■『表の門』 佐吉の友達■
桜護 龍 |
【7361】【響谷・玲人】【モデル&ボーカル】 |
「あきた・・・・・」
先程修復された時に混ざってしまった花をぴょこぴょこと揺らし、不満そうな声で有人とブレッシングに訴えた。有人は掃除を、ブレッシングはゲームをしていた手を止めて机の上に立っている佐吉を「何に?」と言う目で見る。
「有人とブレスばっかと話すのにあきたんだよ・・・俺だってお前らみたいにこの家以外のヤツラと話したい!」
「無茶だよ、サキチ。いくら何でもハニワがぴょこぴょこ歩いてたらむかえのじーさんが入れ歯飛ばして失くしちゃうって」
ケラケラと笑うブレッシングに有人がそれは漫画の読みすぎだとたしなめつつも近隣の人が驚くのには間違いが無いと言うのには同意し、佐吉が外に出るのを止める。確かに魑魅魍魎が跋扈している東京とは言え、一般の方が多いご近所さんには何でもあり、と言うわけにはいかないであろう。
しかし、短気で人の言うことをあまり耳に入れない佐吉にそのようなことが通じる筈もなく―――
「うるせぇ!俺はお前ら以外の話し相手が欲しいんだーー!!」
と、聞く耳なく飛び出していってしまった。
「兄貴、捕まえてくる?」
「・・・まぁ、今はいいだろう。夕方まで帰って来なければ行け」
「あいよ」
『残念会』のために今日は佐吉の好きなものを作るか、とブレッシングが笑うと、有人は、
「わからないだろう?もしかしたら奇特な怪異好きがいるやもしれん」
と反論し、掃除を再開するのだった。
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佐吉の友達〜可愛いUMA〜
「あれ?レイジ君だよ、佐吉」
「おっ、ホントだなー。玲人ー、久しぶりー」
取材の仕事で、ある編集部に足を運んでいた玲人は帰りがけに、思いもがけないモノ達と出会い、大いに驚いた。
「ブレス君に佐吉君、どうしてこの編集会社に?」
そう、ここはまだ編集部ビルの中。モデルとして取材を受けた玲人がいるのはともかく、目の前の2人がいるのは少しおかしい。
だって2人は定職についていないらしい一般人と、不思議生・物動く埴輪なのだから。
「あ、言わなかったっけ?うちの大黒柱、絵本作家でね。僕はアシスタントしてるんだけど、本人が動けないときは代わりに動くことになってるんだ。ここに来たのも、それ関係」
ここもよく来るんだ、と言われ、それならと、玲人も1つ頷いた。
どの編集社も大抵ファッション雑誌だけを手がけているだけではない。コミック、芸能、ゲーム、絵本、問題集等色々と2足以上の草鞋を履いているのが常である。この編集社も確か絵本製作部があった筈なので、ブレスことブレッシングはそこに行くつもりなのだろう。
「それで、佐吉君はどうして一緒に?」
「散歩だ」
「大黒柱―兄貴は他の会社の絵本の締め切りも重なってお篭り中。家に置いておくと兄貴の邪魔になりそうだし、また拗ねて外に飛び出してヒトサマに迷惑かけるのも勘弁してもらいたいと思って連れて来たんだよ」
「あはは、確かに佐吉君がこの間みたいに飛び出していってしまったら大変だ」
『この間』
そう、佐吉は家にいるのが退屈だと言う理由で一度飛び出したことがあるのだ。
そして、その時迷惑かけられた『ヒトサマ』が玲人に当たる。
動く埴輪と、動く埴輪の保護者な人間という不思議な組み合わせと玲人が縁を持つようになったのはその時の話。
その日、玲人は次の曲の打ち合わせのため外に出ていた。打ち合わせはもう何度か目かで、予習曲だけ貰い終了するといった簡単なものだった。そのため、時間があまり経たない内に解散。打ち合わせのために1日あけていた玲人は思わぬ暇を持ってしまったため、スタッフの車には乗らず、1人で散歩ついでに歩いて帰途についていた。
(早めに終わるとは思っていたけどここまでとはね。さて、この時間をどう過ごそうかな)
今日貰った曲を聴いて、新曲の曲調を掴むのもいいけれど、最近色々と忙しいので本屋に寄っていって何か読むものを見繕ってもいいかもしれないし、公園に行ってそこにいる動物を見に行くのもいい。
さて、どうしたものかと思案しながらも足を進めていると目の端に何か薄茶の小さなものを発見。ぴょこぴょこと動いているので可愛らしい子猫か雀でもいるのだろうかと目を向けると、『可愛らしい』という項目以外予想を大きく外れたモノが居てくれていた。
(埴輪!?)
