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■【妖撃社・日本支部 ―桜―】■

ともやいずみ
【7403】【黒城・凍夜】【何でも屋・暗黒魔術師】
「奇妙で奇怪な事件に巻き込まれている、人外の存在に脅かされている、そんな方……ようこそ「妖撃社」へ。
 我が社は誠心誠意・真心を込めてあなた様のお悩みにお応えいたします。
 どんな小さなことでも気軽にご相談ください。電話番号は0120−XXX−XXXまで。
 専門家たちがあなたの助けになること、間違いありません」

 バイト、依頼、それとも?
 あなたのご来店、お待ちしております。
【妖撃社・日本支部 ―桜― 面接】



「あら。いらっしゃいませ」
「…………」
 明るい金色の髪と、優しそうな顔立ち。幼いそれは、高校生くらいにみえる。だが衣服がメイドだ。濃紺のスカートの上にはエプロン。ヘッドドレスまでつけている。
「ご依頼ですか?」
「いや、バイトの……面接に」
 場所を間違えたか? と黒城凍夜は怪訝そうにする。
 開いたドアにもう一度目を遣った。ガラスのドアには何も書かれてはいない。
「妖撃社へようこそ。面接のほうは支部長がしますので、こちらへ」
「あ……あぁ」
 事務所は二階にある。凍夜はそこに来ていた。
 簡素な四階建てのこのビルには、妖撃社という会社が入っている。凍夜はここに、アルバイトの面接に来たのだ。
 ドアを入ってすぐに、室内を視界に入れないようにという配慮か、衝立がある。メイドに先導されてその衝立の向こうに進むと、ソファとテーブルが目に入った。来客用のものだということは、すぐにわかった。
「こちらにおかけになって、お待ちくださいませ」
 柔らかく微笑むメイドは会釈して衝立の向こうに消えた。
 凍夜はソファに腰掛ける。狭い室内なのは、入った瞬間にわかっていた。
(妖撃社……か)
「お待たせしました」
 衝立のない一角から、声が入ってくる。同時に、その人物も。
 10代半ばの顔立ち。制服姿なので、高校生だろう。平凡的な顔立ちなので、凍夜はちょっと考えてしまう。
 向かい側のソファに腰掛けた彼女は、無理に作った様子の笑顔を浮かべた。
「妖撃社、日本支部の支部長をしています。葦原双羽です」
「こんにちは。……君が支部長なのか?」
 うかがうように見ると、双羽と名乗った少女は目を細め、ツンとした表情をした。
「…………」
「いや、失礼。少し意外だったのでね。一般人で異能者を束ねるとはどんな化けも……。悪い、気を悪くさせてしまったなら謝ろう」
 彼女は居住まいを正し、口を開く。
「私自身にはなんの力もないわ。私はどこにでもいる一般人だから」
「一般人?」
「私は彼らを力で抑えつけてるわけじゃない。私が彼らの上司だから、従ってくれるだけ」
「そうなのか」
 信じられない気持ちだ。異能者でありながら……普通の人間になんの抵抗もなく従うなんて。
 双羽は小さく苦笑した。
「彼らが本気を出せば、私なんて簡単に殺されるわね」
 そこには怯えなどはない。
「年齢でよく信じられないとか言われるけど、そういう見方をしたってことは、あなたは異能者ってことね」
「コホン。……まず俺がこの会社の存在を知ったのは俺の仕事の際、獲物が事前に始末されていたことがあってな」
 話を戻すと、彼女はこちらを品定めするように見てくる。
「誤解しないでくれ。別に商売敵というわけじゃない」
「そうですか」
「フリーの退魔師をしているだけなんだ」
「タイマシ……あぁ、えっと、うちの遠逆さんと同じ……かしら」
 目を泳がせる双羽はなんとか納得したようだ。本当に一般人だというなら、どうしてこんな仕事をしているのか不思議でならない。
「トオサカ?」
「気にしないでください。続けて」
 促され、凍夜は続ける。
「まあとにかく、そのあと少し気になって知り合いの情報屋に聞いたんだ。フリーの退魔師は多々いるが、今回のはあまりにも後始末が綺麗過ぎたからな」
「……それ、うちがやった仕事ということですか」
 双羽は片眉をあげる。メイドが衝立の向こうからやって来て、青いファイルを双葉に渡した。
「おそらく、こちらでしょう」
 ファイルを開いて双羽に示すメイドは、邪魔にならないようにとすぐにさがった。
 書類に目を通している双羽は顔をしかめる。
「あぁ……なるほど」
 一人で納得した彼女はファイルを閉じ、テーブルの上に置く。
「うちの仕事ですね。担当者を呼んで話を聞きますか?」
「あ、いや……それでこっちへ来たわけじゃなくて」
 双羽はちょっと目を丸くすると、「あ」と小さく洩らした。こほんと咳をする。
「アルバイトの面接でいらっしゃってたんでしたね」
 少し照れ臭そうに目を逸らして言う双羽。ちょうどタイミングを見計らったようにメイドの娘がお茶を運んできた。
「どうぞ」
 と、凍夜の前にお茶が置かれる。湯気がゆるやかにのぼっていた。彼女は双羽の前にも湯のみを置く。
「どうぞフタバ様。ファイルはもう下げてよろしいでしょうか?」
「うん。下げて」
「かしこまりました」
 メイドはテーブルの上の青いファイルをさっと取り、「失礼します」と一礼してこの場から去った。
 双羽はきりっと表情を引き締める。
「志望動機を聞かせていただけますか?」
「動機は、仕事の量を増やしたいからといったところだな」
「なるほど」
「仕事は真面目にするつもりだ」
「つもり、では困りますね」
 はっきりと双羽はそう言い放つ。
「お金を支払う以上はきっちりまじめにやってもらわないと困ります。
仕事とプライベードは完全に分けてもらわなければいけません」
「…………」
「仕事は、仕事です」
 強い言い方に、彼女はやはりここのトップ責任者だと思い知らされる。
「ではあなたの持つ能力について聞かせていただきます」
「俺の能力は、血液を操る」
「血液?」
 眉をひそめる双羽に、凍夜は説明した。まぁ、普通に聞けばよくわからないとは思う。
「血で武器を作ったり、爆破したり」
「……貧血になりそうな能力ですね」
 言うと思った。凍夜はそこは気にせずに続ける。
「後は、魔術による身体強化と合わせての接近戦が得意だ。闇属性魔術も使えるが、そっちは滅多に使わない」
「…………」
 顔をしかめて難しい表情をしている双羽に、凍夜は不思議そうにした。
(物凄い顔をしているな……)
 彼女はちょっと視線を天井に向けて考え、質問してくる。
「魔術、ということは、魔術師の類いですか? 人間ですよね?」
「人間だが、ちょっと事情があってな」
「………………わかりました。採用に関してはおって連絡をさせていただきます。お疲れ様でした」
「あぁ、はい」
「後で連絡をしますので、連絡先をお願いします」
「携帯でいいか?」
「いいですよ」
 メモをとる双羽はやはり、どこにでもいる女子高生だ。とても支部長には見えない。
 立ち上がった双羽に倣って凍夜も腰をあげる。立ち去ろうとしない凍夜に彼女は不審そうにした。
「どうかしました?」
「……判断するのは君だが……できればいい返事を期待するよ。……さっきは悪かったな。では俺は失礼するよ」
 入ってきたルートを逆に辿って出て行こうとするが、ドアを開こうとした矢先に、誰かに開かれる。
「どうぞ。お疲れ様でした」
 にっこり微笑んで開けてくれたのは、最初にここで会ったメイドの娘だ。西洋人でありながら、日本語はかなり流暢である。
「あ、ども」
 普段は感謝とかあまりしないのに、あまりに笑顔が可愛くて反射的に頭をさげてしまった。
(趣味なのか……?)
 格好について尋ねたいが、まぁそれは個人の嗜好だろうから気にするべきではないだろう。
 事務室から出て、階段を使って一階へ。そしてそのまま建物から外に出た。
(自己アピールのつもりで、まぁ普段通りに対応したんだが)
 ちょっと、まずかったかもしれないなと凍夜は考える。
 フリーである時は気にもしないことだが、誰かの下につくということは今までのように勝手はできないということでもある。
(仕事を斡旋、という感じとはちょっと違う雰囲気だったしな)
 きちんと仕事を管理している様子がうかがえた。
 仕事を紹介して、解決してオシマイ……という感じではない。
(…………)
 ちょっと考えて、妖撃社の入っているビルを振り返る。なんの装飾もない、コンクリートのビル。
「……いい返事がもらえるといいんだが」



