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■ファムルの診療所/お勧め探索地■ |
川岸満里亜 |
【2447】【ティナ】【無職】 |
診療所の取扱い薬の中に『魔法薬』というものがある。
霊力の高い草シシュウ草や、一般的に知られていない魔法草という強い魔力を有する草を材料とした薬だ。
効果は様々だが、いずれも一般の薬と比べ、5倍ほどの効力がある。
地道なセールス活動のお陰か、最近では魔法薬を求めて診療所を訪れる者も増えた。
しかし、シシュウ草や魔法草は市販されてはおらず、常に診療所の魔法薬は品薄状態である。
そのため、現在診療所では材料の持ち込みを推奨している。
シシュウ草繁殖場所リスト
1)噴水公園(発見率:極少 採取難易度:易)
2)レイル湖(発見率:少 採取難易度:普)
3)郊外の地下道(発見率:普 採取難易度:難)※1〜2話
4)底無しのヴォー沼(発見率:高 採取難易度:極難)※前後編
5)ミラヌ山(発見率:普 採取難易度:難)
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『ファムルの診療所/お勧め探索地〜髪飾り〜』
ダラン・ローデスが再び診療所に顔を出すようになった頃のことである。
まだ、寒くなる前。獣人のティナは、たまたま傷薬を買いに診療所を訪れた。
「材料持ち込みなら安くするぞ」
そんなに持ち合わせがなかったティナは、ファムル・ディートの言葉を受けて、薬草探しに出かけることにする。
野山を駆け回ることが大好きなティナには、もってこいの仕事だ。
「ん……」
奥の部屋で魔術の練習をしているらしいダランを見ると、声をかけるより早く駆け寄ってきた。
「薬草探しに行くのか!? 俺も行ってやろうか。魔術師の力が必要かもしんねーし」
言って、ダランは胸を張る。
ティナは以前ダランと出かけた時のことを思い出す。
魔術……使えることは使えるようだが、ダランは大した力を持っていない。
だけど。
相変わらずのダランの様子を懐かしく思いながら、ティナはこくりと頷いて、「行こう、一緒に」と言ったのだった。
1人より、2人の方がきっと楽しいから。
**********
2人が一緒にこの地下道を通るのは、2度目であった。
そして――ダランに抱きつかれるのも、2度目であった。
腕に抱きついたり、後ろから腰に抱き付いてきたり。とにかく、邪魔である。
この地下道には多少の怪物が入り込む。戦闘能力に乏しいダランは、下手に突っ走られるより、自分の側においておくべきだと思い、ティナはくっつかれても我慢していた。
……というより、少し慣れたのかもしれない。
ダランがティナにくっつくのは、恐怖心と女の子への愛情だ。成人男性だったら、蹴り飛ばさねばならないが、ダランは年下の男の子である。ティナはそんなに嫌だとは感じていなかった。
「で、出たな怪物!」
驚いたことに、そのダランがティナの前に出た。
地下道に出現したのは、モグラが変化した怪物であった。大した敵ではないが、ダランには無理……と、ティナがダランを押しのけようとした直後だった。
「火炎弾!」
2人の前に浮かび上がった火の弾が、怪物に向かって放たれる。
火の弾は、見事にヒットし、怪物を熱と衝撃で倒したのだった。
「ダラン……強くなった?」
「おうっ! 元々強かったけどなっ!」
言ってダランは踏ん反り返る。
少し見ないうちに、随分と成長したようである。
これなら万が一逸れてしまっても、大丈夫だろう。
「ティナー、寒くないかー、俺が温めてやるぜー」
再び、ダランがぎゅっとひっついてくる。
逸れたくても逸れられそうもないが。
以前かかってしまった罠は、十分気をつけて回避し、2人は草原へと出た。
降り注ぐ光のまぶしさに目を細めながら、草原へ足を踏み入れた途端、ティナの心が高揚し、思わず駆け出した。
「疲れたー」
対照的に、ダランはのんびり歩いている。しかし、その顔は輝いており、ティナ同様、心は弾んでいるようだ。
「草原の先、行く!」
ティナが振り向いてそう言うと、ダランは頷いてついてくる。
蝶や花に気をとられながら、ティナは駆けてゆく。
この場所では、ダランよりティナの方が子供のようにはしゃいでいた。
次第に木が多くなり、山裾へと出た。
見上げた山からは、なんだか不思議な力を感じる。
「これより先はダメなんだ!」
ティナが足を一歩踏み出した途端、息を切らしてダランが駆け寄ってきた。
「山の中、ダメ?」
山は自分の庭のようなものだ。少しでいいから、この山の中に入りたいという衝動に駆られる。
