|
|
■月の紋章―戦いの果てに―■ |
川岸満里亜 |
【3087】【千獣】【異界職】 |
目を閉じても、月が見えた。
脳裏に浮かぶ鮮やかな月は、未だ消えない。
|
『月の紋章―戦いの果てに<月夜>―』
安らかな寝息が聞こえる。
決して寝心地のよい場所ではないけれど。
それはとても、心地の良いリズムであった。
だけれど、一人だけ。
眠っていない女性がいた。
千獣は身体を起こし、隣で眠る女性達――リミナとルニナを交互に見る。
そっと、手を伸ばした。リミナの顔の前に。
大丈夫、確かに呼吸をしている。
意識はないけれど、確かに彼女は今、生きている。
同じように、ルニナの呼吸も確かめた後、千獣は一人、立ち上がった。
静かに、ゆっくりと歩き、木のドアを開いた。
外に出て、空を見上げた。
月が、浮かんでいる。
半月だ。
街灯のないこの村で、唯一の明り。
耳に届くのは、小さな虫の音と、夜鳥の声。
村の人々は、誰も起きていない。
誰も、いない。
いつか。
そう遠くない未来に。
もっと寂しい夜は来る。
人々は、長い長い眠りについて。
朝が来ても、目を覚まさなくなるだろう。
(……私、は……何も、出来、なかった……)
目を伏せた。
何一つ、出来なかった。
何の役にも立たなかった。
“命”を助けることが出来なかった。
“未来”を取り戻すことが出来なかった。
一人、村の中を歩く。
リミナとルニナの家の庭。
ここに、今日、2人と一緒に柿木を植えた。
立派な実を付けることを願って。それは多分、数年後だろう。
木を組んで、門も作った。女3人で。
門から外へ出て、土の道を歩く。
この道は、昨日整備した。
皆で、踏んで固めて、平らにしたんだ。
真直ぐ歩いて、水汲み場へと出た。
まだ、水の汲めない水汲み場だ。
だけど、看板だけは出来ている。
皆で、掘って掘って、今日、ようやく水がにじみ出た。
皆、とても喜んでいた。
嬉しそうだった。
水なら、川にいけばあるのに。
雨が降れば、手に入るのに。
珍しいものじゃないのに。
皆、とても嬉しそうだった。
思い浮かぶのは、皆の笑顔。
一生懸命な姿。
汗を拭う様子。
助け合う人々。
あの街――カンザエラでは見られなかった姿だ。
同じ人々だというのに。
千獣が始めてカンザエラを訪れた時、人々は皆、草臥れ果てた様子だった。
人々からは、なんの希望も感じられなかった。
だけれど、今、この新たな村では。
「……希望、ある……」
希望に満ちた、顔に見えていた。
辛く、苦しかった日々。
アセシナートから受けた仕打ちの数々。
千獣が知っているのは、結果だけだ。
長くは生きられないという結果。
皆がどんな仕打ちを受けたのか。
どんなに辛い思いをしてきたのか。
どれだけ大切な仲間を失ってきたのか。
想像も出来ない過去が、彼等にはあるはずなんだ。
それなのに、今の皆は。
そのようなことを感じさせない顔だ。
この新しい土地に、新たな街を作り、生きていくことへの希望に。
リミナもルニナも、街の人々も光り輝いているように、見えた。
自分は何だ?
そんな人々の中で、ただ、後ろだけを見ている。
何も出来なかったことを嘆き悔いているだけなのか?
嘆いて悔いるということは、諦めたということ。
皆は諦めていないのに。
「……私、は……」
どうする?
諦めるのか?
月の光が降り注いでいる。
冷たいだけの光だろうか?
光が弱いと嘆くのか?
それともこの淡い光は、闇の中の、唯一の希望?
輝く世界へと導く、道標?
どう捉えるかは、人の心次第。
この村の人々はきっと、もう月を恐れてはいない。
月の光もまた、彼等の輝きの一部になるのだろう。
「……明日、も……手伝、おう……」
井戸はもうすぐ完成だ。
道の整備も行ないたい。
村の外には畑を作るんだ!
手伝って、手伝って、手伝って――いつか、街が完成するその日には。
伝えよう。
自分の言葉で。
“自分も諦めない”と。
不死鳥は手に入れられなかった。
でも、まだどこかに、別の方法があるかもしれない。
だって、自分はまだ理解していない。
皆の身体の状況も。
それを治す手段も、探してはいない。
ただ、リミナが言っていたから。
リミナが求めていたから、不死鳥を手に入れようとしただけで。
本当の意味で、自ら動いてはいない。
負い目や責任じゃない。
友達、だから。
友達だから、諦めたくない!
そう伝えて。
それから、受けとろう。
“ありがとう”を。
村の中を回って、千獣は手伝える場所を探して回った。
ここも、あそこも、まだまだ。
沢山手を加える必要がある。
やることが沢山ある。
明日も、明後日も、人々は頑張っているだろう。
皆、輝いているだろう。
笑い合っているだろう。
自分も、その中に。
決して諦めず。
彼等と共に、未来を求めていこう――。
来た道を戻り、リミナとルニナの家へとたどり着く。
リミナの隣に横になり、彼女の寝顔を見ながら、お休み、なさい……と小さく小さく囁いて。
目を閉じた。
朝が来るまで、隣で休もう。
朝が来たら、共に歩もう。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3087 / 千獣 / 女性 / 17歳 / 異界職】
【NPC】
リミナ
ルニナ
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
ライターの川岸です。
村が完成するころには、千獣さんも心から皆と打ち解けて、笑い合うことができるといいなーと思いながら、書かせていただきました。
引き続きのご参加、ありがとうございました!
|
|
|
|