■『表の門』 有人の花壇■
桜護 龍 |
【7061】【藤田・あやこ】【エルフの公爵】 |
霞谷家の大黒柱・有人の趣味の1つに庭いじり―園芸がある。園芸と言ったら草花だけ、と想像する方もおありだろうが彼は野菜類や果実と言った園芸から逸脱しているものも草花と一緒に育てていたりする。
「異常気象が激しいから庭にも影響が出るとは思っていたが・・・・」
「ここまでだとちょっと引くよね」
有人とブレッシングが立ち呆けて眺めているのは自分たちの庭。何故なら今年の例年になく激しい異常気象のせいでどの植物たちも大量に繁殖し、庭中を埋め尽くしているからだ。このままだと近くの山から食料を求めに動物が下りてきそうで怖い。
「近所に分けても余るだろうな」
「『お譲りします』とでも看板つくる?」
その方が『処分』と言う最悪なことをしなくてもいいし、他のところで喜んでもらえるならその方がいい、と言うことで霞谷の壁には『うちの草花、畑のものをお譲りします』と言う看板を貼る事となった。
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有人の花壇〜怪獣出現!?〜
「ふむふむ、えーと『草花、野菜などお譲りします』か。今の私の体調にぴったりな看板ね。お邪魔しちゃおーっと」
黒髪の女性が意気揚々と霞谷家の門の内に入ると、突然、強い光が放たれ、別の影が出現した。
その日、ご近所さんの叫び声や、震度3くらいの地響きのせいで起これたのは霞谷家の住人・霞谷有人とブレッシング=サーチャー。何事かと外に出ると、庭にワゴン車くらいの大きさのドラゴンがいて、有人の畑の野菜を貪り食べていた。
「これくらいの大きさなら某光の巨人を呼ぶこともないな。ブレス、この間やった大刀があるだろう。いってこい」
「僕にさばけと!?第一、あれは大きすぎて僕にはまだ扱えないって言ったじゃん!兄貴のイシビヤとか言うバズーカーで何としなよ!」
「石火矢は撃つと壊れる」
「ケチーーー!!」
2人の微妙に物騒な会話に気が付いたのだろうか。周りの騒ぎなど一切耳に入っていない様子であったドラゴンが、ぴたりと動きを止めた。そして、自分の食い荒らした畑と後方の有人やブレッシングを見比べて、ポリポリと頬をかいたと思ったら、ドロンと煙に巻かれていなくなった。
「消えた!?」
「『ドラゴンは』消えたな」
「『ドラゴンは』?」
「まだ、気配はいる」
有人が指した気の後ろからゆらりと人影が揺れ、ブレッシングが不法侵入者に対し、いつでも攻撃が出来るよう身構える。しかし、木陰から出てきたのは何故か水着姿にレタスを巻きつけたOL風の女性で―――
「あは・・・あはははは」
「先程の龍は貴女ですね。どちら様でしょう?」
身構えたままのブレッシングの前に立ち、有人が女性にむかって訊ねる。
「すみませーん、私は藤田あやこって言います。勿論ドラゴンも私です。実は取引先の付き合いで連日連夜の忘年会ラッシュ。お陰で胃腸はボロボロ、身体はガタガタ。変身の抑制も効かないの〜。ヘルシー野菜で体調不良を治したいんです。お礼はなんでもします!」
パンッと両手を合わせて必死に頼み込んできたあやこに有人とブレッシングは顔を見合わせて苦笑。このままこの女性を捨て置く程、彼らは非情ではない。
「ブレス、紙皿と割り箸をコンビニで買って来い。わたしは簡単な食事会ができるよう調理の準備をしよう」
有人に了解の意を示し、去っていくブレッシング。あやこはそんな彼の行動も、有人の言葉も理解できずに、きょとんとして有人を見上げた。
「胃腸が荒れているのでしょう?ささやかながら、それを治めるお手伝いをさせて頂きます。ああ、礼はいりません。こちらとてこの庭の植物を貰ってくれる方を捜していましたからお互い様、ということです」
こうして、あやこのためのベジタリアンが泣いて喜ぶ野菜食事会が開かれることとなった。
すぱんっと小気味のいい音を立てて人参が2つに割れる。有人が戦国マニアで、日本刀をコレクションしていることを知ったあやこのリクエストにより、有人がそれで切ったからだ。
