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■第1幕:窃笑のプレルーディオ■

川岸満里亜
【6029】【広瀬・ファイリア】【家事手伝い(トラブルメーカー)】
●宮廷
 女は箱を持っていた。
 透明の箱だ。
 中には何もない。
 何も、眼には映らない。
 ……しかし、その中に、存在しているものがある。
 箱の中には、強力な結界が張られている。
 中の物を、封じ込めておくために。
 手元に、置いておくために。
「シルベスタ、ガラル、シゼラ、妹の到着よ。仲良くしてあげてね。ふふふふふ……」
 4つの透明な箱の上に、手の中の箱をおいた。
「でもやっぱりあと二つ、側にないと寂しいわよね……ミレーゼ」
 怪しい笑みを残して、女はその部屋を後にした――。

●国境近くの宿屋
「仲間との合流場所だが」
 ジザス・ブレスデイズが、テーブルに地図を広げた。
 魔界と呼ばれる世界に着いて、5日が過ぎていた。
 連絡を取る手段がないため、誰かが先に向って接触をし、事情を話すことになりそうだ。
「場所はここだ。先に向ってもらうのは……」
 ジザスは一同を見回すが、決めかねる。
 一人で行かせるのは危険だが、自分達の周りを手薄にはしたくない。変装をしていれば、能力を失っている今、敵側に気付かれる可能性は少ないと思うが、用心に越したことは無い。
 先行は多くても3人までだろう。
「とりあえず、私達の婚約者と名乗る者は、先行は不自然だな」
「どのように接触するのですか? 相手の名前や人数は?」
 時雨の問いに頷き、ジザスは地図を指差し説明を始める。
「私を蘇らせた支持者達は、このスーラス街の繁華街で暮している。表向きは現政権の支持者としてな。人数は共に活動していた当時で30ほどだった。彼等のリーダーはルクルシー・ブレスデイズ・クレイリア・バルヅ。私達の姉だ。逸早く陰謀に気付き、落ち延びたそうだ。女であるが故、皇族の力は持っていないからな、敵側も深追いはしなかったのだろう。……接触の方法は、だが」
 言いながら、ジザスは紙とペンを取り出した。
 日本語ではない文字で、なにやら文章を書いていく。
「ルーティルという酒場のバーテンにこのメモを渡してくれ。私達はここに書いた場所で待つ」
 メモには、ジザスのサインと、合流場所が暗号で記されているそうだ。
 メモを持っていく人物は、そのジザスが指定した合流場所を知らずに向うことになる。
「お前達ほどの力を持っていれば、危険なことではない。頼めるか?」
 ジザスが一同を見回した。
 適任者がいなければ、諦めて全員で向うことになりそうだ。
『第1幕:窃笑のプレルーディオ<虚偽>』

