■『表の門』 有人の花壇■
桜護 龍 |
【7266】【鈴城・亮吾】【半分人間半分精霊の中学生】 |
霞谷家の大黒柱・有人の趣味の1つに庭いじり―園芸がある。園芸と言ったら草花だけ、と想像する方もおありだろうが彼は野菜類や果実と言った園芸から逸脱しているものも草花と一緒に育てていたりする。
「異常気象が激しいから庭にも影響が出るとは思っていたが・・・・」
「ここまでだとちょっと引くよね」
有人とブレッシングが立ち呆けて眺めているのは自分たちの庭。何故なら今年の例年になく激しい異常気象のせいでどの植物たちも大量に繁殖し、庭中を埋め尽くしているからだ。このままだと近くの山から食料を求めに動物が下りてきそうで怖い。
「近所に分けても余るだろうな」
「『お譲りします』とでも看板つくる?」
その方が『処分』と言う最悪なことをしなくてもいいし、他のところで喜んでもらえるならその方がいい、と言うことで霞谷の壁には『うちの草花、畑のものをお譲りします』と言う看板を貼る事となった。
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有人の花壇〜焼物訪問〜
『亮吾ー!おはよーっす!!』
「おはよ・・・佐吉、お前、朝から元気だな」
『俺はいっつもこんなんだぜ?亮吾はテイケツアツかぁ?』
「低血じゃないけど・・・今日は休みだから昨日寝たのが遅かっただけだ。そうだ、折角起こされたんだし、今日はそっち行こうか?家の人が良いって言ったらだけど」
『おお!マジか!?来いって!有人もブレスも亮吾だったらいつでもOKって言ってたし!!』
「わかった。じゃあ、朝飯食ったら行く」
『おう!楽しみに待ってるからな、絶対来いよ!』
と、言うわけで朝も早くから佐吉の電話で起こされた亮吾の本日の予定は、佐吉訪問となった。
ひょんなことから知り合ったあの埴輪。ちょこちょこと電話はするが、家に遊びに行くのは初めてだ。住所は以前、佐吉の保護者の1人であるブレッシングに貰った名刺に書いてあるので、地図を片手に照らし合わせながら探せばいい。
(そういや、この名刺の人に会うのははじめてかも)
『霞谷有人』
ブレッシングが言うには、彼や佐吉が住んでいる家の大黒柱だと言うが一体どんな人なのだろう。佐吉情報だと、『ケチ』『ブレスの兄貴役』『絵本作家』である。歳も、実は25歳だと言うし―彼の容姿が若く見えるのと、身長のせいで亮吾は自分より少ししか年上じゃないと思い込んでいた―、亮吾的には話しやすい人希望だ。
「『霞谷』、ここだ・・・ん?」
『霞谷』と掲げられた表札の横になにやら大きめの看板がある。『草花・野菜などお譲りします』。家本体の方は普通の一軒屋のようだが、庭は広めに見えるので、もしかして家庭菜園でもやっているのかもしれない。ニュースでも今年の異常気象で作物が取れすぎて野菜や果物の値段が下がっていると言っていたし、霞谷家でも異常発生したのだろう。
(あんまり困ってんならいくらか貰って帰ろうかな)
まあ、それは帰りの話ではあるし、とりあえず今は佐吉に会おうと、亮吾はインターフォンを押した。
「亮吾ーーー!!」
家の中、ではなく庭のほうから嬉しそうな声を出して飛び跳ねてきたのは佐吉。それに続いて、何やら竹作りのザルを持っているブレッシングが来た。
「亮吾くん、いらっしゃい。ごめんねぇ、うちの馬鹿な焼物が朝っぱらから電話しちゃって。こいつ、すっかり電話のかけ方覚えちゃってさぁ」
どうやらブレッシング達が朝の水やりに出ている間に、亮吾へ電話をかけたらしい。人の迷惑顧みず、思ったことはすぐに行動。本当に子供だ、この埴輪は。まぁ、そこが可愛らしくもあるのだけれども。亮吾だって懐かれているのは別に苦ではなく、面白いし、嬉しいくらいだ。
ところで、先程からどうも気になるのだが。
「ブレスさん、そのザルに入ってるのってキノコですよね」
「そうだよー」
「表に看板ありましたけど、キノコも栽培してるんですか?」
「うん、アルトが何を思ったのか暗室部屋を作ってね。菌類とか、もやしとか作ってるんだよ。行ってみる?」
キノコの養殖場なんてそう見れるもんじゃない。しかも一般家庭のものなんて、特に。どうなっているのか興味を持った亮吾はうなずいた。
「そか。じゃあ案内するよ、ついて来て」
「はい・・・佐吉。お前、俺等について来るの大変だし、フードの中にでも入ってろよ」
「おっ、さんきゅー」
足元をうろちょろしている佐吉を抱き上げ、パーカーのフードの中に入れて数歩先を行くブレッシングに追いつく。亮吾がブレッシングの後ろについて歩いている間も佐吉は久しぶりに顔を合わせたのが嬉しいのか、興奮して弾丸のように話しかけてくる。亮吾も電話ばかりだったので、電話とは違う、顔を合わせて話す感覚を感じながら佐吉に応えてやった。
「そういやさ、佐吉」
「おう」
「頭の花はどうした」
確か前に会った時、頭からぴょこぴょこ揺れる花が生えていた筈なのだが。
「ああ、アレか?割れてすぐにとれたぞー」
「割れ・・・すぐに割れるのか?お前」
「週に3回くらい」
