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■『表の門』 佐吉の友達■

桜護 龍
【7266】【鈴城・亮吾】【半分人間半分精霊の中学生】
「あきた・・・・・」
 先程修復された時に混ざってしまった花をぴょこぴょこと揺らし、不満そうな声で有人とブレッシングに訴えた。有人は掃除を、ブレッシングはゲームをしていた手を止めて机の上に立っている佐吉を「何に?」と言う目で見る。
「有人とブレスばっかと話すのにあきたんだよ・・・俺だってお前らみたいにこの家以外のヤツラと話したい!」
「無茶だよ、サキチ。いくら何でもハニワがぴょこぴょこ歩いてたらむかえのじーさんが入れ歯飛ばして失くしちゃうって」
 ケラケラと笑うブレッシングに有人がそれは漫画の読みすぎだとたしなめつつも近隣の人が驚くのには間違いが無いと言うのには同意し、佐吉が外に出るのを止める。確かに魑魅魍魎が跋扈している東京とは言え、一般の方が多いご近所さんには何でもあり、と言うわけにはいかないであろう。
 しかし、短気で人の言うことをあまり耳に入れない佐吉にそのようなことが通じる筈もなく―――
「うるせぇ!俺はお前ら以外の話し相手が欲しいんだーー!!」
と、聞く耳なく飛び出していってしまった。
「兄貴、捕まえてくる?」
「・・・まぁ、今はいいだろう。夕方まで帰って来なければ行け」
「あいよ」
 『残念会』のために今日は佐吉の好きなものを作るか、とブレッシングが笑うと、有人は、
「わからないだろう?もしかしたら奇特な怪異好きがいるやもしれん」
と反論し、掃除を再開するのだった。
佐吉の友達〜下校の途中でこんにちわ〜

(今日は確かあれの発売日だったよな。1回、家に帰って、足りない分の金を取ってきて・・・あ、補導されると面倒だから着替えもしねーと)
 人気の無い真昼の住宅街を歩く男子中学生が1人。彼は鈴城亮吾といい、けしてサボりというわけではない。本日は試験最終日なので、このような日の高い時分から帰途についているだけである。もう試験も終わったし、少なくとも今日のこれからの時間は自由に過ごせる、と心の内が晴れやかになっている亮吾。
 それは確かにそうなる筈だった。
 彼が十字路に差し掛かる時、目の前で小さく跳ねる物体を見つけなければ―――
「はに・・・わ?」
 試験疲れの幻覚ではなかろうか。
 そう思った亮吾は、一度目を閉じてから再びゆっくりと目蓋を上げた。が、やはりそうではないらしく、午前中に社会の試験で写真が出ていた埴輪がまさに自分の目の前を横切ろうとしていた。しかも、頭から何故か花が咲いているのだから余計おかしい。
 動いている上、花を生やしているという奇天烈な埴輪の存在に呆然と立ち尽くしてしまった亮吾であったが、どうやら自分を見つめる視線に気が付いたらしいその埴輪が亮吾の方を振り向いて、止まった。
「よう、何そんなトコでぼーっとしてんだよ。車にひかれっぞ?」
「あ、それもそうだ・・・じゃなくて!」
 珍妙な埴輪に声をかけられたことにより、正気に戻った亮吾は慌ててそれに駆け寄って乱暴に掴んで鞄の中に突っ込んだ。
「うおっ!何すんだ!!」
「ちょっと黙ってろ、ハニワ!」
(何でこんなモンがぴょこぴょこ普通に歩いてんだよっ!)
 鞄の中でなおも埴輪が叫んでいるが、それはスルー。ともかくここは今は人気がないといっても住宅地だ。いつ住人が出てくるかもわからない。一般人に見られて大事になっては面倒だ。でも、この埴輪も鞄の中に入れてしまったからにはどうにかせねばならない。どうやら人語が話せるようではあるし、彼(声と話し方から言って彼だろう)の事情を聞いてやれる場所を探すため、亮吾は走るのだった。



