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■D・A・N 〜First〜■

遊月
【7416】【柳・宗真】【退魔師・ドールマスター・人形師】
 自然と惹きつけられる、そんな存在だった。些か整いすぎとも言えるその顔もだけれど、雰囲気が。
 出会って、そして別れて。再び出会ったそのとき、目の前で姿が変わった。
 そんなことあるのか、と思うけれど、実際に起こったのだから仕方ない。
 そんな、初接触。
【D・A・N 〜First〜】


「だから、興味ないって言ってるでしょう」
 不意に耳に届いた切り捨てるような声に、雑踏の中を歩いていた柳宗真は足を止めた。
 何となく気になって視線を巡らせれば、発生源は容易に見つかった。
 目の覚めるような眩い金髪と、自然と人目を惹く整った容貌。透き通るような青い瞳は絶対零度の冷たさで眼前の男を見据えている少女。
 恐らく宗真と同年代か少し年下だろうその少女は、柳眉を吊り上げて不機嫌そうな様子を隠そうともしていない。
「そう言わないでさぁ。いいじゃん、行こうよ。奢るからさ」
 声にも見た目にも軽薄そうな雰囲気の漂っている男が、少女にそんなことを言う。少女はますます不機嫌そうに眉根を顰めた。
 しばらく2人のやり取りを聞いていた宗真は、どうやら少女が男に絡まれている――有体に言えばナンパされていることを察した。
 明らかに迷惑そうな少女に、男は全く頓着せずにしつこく誘いを続けている。
(どう見ても迷惑そうですし、助けた方がいいでしょうかね)
 そんなことを考える宗真。しかしどういう風に助けるべきか、良い案が浮かばない。
 そんな中、ふと少女がナンパ男から視線を外し、宗真を見る。
 ばち、と視線が合った。
 特に他意はないとは言え、不躾と思われても仕方ないほどに彼女を見ていた宗真は、反射的に肩を強張らせる。
 そして、次の瞬間。
 少女はにこり、とそれはそれは綺麗な笑みを浮かべた。
「遅かったわね」
(……は?)
 宗真は、何とか表には出さなかったものの、呆気に取られた。
 少女が自分に向かってそれを言ったことは状況的にも少女の視線の向きからも間違いないだろう。事実、少女をナンパしていたと思しき男は怪訝そうに宗真を見てきた。
 しかし宗真は少女と面識がない。なにをどうしても『遅かったわね』などと言われるはずはないのだが。
 困惑する宗真を尻目に、少女は迷いのない足取りで宗真へと近づく。
「なかなか待ち合わせ場所に来ないから、探そうと思ってたところよ。見つかってよかった。すれ違ったら洒落にならないもの」
 言いながら、自然な動作で宗真の腕を取る。突然のことに宗真が反応できないでいると、少女はその状態で満面の笑みを浮かべナンパ男に向き直った。
「じゃあ、そういうことだから」
 そしてさっと踵を返す。何が何だかよくわからないままに、つられてナンパ男に背を向ける宗真。
 戸惑いながら少女を見下ろせば、『とりあえず合わせて』と小声で言われる。
 宗真は少女に導かれるまま、その場から離れることとなったのだった。

