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■限界勝負inドリーム■

ピコかめ
【7403】【黒城・凍夜】【何でも屋・暗黒魔術師】
 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。
限界勝負inドリーム

 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。

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 グルリと囲まれている。
 全包囲を隙間無く、人の形をしているが、確実に息をしていない何かに囲まれている。
 それに気がついた黒城・凍夜(こくじょう・とうや)は小さく嘆息して、しかし薄く笑みを浮かべる。
「ははっ、夢の中でまで戦うとは、俺も相当だな」
 自分が戦闘好きだと言うのは自覚している。だからこそのこの夢か、それとも神様の粋な計らいか。
「どっちだろうと構いやしないさ。要はこの人形を全て壊すまで夢が覚めないんだろ? だったらやってやる」
 ザッと見渡しても敵の数は百が良い所だろうか。
 一対百、それは絶望するに十分な数の差ではあるが、凍夜は特にそんな様子は見せない。
「たかが人形百体だ。廃品解体を請け負った覚えは無いが、全部キッチリ相手してやるよ」
 凍夜の言葉を戦闘開始の合図と取ったか、人形たちが一斉に凍夜へと駆け出した。

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 百という数は決して少なくない。
 だが、だからこそやりがいがあるというもの。
 逆転の発想、と言っても差し支えない考えの元、凍夜は得意の能力を繰る。
 傷も無いのに手から迸る凍夜の血液。それは見る見るうちに短剣の形を取り、固まる。
 普通なら血液が固まったとしても、武器にはなり得ない。
 だが凍夜が繰る能力では、自らの血を武器へと変える。
 その手に作り出した短刀もまた然り。
 それに気付かないのか、人形は凍夜への進行を止めない。
 そして凍夜の間合いに入った途端、人形のボディにトン、と血のナイフが突き立つ。
 突き立ったのは人形の左肩。その人形が仮に通常人だったとしたら、鎖骨をいとも容易く断たれ、左腕はブラリと力なく風に揺られるだろう。
 だが相手は人形。骨も筋肉も無い。その体を動かすのは不思議な力。
 人形の左腕が活動不能になる事は無い。
 人形はお返しと言わんばかりにその無機質な左腕を振り上げる。
「なるほど、しっかり切り落とせってか」
 凍夜の呟きの後、血のナイフは人形の脇までスルリと落ちる。
 とてもそうは見えないが、切り取ったのだ、人形の腕を。
 鋭い切れ味が、まるで空を切り裂いたような自然な動きで何かを切り裂く事を可能にしている。
 そして、それによって切り取られた人形の左腕は振り上げた勢いで、間抜けに空中を飛んだ。
 人形は自分の左腕が無くなった事に気が付き、次の攻撃手段を実行しようと行動を始めるが、しかし支えを失って体を倒す。
 凍夜が人形の行動よりも早く、左足を切り取っていた。
 その人形が倒れた時、凍夜の背後からまた別の人形が飛びかかってくる。
 全身を武器に改造されているらしい人形たち。飛び掛ってきた人形もその例に漏れず、今はその右腕を剣に変えている。
 上段で振りかぶっているその右腕。凍夜は振り向き様に相手の様子を観察、更に活路を見出す。
 魔術による身体強化で超人的な行動が可能な凍夜。
 瞬時に判断したのは人形の右腕を斬り飛ばす事。
 振り下ろしに入っていた人形の右腕は、胴体との繋がりを失って、グルングルンと回転しながら前方へと吹っ飛んでいった。
 不幸な別の人形は、胴体にその右腕を食らい、どっかり倒れこんだ。
「……なるほど、胴体が弱点か」
 人形と言うからには人間のような臓器があるわけでは無い。
 当然、人間の急所なんか攻撃しても即死するようなことは無いと思っていたが、どうやら胴体に著しい損傷を受ければ行動不可能になるらしい。
「もう少し遊んでから試してみようと思ったんだが、まぁ良い」
 最初の人形の左腕と左足を斬り飛ばしたのはその為。
 もっと戦闘を楽しんでから相手の弱点を探ろうとしたのだが、思いがけない事で発覚してしまった。
 発覚してしまってはそこを狙わないわけにはいかない。
「覚悟しろよ。ここからは少し、解体のスピードを上げていくからな」
 凍夜はナイフに血を追加し、その武器を長剣へと変える。
 これだけのリーチと切れ味があれば、一撃で人形の胴をズンバラリと斬る事も容易い。
 その言葉に怖気づいたのか、一瞬動きを止める人形たち。
 しかし、次の瞬間には再び凍夜に向かって襲いかかってきていた。
 恐らく、自分たちの弱点がバレて、次からの行動を考えなおしていたのだろう。
 弱点をかばいながらの戦闘。それは緊張感があって良い物だ。
「だが、負ける気はさらさら無い」
 右腕を吹き飛ばされた人形を一撃斬りつけながら、凍夜はニヤリと笑う。

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 血の剣の閃きは、十重二十重と繰り返される。
 その度に、物言わぬ人形の残骸が山と積み重なる。