「ここなら結構大きいし、木も多いし、大丈夫だろうな」
 亮吾が埴輪と話すために選んだのは、街中の公園にしては面積が広く、背の高い木も茂みも多い、自然の溢れた公園であった。人の多そうな遊具から離れ、公園の隅のほうの茂みに入って、腰を下ろすとようやく一息つけたと言わんばかりの長い息を吐く。
「おい、ハニワ。割れてないか?」
 しっかりと閉めた鞄を開けると、試験日であったことが幸いして、彼が充分に入れるようになっていたらしい。少ない荷物の隙間にすっぽりと入って割れないように鞄の中にいてくれたようだ。
 ただ、彼自身は不機嫌であるようで、眉間だと思わしきところに皺がよっている。
 器用な埴輪だ。
「いきなりヒトを初対面で掴んでかばんに突っ込むなんて・・・非人道的だ!!」
「それに関しては俺も悪かったかもしれないけど、あんなところを1人で歩いてたお前も悪いんだからな」
「何でだ?」
 上半身を傾ける様子からいって本当に分かっていないようである。亮吾は「まいったな」と、頭をかきながら、どのように言ったらこの埴輪にわかるだろうと考える。
「わかった、もう少し噛み砕いていってやる。でもその前にやることがあるからそこで顔だけ出して待ってろ。誰か来たらすぐに隠れるようにな」
 それだけ忠告しといて亮吾はポケットから携帯電話とそれ専用のイヤホンマイクを取り出し、装着する。これで傍から見られても電話をかけているようにしか見えないはずだ。
「これでよし。えっと、何で一人歩きしちゃいけないか、だったな。あのな、お前みたいな動くハニワなんて滅多にいないんだぞ?しかも流暢に日本語を話すし、表情は豊かだし、なんでか知らねぇけど頭から花が生えてるし」
「これは朝、割れたときに混ざっただけでいつも生えてるわけじゃねぇ!!」
「割れても生きてることできるのか・・・珍しさ倍増じゃんか、ハニワ」
「ハニワ、ハニワ言うな!!俺には『佐吉』って立派な名前があるんだからな!」
 ムキになって身を乗り出して佐吉が名前だと主張する埴輪。名前がある、と言うことは家族でもいるのであろうか。
「わかった、佐吉な。佐吉、第一発見者が俺だったからよかったものの、変なモンに連れていかれたらどーすんだよ。名前があるって事は家族か何かがいるんだろ?何かあったら心配するんじゃねぇの?」
「名前付けてくれたのは有人だけど・・・いいんだよ、別に少しくらいじゃ心配しねぇだろうし。ケチだし」
「ケチ?」
 お菓子代でも減らされたのか、とつるつるの頭を撫でてやると、違う、と体を横に振られた。結構自分より年下な感じがするから、そういう事かと思ったのだがどうやら違うらしい。
「俺、有人に掘り返された時に目が覚めて、それで一緒に住むことになって、名前を付けて貰ったんだけどよ。起きてからもう4年も経ってるのに滅多に有人やブレッシングってやつ以外と話したことないんだぜ?あの2人は家に来るヤツとも話すし、外にも自由に出るくせに」
「へえ、その人達は人間?」
「少なくとも外見は」
 外見は、と言うところに興味はひかれるがそれはおいておくとして。見た目が人間のものであれば外に出たり、来客と話すことは充分に出来ることだし、周りで混乱もきたさないだろう。
「俺がアイツラみたいに他の誰かとしゃべりたいって言ったらブレッシング―ブレスって俺と有人は呼んでるんだけど、そのブレスが『むかえのじーさんが見たら入れ歯飛ばしちゃう』とかムカつくこといいやがって・・・。だから俺、家を飛び出してきてやった!!」
「そっか」
 その有人やブレッシングと言う佐吉の家族らしき人たちには亮吾も勿論賛成だ。
 先程佐吉にも説明してやった通り、こんな珍しい焼物だ。金儲けを企む奴とか、オカルト系の組織に攫われる可能性もあるし、恐怖されて心身ともに傷つけらてしまうかもしれない。
 目を冷まさせた人達はいい人達なのだろう。身しらぬ自分に声をかけてきたことからわかる。彼は他者から傷つけられる事も知らず、他者を疑うことも教えられぬまま4年間も大事にされてきたであろうこの埴輪を、わざわざ外の世界に出して、その純粋な心を傷つけることはしたくなったのだろう。
(けどなー・・・)
 4年も同じところにいて、ずっと同じ人としか話せないのも辛いのかもしれない。もし、自分が外に出してもらえず、母親としか会えないとなると、別に母のことは嫌いではないが、やはり外に出て他の人と話したいと思うと思うから。
「よし、佐吉。とりあえず、今日は家に帰っとこうぜ」
「何でそうなるんだよ、お前!!」
「いや、陽も暮れてきたし、お前の保護者が心配するだろ。また今度、暇な時にもっと話を聞いてやるから」
「え?どういうこった?」
「だから・・・俺が時々佐吉の話し相手になってやるから今日はもう家に帰れって言ったんだよ。わかったら行くぞ、お前の家はどっちの方向だ?」
「お・・・お前、すっげぇいいヤツ!」
 瞳に涙を溜め始める佐吉を見て、亮吾は苦笑い。
 本当に純粋な奴だ。
「そうだ、名前を言い忘れてた。俺は鈴城亮吾。亮吾だからな、忘れるなよ」
「わ、忘れるわけねぇだろ!お前みたいないい奴!亮吾だろ?もう覚えた!!」
「よし」
 未だに流れ出る涙のせいで、佐吉の目の下の色が濃い茶色に変わり始めているのに気が付いた亮吾が、それがおかしくて笑う。
 それと同じくらいのタイミングで、「佐吉ー?」と第三者の声が聞こえてきた。
「もしかして、お前のこと?」
「だと思う・・・ブレスの声っぽいし」
「捜しに来たんだな」
「みたいだな。しゃーない、帰ってやるか」
「帰ってやれ」
 帰ると、ちゃんと決めれるくらいのタイミングで佐吉の家族が来てくれてよかった。亮吾は心の底からそう思い、長い間座り込んでいた茂みを鞄ごと佐吉を抱えて、出た。



