■おそらくはそれさえも平凡な日々■
西東慶三 |
【2239】【不城・鋼】【元総番(現在普通の高校生)】 |
個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。
この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。
それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。
−−−−−
ライターより
・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。
*シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
*ノベルは基本的にPC別となります。
他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
*プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
結果はこちらに任せていただいても結構です。
*これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
あらかじめご了承下さい。
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はがねんの平和な(?)クリスマス
〜 恐怖の待ち合わせ 〜
クリスマスイブの夕方。
不城鋼(ふじょう・はがね)は少し小走りに駅前への道を急いでいた。
待ち合わせの時間までは、まだだいぶ……というより、かなり余裕がある。
本来なら急ぐ必要など全くないはずなのだが、それでも鋼は急がずにはいられなかった。
鋼が駅前にたどり着いてみると、そこには彼が予想していた、もしくは危惧していた通りの光景があった。
多くの人で賑わう駅前広場の一角に、誰も寄りつこうとしない一角がある。
その中心には、二人の女性――女王征子(めのう・せいこ)と最上京佳(もがみ・きょうか)の姿があった。
「……やっぱりか」
強烈すぎる「不機嫌オーラ」を放つ二人の姿に、鋼は自分の悪い予感が的中していたことを知った。
この二人を一緒に待たせるということ自体が危険なのは百も承知だったが、待ち合わせ場所を決めなければお互いに抜け駆けしようとするのは間違いないし、別々の場所で待たせれば迎えに行った順番で絶対一騒動起きるので、他に道はなかったのである。
ともあれ、かくなる上は可及的速やかに二人を回収するよりない。
「二人とも、メリークリスマス」
名前を呼ぶとその順番で……となるので、あえて名前は呼ばずに声をかける。
「鋼! 遅いですわよ」
「遅いぞ、鋼」
不満を口にしつつも、鋼が来たことで少し機嫌が直ったのか、二人の顔に微笑みが浮かぶ。
「いや、遅いって……まだ待ち合わせの時間より三十分も早いんだけど」
「あら……そのようですわね」
「そうか、こちらが早く来すぎただけか」
こうして駅前の平和は守られた……のだが、今度は辺りの視線が「この状況を作った元凶と思われる男」である鋼に一斉に突き刺さるのだからたまったものではない。
「とにかく、少し早いけど行こうか」
二人にそう言うと、鋼は逃げるように……いや、文字通り駅前から早々に退散したのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 クリスマスの予定争奪戦 〜
事の発端は、数週間ほど前に遡る。
放課後、いつものように帰路についた鋼。
その帰り道で、たまたま――を装ってはいたが、待ちかまえていたことは想像に難くない――征子に出会ったのである。
「鋼!」
「ああ、征子さん。今日はどうしたんだ?」
「たまたま通りかかっただけですわ。
そんなことより鋼、クリスマスイブの予定は空いていまして?」
なるほど、この時期にわざわざ会いに来たのはそういうことらしい。
「ああ、今のところ空いてるけど」
鋼がそう答えると、案の定征子は嬉しそうにこう尋ねてきた。
「では、イブは私のところに来て下さいません?
