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■月の紋章―戦いの果てに―■ |
川岸満里亜 |
【3368】【ウィノナ・ライプニッツ】【郵便屋】 |
目を閉じても、月が見えた。
脳裏に浮かぶ鮮やかな月は、未だ消えない。
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『月の紋章―戦いの果てに<方法の選択>―』
研修室に篭ったファムル・ディートを待ちながら、ウィノナは深くソファーに腰掛けて考え込んでいた。
「回復薬、完成したぞ」
数時間後、診療室に戻ってきたファムルに、ウィノナは自分の考えを聞いてもらうことにした。
「術を解く方法だけど、一番確実なのは、クラリス先生に解いてもらうことだと思うんだ」
クラリスとは、キャトルの保護者。ウィノナの師。そして、ファムルの薬学の元師でもある。
「だけど、それはキャトル自身が望んでないと思うんだよね。んで、クラリス様はダランの時のように、キャトルを心配する人たちに取引を持ちかけてくるんじゃないかって思えて」
「それはないだろ」
ファムルがウィノナの向いに腰かけながら言った。
「キャトルはダランと違って、クラリスにとって大切な存在だ。キャトルが魔術にかかった原因がこちらになければ、取引を持ちかけることができるのは逆にこちらの方だ。しかし……クラリスに今回のことを知られたら、キャトルはもう二度と屋敷から出してはもらえんかもしれんな」
「うん、それは避けたいよね。だからさ、特定の魔力を消す薬って作れないかな? ファムル先生には魔力を見分ける能力がないと思うけど、ボクにはある程度わかるし。ボクが手伝えばなんとかなる?」
「魔力……というか、今回のケースの場合、魔力の核そのものがキャトルの体内にあるのではなく、相手の魔力がキャトルの魔力に溶け込んで影響を与えてるってところなんだろ? だとすれば、術を解く薬は作成可能だ。しかしだ、実際に試してみなければ効果の程はわからん。また、キャトルの場合は体力面にも気をつけなければいけないからな。付き添っている必要がある。つまり、キャトルを私とウィノナちゃんで診れる状態ではなければ、薬での治療は不可能ということだ」
魔女かファムルか。
キャトルはどちらの世話になることも、望んではいないだろう。
術を解くだけなら、魔女やファムルじゃなくてもいい。でも、そのためには……。
「体力なんだけど、キャトルの身体もベースは人間の身体なんだよね? キャトル達魔女が持つ魔力が人間の魔力の通り道では耐久力が足りなくて、循環させていく度に通り道が削られてるんじゃないかと考えてるんだけど……。その隙間から漏れた魔力が命を削っていくから寿命が短いんじゃないかな? それを改善する手段があれば、寿命延びないかな……」
「なるほど……。しかし、私にはその辺りのことはよくわからんな。万が一それが大きな理由だったとしても、魔女の資料なくして改善できるとは思えん。
キャトルの寿命が短いのは、キャトルの身体の状態が人間としても正常ではないからだ。ウィノナちゃんも知っていると思うが、魔女の魔力は色素によって阻害されるらしい。キャトルはその色素が異常な状態だから、普通の魔女よりも寿命が短いんだ。少なくても、魔学や医学的に魔女を改善したり、寿命を延ばす手段があるのなら、魔女クラリスが行なっているだろうし、彼女の知識に私達一般人が敵うはずもない」
絶望に近い感情が浮かび上がり、ウィノナを苦しめる。
なんとかして、助けてあげたい。
自分がまだまだ非力なことは分かってはいるけれど……。
人間の身体だからいけない。
人間の身体を改造したのが、魔女達。
そして、自分は改造された魔女達を更に改造して生きながらえさせようとしている……のだろうか。
「キャトルの身体の改善については、別に研究を進めているから、ウィノナちゃんは心配しないでいい。たまに診てやってほしいとは思うが、魔女には心を奪われるな。深入りしてはいけない。深入りすると、辛い思いを沢山することになる。……先輩弟子の言うことは聞くものだぞ」
そう言ったファムルは、とても優しい目をしていた。
ウィノナはとりあえず、こくりと頷いた。
「そうだな。……あと1週間。1週間のうちに、方法が見つからないようなら、キャトルが何と言おうとも、私はキャトルのところに行き、治療を施そうと思う」
「……わかった」
そう言って、ウィノナはソファーから立ち上がり、回復薬とノートを手にするとファムル・ディートの診療所を後にした。
**********
回復薬を届けに、ウィノナはエルザード城を訪れた。
騎士の案内でキャトルの病室へと向う。
ファムルの薬により、随分と回復した彼女は、普通の部屋と変わらない部屋に移されていた。
キャトルの病室には、先客がいた。
「キャビィとケヴィンじゃんー! 久しぶりっ」
ウィノナは笑顔で2人に近付いた。
共に、フェニックスの聖殿を目指した人物だ。……もっとも、キャビィの方は聖殿に行ったのは身体だけだが。
「お見舞いに来てくれたんだっ! お見舞いっていうのも変なんだけどさー。あたし、元気だし!」
キャトルはベッドに座り、足をばたつかせていた。本当に元気そうだ。
「はい、差し入れー」
ウィノナは、誰からとは言わず、キャトルに薬を差し出した。
「ありがとっ」
キャトルは薬瓶を受け取ると大切そうに握り締めた。
「で、キャトル術にかかったままなんだって? ケヴィンが心配して……るんだと思う、多分、きっと、少しは」
そう言うキャビィの隣で、ケヴィンはぼーっとキャトルを見ていた。見ているイコール関心がある。そういうことなのだろうと、キャビィは少しずつケヴィンが分かってきた。
「うん、解く手段を考えてるんだけどね……。キャトルはどうしたい?」
ウィノナはキャトルに聞いてみた。
キャトルは迷いもせず、こう答えた。
「解いてくれるのなら、誰にでもお願いしたい! だけど、会えない人には会えない、から。今回のことを知っている人とか、城の術師とかにね」
「ああ、術師といえば、あの人達に頼むって手もあるじゃん」
「あの人?」
ウィノナの問いに、キャビィは皆を見回して言った。
「ルニナとリミナ。身体使われて、傷つけられた分の慰謝料、もらってないしさ。そのうち請求しに行こうと思ってたんだよね。ルニナの方は人の身体に入り込み、精神を入れ替えることが出来るほどの術師だから、解けると思うよ? リミナの方はよく知らないけど、回復系が得意みたいだから、やっぱり解呪はお手の物かもしれないしね」
「なるほど。その2人なら、事情全部知ってるしね」
ファムルにはこうして回復薬を作ってもらい、ウィノナが状態を診ながら、術師に解いてもらう……それがキャトルの意思を汲んだ上では最良なのではないかと、ウィノナは考えた。
尤も、キャトルの身体に極力負担をかけないという面でいえば、やはり魔女の屋敷に連れていくこと、もしくはファムルをここに案内して本格的な治療を行いながらの解呪が最善であることに変わりないのだが。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
【3425 / ケヴィン・フォレスト / 男性 / 23歳 / 賞金稼ぎ】
【NPC】
ファムル・ディート
キャトル・ヴァン・ディズヌフ
キャビィ・エグゼイン
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■ ライター通信 ■
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ライターの川岸です。
いつもお世話になっております。
キャトルの身体を案じてくださり、ありがとうございます。
次回あたり、解呪については決行に移せたらと思っております。
引き続きご参加いただければ幸いです!
尚、寿命に関する話題は月の紋章関連以外のノベルで取り扱っていけたらと思いますー。
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