●出発前に
 一同の意見を聞いたジザスは、腕を組んだまま深く考え込んだ。
 神城・柚月は、ジザスの婚約者を演じるつもりであり、ジザスと行動を共にするつもりであった。
 柚月の後輩でもあり、呉姉妹やゴーレム達と深い親交のあるアリス・ルシファールは、ジザスの子供を装うことに決めた。しかし、しばらくは表向きは旅芸人の娘として振舞う予定であり、今回はジザス達の使いということで、酒場に向うという意思を示した。
 そして……。
「調べる目的で触れなければ、時雨がフリアルだってわからないんでしょ? なら、もしもの時、ジザスと時雨の2人を庇うように行動したら、それだけで怪しまれると思う。だから、あえてジザスと時雨を離して行動した方が良いんじゃないかな? ルクルシーだっけ、お姉さんには合流した後に時雨がフリアルだって説明すれば良いじゃん」
 そう意見するのは、朝霧・垂であった。
 垂は時雨――フリアルの婚約者として振舞うつもりなのだが、彼女の案はジザスとフリアルを離した方がいいというものであった。要するに、酒場へは自分とフリアルで行ってはどうかというものだ。
「いくらなんでも、2人で行くのは危険すぎはしないか」
 そう意見したのは、蒼王・翼であった。
 ジザス、フリアル兄弟の安全は最優先だ。特にフリアルを失うわけにはいかない。
 フリアルだと分からないとはいえ、治安の悪い世界、しかも魔族も多い街中に2人だけにする危険性は計り知れないものだと考えた。
「私も時雨もゴロツキより強いし、大丈夫だと思うんだけど?」
「いや、そのゴロツキがお前達より弱い保証はない。この集落は人間中心の集落だが、スーラス街は城に近い街だ。当然魔族も普通に生活をしている。お前はどうだか知らないが、ゴーレムの身体では、魔族にはまるで歯が立たないだろう」
「そっか……」
 ジザスの言葉に、垂は頭を悩ませる。
「同様に、アリス一人に行かせるのも心配なんだが……」
「ああ、それなら僕も行くよ。婚約者を演じる2人が、皇子達と行動を共にするのなら、だけど」
 そう言ったのは翼だ。
「では、すまないが、先行はアリスと翼に頼む。私と柚月、フリアルと垂は一緒に合流地に向おう」
 言って、ジザスは垂を見た。
 垂は小さく吐息をつくと、頷いてその方針に従うことにした。
「合流するルクルシー……私達の姉だが、姉とはどうも反りが合わなくてな。お前達にも苦労をかけるかもしれないが、女同士分かり合えることもあるだろ、きっと」
「じゃあ、その前に、打ち合わせとお勉強やね。合流する前に婚約者ということで覚えておくこともあるやろし。ん……」
 柚月は少し考えた後、言葉を続けた。
「皇族の事についてももう少し聞きたい事があるんよ。1つ目は、各皇子の持つの能力は同じものなんか、それとも個々に固有の能力なんか気になるんやけど。皇女が能力を持つ事は過去になかったのかも含めてやね」
 その言葉に、ジザスと時雨が顔を合わせた。
「それがだな……」
 言い難そうに、ジザスが答える。
「皇族男子は幼い頃から、特別教育を受けさせられる――いわば、帝王学だが。その過程で、皇族男子以外には口外してはならない項目を幾つか習うんだが、お前の質問はそれに該当するわけだ」
「でも、婚約者やし」
 柚月はにっこり笑ってみせる。
 ジザスと時雨は再び顔を合わせて、苦笑した。
「まあ、簡単に言うと、能力に違いはない。ただ、別の人物である以上、才能はそれぞれだからな。その力をどのように活かすのかは、個々の才能による」
「で、皇女が能力を持ったという事例は?」
 その問いには、ジザスは曖昧に首を傾げただけであった。答えられないらしい。
「んじゃ、2つ目やけど。水菜さんことミレーゼさんが陰謀で人間に変えられた事やね。女性の地位等から考えて妙に思うんよ。何か理由があったと思うんよ。相手にとって何か都合の悪い存在であった可能性を感じるんやけど。これは追々調べる必要がありそうやね」
 その問いに、ジザスは顎に手をあてて、考えはじめた。
「確かに……言われてみれば、妙だな」
「いくらミレーゼさんが虐められてたといっても、皇位を継ぐ資格のない彼女を人間にする必要性っちゅーのが考えられへんのや。他の皇女達は無事なんやろ? 考え過ぎかもしれへんけど何か特別な力を持っていたって事はないやろか? さっきの質問ともちょっと被るけど」
 柚月の問いに、しばらく考え込んだ後、ジザスはこう言った。
「……というか、柚月。お前本当に私の婚約者にならないか? 力もさることながら、その鋭さ。非常に欲しい人材だ」
 柚月は呆れ顔で答える。
「あのなー。婚約者が人材ってどういう神経してんねん! ……ま、それはおいといて、質問に答えて欲しいんやけど」
「いや、半ば本気なんだがな。――まあ、質問の答えだが、ミレーゼは特殊な力を持ってはいなかった。魔族としての力でいうのなら、確かに魔力は高い方ではあったが、その程度だ。だから、お前の言うとおり、調べる必要がありそうだ。あと、皇族の力だが――皇女が遺伝で受け継ぐことはまずない」
「ふーん」
 その言葉に引っかかりを覚えながらも、柚月は一先ず理解した。つまり、ジザスが考えの浅い人物であるということを。
(相当しっかり者の奥さんもらわにゃ、国は治められんわな。寧ろ、しっかり者だったから、反乱起こしたとか?)
「では、私達はそろそろ出発した方がいいでしょうか?」
 アリスがそう言って立ち上がる。
「ああ、その前に……」
 ジザスがアリスに近付いた。アリスは思わず足を引く。
「首……いや、手でいいか、手を貸してくれるか?」
 少し迷いながらも、アリスは右手をジザスに差し出した。
 ジザスはアリスと自分の袖をまくると、アリスの横に回り、自身の左腕をアリスの腕に重ねた。
 ジザスの肌の暖かさがアリスに伝わる。そして、微量の力も。悪影響を及ぼす力ではなさそうなので、抵抗せずに黙って見ていた。
 意外と逞しい腕だった。
 数分後、ジザスが腕を離すと、アリスの腕に不思議な模様が浮かんでいた。
「皇族の証だ。皇族男子は生まれながら、身体に個々独特の模様を持っている。認知した娘に、自分と同じ模様をつけるのが慣わしでな」
 ジザスの左腕にも同じ模様が浮かんでいる。
「本当に皇族の血を引いている人物でなければ、模様は数日で消えるはずだ。数日とはいえ、何かの役に立つかもしれないからな」
「……はい」
 数日とはいえ、自分はこの男性の娘。
 数日とはいえ、自分はこの国の皇女。
 アリスは腕の模様を見ながら、身を引き締めなければと思った。このどこか足りない父親を補うためにも!
「では、行って参ります」
「メモは僕が預かろう」
 アリスが地図を受け取り、翼はメモを受け取る。
「気をつけろよ。まずは自分の身を一番に考えてくれていい」
 ジザスの言葉に頷いて、2人は一足先に宿屋を出た。

