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■知への探求■ |
川岸満里亜 |
【3368】【ウィノナ・ライプニッツ】【郵便屋】 |
●診療所
最近、昔のことを思い出すことが多い。
昔といっても、魔女の屋敷での日々のことであり、子供の頃のことではない。
そもそもなぜ、自分は魔女の元に行ったのか。
――覚えていない。
昔のことだ。
気にする必要はない。
そんな自分の気持ちをあざ笑うかのように、問題が次々に押し寄せてくる。
ダラン・ローデスから届いた手紙を読みながら、ファムル・ディートは深いため息をついていた。
「魔女が何者だって、どうでもいいじゃないか」
しかし、ダランにとっては、どうでもいいことではないらしい。
自分が生まれるきっかけになった人物だからだ。
自分の親や祖母のことを知りたいと思うのは、当然の感情である。
面倒くさそうに、便箋とペンを取り出すと、ファムルは簡潔に返事を書いた。
“自分で行って聞いて来い”
……と。
●異世界人の街
「……暇だー」
ダランは食堂のテーブルにつっぷした。
出発前に友人と楽しく調べものをしていたこともあり、到着して数日は、図書館に通い、本を眺めていたのだが……。
元々読書は嫌いであり、一人で調べものなどという、根気のいる細かい作業は大嫌いだ。
しかし……。
ダランは身体を起こすと、胸のペンダントに触れた。
「んー、もうちょっと調べてみっか」
天界というものがあるのなら……。
そこに行けば、母親に会えるのだろうか。
自分ももっと魔女に近い存在になったら、死後、天に行くのだろうか。
ダランは最近、そんなことを考えるようになった。
「この街の人も、天での暮しってやつを信じてるんだよな、きっと……」
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『知への探求〜構想、再び〜』
魔女の屋敷に戻ったウィノナ・ライプニッツは、魔女クラリスの手が空いている時を見計らい、自ら腕輪を嵌めてくれるように願い出た。
クラリスは僅かに眉を顰めながら、銀色の腕輪を取り出す。
叱られはしなかった。どうやらディセットから説明を受けていたようだ。
クラリスがウィノナの手を取る。
「あの……」
ウィノナは控え目ではあるが、ハッキリした口調で言葉を口にする。
「クラリス様は何故、寿命が短いという欠点があると分かっているのに、魔女達を創造し続けているのですか?」
「愚問だな」
嘲りの笑みを浮かべながら、クラリスはウィノナの腕に、銀色の――盟約の腕輪を嵌めた。
「彼女達に寿命はない。この世界の肉体に寿命があるだけだ。逆に、貴様等人間はそれほど寿命が短いというのに、女は何故命懸けで子を儲ける? どうせ僅か数十年で無に還るというのに。自分の子が可愛くはないのか? 死へ向って生きることが幸せだとでもいうのか」
それは、まだ大人にさえなっておらず、出産について考えてもいないウィノナには、難しい問いだった。
だけれど……。
「その答えはそのうち、ボクがもう少し大人になったら、出せると思います。クラリス様も、生み出した魔女達を可愛いと思ってらっしゃるのですよね? でしたら、何故最初から天ではなく、この世界に生み出すのですか? 魔女達も、一緒に過ごした人達も、あなただってきっと、失う時に辛い思いをするのに」
「では、お前は私の魔女達に会わない方がよかったと思うのか?」
ウィノナは首を左右に振った。
「そうは……思いません」
「それが、答えだ」
違う。
その答えは違う。
自分が聞きたいのはそういうことではなくて……。
「魔女を創らなければならない理由があるのですか?」
ウィノナの問いに、クラリスは呆れ顔で吐息をついた。
「それはお前達が子供を作る理由と大差ない」
言って、クラリスは手を払い、ウィノナに出て行けと示した。
「待ってください。もう一つ聞きたいことがあります」
返答を聞かず、ウィノナは言葉を続ける。
「ファムル先生の記憶についてです。先生には過去の記憶がないと聞きました。クラリス様は先生の過去をご存知ですか?」
「あいつは、シスが拾ってきた男だ。まだ少年であったが、錬金術に関する深い知識と類い稀な才能を持っていた。過去に関しては本人は殆ど語らなったからな、よくは知らない。しかしシスの眼を通し見た奴の村の状況は悲惨なものであった。記憶を消すことを望んでも無理はない」
思いの外、クラリスは饒舌だった。
ウィノナは続けて質問を浴びせることにする。
「その記憶が戻る可能性はあるのですか? ずっと昔のことだし、大人になった今なら、耐えられるんじゃないでしょうか?」
「記憶はいつでも戻してやれる。本人次第だ」
クラリスとしては、戻したいのだろう。
戻して、ファムルの知識を利用したいのだろう。
でも、先生は……。
多分、ダメだろうな。
ウィノナは小さくため息をついた。
ファムル・ディートはナイーブな男だから。
**********
ウィノナは、クラリスの書斎を出た後、一旦自室に戻りノートと筆記用具を持って、図書室へと向った。
明りを点けて、誰も居ない図書室で、一人調べ物をする。
旅の最中や、帰ってきてからも色々と考えていた。
まずは、魔女の魔力を意識せずともコントロールできる魔法具を作成してみてはどうかと思っている。
ポケットの中にあるものを取り出し、手の上に置いた。
赤い石のついた指輪――ダランから借りたものだ。というより、元々クラリスのものだ。
銀の腕輪が目に入る。自分がこの指輪を持っていることは、腕輪を通じて筒抜けなわけで……。
もしかしてヤバイ?