「週3・・・それって大体の話か?」
「大体の話だなー」
だいたい、と言うことは週に3回以上割れることもあるだろう。もしかしたら1日1善よろしく、1日1割れでは済まないこともあるかもしれないし。そう考えたら毎回欠片を集めて直しているブレッシングは相当の労力を強いられているのだろう。
「ブレスさん、大変ですね」
本気でそう思って前を行くブレッシングに声をかけるが、
「まぁね。でも、慣れたよ。手のかかる『弟』の世話はさ」
と、優しく笑って振り返ってくれた。
しいたけ小屋(亮吾、勝手に心の中だけで命名)に到着すると、薄暗い小屋の中に眼鏡をかけた、暗闇でも良く分かるほどの銀糸を持つ青年が丸太を木槌でぽこぽこ叩いていた。あの人がここの大黒柱、霞谷有人なのだろう。名前のわりには外国人らしい外見だが、ハーフなのかもしれない。下の名前は『あると』で、音にすると何だか外国の名前ともとれる響きであるし。
「アルト、もやし採ったの?」
「ああ、4人分ならそのくらいでいいだろ」
「4人分?」
入り口横の棚にはブレッシングが持っているのと同じザルにこの小屋で採れたらしいもやしの他、水菜や人参等生野菜が乗っている。
と、言うか4人分とはなんだろう。確かにそれくらいの数量には見えなくもないが、どの4人だ?
いや、そんなことよりも有人は初対面なのだから挨拶をせねば。
「はじめまして、鈴城亮吾です」
「ああ、そう言えばこうして会うのは初めてですね。霞谷有人です、佐吉がお世話になっています」
「いえ・・・急にお邪魔するとか言ってごめんなさい」
「いえいえ。佐吉のお友達ですし、いつでも大歓迎ですよ」
にっこりと微笑んでくれるこの人は、やはりブレッシング同様、佐吉が大事なのだと感じた。この笑顔は先程ブレッシングが佐吉を『弟』と言った時のと同じ笑み。
(いや、ホント佐吉が箱入りハニワになるのもわかるな)
この優しさに護られて4年も過ごしてたんだ。『ケチ』なんて言ってたら罰が当たるぞ、佐吉。
「ブレスさんにも言ったんですけど、表に看板があったから野菜だけかと思ったらフルーツやキノコも育ててるんですね」
「家庭菜園が好きでしてね、その延長みたいなものです。親馬鹿に近いですが、うちで作った野菜も果物も美味しいですよ。昼、楽しみにしていてくださいね」
「こいつらで鍋やるからさ。亮吾くん、何かアレルギーとか嫌いなもんってある?」
「え?・・・それって・・・」
昼飯作ってくれるってことですか?
4人分ってそういうことですか?
佐吉も食べれるんですか?
「有人の飯うまいぞー、今日はケーキも焼いてくれるってよー。果物採りに行こーぜー」
「ええ?!」
その上ケーキかい、と目を丸くする暇も、佐吉、お前ケーキ食うのかよ、とも突っ込む間もなく、ブレッシングからカゴを渡され、亮吾はフードに入れたままの佐吉に教えられた方向に出発するのだった。
「なぁ、佐吉」
「んー?」
「有人さんもブレスさんもいい人だな」
ブレッシングは一度だけ顔を合わせているけど、それでも佐吉を手渡す時に少ししか言葉を交わさなかったし、有人に至っては佐吉へ取次ぎをして貰う程度だった上に、今日が初対面だ。
いくら自分がこの焼物にやっと出来た友人だからとはいえ、突然の訪問の許可をくれ、昼食やデザートまで用意してくれるなんていい人としか言えないじゃないか。佐吉が電話越しに毎回愚痴を言う理由がわからない。
「そうかぁ?有人はああ見えて『まぁ、いいか』で済ますことの多い面倒くさがりだし、ブレスは歳のわりにガキで、ムカつくことばかり言うぞ」
「それだけ晒しだせる程の『家族』なんだろ。大事に想っとけ」
「思ってるぞ?飯は美味いし、俺の用のベッドとか作ってくれたし、割れるたんびに直しくれるし、それになんたって俺を掘り起こしてくれたしな!!」
「・・・」
これはあれか?
雛鳥が孵化して初めて見たものを親だと思い込むって言う――
「刷り込みだったけ」
「何だぁ?」
「いや、何でもねぇよ。林檎持って早く家の中入ろうぜ」
「おう!」
佐吉の返答を合図に、これからの楽しい時間の材料となる紅い果実に亮吾はハサミを入れた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7266 / 鈴城・亮吾 / 男 / 14歳 / 半分人間半分精霊の中学生】
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■ ライター通信 ■
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こんにちわ、鈴城亮吾様
お待たせしました、ご依頼ありがとうございます!
霞谷家のご訪問、如何でしたでしょう。
佐吉は亮吾さんが訪ねてくださったので、見ての通り大喜びです。
甘いものが大好きな奴なんでこの後、採った林檎で作られるケーキをたらふく食べると思われます。
それでは、またよろしければ霞谷家にお越しください。
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