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■『裏の門』 小さき宴■

桜護 龍
【7266】【鈴城・亮吾】【半分人間半分精霊の中学生】
 元旦から開いているなんて、便利な今日この頃。
 一昔前の話だとまったく店が開いていなかったというし、欲しいものが欲しい時に手に入るのはとても幸せなことなのだろう。
「ん?」
 そんな上機嫌の自分の前を何かが横切っていった。
 あれは――――
「はにわ?」
 そう、あれは教科書でおなじみの埴輪だった。
 しかも風呂敷包みを背負って、とても上機嫌そうに。
 このまま家に帰っても寝正月を過ごすだけであるし、目の前を通っていった埴輪が何処で何をするのかを考えると好奇心に火がついた。
「つけてみよう」


 ぴょこんぴょこんと飛び跳ねる埴輪の後をコソコソと見つからないようにつけていくと、小屋のような建物の前に到着した。埴輪の姿は見えなくなったが、中から声がするのでもしかしたらこの小屋に入ったのかもしれない。
 そう思ってそっ・・・と、扉を開けてみたらそこには不思議な生き物の宴が開かれていた。
小さき宴〜電波受信中?〜

「年始早々、何やってんだ?佐吉のヤツ」
 新しい年に移り変わり、数時間。
 コンビニにお菓子を買いに行っていた亮吾は、友人である埴輪が風呂敷包みを背負って歩いているのを発見してしまった。
「家出・・・じゃないよな。機嫌良さそうだし」
 兄貴分であるあの2人とケンカして―というか佐吉が一方的に怒って―家を飛び出してきたのなら、もっとしゅんっとしている筈だ。それがあんなに音符やらお花やらを飛ばして歩いていると言うことは、何処か楽しいところに出かけるのだろう。
「でも、アイツ一人ってのがなぁ」
 とても心配だ。
 うっかり途中で事故って割れるかもしれないし、馬鹿が付くほど素直で他人を疑うことを知らない純真な焼物なので攫われてしまうかもしれない。
「怪しいかもだけど、無事に辿り着けるのを見届けるってことで」
 亮吾は自分に言い聞かせるよう、そう呟いて佐吉の後を追った。





