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■おそらくはそれさえも平凡な日々■

西東慶三
【1136】【訃・時】【未来世界を崩壊させた魔】
 個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
 そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。

 この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
 多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。

 それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
 この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。

−−−−−

ライターより

・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。

 *シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
 *ノベルは基本的にPC別となります。
  他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
 *プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
  結果はこちらに任せていただいても結構です。
 *これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
  プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
  あらかじめご了承下さい。
End Of The Days

〜 The First Day 〜

 覚えている。

『あのね、カジ? 私、退魔になる』

 そう心に決めた日のことを、覚えている。

『そしたら、カジが怪我をしないでいいのでしょう?
 だったら私、やる。ううん、やらせて、カジ。
 私、道具だって言われるのは嫌だけど、カジにだったら道具にされたっていいよ』

 今にも泣き出しそうな曇り空の下で、「私」は加地葉霧(かじ・はきり)にそう告げた。





 初めは全くの偶然だった。少なくとも、彼女自身にとっては。

 襲ってきた訃時(ふ・どき)との戦いにおいて、加地は劣勢を強いられていた。
 まだ訃時も今ほど強力ではなく、加地も卓越した戦闘能力を持ってはいたが、それでもさすがに訃時と一対一で渡り合うには無理があったのだ。
 助けを呼びに行っても、味方が来るまで持ちこたえられるかはわからない。
 それでも、どうにかして彼を助けたかった。
 その想いが、彼女のうちに眠っていた能力を呼び起こしたのかもしれない。
 気がつくと、彼女の手の中には優しく輝く白い光の刃があった。





 彼女は加地を慕っていた。
 彼が一人で戦っているのを知っていた。
 彼がいつも笑っているのも、それが表向きのポーズに過ぎないことも。
 本当は彼が苦しんでいることも、心の底で泣いていることも、みんな知っていた。
 だからこそ、彼女はずっとそんな彼を助けたいと、彼の力になりたいと思っていた。

 それが「戦う」ということを意味することは、もちろんわかっている。

 死ぬのは怖い。
 人を殺すのも怖い。

 けれども。
 このまま放っておいたら、この人はいつか消えてなくなってしまうような気がした。
 その方が、もっともっと怖かったから――ためらうことなく、彼女は彼を手伝うことを決めた。

『私は……君を、そんなつもりで助けたのではないのだよ?』
 彼が困ったようにそう言うことも、おおよそ予測はできていた。
『……そんなことがさせたくて君を此処に連れてきたんじゃないんだ』
 そう渋ることはわかっていたからこそ、彼女は一歩も退かず――ついに、ともに戦うことを認めさせたのだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 The X-Day 〜

 それから、どれくらい後だったろうか。
 そういった些末なことは、今ではもう思い出せない。
 それでも、「その日」のことだけは、今でもはっきり覚えている。

 いつしか、彼女は英雄とまで呼ばれる腕利きの退魔剣士になっていた。
 正直なところを言えば、それを重荷に思ったこともあった。
 けれども、自分の大切な人たちを守れることは、彼女にとっても喜びだった。

 だが、そんな彼女にも、守りきれないものがあった。

『怪物だけが問題じゃないんだよ』

 彼女を姉と慕い、また彼女の側でも弟のようにかわいがっている少年がいた。
 その少年――風野時音(かぜの・ときね)には、「消去力」という強大な力があった。
 そして、それ故に――彼は「爆弾」として使われる運命を背負っていた。

『時音君の両親の死によって正確な方法が失われた風野の消去力は未だブラックボックスが多い。 だから、歌姫君の登場でそっちに計画がシフトするはずだった』

 訃時に対抗するだけなら、得体の知れない「消去力」を使わずとも、純粋に異常結界そのものに働きかけられる歌姫の能力を中心とした方がいいに決まっている。
 そして実際、それで一度は「爆弾」計画は撤回されたはずだった。

 しかし。
 加地が語ったのは、それとは全く別の事情だった。

『だが、異能者狩りの侵攻は大きく成りすぎた。君一人が勝っても仕方が無いんだよ』

 異能者と異能者狩りの戦いは、彼女が戦い始めた当初よりも、さらに苛烈さを増していた。
 当然、それによって双方の――特に、異能者とされた側の犠牲は甚大なものとなっていた。

