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■【妖撃社・日本支部 ―桜―】■

ともやいずみ
【7416】【柳・宗真】【退魔師・ドールマスター・人形師】
「奇妙で奇怪な事件に巻き込まれている、人外の存在に脅かされている、そんな方……ようこそ「妖撃社」へ。
 我が社は誠心誠意・真心を込めてあなた様のお悩みにお応えいたします。
 どんな小さなことでも気軽にご相談ください。電話番号は0120−XXX−XXXまで。
 専門家たちがあなたの助けになること、間違いありません」

 バイト、依頼、それとも?
 あなたのご来店、お待ちしております。
【妖撃社・日本支部 ―桜― 面接】



 都内とは思えないほど、人の少ない場所だ。
 閑散とした雰囲気さえ感じるその場所の奥まったところに、そのビルはある。
 コンクリートの4階建て。お世辞にも綺麗とは言えないそこを見上げる柳宗真は、足を踏み出した。



 一階は無人。事務所は二階にある。
 階段を使って上がり、事務所らしきドアを発見してそちらに近づく。
 ドアはまるでどこかの法律事務所のようなもので、一瞬間違えたかなとさえ感じてしまう。
 そっとドアを押して中に顔を覗かせる。
「すみません、あの、こちら『妖撃社』で……」
「あら。いらっしゃいませ」
 メイドだ。メイドさんがいる。
(……メイド喫茶、じゃ……ないですよね)
 自身に問いかけてしまう宗真の前に、彼女は立つ。西洋人の若い娘はにっこりと微笑んできた。
「ご依頼ですか?」
「いえ、アルバイトの件で」
「まあ! そうでしたか。履歴書はお持ちでいらっしゃいます?」
「持ってないんですけど」
「わかりました。では支部長が面接をしますので、こちらで少々お待ちくださいませ」
 入ってすぐ目の前にある衝立の向こうにあるテーブルとソファ。そちらに案内されて、宗真は腰をおろす。
 きょろきょろと見回した。室内は思ったより狭い。来客用らしいこのテーブルとソファはわりと綺麗なものだ。高価そうなものではない。
 周囲は衝立で隠されている。だがすぐ傍に、人の気配はした。小さないびきが聞こえる。
(いびき……?)
 寝ているのだろうか、誰かが。
 そんなことを考えている間に、奥の部屋のドアが開いて誰かがこちらに一直線に向かってきた。
 衝立がない一角から現れたのは高校生の少女だ。制服姿の彼女に宗真は一瞬、理解ができなかった。
「ようこそ妖撃社、日本支部へ。私が支部長の芦原双羽です」
 彼女はどこか自棄な様子で言うと、宗真の向かい側のソファに腰掛ける。どこからどう見ても、やはり高校生だ。
「うちにアルバイトの面接でいらしたとか」
「そうなんです。初めまして、俺は柳宗真と言います」
「やなぎ……。あぁ、はい」
「うちをご存知ですか?」
 その筋ではいまだに有名な家柄であるため、知っている人がいてもおかしくはない。宗真の問いかけに双羽はきょとんとし、それから苦笑する。
「すみません。私はこういう稼業に詳しくないの。柳さんと同じ苗字の人がうちに居るのでちょっと驚いただけです」
「同じ?」
「彼女は中国人ですけどね。それに日本の苗字とは違うし。
 えっと、それでは話を続けてください」
 そう促されては深く追求はできない。宗真はすぐさま切り替えて、まずは自分がここを探したことを話すことにした。
「妖撃社のことは街角で小耳に挟みましてね。少し調べてみたんですよ。意外にあっさり見つかりましたけど」
「去年の末に日本支部を立ち上げたばかりなんです。まだまだ宣伝中ですよ、うちは」
 海外から進出してきたということは、宗真も知っている。かなり大きな会社らしいことも。
「どうぞ」
 いつの間にかやって来ていた、先ほどのメイドがお茶をそっと出してくる。宗真は軽く頭をさげた。
「フタバ様もどうぞ」
「ありがと」
 軽く返事をする双羽の前にもお茶を置くと、彼女は邪魔にならないようにすぐさま姿を消してしまう。
 湯のみに手をつけずに、双羽は尋ねてきた。
「うちを選んだ、志望動機は?」
「……少し、生々しい話になりますが、いいですか?」
 宗真の、そっとうかがうような瞳に彼女は怪訝そうにする。戸惑ったような瞳になるが、決意したように頷いた。
「俺の家、昔はそれなりの家だったらしく、無駄に広いのです。それの維持費がどうしても……」
「……なるほど」
「もちろん財産は残ってますし、俺も仕事はしているんですが、何かないとも限りませんし……。お金はいくらあっても困りませんからね」
「金銭的な理由で、ということですか」
 双羽は気負った分だけ損をした、というように安堵の息を吐き出す。
「失礼ですけど、お仕事は何を?」
「人形作りのバイトとか」
「……人形?」
 顔を引きつらせる双羽はちょっと考え込むような仕草をし、衝立の向こうに視線を遣る。衝立のせいで向こうは見えないはずなのに。
 彼女は視線を戻して宗真を見る。
「人形、っていうのは人間大とか……?」
「そりゃ頼まれれば作りますけど、普段はこれくらいのいたって普通の人形ですが」
 手で大きさを示すと、彼女はほーっと安心したように微笑む。
「それは良かったです」
「良かった?」
「いえ、こっちのことで。それで、柳さんの能力はどういった感じの? うちにバイトに来るということは、何か特殊な能力をお持ちということですよね?」
「俺の能力は……要は魔力の糸ですね」
「まりょく……」
 彼女はしばし視線をさ迷わせ、微妙な面持ちで「続けてください」と言ってくる。
「魔力で紡いだ糸による物理攻撃やそれを介しての他存在の操作といった感じです」
「魔力ということは、柳さんは人間ではない、ということですか?」
「いえ、俺は人間ですよ?」
「あ、そうなんですか」
「以上です。ほかにも何かあります?」
 いくらでも質問には応えますよという態度でいる宗真は、続けた。
「契約する以上、仕事は真面目にやりますのでその際はどうぞよろしくお願いします」
 頭をさげて、あげる。双羽はにっこり微笑んでいた。
「結果はおって連絡します。連絡先を聞いてもいいですか?」
「あ、じゃあ携帯電話でもいいですかね」
 憶えている自分の携帯番号を告げると、双羽はメモをとった。
「時間帯とか指定はあります?」
「留守番電話にもなっていますし、大丈夫です」
「そうですか。今日はわざわざ来ていただいてありがとうございました」
 双羽が立ち上がったので、宗真もそれに倣って立つ。彼女はやはりあまり背が高くない。
 宗真は最後まで丁寧に振舞う。
「こちらこそお時間をとらせまして。それでは失礼します」
 その場に残った双羽と違い、宗真はメイドの案内で出入口へ通された。結局あまり室内は見れなかった。
(……雇ってもらえたらありがたいですけど)
 しかし支部長があれほど若い娘とは思わなかった。もっと年配の人を想像していたのに。
(能力のことを話しても微妙な表情をしてましたけど……)
 気持ち悪いという感じの顔ではなかったが、よくわかっていないような……そんな顔だったような。
「お疲れ様でした」
 去り際にメイドがそう言ってくれた。宗真はぺこっと頭をさげて事務所を後にする。
 階段を下りて外に出ると、やっと一安心。大きく息を吐き出した。
(露骨に理由を言ってしまいましたが……嘘をつくよりマシでしょうし)
 面接に受からなくてもそれはそれで仕方がない。