ウィノナは慌ててポケットに仕舞った。
が、思い直し、再び指輪を取り出す。クラリスに指摘されたら、自分の訓練の為に貸して欲しいと頼もう。
魔法具である指輪に指を当てて、中を探って見る。
不思議な力を感じるが、当然構造まではわからない。
力を感じるのは、石だけである。
赤い石をじっと見ると、一瞬意識が遠くなるような気がした。
頭を振りながら、魔法具の本を選び、机に重ねた。
ざっと目次を見るが、この指輪については、どの本にも載っていないようである。
……多分、クラリスのオリジナル作品だ。
この指輪は、ウィノナにも効果があるようであり、魔女だけに作用するものではないようだ。
ここにある本も、一般的なもので、魔女の魔力と人間の魔力を区別し、片方だけに効果のある魔法具などというものは記載されていない。
「まあ、当たり前だよね」
魔女の魔力だけに作用するアイテムや魔法薬について書かれた資料を、ウィノナが見れるような場所に置いておくわけがない。
それは魔女の弱点を晒しているようなものだから。
ふと、エルザードの魔術ショップのカタログが目に入った。
開いてみると……。
「あ、こういうのが近いのかな?」
魔封じのサークレットという魔法具が載っていた。それは、魔力自体を封じ込める魔法具のようだった。
ダランの魔女の魔力は、現在封じられている状態にある。その状態では、ダランの身体に悪影響を与えることはないようだ。
このサークレットが魔女の力まで押さえ込むかどうかは分からないが、効果が高いものを作れば、きっと魔女の魔力も封じることができるだろう。
更に上手く微調整すれば、魔力の流れを制御することもできそうだ。
とりあえず、この方向から考えてみようとウィノナは思った。
「って……高っ!!」
値段を見て、ウィノナは思わす声を上げた。
そのカタログには、価格:500Gと記されている。
多分、魔法具の素材もそれ相応の値段なのだろう。
説明をすれば、ダラン……というか、ダランの父親が負担してくれそうではあるが、魔法の封印となると、ダランが反発しそうでもある。
「さすがに、500G欲しいとは言えないよなあ……。でも、突然体内の状況が悪くなった時の為に、持っておいた方がいいよね、こういうの」
ウィノナは、カタログを切り取って写真をノートに貼り付け、更に魔力を封印する素材などを、ノートに書き記した。
鉱石に護符に魔法陣。色々方法はあるようだ。
「鉱石は多分メチャメチャ高い。自分で発掘に行くって手もあるけど……。ボクに採れるかな?
護符は、魔術師に術を籠めてもらう必要があるみたいだけれど、ダランの全ての魔力を封じられる術師となると、やっぱり魔女だろうね。持続時間も短そうだ。
魔法陣は……学ぶのは難しそう。専門の魔道士に描いてもらえればいいんだけれど……知り合いにはいないし。これも凄く高いんだろうなー」
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
【NPC / 魔女 / 女性 / 345歳 / 魔術師】
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■ ライター通信 ■
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ライターの川岸です。
引き続きのご参加、ありがとうございました!
封印関係のアイテムですが、市販されているものを購入する場合は、資金を調達できればすぐに手にはいりますが、サンプルとして職人に作成してもらう場合は、素材が揃っている状態で護符なら数週間、魔法陣を彫ってもらう場合は1月以上かかるとお考えください。
進展を望まれる場合は、また専用のオープニング(現在は「あなたとの出会い」)からご参加くださいませ!
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