーン。
いきなり一人熱く語り始めたあやこに、一同はただただ薄く口を開ける。
とりあえず、セレブは本当かもしれないからいいとして、世が世ならって、何を基準にそう言っているのか分からないが、現代ではなく戦争の時代に生まれていたら、確かに命は無かったかもしれない。純白のドレスだって、正直どう見てもあやこの服装はTシャツにミニスカだ。
あやこの周りが見えていない一人演説はまだまだ続く。
「世界制覇を目論む老科学者が戯れに誘拐した少女の末路か、はたまた迷宮の奥深く、若い男の生き胆を食らって生きながらえている醜悪な妖女か。私が絵本の主役と言うなら恐らく幼子を戒める教訓の当て馬か……」
だんだん周りから人がいなくなっていくが、そんなことあやこは気にしていない。
完全に自分の世界に落ちて、自分で自分を抱きしめている。
これは止めても無駄そうだ。
「どうする?」
「なんかドリーマーみたいだし、現実的な話のほうが面白いかもな」
あやこの口上を聞いていると、確かに想像力豊かな人なのだろうなと思うことが出来る。
が、逆に中学生ズが見ている分には、なんだこの大学生。の部類だったのは否めないが。
「……負けず嫌いな醜い怪物の子は少しでも周囲に気に入られようと一生懸命掃除洗濯したり人の嫌がる仕事を引き受けるのでした。まる」
1つの物語が終焉を迎えた。しかし拍手喝采は無い。
恍惚とした表情から周りの冷ややかな視線に我を取り戻したあやこは、楚々として物語を書き始めた中学生の輪に顔を突っ込んだ。
【走るリリー】
純白のドレスに身を包み、百合のブーケが豪華に輝いている。
日の光が差し込む部屋はシンプルで、椅子に座ったあやこしかいない。
ああ、今日の主役は私なのだ。
漠然とそんな思いがあやこの中に沸き起こる。
今日お嫁に行きます、とか。
今日まで育ててくれてありがとう、とか。
考えると少しだけあやこの目じりに涙が浮かんだ。
「た…大変よ、あやこちゃん!」
息を切らせた伯母が控え室に走りこんでくる。
「何があったんですか?」
「あ、あのね」
伯母の言葉にあやこの時が一瞬と待った。いや、凍りついた。
「What?」
つい英語を挟んでみても、現実は変わらない。
これから幸せな家庭を築くはずだったのに。
子供に囲まれて笑える家族になるはずだったのに。
大切な旦那様は―――逃げ出していた。
「あやこちゃん!?」
狼狽したような伯母の呼ぶ声も耳に入らない。
あやこは走る。純白のドレスのままで。
控え室から式場へと向かう通路へ出れば、母が腰を抜かしてへたりこみ、招待した友人たちがポカンとした顔つきで、扉から走りこんできたあやこを見ていた。
「あやこ…か、彼が……」
着慣れない黒留袖に身を包んで顔を蒼くした母は、あやこのドレスにすがりつく。
「大丈夫よ、お母さん。絶対彼を取り戻してみせるから」
そう、これは絶対だ。
大切な彼を、私の旦那様を、取り戻す。
(見ず知らずの何処の馬の骨とも分からない男に取られてたまるもんですか!)
……………ん?
男?
決意を新たにした瞬間、あやこの足がぴたりと止まる。
今自分が考えた言葉をもう一度頭の中で反芻する。絶対におかしな単語があった。
今日は結婚式なのに。
日本国憲法は男女の結婚しか認めていないのに。
花嫁花婿泥棒は即ち異性でしか成り立たないはずなのに。
何故今自分は“男”などと思ったのだ。
だが、そうなれば伯母と母の狼狽振りも納得が…………できるかチクショウ!!
「とにかく追かける!!」
あやこはドレスの裾を捲り上げる。
そして、扉から呆然と成り行きを見ている友人たちに彼がどっちの方向へ行ったのか尋ねた。
「OKありがと!」
あやこは走った。
もし、その花婿泥棒と大切な未来の旦那様が車で逃げていたら、流石のあやこでも追いつけなかったが、二人は走って逃げていた。
どうやら、余りに近場に車を止めるとばれるため、距離を置いた場所に止めていたらしい。
あやこはギリギリ間に合った!
「ダーリン!!」
「あ、あやこ!?」
白いタキシードに身を包んだ彼の眼が驚きに見開かれる。
あやこは涙ながらに彼の胸に飛び込んだ。
見た目は花嫁と花婿が抱き合っているようにしか見えない。
「何処行くの? これから式なのに!」
問いかけるあやこに彼の視線が外される。
「あやこさん。逃げ出した事実が全てでしょ」
「あんたには何も聞いてないわよ! この、ホモ!」
車の運転席から身を乗り出して言葉を挟んだ花婿泥棒を一喝のうちに切り捨て、あやこはしおらしい顔で彼に向き直る。
「………」
「戻ろう。ね? ダーリン?」
「ごめん! あやこ!!」
しかし彼はあやこを突き飛ばし、車に乗り込んでしまった。
あやこが呆然としているうちに車は発進し、大通りへと消えていった。
状況を見守っていた人々がわらわらと集まってくる。
こうして花婿を男に取られた花嫁の噂は75日広まったのだった。
終わり。(※この話はフィクションです)
「あたりまえよー!!」
物語の最後に書き足された“フィクション”の言葉に、あやこは両手を挙げて叫ぶ。
視線が一気にあやこに集中する。
あやこははっとして振り上げた両手を下ろした。
「…人の見る目ってどんな怪物よりも怖いですね」
ようするに、花婿が盗まれる話が出来たということは、男に逃げられやすく見られたとも言える。
しかし、あれだけ一人口上をドリーム上等で語れば、男だけではなく女も逃げていく。
「はぁ…」
ため息一回。あやこは一人とぼとぼとファーストフード店を後にする。
空は憎らしいほど澄み渡っていた。
「今日の事いつか思い出して夜中に布団の中で大声だすんだろうなぁ私」
ぐすり。と鼻を鳴らして、あやこはがっくりと肩を落とし、午後太陽輝く街中へと戻っていった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7061/藤田・あやこ/女性/24歳/IO2オカルティックサイエンティスト】
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■ ライター通信 ■
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絵本倶楽部にご参加くださりありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
発注文と設定にかなりの見た目的ギャップがありましたので、全身図を参考にさせていただいています。
この話しは確かに通常の設定とは違う自分の物語を描けるものですが、見た目が物語の中で著しく変更されるようなものではありません(自分が人魚になった話を読んでみたい等と書かれている場合はその限りではありません)。
発注文を読ませていただいた段階で、変身願望等は読み取れませんでしたので、今回の内容とさせていただきました。
それではまた、あやこ様に出会えることを祈って……
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