鋼に食べてもらおうと思って、クリスマス向けの料理も練習しましたの」
と。
そこへ、一台の見慣れたスポーツカーが通りかかり……二人のすぐ横で停車した。
「鋼……と、なんだ、お前もいたのか」
運転席から顔を出した京佳の先制パンチに、さっそく征子がかみつく。
「あら? 私が鋼と一緒にいてはいけませんの?」
ところが京佳はそれをさらりと流し、こんなことを聞いてきた。
「ふん、まあいい。
そんなことより鋼、イブの予定はまだ空いているか?」
「え?」
「いや、鋼さえよければこの辺りで一緒に食事でもどうかと思ってな」
そう言いながら京佳が取り出したのは、今年初めて東京版が出たという有名なグルメガイドである。
「なじみの店も多いし、だいたいのところなら今からでも何とかなるぞ」
確かこれに載った店は軒並み客も予約も増えすぎて大変だと聞いた記憶があるが、それを「今からでも何とかなる」という辺り、一体どれだけの資金と人脈があるというのか。
ともあれ、さしあたって考えるべきは、まずこの場をどう切り抜けるかである。
二人のどちらかの誘いに乗ればもめるのは目に見えているし、かといって両方断ってもやっぱりお互いに「邪魔をした」などと言ってもめるのはほぼ間違いない。
かといって、両方の誘いを受けるなどというのは物理的に難しいし、できたとしても当日大騒ぎになるに決まっている。
そんなことを考えている間にも、二人はいつものように激しく火花を散らし、事態はどんどんまずい方向へと進んでいく。
「残念でしたわね。鋼はイブは私の家に来ることについさっき決まったところですわ」
「ついさっき? 鋼はうんと言ったのか?」
「それは……鋼、もちろん私の家に来て下さいますわよね?」
「鋼、私と一緒に来てくれるな?」
もはや、一刻の猶予もない。
この極限状態で――窮すれば通ずと言うべきか、ついに鋼は「ある解決策」を思いついたのだった。
「あー! わかった、イブの予定はたった今決めた!」
その鋼の言葉に、二人は固唾を呑んで次の言葉を待つ。
そんな二人を見つめて、鋼はこう提案した。
「どっちに行っても角が立つし、間をとって俺の部屋でパーティー、ってことでどうかな?
料理は俺が作るから……その代わり、その間は二人とも喧嘩はなしだ」
しばしの沈黙の後、先に返事をしたのは京佳だった。
「わかった。そういえば、私は鋼の部屋はまだ見せてもらったことがなかったな。楽しみだ」
そう満足そうに一度頷いた後、ちらりと横目で征子の出方を窺う。
「京佳さんはそれでOKと。征子さんは?」
どちらに転んでも「部屋に上げてもらったことがある」というアドバンテージがなくなる征子としては面白いはずもないだろうが、ことここに至っては断ることなどできるはずもない。
「まあ、鋼がそれでいいというのなら、私にも異存はありませんわ」
「じゃ、これで決まりだな。それじゃ、楽しみにしてるよ」
こうして、鋼はどうにかこうにかこの場を切り抜けることに成功したのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 熾烈なる神経戦 〜
話をイブの夕方に戻す。
そんなこんなで、三人は鋼の部屋に辿り着いた。
「なるほど、ここが鋼の部屋か。さすがに片づいているな」
嬉しそうな顔であちこちを見回す京佳と、その様子をあまり面白くなさそうに見ている征子。
その様子に微かに不穏なものを感じ、鋼はここで一度釘を刺しておくことにした。
「それじゃ、料理の仕上げをやっちゃうから、少しの間大人しく待っててくれよ」
その言葉に、先に京佳が反応する。
「そうだな、今日は一時停戦の約束だ」
そんなことを言いながら、意味ありげな笑みを浮かべて征子に握手を求める京佳。
とはいえ、京佳の怪力を考えれば、それに応じて手が無事で済む保証など全くない。
「そうですわね。お互い争いごとはなしにしましょう」
当然征子の方もそこは心得たもので、口ではそう答えつつも、一向に握手に応じる素振りは見せず、その代わりに鋼の方にちらりと視線を送ってくる。
もちろん、これが「この握手に応じなくてもいいか?」という確認であることは言うまでもない。
しかし、握手を拒否させれば京佳に機嫌を損ねる口実を与えてしまうことになるし、かといってそのまま握手に応じさせるのも危険すぎる。
やむなく、鋼は一旦征子から視線を逸らし、京佳の方に目をやって、「必要以上に力を入れたりしないな?」と無言で念を押す。
最初は気づかないふりをしていた京佳だったが、やがて観念したかのようにしぶしぶ小さく頷き。
そのことを確認した鋼が、征子の方に向き直って、軽く首を横に振り、それから少し表情を緩めてみせる。
これが「心配しなくても大丈夫だから」という意味であることはすぐに征子にも通じたらしく、征子は一度頷いてから、京佳の手を握りかえした。
……と、この二人を握手させるだけでも、これだけの神経戦が必要になるのだ。