 声のすぐ近くまで行ってみると、亮吾より年上に見える少年らしきものがゴミ箱の中に佐吉の名を呼びかけていた。割れて、ゴミ箱にいる可能性も考えて捜しているのだとすればやはり佐吉の家族なのだろう。
「ブレスー」
「佐吉〜。お前、夕方まで外で遊んでちゃ駄目じゃん。割られて身動き取れなくなったのかと思ったんだよー。あ、ありがとね。うちの焼物を保護してくれて」
「驚いただろー?」と、クスクス笑いながら佐吉を受け取るブレッシングに「まぁ最初は」と返す。
「まったく、こんな良い子に保護されたから良かったものの・・・まぁ無事ならいいけど。早く帰って飯にしよ」
「おう。亮吾、絶対また話そうな!」
「わかってる・・・そうだ、ブレッシングさん。これ、俺の携帯番号です。授業終わったら大概暇してるんで佐吉が退屈したらかけさせてやってください」
 先程、茂みを出る前にノートの切れ端に書いた走り書きなのでもしかしたら見にくいかもしれない。けれど、これで佐吉が外にブレッシングたちの許可なく飛び出すという暴挙を防いでやれたら、少しでも多く話を聞いてやれたらと思っての行動だ。
 ブレッシングもそんな亮吾の気持ちを汲み取ってくれたのだろう。一瞬きょとんとしたがにっこりと笑ってその紙を受け取ってくれて、交換と言わんばかりに名刺をくれた。
「ありがとう。これ、うちの大黒柱の名刺なんだ。よかったら携帯にかけても変な奴じゃなくて、佐吉だってわかるように登録しといてやって」
「わかりました」



「じゃーなー、亮吾ー」
「またなー」
 遠ざかっていくブレッシングのリュックから顔出して、目一杯両手を振る佐吉に亮吾も笑って手を振ってやる。
 折角試験が終わって自由になると思った午後だったけれど、あんな変わった埴輪に出会えたのも面白かったかな、と思う。
「飯にするってことは何か食べるんだろうけど・・・何食べるか聞くのはは今度でいいか。俺も夕飯食いに帰ろ」
 そう呟いて、虫が騒ぎそうな腹を押さえて、今度こそ帰途に付く。
「すぐにかかってきそうだな」
 ブレッシングに貰った、佐吉と自分を結びつける紙を見て亮吾は苦笑いを浮かべつつも次に話す機会を楽しみに思うのだった。
 


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7266 / 鈴城・亮吾 / 男 / 14 / 中学生】

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■         ライター通信          ■
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鈴城亮吾様、はじめまして、ご依頼ありがとうございます!
うちの変わった焼物はいかがだったでしょうか?
佐吉の方はいきなり掴まれたことに驚いたみたいですが、亮吾さんの優しい気持ちに触れてるんるんのようです。
もしよろしければまた佐吉と遊んでやってください。