●スーラス街繁華街
「ぼさっとしてんじゃねぇ、2人前しか持てねぇのか!」
 厳しい声が飛ぶ。
「すみませんっ」
 泣き出しそうになりながら、広瀬・ファイリアはトレイ2つの間にもう1つトレイを重ねて、客席へと急ぐ。
 ファイリアがこの街に辿りつき、4日が過ぎていた。
 皆の後を追って魔界に辿りついたのはいいが、ジザスたちと合流しそこねてしまったのだ。ファイリアが閉じかけたゲートに飛び込んだことを知っている人物はいないだろう。
 とりあえず、言葉が通じたことは幸いだった。皆の最終目的地は王宮と思われる。王宮を目指し、ファイリアはこのスーラス街まで辿りついたのだが、そこで力尽きてしまった。
 ここに来るまでの間も、暴漢に何度も襲われそうになった。能力を駆使して、切り抜けてきたのだが、資金もなく困り果てたファイリアは、命からがら酒場へと飛び込み、住み込みで働かせてもらえるよう懇願したのだった。
 数日住まわせてもらえたら、賃金は要らないと言うファイリアを、酒場のマスターは使い勝手のいい道具として受け入れた。
 ――そんな事は、日常茶飯事らしい。
 一見、普通の街だが、路地裏では様々な犯罪行為が行なわれている。尤も、この国では犯罪ではないのかもしれない。
 道を歩く姿を見るだけで、階級が分かるほどに格差が激しい。
 力ある者の飼い犬より、力なき者は立場が低く見える。
 ファイリアが働くこの酒場には、ファイリアの他にも、無報酬で働いている女性達がいる。住み込みで働くということは、この酒場のマスターの所有物となる。そうすると、マスターより弱い街の荒くれ者達は、彼女達に手を出してはこないようだ。
 ここのマスターは『魔族』という種族らしい。また、この酒場の客は中流、上流階級の人々が多いようだ。
 背中に蝙蝠のような羽を生やした種族が魔族。ただし、魔族は羽を自由に消すことができるらしく、羽が生えていないから人間とは言い切れない。マスターも魔族だが普段は羽を消している。
 『妖魔』という種族の客も多い。妖怪のような外見だが、この世界では人間より位が高いらしい。酒場に顔を出す妖魔は高い知能のある妖魔に限られる。
 そして『人間』。魔族と同席できる人間は数少ないらしく、特別な才能を持った人間だけのようだ。
 ――こんな世界で、暮したくない。
 気を抜くと、涙が溢れそうになる。
 しかし、水菜のことを思い出しながら、ファイリアは必死に笑顔をつくった。
「ご注文の品は、以上でお揃いでしょうか」
 なんとか料理をテーブルに運び、客にそう問いかけたファイリアに、客のいやらしい目が向けられた。ファイリアを上から下まで眺め回し、にやりと笑う。
「よお、マスター。今晩、この子借りていい?」
「ああ、入ったばかりだからな。高いぞ」
 マスターのその言葉に、ファイリアの鼓動が高鳴る。
 助けを求めるように、同僚やバーテンダーを見るが、同僚は目を逸らし、バーテンダーは気にも留めず仕事を続けている。
「んじゃ、今日はよしとくよ」
 そう言って、客はファイリアを追いやるように手を振った。
 ファイリアは会釈をすると、その場から急いで立ち去った。
 ぎゅっとトレイを抱きしめて、大切な人を思い浮かべる。
 早くこの酒場から出て、皆と合流しないと――。
 カランカラン
 ドアが音を立てて開く。
 新たな客を見て、ファイリアは目を見開いた。
「生憎だが、ガキに飲ませる酒はねぇ」
 追い返そうとするマスターに、現れた人物は笑みを浮かべて首を横に振った。
「お酒を戴きに来たのではありません。お届け物に参りました」
 にっこりと微笑んだ人物――アリス・ルシファールを見て、ファイリアは思わずその場にぺたんと座り込んだ。

