■D・A・N 〜First〜■
遊月 |
【7403】【黒城・凍夜】【何でも屋・暗黒魔術師】 |
自然と惹きつけられる、そんな存在だった。些か整いすぎとも言えるその顔もだけれど、雰囲気が。
出会って、そして別れて。再び出会ったそのとき、目の前で姿が変わった。
そんなことあるのか、と思うけれど、実際に起こったのだから仕方ない。
そんな、初接触。
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【【D・A・N 〜First〜】
黒城凍夜は、日の暮れかけた街を1人歩いていた。
すれ違う人々は誰もが無関心で、人目を惹く容貌の凍夜にすらそれを貫くものが殆どだ。それ故に異端にとって住み易いと言える。
その懐の広さこそがこの東京という場所の本質を表しているのだろうと何となく思った。
「わっ、…」
考えに気を取られ一瞬注意を怠った瞬間、どんっ、と軽い衝撃が凍夜を襲う。
それほど強い衝撃でもなかったし、その程度のことで倒れるようなやわな身体をしているわけでもないので、一、二歩下がって立ち止まった。
「すいません、ちょっと急いでて」
そう言って頭を下げるのは、明るい茶の髪の成人手前らしき少年だった。
人懐こそうなダークブラウンの瞳が申し訳なさ気に揺れている。
「まったく……前くらい見て歩け」
凍夜の落とした言葉に、「ほんとうに、すいません」と少年は再度頭を下げる。
自然と人目を惹く整った容姿を除けば、どこにでも居そうないたって普通の少年だ。天然らしい髪の色から色素の薄さが伺えるが、それも取り立てて特別ではない。
しかし、凍夜はその少年に対して引っかかるものを感じていた。明確な理由はなく――あえて言うならば『勘』だろうか――とにかく気になった。
無言で視線を向ける凍夜に少年はどこかそわそわと落ち着かない様子を見せる。
何かを探すように周囲を見回した彼はしかし、西方の空を見て眉尻を下げた。次いでかくんと地面に膝をつく。
突然のことに「どうした」と声をかけようとした凍夜の目の前で、その輪郭が揺らいだ。
目の錯覚かと思う。しかしそれは違うようで。
沈みゆく夕日の最後の一欠片が照らす中。色彩が褪せて、薄れる。空気に溶ける。
そして極限まで薄れたそれは、陽が完全に沈むと同時、再構築される。
揺らいだ輪郭は、先ほどよりも柔らかなフォルムで、しかしはっきりと。
褪せて薄れた色彩は、色を変え、鮮やかに。
そして先ほどまで少年が立っていたそこには――…1人の少女。
雪のように白い肌、肩に届くほどの流れるような白銀の髪。
穏やかに細められた瞳は、紅玉の赤。
先の少年より一つ二つ年下だろうか、儚げな雰囲気を纏ったその人物は、苦笑を浮かべながら口を開いた。
「――突然、このような場景を見せてしまって、申し訳ありません。アキがとっさに隠れる場所を見つけられなかったらしくて…」
「……いや、謝らなくてもいい。特に迷惑をかけられたわけじゃない」
職業柄、結構不思議なことを見慣れている。故についさっき目の前で起こった現象に対してもそれほど驚きはない。むしろ好奇心がうずくほどだ。
「さっきのは変身? 幻で身体を覆ってるとか? いや、そんな能力の悪魔も居たな……」
凍夜の唇からこぼれた言葉に、少女は少し戸惑ったように目を瞬かせた。それから迷うように口を開閉する。
「いえ、変身でも、幻でも、悪魔の能力でもありません。ただ私たちが少々特殊な性質を持っているだけです」
「へぇ…?」
「私とアキは全くの別人ですが、身体と記憶――存在、と言い換えてもいいかもしれません――を共有しているんです。今は、太陽が昇っている間はアキが、太陽が沈んでからは私が、存在することが出来ます。外見変化を伴う二重人格、と考えていただければ、理解の上では間違いではないかと。実際には違うのですが…」
告げられた内容を自分なりに理解する。つまり彼らは表裏一体の存在なのだろう。同時に存在できない、と言う点において。
しかし彼らはどうしてそんな性質を持つようになったのか。少女の口振りからすると元々そうだったとは考えづらい。ならば何かきっかけがあるはずだが――。
そこまで考えて、思考を打ち切る。
(……そんなこと考えても仕方ないか)
会って数分の相手だ。考えたところで結論に辿り着くわけもないし、時間の無駄だろう。
目の前の少女を改めて見る。
臆すことなく自分を見返してくる彼女に、ふと自身の妹を思い出した。
10歳でその命を通り魔に散らされてしまった、唯一の家族。
黙りこむ凍夜に何を思ったか、少女は静かに口を開いた。
「ああ、自己紹介をしていませんでしたね」
声に、はっと我に返る。
(仕事前に考えることじゃなかったな……)
内心溜息を吐く凍夜。そんな凍夜に、少女は穏やかに笑みを向けた。
「私の名前はライラと言います。あなたが私の前に会われたのは、アキ。呼び方はお好きに。恐らく私たちとあなたには縁が出来たでしょうから、これから会うこともあるかと思いますし…」
「俺は黒城凍夜。好きに呼ぶといい」
大して表情を変えずにそう言った凍夜に、ライラと名乗った少女は口元を綻ばせた。
「では、黒城さん、と呼ばせていただきますね。…こうやって人と関わるのは久しぶりですので、少し嬉しいです」
不可解な言葉に一瞬眉根を寄せる。しかしそれについて問うことはせず、違うことを言の葉に乗せた。
「どこかに行くなら、送っていこうか?」
凍夜の申し出に、ライラは意外そうに目を丸くした。
「いえ、特に目的地などはありませんし、黒城さんこそどこかへ行かれるのでしょう? お気を遣われなくても大丈夫ですから」
微笑む姿にやはり妹を思い出して、放っておくのも躊躇われる。なにより、凍夜自身がもう少し彼女と関わってみたいと思っている。
少々危険な仕事に向かう途中だったのだが、まだ時間はある。
そう考えて、凍夜は僅かに口端を上げた。らしくない、そう思う。自分でも不思議だ。
けれど、ライラ曰くの『縁』を、信じるのもいいかと――何となく、思った。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【7403/黒城・凍夜(こくじょう・とうや)/男性/23歳/退魔師/殺し屋/魔術師】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、黒城様。ライターの遊月と申します。
「D・A・N 〜First〜」にご参加くださりありがとうございました。
お届けが遅くなりまして申し訳ありません…。
アキとライラ、如何でしたでしょうか。
ライラを妹さんと重ねて…ということでしたので、放っておけないとかそういうスタンスでいいのかな、と思いつつ執筆させていただきました。
アキの出番が妙に少なくなってしまったのが少々心残りですが、アキとライラ共々、お付き合いくださると嬉しいです。
ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
リテイクその他はご遠慮なく。
それでは、本当にありがとうございました。
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