クリスマス停戦こそなったものの、これでは完全な冷戦状態である。
(こんなことを続けてたら、料理よりまず俺の胃がもたない……)
キッチンへ向かいながら、鋼は大きなため息をついたのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 みんななかよく……? 〜
ともあれ。
そんな感じで必ずしも「平和に」ではなかったが、少なくとも表向きには特にこれといった騒ぎもないうちに料理が完成し、パーティーは無事に始められた。
「かなりの腕だな。鋼にはこんな特技もあったのか」
「鋼、このチキンの味つけはどうやりましたの? 後で教えて下さらない?」
ほとんどの人はおいしいものを食べると機嫌が良くなるが、この二人もその例に漏れなかったようで、ようやく張りつめていた空気がいくらか和らぐ。
そうして、その後は特に問題なくパーティーも進み。
一段落ついたところで、鋼は一度席を立ち、用意しておいた二人へのプレゼントを持ってきた。
「これ、俺から二人にプレゼント」
今の状態なら無用な心配かもしれないが、一応万一のことを考えてプレゼントもちゃんと二人に同時に渡す。
「ありがとう。早速、開けてみてもいいか」
「もちろん。気に入ってくれるといいんだけど」
鋼の言葉に、二人は嬉しそうに包みを開けた。
プレゼントの中身は、二人のイニシャル入りの毛糸のマフラーである。
「これは、ひょっとして……鋼が?」
「ああ、自分で編んだんだ。どうかな?」
その問いかけに、二人は少し照れたように笑いながらこう答えた。
「普通逆だろう、これは……だが嬉しいよ、ありがとう」
「鋼らしいですわね。ありがたく使わせていただきますわ」
そんな二人を見ていると、なんだかこれまでの苦労が報われたような気がしてきたのだった。
「気に入ってくれてよかったよ。
二人にはいろいろとお世話になったし……これからもよろしくお願いします」
「私の方こそ、鋼には世話になりっぱなしだからな。こちらこそよろしく頼む」
「私もですわ。私の方こそ、これからもよろしくお願いします」
こうして、クリスマスイブの夜は静かに過ぎていく……と、思いきや。
「そうだ、プレゼントと言えば、私も鋼に渡す物があった。
実はこの前買い物に出た時にちょうどよさそうな腕時計を見つけてな……」
何気なく京佳が自分からのプレゼントを取り出そうとして……その瞬間、二人の目の色が変わった。
京佳の何気ない行動で、征子も、そして京佳本人も気づいてしまったのだ。
「喧嘩禁止」の方にばかり意識が行っていたせいで、ずっと「相手の失点狙い」を続けていた二人。
しかし、「喧嘩禁止」ということは……逆に考えれば、普通に「得点狙い」に徹すれば、相手は妨害できないのではないか、ということに。
もちろん自分も相手を妨害することはできないわけだが、そこは「うまく空気を読みつつ、相手よりポイントを稼げばいい」だけの話である。
『……鋼?』
明らかにまずい流れではあるが、こういう時に限ってこの二人の「停戦」が「利害の部分的一致による消極的同盟関係」に発展しているのだからたまらない。
「えーと、二人ともその笑いは何……というか、そろそろお開き、かな?」
「何を言うんだ鋼。まだまだイブの夜は長いじゃないか」
「そうですわ。このタイミングで帰れというのはさすがに無粋ですわよ?」
「な、なんで二人ともこんな時だけ息がピッタリなんだよ!?」
……とまあ、そんなこんなでパーティーはその後もしばらく続けられた。
何があったのかは定かではないが、少なくとも喧嘩だけは一切なかったそうである。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
2239 / 不城・鋼 / 男性 / 17 / 元総番(現在普通の高校生)
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■ ライター通信 ■
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西東慶三です。
この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
クリスマスものということで、せめて年内に上げようとは思っていたのですが……結局年明けになってしまって申し訳ございませんでした。
なお、征子と京佳の登場順ですが、京佳の方が普通に車で登場している頻度が多いこともあり、大筋にはさほど影響ないと判断いたしまして、発注文にあったものとは逆にさせていただきました。
もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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