 その晩、凍夜の携帯が鳴り響いた。ちょうど風呂からあがったところだったので、洗った髪をタオルで拭きながら出る。
「黒城だが」
<妖撃社、日本支部の芦原双羽です。バイトの件でお電話をさせていただきました>
「あ、どうも」
 反射的にそう返してしまったのは、双羽が律儀に名乗ったせいだ。緊張感が電話越しでありながら、こちらにも伝わる。
<検討させていただいた結果、バイトとして採用をさせていただくことになりました。登録の手続きをしますので、働く気がおありでしたら履歴書を持参の上、後日またこちらにおいでください>
「……履歴書だけ?」
<とりあえずはそれだけでいいです。詳しい説明はその際にさせていただきます。
 うちの社のバイトは派遣と似ています。お好きな仕事内容と時間帯で、選んでいただいて結構です>
「そうなのか」
<ただ派遣とは違って、うちは仕事斡旋所ではありません。黒城さんには、うちの一員としての自覚を持っていただきます>
 妖撃社の看板を背負って仕事をするということだろう。若い娘のくせに、なかなかプレッシャーをかけてくるじゃないか。
 仕事を請けた以上は、それは凍夜個人で済む問題ではないということだろう。
 自分の仕事を先に綺麗に片付けられていた様子を思い出す。これが「会社」ならではということなのだろう。
(単に仕事が増えてラッキーというわけじゃない、ってことか)
 どこかに所属するということは、それなりのリスクがある。まだリスクが低めなのは、アルバイト員だからだろう。
「わかった。では後日、履歴書を持ってそちらに行く」
<私がいない場合もありますが、社員には話を通しておきますので彼らに従ってください。
平日の夕方以降と土日なら、私はいますので>
「休みの日とかは?」
<基本的にありません。私がいなくても誰かは必ずいます。事務所が閉まっていても、上の階に社員が暮らしていますので、そちらにいらっしゃってもいいです>
「わかった」
 履歴書か……。買ってこないといけない。
(コンビニにあったよな、確か)
<それでは失礼します>
 通話が切れ、凍夜はしばし携帯を見遣った。あ、いけない。
(これから雇ってもらうのに……またやっちまった)
 彼女が今度から自分の上司なのに……。いや、次からはきちんとしよう、そのへんは。
 濡れた髪を拭き、凍夜はベッドに腰掛ける。さて、履歴書を書いたらいつ持っていこう?
(早いほうが……いいよな)
 


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7403/黒城・凍夜(こくじょう・とうや)/男/23/退魔師・殺し屋・魔術師】


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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、黒城様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 妖撃社へようこそ。面接には合格したようです。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。