 佐吉の後をひたすらに追いかけると、ずっと跳ねっぱなしであった彼は、ある敷地の前で立ち止まり辺りを確認して何もいないことがわかると、敷地の中へ入っていった。
 亮吾も佐吉が完全に入っていったのを確認すると、そこへ入っていった。
 少し歩くと小屋が見えてきて、丁度佐吉の後姿が扉の中に入っていくところが見えた。
 そ、っと寄って行って扉に耳を付けると、中はワイワイと賑わっているようだ。
「宴会か?」
 佐吉以外の何が居るのかわからないが、物凄く楽しそうだ。
(俺も入れないかな)
 先程買ったコンビニの袋を見つめて本気で考える。
 小屋の中にいるものの中には声からいって、佐吉以外の霞谷家の住人がいるとは到底思えない。もしかしたら、佐吉の焼物仲間の会か何かなのかもしれない。
 昔話にもあるように、不思議な宴会に入るには手土産と相場が決まっている。
「手土産OK、いざゆかん!・・・ってなんか昔話って言うよりRPGみたいだな」
 自分の言動に苦笑し、小屋の扉を開けた。
 急に扉を開けられたことでびっくりしたのだろう。一斉に亮吾は視線を浴びることになった。ちょっと気まずい。
 見回せば、絵本などによく出てくるブラウニーやコロポックル、日本の伝統的な妖怪・座敷童や付物神の類など、小さくて、人間の身近にいる不思議な生物ばかりだ。
「亮吾ー?」
「よぉ、佐吉。これ、お前の友達か何かか?」
「おぅよ、この辺りの家とかに住んでるヤツラの新年会だ。亮吾も混ざるか?多分大丈夫だぞ?」
「・・・おう」
 もとよりそのつもりで扉を開けた。
 だけど、その多分大丈夫ってなんだよ。多分って。
「こいつ、俺の友達で亮吾って言うんだ。入れてやってもいいだろ?」
「・・・・つまみ、持ってきました」
 「入れてもらえます?」と、亮吾が菓子の詰まったコンビニ袋を掲げると、シーンと静まり返っていた小屋内がどっ、と歓喜に包まれた。
「おー!人間のおやつだーー!!」
「あのおっきなヤツに席開けろー」
「ジュースがいい?ウーロン茶がいい?それとも呑んじゃう?」
「じゃあ、ウーロン茶で」
 やはり昔話は馬鹿に出来ない。教訓が隠れているとはよく言ったものだ。
 空けてもらったところに腰を下ろし、ウーロン茶缶を貰う。
「亮吾ー、あけましておめでとー」
「おめでと、佐吉」
「どうやってここまで来たんだ?」
「コンビニの帰りに風呂敷背負ったお前を見つけてさ。何か嬉しそうだし、家出じゃなさそうだしって思って気になったからつけてきたんだよ。んで、ここについたら中が楽しそうだったから入れて貰えないかなって扉を開けたんだよ」
「そっかー。今日はここにいるヤツラがいろんな話をすると思うから聞いてった方が面白いぞー。憑いてる家ではあーだ、とか、すんでる公園はこーだ、とか」
「それは―――」
 かなり面白そうだ。
 ここの扉を開けた甲斐もある。
「じゃ、俺は他のヤツラと喋ってくるから亮吾も喋れな!」
「おう」
 何かあったら言えよ、可愛らしい外見の癖に男前な台詞を残して去っていく佐吉に手を振って見送る。
(あ、ゆきんこもいるんだ)
 本当に人間に近い、害のない者達の集まりのようだ。時折、池を人間に汚されたという声も聞こえてきたりするので、害があるのは人間の方か。
(俺、いても本当に大丈夫なのかよ)
 悪口を本人の前では言いにくいように、人間の悪口は人間の前で言いにくいんじゃないのか、と思案を巡らせている亮吾はくいくいと洋服を引っ張られ、横を見る。
 横に居たのは、西洋の家妖精・ブラウニー達だ。
「おい、にーちゃん。にーちゃんは人間の中で暮らしとるんけ?儂等に近いように思えるんけどなぁ」
「あー・・・うん」
 佐吉が多分大丈夫といったのはこれか。
 亮吾中の半分、精霊の気配の方を感じ取ってブラウニーはじめ、ここにいる佐吉以外のものが亮吾は仲間だと思っているのだろう。まぁ、これで穏便にすむのならそれでいい。半分だけでも人間であることを伏せておこう。
「人間ってガッコーってとこいくんだろ?楽しいか?」
「そうだな。勉強はめんどくさい時あるけど、大概は楽しいな。友達もできるし」
「さよけー。キュウショクは美味いか?」
「モノによって違うなー。好きなものが出たら美味い、嫌いなモノはまずい」
「やっぱそうか」
「お前もそうか?」
「そうだな、俺らもそうだ。好きなモノは喜んで貪り食う。嫌いなモノは見たくもない」
「一緒だな」
「一緒だ」
 結局、欲求にはどんな生物でも従順なようで。
 不思議生物だろうが、人間だろうが、好きなものは好き。嫌いなモノは嫌いなのだ。
「人間世界も俺らとあんま変わらないのな」
 勉強はしないけど、俺等、と呟くことも忘れない。
 かなり亮吾には羨ましいことだが、そんなこと言っても冬休みの宿題が終わるわけじゃない。家に帰ったらやらないと。
「羨ましいな、試験や休みの時、俺なんて宿題配られないように心の中で必死に祈ってるんだぜ」
「シュクダイ?美味いか?」
「不味い不味い、つーか食いもんじゃねぇし」
「じゃあ何だ?」
「んー、課題ってやつだな。成長に必要だと学校が判断して、俺達生徒にくばるんだよ。もうそれが嫌で嫌で」
「苦労してるんだなー、お前」
「よし、今日は(ウーロンだけど)おもいっきしのめー」
 なんだか同情してくれたようだ。
 手の中の缶が何時の間にやら紙コップに変わっており、人間生活の話に興味があるのか、いつの間にか集まってきた精霊らしきものがウーロン茶を注いでくれた。
「ブカツについて教えてー」
「馬鹿、俺のシケンへの質問の方が先だ」
 わーわーわーわーと後から後から押し寄せてくる人数と質問の波。
「わかったわかった。1つずつ答えてってやるから」
 亮吾は少し困りつつも、こんなに頼られるのも悪くないな、と思い、おもわず笑顔になっていた。