そう、視線の先にいるのは間違いなく埴輪。
義務教育課程を過ぎたものであれば間違いなく知っているであろう日本ではポピュラーすぎるモノ。ただし、生物として習ったことはない。玲人の記憶が間違っていなければ、焼き物という無機物の筈だ。
(でも、動いてるよな・・・何か頭で花が揺れてるし)
その埴輪は頭から生えた1輪の花を揺らし、両手で目の前の小石を転がして遊んでいる。人間の小学生が戯れで小石を蹴りながら道を行くことがあるが、埴輪本人からしてみればあれの様なものなのだろう。
転がすとき、「えいっ」とか「よっ」とか掛け声をかけて両手で転がす仕草とか、転がした石にててて・・・と追いつき、ちょっと腰(のようなところを)で体を屈ませるのが何とも言えず可愛くて和んでしまう。
けれど、うっかり可愛さに気をとられて和んでいる場合ではない。
怪奇現象に慣れている自分はともかく、可愛らしくても動く埴輪なんて不思議なものを心霊番組かホラー映画でしか幽霊等を見たことがない一般人が見たらパニックものである。警察や、小説に出てくるような謎の研究員がやってこないうちにあの生物(焼き物?)を保護した方がいいだろう。
「そこの焼き物な君」
「ん?俺だよな?何だぁ?」
「何でこんなところに1人で居るんだい?」
「家出ー」
警戒心と言うものが無いのだろうか。
埴輪は玲人の問い掛けにも、平然と幼稚園児が答えるような感じで返してきた。しかも家出ときたもんだ。
もし、玲人が誘拐犯か何だったら確実にこの場で攫われてもおかしくない状況になりうる答えだ。人間社会に出たことのない、相当な世間知らずと見た。
「こんな街中に、君みたいな子が1人でいたら危ないよ。とりあえず、そこら辺の公園にでも移動しないかい?」
自分で考えても相当怪しい台詞だな、とも思うが今のところこれしか思い浮かばない。なるべく怪しい人と思われないように笑顔も浮かべてみるが、よく考えてみると余計怪しいのではないだろうか。
「こーえん!動物とか一杯いるな!行こうぜ!」
(・・・・・)
怪しがられることなく、上手く移動して貰えそうだが、本当にこんなに素直で大丈夫なのだろうか。よく、今まで誘拐とかされなかったな。
「行こうか、埴輪君」
「佐吉!埴輪はしゅぞくー!名前は佐吉だ!」
それはすまないことをした。
自分だって『人間』と呼ばれるのは避けたい。
「わかったよ、すまなかった佐吉君。俺は響谷玲人、さぁ行こうか」
「おー!」
玲人は機嫌良さそうに寄ってきた佐吉を抱き上げ、公園に向かって歩き出した。
「へー、玲人はモデルなんだ」
玲人が公園に到着してまずしたことは佐吉に自分の載っている雑誌を見せることだった。
この純朴な埴輪には必要が無いかもしれないが、自分がきちんと社会に出ている人間で、誘拐犯ではないと証明するためにである。
「色んなヤツが色んなかっこしてるな。おっ、犬もいる!」
ベンチに座りながら―と、言っても座っているのは玲人だけで、佐吉は立っているのだが―ページをめくり、玲人だけでは無く他のモデルのページも見てはしゃいでいる佐吉。
「佐吉君はこう言う本を見るのは初めて?」
「おう、うち3人住まいのオトコジョタイだしなー。有人は仕事してる時以外は庭弄りか掃除しかやってないし、ブレスは有人の手伝いしてるか遊んでるか勉強してるかだからよー。こう言うの読む奴いねぇんだ」
だから何かシンセンだな、と雑誌から顔を上げて玲人に笑顔を向ける。
「普段佐吉君はどんな本を読むんだい?」
「絵本だなー」
「絵本か、ほのぼのしてていいね」
成程、この素直な子には良く似合う読み物だ。