 その日の19時。宗真の携帯が鳴り響いた。見たことのない番号だったが、出てみることにする。
「もしもし?」
<もしもし。柳宗真さんの電話ですか?>
 聞き覚えのある声だ。昼間に面接をした、あの支部長のものだった。
 ということは、バイトの合否ということだろう。
「そうですけど」
<検討した結果、バイトとして採用させていただくことになりました>
「……ありがとうございます」
 あまり期待しないようにと思っていただけに、反応が少し遅れた。相手に変に思われなければいいのだが。
<うちのバイトは、派遣と似ていまして。受けた依頼の中から、バイトが自分の都合に合わせて選ぶことができます>
「はい」
<なので、柳さんの都合のいい時間と仕事内容で選んでもらえます。仕事内容で難易度が変わりますので気をつけてください。無理せず、自分の力量で解決できる仕事を選ぶほうがいいと思います>
「わかりました」
<後日、正式な手続きをしますので、履歴書を持参の上、再度こちらまでお越しください。うちの社員も紹介します>
「いつ行けばいいですか?」
<……そうですね、都合のいい日でいいですよ。こちらは大抵誰かいますので。平日の夕方以降と、土日は私も必ずいますから>
「そうですか。えっと、では、明日が日曜なので明日履歴書を持ってそちらに伺います」
<えっ!? は、早いですね……>
「膳は急げと言いますし」
 嬉しそうにはきはき言う宗真は、カレンダーへと視線を走らせる。やはり明日は何も用事が入っていない。
<わかりました。ではお待ちしております>
「ありがとうございました」
 そう言って通話を切ると、ふぅっと息を吐いた。
 どうやら面接は受かったらしい。やった。



 日曜の15時。履歴書を持って再度妖撃社へと赴く。
 二階の事務所のドアを開け、声をかけた。
「すみません、バイトの柳ですけど」
「うーっす」
 挨拶のつもりだろうか。そんな声をかけてきた若いポニーテールの娘がニカッと笑う。
「シンだよ。よろしく。
 フタバーっ! バイトくんが来たよーっ」
 大声で奥へと呼びかけると、ドアが開いて双羽が出てきた。
「こんにちは。じゃあこっちへ」
 来客用の、昨日通されたソファへと連れて行かれ、腰掛けた宗真は早速履歴書を出した。久しぶりに書いたので、なんだか少し緊張してしまう。
「確かに受け取ったわ。じゃ、よろしくね。うちは人助けをモットーとし、とにかく仕事を無事に終わらせることが大事なの」
 気さくな喋り方に変わった双羽は、ソファに座らずに衝立を一つずらしてどける。室内に用意されている仕事用のデスクが4つと、長いすが一つ。
 机に向かって、ちまちまとフィギュア製作をしている幼い美少年。先ほど声をかけてきたポニーテールの娘は長いすに転がって寝ようとしている。積まれたファイルに目を通している、フードを深く被って顔が見えない男。そして昨日お茶を出してくれたメイドがホウキを持って室内を軽く掃除していた。
「今日からバイトに入った柳さんよ。ちょっとみんな、自己紹介して!」
 双羽の一喝で全員動きを止め、のろのろと宗真を見てくる。全員若い。
 宗真は立ち上がって、先に口を開いた。
「柳宗真です。どうぞよろしく」
 ――なんだか癖の多そうな連中だ。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7416/柳・宗真(やなぎ・そうま)/男/20/退魔師・ドールマスター・人形師】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、柳様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 妖撃社へようこそ。面接に合格したようです、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。