「うん、この山には、怖い魔女が住んでいて……ええっと、ティナみたいな可愛い女の子を食うんだ。だから近付いちゃダメだ!」
その言葉に、ティナは飛び上がるほど驚いた。
人間とは、本当に恐ろしい生き物だ。
純粋なティナはダランの言葉に従い、その場を離れることにした。
匂いをかぎながら、薬草を選ぶ。
側では、ダランも草を抜いている。
「ええっと、魔法草には魔力があるんだよな」
言いながら、草に触れて、目を閉じている。
ティナにはダランがやっていることの意味がよく分からず、とりあえず知っている草を抜いて、籠に入れていった。
「うおっ、これか!」
ティナが傷薬に使う薬草を大量に採取した頃、ようやくダランは草を一つ選んで引き抜いた。
「同じ草、ティナも採った」
「あ、そっか。シシュウ草以外は見た目でわかんじゃん!」
当たり前のことを言いながら、ダランは再び採取に励む。
魔術も使えるようになったようだし、少しくらい離れても大丈夫そうだ。
ティナは林の方へと足を伸ばすことにした。
この時期は、森で色々な食料が採れる。本当は山に入りたいのだけれど……。
しかし、魔女は怖い。
キノコや小さな木の実を採ると、ティナはダランの元に戻ることにした。
ダランは蹲って何かをしている。草を選んでいるわけではなさそうだ。
「ダラン」
後ろから声を掛けると、ダランは「わっ」と、驚きの声を上げて振り向いた。
彼の手の中にあるのは……花だった。
「えええっと、花冠でも作ってみようと思ったんだけど、失敗した」
笑いながら、ダランはピンク色の花を一輪とった。
そして、手を伸ばして、ティナの髪に、花を挿したのだ。
「うん。ティナにはこういうの似合うよな。豪華なアクセサリーじゃなくて、こういう自然の綺麗なものがさ」
鏡も水溜りもないのが残念だった。
自分に本当に似合っているのだろうか。
わからない。
だけれど……嬉しかった。
「ありがと」
言って微笑むと、ダランは照れたように笑った。
帰り道は、行きよりも楽しく談笑しながら歩いた。
根性なしのダラン・ローデスも、話をしていれば、疲れや恐怖を感じないようで、道中ずっと楽しそうであった。
怪物が襲ってきた時には、力をあわせて退治した。女性のティナが前面に立ち怪物に飛びかかり、ダランが後方からの支援という役割だったが、自分達の関係では、それがベストだろう。
地下道を抜け、地上に顔を出した頃には、外は暗闇に包まれていた。
「いけねっ、今日は早く帰るってとーちゃんに言ってあるんだった! 俺、このまま家に帰るけど、ティナ一人で大丈夫か?」
ダランの言葉に思わずティナは笑ってしまう。
「ダランこそ、一人で、大丈夫?」
「あったりまえじゃん!」
確かに……。
よくよく見ると、以前一緒に出かけた時より、外見も少しだけ成長したようにみえる。
「じゃ、またね」
ティナがそういうと、ダランは頷いた。
「まったなー!!」
大声でそう言いながら、手を振ってダランは自宅へと駆けていった。
**********
「随分と採ってきたなー」
受け取った草をテーブルの上に広げて、ファムルは選別をする。
「ん? 薬草じゃないのも混ざってるぞ」
「あ、それは今晩のごはん」
ティナはキノコや木の実を集めて籠に戻した。
「これも、薬草じゃないな」
言って、ファムルは穏やかな顔でティナの髪を指差した。
ティナの髪の中で、ダランが挿した一輪の花が明るい笑みを見せていた。
こくりと頷いて、ティナは顔にも満面の笑みを浮かべたのだった。
※今回の成果
シシュウ草/4株
ナック草/1株
ミンカ草/2株
その他薬草/6株
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2447 / ティナ / 女性 / 16歳 / 無職】
【NPC / ダラン・ローデス / 男性 / 14歳 / 駆け出し魔術師】
【NPC / ファムル・ディート / 男性 / 38歳 / 錬金術師】
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■ ライター通信 ■
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ライターの川岸です。
探索ノベルへのご参加、ありがとうございました!
あれからダランは少し成長をし、魔術をある程度使えるようになりました。
今回は足手まとい度が随分と減ったと思います。
ティナさんとの探索、とても楽しませていただきました。
また機会がありましたら、どうぞよろしくお願いいたしますー。
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