 剣を寝かせての突撃。
 人形はそれを慌てて防御しようとするが、その剣の切れ味の前に、易々と貫通されてしまう。
 剣は人形の両腕を串刺しにし、胴体をも貫き通す。
 凍夜はその剣を引くのではなく、力任せに横に薙ぐ。
 それによって人形は放り投げられ、残骸の山に混じっていく。
 また一つ人形を片付けた事で、凍夜は溜め息をつくが、その隙に前方から一体の人形が走りこんでくる。
 槍のような腕を構え、突進してくるその人形。
 だが凍夜はその人形だけに構っているわけにもいかない。
 気が付くと、四方から同時に人形が突っ込んで来ている。
 普通、突撃陣形なら相手に躱された際に同士討ちにならない様に、仲間とかち合わないような方向から攻めてこようものだが、そこは命無き人形。
 自分が壊れても代わりはいると言わんばかりに、規則正しい四方向からの攻撃だ。
 凍夜はそれに驚くでもなく、死を覚悟するでもなく、ただ笑って正面の敵に向かい合って突撃を始める。
 手に持つ剣は突然突撃槍へと変化し、人形の腕を粉砕しながら直進、そのまま人形を粉々にして窮地を力技で乗り切ったのだった。
 だがまだ危険は去っていない。他の三体の人形がいる。
 左右から攻めてきていた人形二体は、凍夜が躱した事によって同士討ちになっていたが、背後から襲いかかってきた一体は同士討ちになった人形の残骸を飛び越え、そのまま凍夜に向かって突進してきている。
 凍夜は振り返り様に突撃槍を構成していた血を幾らか、敵に向かって吹きつけてやる。
 そして次の瞬間、凍夜の指を鳴らす音と共に大爆発が起こる。
 凍夜はその爆風を人形の残骸で身を隠して避けるが、全く準備をしていなかった周りの人形は爆風に煽られて吹っ飛ばされ、将棋倒しになったり、バラバラになったりと色々被害を受けていた。
 この爆発も凍夜の能力による物。自分の血を自由に爆破する事が出来るのだ。
 そしてそれによって、人形の数が大分減った。目算して半分ぐらいだろうか。
「やっと半分近く終わったか」
 凍夜がそう零した瞬間、場面が一変する。

 戦場は大きく表情を変え、アリーナから街中へと変化していた。

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 フィールドは、誰もいない街中。ここにいるのは凍夜と人形約五十体だけだ。
 唐突な変化ではあるが、これは夢である、と一言言われれば納得できないわけではない。
 夢というものは往々にして、突然場面が変わったり、展開が急転したりするし、いつの間にかそれに納得している自分もまた夢の範疇なのだ。
 ただ、場所が変わったことによって引き起こされたらしいもう一つの変化については、少し納得がいかない。
「……アイツら、どこに行きやがった」
 人形が全て、視界から消えていたのだ。
 残り約五十体もいた人形たちをしらみつぶしに探し回るのは、結構骨が折れる。
 この街がどこまで続いているのかわからないし、歩いて探すのは億劫だ。
 そんな事を考えていると、どこからともなく矢が。
 気がつくとその矢が凍夜の左腕をかすっていた。
「……っな!?」
 全身武器なのはアリーナで戦っているうちに確認していたが、まさか遠距離武器まで搭載しているとは。
「っち、見くびってたな。だが……っ!」
 凍夜の前方、少し行った所で放たれた矢が跳ねるのを見た。
 そして自分の傷を見て大体の角度を測る。
 あの矢が直線に飛ぶものだとして、着地点は前方、その地点と自分の腕の傷を結び、更にその後方へ延長線を延ばしたところに、とりあえず一体以上の人形がいることがわかる。
「面倒臭いが、一体ずつやるしかないんだろうな」
 ぼやいた後にすぐ駆け出す。人形の方に移動する時間を与えるとまた厄介だ。

 人形を一体ずつ壊してかかって、約三十分ぐらいだろうか。
 新たに二十体ほど倒しはしたが、明らかにペースはダウンしている。
 しかも、倒すたびに傷が増えていっている。
 凍夜も回避が下手なわけではないので、そこは人形の命中率を褒める所だ。
 全て直撃を受けたわけではなく、かすり傷のようなものばかりだが、多少の流血はある。
 凍夜の能力的に、すぐにかさぶたにするのは簡単だが、痛みは当然残る。
 腹立たしいが、ここで取り乱してもなんになるわけでもない。
 冷静に考えて次の行動をとるべきだ。
 今まで、人形が行ってきた攻撃活動は全て矢によるもの。
 どうやら腕が弩などに変化する人形が多々いるらしく、その人形による射撃を攻撃の主においているようだ。
 だが、アリーナで確認した時は近接戦闘を行ってくる人形の方が多量にいた。
 つまり、今凍夜が倒した遠距離攻撃型人形は二十体ほど。となればそろそろその型の人形も底をつくはず。
「そうすりゃ相手も攻め方を変えてくるはずだ」
 呟きとほぼ同時に、右脹脛を矢が霞める。
「向こうか!」
 それを受けて、凍夜は矢弓の如く、人形に向かうのだった。