しかし、と玲人はふと思う。この埴輪、一体いくつくらいで、家族も皆埴輪なのだろうか。彼の今の話を聞く限りでは、家族らしき者達は仕事をしているようだし、掃除やら勉強やら生活感溢れる言葉もごろごろと出てきている。先ほど家出をしてきたと言っていたし、動くの埴輪の集落から出てきたのであれば人間社会は彼のようなものにとって危険なのでそこに帰すべきであるし、人間社会に溶け込んでいる者の元で生活しているのであれば、その者に連絡を取って迎えに来てもらうべきだろう。
「佐吉君」
「ん?」
「さっき、家出してきたって言ってたよな」
「おう」
「何で家出してきたんだい?今の話を聞く限りじゃ家族とも仲が悪いわけでも、虐められているわけでもなさそうだし、ケンカでもした?」
「ケンカっつーかよ、俺が勝手に怒って飛び出してきたー」
「え?・・・・それっていいのかい?」
家族は必死に探してるんじゃないだろうか。
だけど、佐吉は悪びれも無くケロリとしたものである。
「だってよー、あいつらは普通に外に出て他の人間と話したり、出かけたりするのに、俺は1人だけこんなだからって庭以外あんま外に出してもらえないし、たまーに家の外に出てもブレスのバッグの中にいるだけでヒトと話せないから結局は有人とブレスしか話す奴いなくて・・・・飽きたっつたら俺が外でたらむかえのじーちゃんが入れ歯飛ばすからとか笑いやがって、ムカついたから出てきてやった」
「それはまた・・・・」
素晴らしい限りのわからないでもない理由だが、佐吉の家族の言うことはもっともだ。
今の話を聞いてわかったのは、有人とブレスという佐吉の家族は人間、もしくは人型や人型になれるタイプの種族のものなのだということ、人間社会に出ているということ、そして、恐らく佐吉を守るために滅多に外に出していないということだ。
それは彼のためには正しい選択。
けれど、まだまだ子供であろう彼には酷な選択だ。
だからこそ、そうされる理由も理解できずにカッとなって1人で飛び出してきてしまったのだろう。守ってくれている家族の制止を振り切って。
「羨ましいな」
「は?家から出してもらえないことがか?」
変なヤツ、と変な顔をする佐吉に、そうじゃないよ、と玲人は苦笑いを見せた。
「そうじゃなくてね、そうやって守ってくれて、飽きる程一緒に居てくれる家族がいるのが羨ましいな、と思ってね」
「色々口うるさいヤツラだぞ?」
「それでも、飽きるってことはそれだけ長い時を一緒に居てくれてるってことだろう?それが羨ましいんだ。俺は小学校に上がる前に両親を事故で亡くしてね、それからずっと1人なんだ。だから、佐吉君みたいに飽きる程変わらない時間を一緒に過ごしてくれる人が居るなんて想像できないし、凄く羨ましいよ」
「玲人・・・・1人なのか?」
「うん。あぁ、泣かないでくれ。悲しいわけじゃなく、時々そういう話を聞くと羨ましいなと思って、うん、それだけから・・・・ほら、目の下の色変わっちゃってるよ。これで拭いて」
いきなりだーっと、大きな両目から涙を流し始めたせいで、涙の通ったところだけ焦げ茶色になっている佐吉に玲人は申し訳ないことを言ったかな、とハンカチを差し出しながら少し罪悪感を感じる。
でも、言っておくべきだと思った。
自分を同情して欲しいわけではなく、幼い彼が今ある環境を時々でいいから稀有で大事なモノであると思って欲しいがために。
「玲人」
「なんだい?」
「俺、アイツらが嫌いなわけじゃないぞ」
「うん」
これはこちらが意図していたことを感じ取ってくれたのかもしれない。