 スーラス街に着いた翼とアリスは、周りを見回したりはせず、街に溶け込むよう努めた。
 魔族の多い街のようである。人間と思われたら、面倒なことになりかねない。羽はないとはいえ、余裕の表情で2人は道を堂々と歩いたのだった。
 他愛も無い会話を2人の間で交しながら、互いに周囲の会話に耳を澄ます。
 周りから聞こえる会話は……どこかしら、不自然であった。
 そう、翼とアリスが交しているような、他愛もない、無難な話というべきか。
 国の状態が荒れているというのに、そのことを話題とする人物はほとんどいなかった。
 現支配者の力で、発言を押さえ込まれているようだ。
 翼は風の声を聞く。
 風もまた同じ状況だ。
 まるで電波が妨害されているかのように、風の声がまともに聞こえてこない。
“全ては虚偽”
“真実とは何だ”
“お前は誰だ”
 まるで、自分に問いかけてくるような言葉である。
 名を名乗り、支配したのなら、制御できるかもしれない。
 だが、それは相当のリスクを伴うだろう。敵に自分の居場所や力を教えるようなものだ。
 街の人々の生活状況は普通に見える。
 しかし、所々に物乞いと思える人間の姿がある。
 時折、悲鳴が聞こえる。街のいたるところで暴行が頻繁に行なわれているようだ。
 また女性の短い悲鳴が耳に入った。
 それでも、翼もアリスも、眉一つ動かさず平静を装い、目的の酒場ルーティルを目指した。