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 考える事はまだある。
 何故、人形たちはあんな回りくどい手段をとったのか。
 遠距離武器を装備しており、かつそれなりの命中精度を持っているのなら、一斉射撃で狙えば凍夜を追い詰めるのも簡単だろう。
 チームプレイが下手なわけではないだろう。アリーナでの四方攻撃もある。
 とすれば、何か考えがあってそんな事をしたのだろうか?
 まさかとは思うが、凍夜をジワジワ追い詰めるのを楽しんでいるのだろうか?
 だとすれば、むしろ窮地に追いやられているのは人形の方だ。
 今壊した一体の人形。
 それを確認した瞬間、周りの物陰からゾロリと人形共が現れた。
 という事は、もう遠距離での攻撃を諦めたのだろう。
 数えてみれば、数も合う。全部で百ぐらいだ。
 つまり、人形の手札がなくなったのだろう。
「何を企んでいたかは知らんが、お前らを壊せばそれで終わりだ。残念だったな」
 凍夜は十体ちょっとの人形を睨みつけながら手に持つ剣を構えなおす。
 そしてそのまま数瞬。
 ……おかしい。
 アリーナでは我先に、と向かってきた人形たちが全く微動だにしない。
 凍夜が一歩踏み出すと、ジリと退く。
 やはり、何か策を持っているのだろうか?
 あれだけの頭数を活かさない戦い方の方がおかしいとは思うが、だとしても策らしい策は弄された覚えすらない。
 杞憂か? いや、そうだろうとそうでなかろうと、すぐに倒してしまえばいいだけの話。
 凍夜は全力で駆け出す。

 そして人形を一体、間合いに収めた瞬間に斬り飛ばす。
 瞬間的な破壊行動、そして次にもまた同じように、手近にいた人形を薙ぐ。
 そこでやっと、何が起きたのか、これからどうするべきか、それを理解した人形たちが凍夜から距離をとろうとする。
 しかし、それを逃がしてしまっては意味が無い。
 凍夜は逃げる間も与えず、また一体、人形を斬りつける。
 そしてその間も考えをめぐらす。
 この人形たちの距離のとり方は、怯えから来るものではない。
 計画的なモノを先程から匂わせているが、さてそれはなんだろう?
 時間をかけることが、相手に有利と働くのだろうか?
 だったらその仕組みとは?
 突然の遠距離攻撃、増えた傷、時間をかける作戦……。
 一つ、答えに辿り着きそうになった時、凍夜の膝から力が抜ける。
「……毒か」
 矢に塗った毒。それを体中に回らせる為の時間稼ぎ。
 嫌な趣味をしている。
 結局は凍夜をジワジワ追い詰める作戦だったわけだ。
「っち、情けない。こんな策も見破れないとは」
 凍夜が動けない事を確認すると、人形たちはゾロゾロと距離を詰めてくる。
 どうやら止めを刺すつもりらしい。
 腕は全て凶器へと変わり、その切っ先は凍夜を向いている。
 だがそれを見ても、凍夜は絶望を覚えない。
 種がわかれば解決策は意外と早く見つかったのだ。
「お前ら、勝ちだと思うのは早いぜ」
 ドロリ、と大量の血が凍夜から流れ出る。
 それは瞬く間に地面に広がり、人形たちの足をぬらした。
 これだけ大量の血を流しても、凍夜は失血死したりしない。これも能力の一部である。
 血を操れる凍夜は、悪い血があればそれを全部入れ替えれば早い、と思ったのだ。
 だが、それですぐ毒の効果がなくなるわけではない。
 モタモタしていれば、人形たちの凶刃によって凍夜は串刺しにされてしまうだろう。
「その前に俺が決着を下してやるよ」
 震えながらもその右手の親指と中指を強く擦り合わせる。
 パチン、と音がしたかと思うと、地面の血がまるで油だったかのように、火柱が上がった。

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 凍夜が目を覚ますと、少し寝汗をかいていた。
「……火傷もなければ御の字だろ」
 本当ならば、爆炎に対し対抗策を持たない凍夜はあの爆発で死んでいる。
 それが多少の不快感と寝汗で済んだのなら、本当にありがたいものだ。
「シャワーでも浴びるか」
 呟いて、寝床から這い出た。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / 男性 / 23歳 / 退魔師/殺し屋/魔術師】


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■         ライター通信          ■
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 黒城 凍夜様、ご依頼ありがとうございます! 『全・爆・殺』ピコかめです。
 あまりボンボン爆発はしませんでしたが、大爆発は起こせたので、個人的に大満足です。

 キラードールと百人組み手という事で、こんなん出来ましたが、どんなモンでしょう?
 結局人形はあんまり無茶な動きはしませんでしたし、結果としては引き分けでしたが、ガリガリ書いた方は結構楽しかったんです。
 お客様にも楽しんでいただければ、と思いますよ!
 ではでは、気が向きましたらまたどうぞ〜。