「でな、コクゴってのは先生がこちらはYTT yokomoです。おかけになった番号はお客様の都合によりお繋ぎすることが出来ませんって言うんだ」
「ほう」
「なるほどー」
「・・・りょーご、大丈夫か?」
 この宴会、亮吾自身は呑んでなくても周囲のほとんどが呑んでいるのでアルコール分が充満中。匂いがプンプンしているので誰にでもわかることである。
 何故、こんなことを言うのかというと、下戸で、匂いや空気中のアルコール分だけでも酔ってしまう亮吾の目が据わってきているからだ。皆はよく知らない人間生活の話に夢中だし、知らないからこそ気がついていないが、人間と一緒に住んでいてある程度物を知ってる佐吉―と、言ってもあくまでこの中ではで、佐吉も世間的には世間知らずの部類―は亮吾がそこいらの電波を拾ってしまって、説明になっていないことに気付いている。
「らぁーいじょうぶ。しゃきちこそ、にきょいだいろーぶか?」
「ブレスが呑むから慣れてる・・・・亮吾、家に電話したいから携帯貸してくれ」
「おう」
 完全に亮吾がKOする前に迎えに来てもらった方が吉。そう判断した佐吉は亮吾から携帯を受け取ると、すっかりかけなれた手つきで自宅の番号を押した。







「うわー、亮吾君弱いねぇ」
「あー、うれしゅさん・・・」
 佐吉が電話してから五分も経たない内にブレッシング参上。宴会メンバーも、霞谷家の住人は知っているのか、亮吾が入ってきたときのように静まり返ることも無く、むしろブレッシングに席につく様に言っている。
「ごめんねー、今日は佐吉と亮吾君むかえに来ただけだからさ。また皆、うちに来たら酒付き合うからー」
「えー」
「ブレス付き合いわるぅい」
「ごめんてー、いい酒いれとくからそれで勘弁して」
「ふれしゅしゃん、おれまだらいじょぶ」
「そんなに舌が回ってないのに大丈夫じゃないでしょー。ほら、肩に手回して。佐吉、ウェストポーチに入れる?」
「おうよ」 
 少し屈んで佐吉が入ったのを確認すると、片手で回ってきた亮吾の腕を掴み、もう片手でしっかりと脇を支える。
「じゃあ、お先になー」
「お邪魔しましたー」
「ブレスー、酒いれとけよー」
「亮吾も呼べよー」

 こうして、亮吾の元旦は過ぎていったのであった。


「ブレスさん・・・頭痛い・・・・」
「呑んでないけど、二日酔いだからね。梅干湯作るねー」
「すみません・・・・」
 霞谷家へのお泊りつきで。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7266 / 鈴城亮吾 / 男 / 14歳 / 半分人間半分精霊の中学生】


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■         ライター通信          ■
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鈴城亮吾様
毎度ありがとうございます!そして少々遅れて申し訳ありません!

ちっちゃな不思議生物との宴会はいかがでしたか?
皆、普段知らないことをあれやこれや聞いて人間世界への好奇心を満たしたようです。
匂いで酔うのならそのまま家まで送るのは気が引けたので霞谷家にお泊りしていただきました。宿題の残りはきっとブレスが手伝ってくれる筈!(ほんとか?)

また、機会がありましたら霞谷家に足をお運びください。