●虚偽
 マスターの側にいるバーテンダーに、アリスと翼は近付いた。
 アリスは微笑みながら、翼は軽く会釈をして、メモを差し出した。
 男はメモを受け取り、中身を確認すると、にやりと笑みを浮かべた。
 ひっかかりを覚える笑みだった。
「マスター、待ちわびた客人が到着したようです。迎えに行きましょうかねぇ」
「その前に、主に伝えておけ」
「了解!」
 男はアリスと翼を見ることもなく、奥の部屋へと消えていった。
「アリス、ちゃん。翼、ちゃん」
 小さな声に、アリスと翼は振り向いた。
 カウンターの側に、見覚えのある少女が一人いた。
「ファイリアさん!? いらしてたのですか」
 驚きながら、アリスがファイリアに近付く。
「良かった、会えてっ」
 ファイリアは立ち上がると、二人に飛びついた。
「なんだ、ファイリアもあんた等の“仲間”か?」
 事情を知っている風なマスターの言葉に、3人は振り向いた。
 ……マスターだけではない、酒場の多くの客達が、3人を見て薄ら笑いを浮かべていた。
 ジザスは仲間の数は当時で30と言っていた。ここに集まる多くの人物が、その仲間、なのだろうか……。
「僕たちもご一緒したいのですが」
 事情を知っていると思われるマスターに、翼が問いかけた。
「準備が出来るまで待ってくれ。食事でも食べてな」
 中央のテーブル席に案内され、3人は腰かけた。
 少しでも情報を得たいところだが、客の中には国側の人物も混じっているだろう。迂闊な発言はできなかった。
 3人は出された食事を食べながら、出発の準備が整うのを待った。
 ただ、翼もアリスも、ずっと妙なひっかかりと違和感を感じていた。
 翼は風の声を聞く――。相変わらずの言葉しか聞こえてはこない。大きな事件は発生していないと思われる。
 アリスは、柚月との交信をしたいと考えたが、力の計り知れない魔族の多そうなこの酒場で、迂闊に力を使うことは避けたかった。強い思念派を送ったのなら、読取られてしまう可能性もある。
 ファイリアは食事が喉を通らなかった。こんな世界で生きて、殺されてしまったミレーゼのことを思うと、胸が苦しかった。
 魂だけになった彼女は、今、どこに漂っているのだろう。
 早く皆と合流して、彼女の意思を聞きたい。ファイリアはそう強く願っていた。
 時間が、刻々と過ぎていく。
 正確な待ち合わせ時間は聞いていないが、今晩中だったはず――。
 翼は立ち上がり、客と陽気に騒いでいるマスターに訊ねた。
「場所を教えてはいただけませんか? 可能なら自分達だけで向かいますので」
 マスターが翼を見た。
 客達も静まりかえり、翼と、翼の側に近付くアリスとファイリアを見た。
「場所? 何の場所だ?」
 薄い、笑みを浮かべて、マスターは言った。
「合流地点です」
 翼は小声で、低く言い放つ。
「ああ、その場所にはもう誰もいないだろうよ」
 マスターの冷たい言葉に、ファイリアがぎゅっとアリスの腕を掴んだ。
「どういう意味ですか? ……少し、別の場所で話をさせていただきたいのですが」
 翼は、冷静に訊ねた。
「必要ない。ここにいる奴らは全部俺の仲間だからな」
 その言葉を聞いて、アリスが声を上げる。
「では、あなた方の拠点はどこですか? 私達も仲間と合流したいのですけれど」
「それも必要ない」
 マスター……いや、魔族の男が残忍な笑みを浮かべた。
「お前等が仲間と思っている奴等は、もうこの世に存在しないだろうからな」
 その時、アリスの脳裏に声が響いた。
 柚月の声だった。よほど、緊迫した状況と思われる。
「……リスちゃん……急い……こちら……来……ほし」
 アリスは心を落ち着かせながら、こう答えた。
『すみません、先輩。こちらも最悪の状況です』
「なるほど」
 翼もまた、浅い笑みを浮かべた。
 足を引き、怯えているファイリアを背に庇い、マスターと客達を見回す。ざっと30だ。半数は妖魔。あとは、魔族か人間か――。
「ここには何も存在しない。全ては、虚偽」
 “元凶は誰だ”
 頭の中に、その言葉が木霊していた。
 元凶は――彼等のトップ。おそらくジザスの姉、だ。
 ルクルシー・ブレスデイズ・クレイリア・バルヅ。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2863 / 蒼王・翼 / 女性 / 16歳 / F1レーサー 闇の皇女】
状態:監禁

【6029 / 広瀬・ファイリア / 女性 / 17歳 / 家事手伝い(トラブルメーカー)】
状態:監禁

【6047 / アリス・ルシファール / 女性 / 13歳 / 時空管理維持局特殊執務官/魔操の奏者】
状態:監禁

【6424 / 朝霧・垂 / 女性 / 17歳 / 高校生/サマナー(召喚師)】

【7305 / 神城・柚月 / 女性 / 18歳 / 時空管理維持局本局課長/超常物理魔導師】

【NPC / ジザス・ブレスデイズ / 男性 / 30歳 / バルヅ帝国第一皇子】

【NPC / 時雨(フリアル・ブレスデイズ) / 男性 / ?歳 / ゴーレム(バルヅ帝国第五皇子)】

【NPC / ルクルシー・ブレイデイズ / 女性 / 31歳 / バルヅ帝国第一皇女】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
予想外な展開でしたでしょうか? それとも想定内でしょうか。
合流地点に向った方々の状況につきましては、副題の違うノベルをご覧くださいませ。
次回オープニングは、来月半ば頃に登録予定です。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。