『だから消去力に注意が集まった。化物ではなく人に使うんだ』

 訃時ではなく、異能者狩りに――つまり、人に対して「爆弾」を使う。
 そんなことは、到底承伏できかねる話だが――。

『そして上層部の決定はもう下ったよ。なら私も君も道具として従うしか道は無い』

 それを覆せるだけの力は、彼女にはなかった。
 魔に対しては絶大な力を発揮し、人々にもてはやされていても、組織の中ではかくも無力な存在なのだ。
 そして、加地が――全く迷いがないとは言わないが――その「使命」をとるであろうことも、彼女はわかっていた。

 とはいえ。
 だからといって、時音の命がむざむざ失われるのを、黙ってみていることはできない。
 黙ってみていることはできないが――ならば、他に何ができる?

 彼女は迷った。
 迷って、迷って、迷った。
 けれども、世界は彼女が答えを出すのを待ってはくれなかった。
 異能者狩りの接近が伝えられ、彼女は迷いを抱えたまま、その迎撃に出向くことになったのである。





 答えは、意外なところから、意外な形でもたらされた。

『力が欲しい?』

 彼女が、そして彼女たちが「支援者」だと信じていた相手に売られたことを知った時。

『守りたいんでしょう? 力がいるんでしょう?』

 故郷の街に、そしてそこにいるはずの時音たちに危機が迫っていることを知った時。

『私を受け入れて……それ以外に道はないわ』

 その姿なき声こそが、彼女の探し求めていた答えだったことに、彼女は気づいてしまった。





『私が訃時になればいい』ということに。




 訃時を受け入れ、『私の意思を反映させた「世界を呪う悪」』になる。
 それは、きっと許されない罪だろう。
 しかし、そうすればあんなにも欲しかった力が手に入るのだ。
 守りたい者を、今度こそ守ってあげられるだけの力が。

 そして、あの子に最後に殺されよう。
 そうして罪を償えば――私は消えても、あの子は残る。

 それなら、それでいい。
 そう思った。





 それなのに。

 後方の街にいたはずの時音が、友人たちとともに前線に来てしまった。
 その誤算に気づいた時には、すでに「私」は「私達」に食われ、その中に埋没しつつあった。

『道具にされたっていい』
 いつか彼女は加地にそう言った。
 けれども、彼女は『道具』になりきることはできなかった。
 だから、最後の最後で「使命」と「家族」の間で揺れて――「使い手」の意に反する行動をとってしまった。

 加地なら、きっとそんなことはしなかっただろう。
 そして、目の前にいる時音も、きっと使命の方をとったことだろう。
 本当の姉弟のように接してきた彼女には、そのくらいのことは全てわかっていた。

 でも。
 もし、使命ではなく、自分や、家族の方をとってくれれば。
 可能性を越えた想いが、願いが、祈りが、そこにはあった。





 だが。
 最後の最後に、彼女は気づいてしまった。
 すでに、本当の意味で取り返しがつかないことになってしまったということに。

『……あ……』

 ただ時音の能力を使うだけなら、「その時」が来るまで、時音は後方で厳重に守っておいたほうがいいはずだ。
 それなのに――なぜ、時音がこうして前線にいるのか?