◇ ◆ ◇

 少女の誘導で辿り着いたのは、あまり人気のない公園。西日が辺りを照らしていて、妙に現実感がない。
 そこの備え付けのベンチに座るよう宗真を促した少女は、まず頭を下げてきた。
「ごめんなさい。ちょっとしつこくて困っていたものだから、利用させてもらっちゃった」
 悪びれず、少女――道すがらの自己紹介でセイラと名乗った――は言った。
「でもあなた、助けようって思ってくれたでしょう。だから、妙な勘違いとかしないだろうと思って。口で断っても諦めない男には、ああいう決定打になることがあったほうがいいのよ。いきなりで驚かせたのは悪いと思っているけれど」
「――なぜ、俺があなたを助けようと思ったと分かったんですか?」
 セイラの言い回しにひっかかって問えば、セイラは少し逡巡して、そして口を開いた。
「『聞こえた』のよ。貴方も何か特殊な力を持ってるみたいだから言っちゃうけど、私は他人の思考が読めるの。特に自分に関わることはね。だから、貴方が私を助けようかって考えたのも分かったの。善意からそう思ってくれたんなら、そうそう変な勘違いはされないだろうと思って、ちょっと利用させてもらったのよ」
「なるほど」
 思考が読める云々については、特につっこまないことにする。ここは異能者が多く集まる土地だ。自身もそのひとりだし、別に大仰に驚くことでもないだろう。
 とりあえずセイラが突然あんな行動をとってきた理由が分かって納得の表情の宗真の前で、セイラはふいに西の空を見た。
「……時間が来たわね。その前に帰ろうと思ってたのに、あの男のせいで予定が狂ったわ」
「何か予定があったのですか? それでしたら気にせずお帰りになっても――」
 言いかけた宗真の目の前で、セイラの輪郭が揺らいだ。
 目の錯覚かと思う。しかしそれは違うようで。
 沈みゆく夕日の最後の一欠片が照らす中。色彩が褪せて、薄れる。空気に溶ける。
 そして極限まで薄れたそれは、陽が完全に沈むと同時、再構築される。
 揺らいだ輪郭は、先ほどよりもやや細身のフォルムで、しかしはっきりと。
 褪せて薄れた色彩は、色を変え、鮮やかに。
 そして先ほどまでセイラが立っていたそこには――…全くの別人が。
 雪のように白い肌、流れるような白銀の髪。
 穏やかに細められた瞳は、紅玉の赤。
 儚げな雰囲気をまとうその人は、宗真に視線を向けて僅かに苦笑した。
「……すみません。セイラがご迷惑をおかけしたようで」
「ああ、いや、お気になさらず」
 反射的に返してから、ここはもっと驚く場面だろうかと少し思った。
「あまり、驚かれないのですね」
 少々意外そうに言われ、宗真は笑みを浮かべる。
「俺の家の古い書物に、似たようなのが幾つか載ってましたから。詳しくは知りませんが…」
「そうなのですか。……わたくしたちの他にも、似たような方はいらっしゃったのですね。存じませんでした」
 そうしみじみと言う白銀の髪の少女。セイラと同じくらいの年頃だろうと思うが、全く違う印象を受ける。
 セイラは初対面の宗真を躊躇なく利用したことからしてもかなり食えないタイプだろう思ったが、目の前の人物はひたすら穏やかで儚げな印象を受ける。
「ああ、自己紹介がまだでしたね。わたくしはルイシェと申します。…とりあえず説明しておきますが、わたくしとセイラは全くの別人で、けれど今は同じでもあります。記憶と身体を共有しているようなもので――太陽が昇っている間はセイラが、太陽が沈んでからはわたくしが、存在することが出来るのです。外見変化を伴う二重人格、と考えていただければ、理解の上では間違いではないかと。厳密には違うのですが…」
「ルイシェさん、ですか。セイラさんと記憶を共有しているのなら知っているかと思いますが、俺は柳宗真といいます」
 別人だというのだから改めて、と名を告げた宗真に、ルイシェはどこか嬉しそうに「ご丁寧にありがとうございます」と頭を下げた。
(それにしても、随分と違うものですね。二重人格…というか全く別物ですし。外見も雰囲気も、……恐らく性格も。やはり女性はこのくらい慎ましいほうが好ましい)
 自分があまり騒がない性質であるので、宗真が好むのは自分と似たようなタイプの人だ。その点で言えば、ルイシェはセイラよりよっぽど好みである。
 いくら自分が助けようと思っていたからといって、出会い頭に利用されるというのはあまり頂けない。そのことについてはちょっとばかり根に持っている。
 そこまで考えて、さて、と気持ちを切り替える。
 大分暗くなってきたし、このまま話し続けるのもまずいだろう。
 そう思って、宗真は口を開いた。
「暗くなってきましたし、どこかに行かれるのでしたらタクシーでも呼びましょうか? 無論、俺持ちで」
 笑みを向けながら告げた内容に、ルイシェはぱちりと瞬いた。
「いいえ、特に行く場所もありませんし……しいて言えば一度家に帰ろうかとは思っていますけれど。だから、お気遣いなさらずとも大丈夫ですよ」
 ふわりと笑んだルイシェに、やはりセイラとは全く違う、と宗真はしみじみ実感したのだった。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7416/柳・宗真(やなぎ・そうま)/男性/20歳/退魔師/ドールマスター/人形師 】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、柳様。ライターの遊月と申します。
 「D・A・N 〜First〜」にご参加くださりありがとうございました。
 初めましてですのにお届けが遅くなりまして申し訳ありません…。

 専用NPC・セイラとルイシェ、いかがだったでしょうか。
 セイラの『食えない』部分をどう出そうかと考えていたら、『男を押し付ける』というより『柳さんを利用する』になってしまいました。
 セイラはサバサバ自己完結型、ルイシェはおっとりのんびりマイペース型、といったところでしょうか。気に入っていただけると嬉しいです。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。