子供は敏感で、無意識にでも理解するから。
「でもな、トモダチやシリアイがいるのは羨ましい」
「そうか」
「おう、アイツらに掘り起こして貰う前の記憶ないし、起きてからはアイツらくらいしかいないから」
「うん・・・それは、友達が欲しくなるかもね」
人間の子供であれば、少なくとも幼稚園に上がる3歳には社会の輪の中に入っていって、友人知人が出来る。佐吉の精神年齢がそれくらいだと仮定すると、もうそろそろ家族だけの中にいるのに不満になるくらいだろう。
「でも、飛び出してくるのはあまり褒められたことじゃないな。家族に心配かけるしね」
「・・・・」
「だから、今度から話し相手が欲しくなったら俺の所に連絡くれればいいよ。俺でよければね」
「いいのか!」
「佐吉君なら大歓迎だよ」
体に涙が染み込んでしまい、涙の跡が未だ色の戻っていない佐吉はとても嬉しそうに目を細め、それが堪らなく可愛くて玲人は佐吉の頭を花を手折らない様に撫でた。
その後、佐吉を探しに来たブレッシングに玲人は自分の携帯番号と住所の書いた名刺を渡し、その日は別れた。
後日、電話をかけて連絡は取っていたが、玲人の仕事が忙しく会うのは今日が初回以来だった。
「あの時はほんとごめんね、レイジ君」
「いいよ、こんなに可愛い埴輪と出会うことなんてそうそう無いしね。ブレス君も年が近いせいか話してて面白いし、いい出会いだったんだじゃないかな」
「そう言って貰えると良いけどね。おっと、編集者さんとの打ち合わせの時間だ」
時計を確認してブレッシングは慌て出す。
「ブレス君、その打ち合わせ終わるまで俺が佐吉君預かっていようか?ずっと佐吉君も黙ってるの大変だろう?」
今日はもう暇だし、そこの休憩室で待ってるよ、と玲人が言うと、助かる、とばかりにブレッシングは素早くカバンから佐吉を引っこ抜いて玲人に投げ渡した。
「ありがとう!その我侭焼き物をよろしく!!」
「うん、終わったら何処かに行こう」
「うん!」
バタバタとエレーベーターの方に走っていくブレッシングの後ろ姿を見つめて、玲人と佐吉は笑う。
「忙しそうだね、『お兄さん』は」
「まあなー、うちで一番忙しいのはきっとブレスだなー。有人のアシスタントもして、ボランティアサークルで活動して、たまに塾とか講師にいって」
「それは大変だな」
「おう、だから玲人に言われた通りちゃんと飛び出さなくなったぞ」
「偉い偉い」
会った時よりは少し成長したんだ、と胸を張る佐吉が面白可愛くて、玲人は笑いながら出会った日のように彼の頭を撫でた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7361 / 響谷・玲人 / 23歳 / 男 / モデル&ボーカル】
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■ ライター通信 ■
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響谷玲人様
ご依頼ありがとうございます。
そして、大変遅刻して申し訳ありません!!!
お詫び申し上げます。
設定とプレイングをみて、「カッコイイ人」と印象を受け、精一杯かっこよさを出してみたのですが、いかがでしょう?伝わりましたでしょうか。
響谷さんと出会い、佐吉もまた成長の一歩を辿ったようです。
それでは、またよろしければ霞谷家にお足の方お運びください。
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