 ――その答えは――。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 The Last Day 〜

 訃時と「桜の少女」との戦いは、ますます激しさを増していた。

 桜の結界によりある程度制限されたとはいえ、訃時の戦闘能力は計り知れない水準にあるはずだ。
 それでも、桜の少女――時音と歌姫は、一歩も退くことはなかった。

『あの動き、光速の業か』
『大丈夫、私が時計の力で封じるから』
 時音の戦闘能力でも対応しきれない部分は、歌姫がすかさずフォローして。

『炎が……沢山』
『歌姫、視界を僕に。ね? 全て見える』
 逆に歌姫では対応しきれないところは、時音が逆に前面に出て。

 意思を合わせ、文字通り「一心同体」となって戦う二人の力は、すでに訃時――あるいは「私」にも全く劣らないだろう。





 苦しみと絶望を寄り合わせ、結界と成し、学び、また再生する力まで与えたIO2。
 確かに、それは虚無の境界すら滅ぼすだろう大きな力となった。

 でも、と彼女は思う。

 その結界が自らの意思を持ち、それが作る世界こそが虚無の夢へと通じているなんて。
 ――なんて皮肉なことだろう。そう思わずにはいられない。

 けれども、それを言ったところで、それが何の役に立つというのだろう?
 だから、「私」はそんな心を押し殺し、あえて「私達」として話す。

『……時音』

 無言のままの桜の少女の姿に、時音と、彼の手を握る歌姫の姿が重なる。
 そんな彼女に、「私」は微笑みながらこう続けた。

『此処で勝っても世界は……異能者をもう学んだ』

 IO2の悪事を表沙汰にするためには、異能者の存在をも表沙汰にする必要があった。
 そうしなければIO2を止めることはできなかったとはいえ、これは十分将来の禍根となり得る。

『憎悪は残り……IO2も残る。何も変わらない』

 今回の件があったとはいえ、IO2そのものが消滅することはないだろう。
 むしろ、今回の件で「異能者に対する潜在的な恐怖感」が人々に生まれれば、近い将来にIO2が表だって暴走を――「人々の支持を得た活動」として再開する可能性もないわけではない。

『貴方は消去力の子として狙われ、歌姫さんも巻き込まれる。失う物ばかりだったのではなくて?』

 その言葉に、やがて、時音がゆっくりと口を開いた。

『失った物の方が……ああ、そうだ。確かに多かった』

 そう言いながら、彼は歌姫の手を握り返す。

『でも、それでも得たものがある。
 失った物がくれた物が、ずっと隣にあり続けてくれた人がここにある』

 その顔には――もはや、一片の迷いもない。

『後悔は沢山ある。でも、受け入れたまま生きていける。だからお前を僕は斃すんだ』

 毅然とした表情でこちらを見据える時音に、歌姫がそっと寄り添う。
 彼らとて、このような無茶な戦い方が長く続けられるはずがないことは百も承知のはず――となれば、おそらく次の一太刀で勝負は決まるだろう。

『最後の無茶に付きあってくれるかい?』
『貴方とだったらどこまでだって!』

 桜の光刃が、ひときわ輝きを増す。
 時音の最後の切り札は、おそらくあの時と同じ技――相手の魔力をそのまま自らの光刃に上乗せする、あの技しかないだろう。
 だとしても――だからどうする、というものでもない。

 桜色の光刃と紅の光刃がぶつかり合う。
 それによって放出された魔力を取り込み、桜色の光刃がさらにひときわ強く輝いたその時。

「っしゃあ! こいつでラストだっ!」
 金山武満のその声に続いて、水野想司(みずの・そうじ)が準備してあった魔法を発動させた。
「大丈夫っ☆ この戦い後の皆さんは僕がまとめて面倒みるからっ♪」

 桜の結界の力が一気に増幅され、世界が桜色に輝く。
 それに比例して、「私達」の力が一気に弱まっていく。





 そして、あの子に最後に殺されよう。
 それで罪を償えるかはわからないけれど――私は消えても、あの子は残る。





 それなら、それでいい。





 眩い光の中で、「私」は小さく微笑んで、静かに自らの光刃を消し。

 次の瞬間、桜が、音もなく彼女を貫いた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1136 /  訃・時  / 女性 / 999 / 未来世界を崩壊させた魔
 1376 / 加地・葉霧 / 男性 /  36 / ステキ諜報員A氏(自称)
 0424 / 水野・想司 / 男性 /  14 / 吸血鬼ハンター(埋葬騎士)
 1219 / 風野・時音 / 男性 /  17 / 時空跳躍者

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■         ライター通信          ■
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 西東慶三です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。

・このノベルの構成について
 今回のノベルは、基本的に三つのパートで構成されています。
 今回は一つの話を追う都合上、全パートを全PCに納品させて頂きました。

・個別通信(訃時様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 今回は全編訃時さん……といいますか、「私」の視点で書かせていただきましたが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。