「すご〜い。じゃあ、私も!」
有人の剣技には負けていられない、とあやこも再びドラゴンに変身し、ブレッシングが差し出した細切れになった野菜の入っている鉄製網に向かって火を吐く。それをブレッシングが揺すってやると上手い具合に炒まるのだ。
「わー、上手い具合に焼けますねー」
『火力調節はお手の物よ。ついでに団扇代わりもしちゃう?風力だっていけてるんだから』
「あ、じゃあお願いしちゃっていいですか?炭って火を熾すのに人の手じゃ大変なんで助かります」
ブレッシングは炒め終わった網を、野菜を切り終えた有人に渡すと、今度は七輪に有人特製タレに充分に浸かった大きく切られた野菜を乗せていき、引火用の新聞紙に着火する。
「あやこさーん、お願いしまーす」
『OK!』
ブレッシングの合図に、あやこはにっこりと笑い、七輪や炭が飛んでいかない程度の強さで羽を羽ばたかせて火を煽った。
通常、人間の手によって煽ぐと30分以上はかかる炭の着火であるが、やはりドラゴンの羽は大きく、力強い。ものの五分も経たない内に炭が赤々と光を放ち始め、網の上に乗っている野菜からも少しずつ煙が出てきた。
「やっぱ凄いです。兄貴ー、あやこさんのお陰で大分こっちは終わったー」
「そうか、わたしの方も粗方終わった。後は待つだけだ」
「待つ?」
こちらがあやこと一緒に焼いたりしているうちに家の中でオーブンでもつけてきたのだろうか、とブレッシングは首を傾げるが、その疑問はすぐに晴れた。
「毎度ーー!霞谷さん、呼んでくれてどーも。土産に酒樽持ってきたぜー!!」
家の前に止まったのは近所の酒屋。ロゴの入った車からブレッシングの見知った店主が顔を出して大きく手を振っている。
「おっちゃん?何で?」
『私が呼んでっていったのー』
「へ?あやこさんが?」
『ここのご近所の皆さんにはお騒がせして、迷惑かけちゃったかたお詫びに、と思って。有人さんに町内の連絡網を回してもらったのよ』
「へえ、そうなんだ。じゃあ、今日は楽しくなりそうだね」
あやこの言った通り、町内には完全に連絡がまわったようで。酒屋の店主を皮切りに、隣りの一家、むかえの老夫婦に、ドラゴンという珍客見たさも押しかけてきた好奇心旺盛な子供達、と次々と大勢の人が霞谷家にやってきた。
酒屋がいくつ持ってきたのかわからない酒樽を片っ端から景気よく蓋を割り、もう既にプチ宴会状態で盛り上がっている。
「よかったね、あやこさん。ご近所さんたち、かなり喜んでるよ」
『うん、これで迷惑料もチャラよね』
「だね」
『よーしっ!これで心のうちもスッキリしたし、野菜のお陰でお腹のモヤモヤも無くなったわ。さー、浴びるほど飲むぞーー!』
野菜料理と、近所の皆さんの笑顔で心身ともにリフレッシュしたあやこは、近くにあった酒樽に思いきり首を突っ込ませた。
「えぇ!?」
酒を酌もうと思っていたブレッシングは大いに驚き、派手なリアクションを取ったが、すでに出来上がっている周りは「いいぞー」と、かなり喜んでいる。
そんな様子をつまみ用の野菜料理を作っていた有人は傍から見て、
「また胃が荒れると思うのだが・・・まぁ、いいか」
と、お決まりの言葉を紡いで調理を続けるのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【7061 / 藤田・あやこ / 女 / 24歳 / IO2オカルティックサイエンティスト】
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■ ライター通信 ■
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はじめまして、藤田あやこ様。
有人の花壇、ご注文ありがとうございます。
怪獣というプレイングをみて一時は驚きましたが、考えてみればワゴンサイズって可愛いな、と思いながら書かせていただきました。
また機会がありましたら霞谷家にお立ち寄りください。
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