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■INNOCENCE / 白亜の館■

藤森イズノ
【7192】【白樺・雪穂】【学生・専門魔術師】
何とも満足そうな笑みを浮かべる、海斗。
無表情ではあるものの、梨乃も、内心は非常に満足しているようだ。
二人は、見つけた”逸材”を、とある場所へと連れて行く。
半ば、強引に。

海斗に手を引かれる逸材は、状況が飲み込めずに不可解な表情をしている。
まぁ、無理もない。
事態を把握しようと、どういうことなのかと尋ねても、
海斗と梨乃は、微笑むばかりで、一向に説明してくれないのだから。
説明不足な二人の所為で、逸材の不安や不満は膨らむばかり。

廃墟が並ぶ、不気味な地に踏み入り、逸材の不安が頂点に達した時。
海斗と梨乃は、アイコンタクトをとり、揃って前方を指差す。

彼等が示した先には、美しい白亜の館があった。
INNOCENCE 白亜の館

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OPENING

何とも満足そうな笑みを浮かべる海斗。
無表情ではあるものの、梨乃も、内心は非常に満足しているようだ。
二人は、見つけた”逸材”を、本部へと連れて行く。

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異界辺境森の中を疾走する少年と、それを追う少女。
少年は、腕にとても可愛らしい少女を抱えている。
お姫様抱っこと呼ばれるスタイルで抱えているが、
断じてロマンチックな展開中というわけではない。断じて。
少年は、組織INNOCENCEのエージェントで、
新エージェントを探してスカウト活動中だった。
その中で、目に留まったというか、
少年のお眼鏡にかなってしまったのが、この可愛らしい少女…雪穂だ。
少年は、雪穂にあっさりとスカウトを断られたが、
諦めるという選択肢が彼にはないようで、
突然、雪穂を抱きかかえて走り出した。
組織本部へ連れて行くのだという。
熱血というか勝手というか何というか…。
よほど気に入ったのであろうが、これでは確実に人攫いだ。
人攫い以外の何者でもない。
突飛で勝手な行動に出た少年を、少女は必死に追っている。
拉致と併せて、ささやかな鬼ごっこも、同時展開中だ。
雪穂を抱きかかえたまま本部へと走る少年は、
道中、何度も痛い目に遭った。
重ねて言うが、雪穂はスカウトに応じる気がない。
無理矢理勝手に、どこかへ連れて行かれて、良い気分なわけもない。
雪穂はブスッとした表情を浮かべたまま、
彼女を護る存在である護獣、
白虎の子[白楼]と黒豹の子[正影] 二匹の力を魔法で増幅させ、
めいっぱいの力で少年を引っ掻いちゃってと命じたり、
巨大な魔獣を召喚して少年の肩を丸ごとオトそうとしたり、
様々なスペルカード[罠]を少年の行く先々にしかけてみたりと、
積極的に”不快”を伝えようと試みた。
けれど、どんなに痛い目に遭っても少年は雪穂を離さない。
傷だらけになっても尚、雪穂を抱えて走っている姿は、
さながら姫を護る王子か騎士のようだ。
…まぁ、姫にバッコバコ攻撃をしかけられて傷を負ってるわけだが。

「はぁ…はぁ…っしゃ、着いたぞっ」
雪穂をゆっくりと降ろして言う少年。何だかんだで本部に到着してしまった。
森の奥深く、真っ暗な森の中に建つ、白亜の館。
館の周りを漆黒のコウモリが飛び交っている様は、ミステリアスだ。
「………」
館を見やった後、すぐに溜息を落として少年を見やる雪穂。
雪穂は少年に呟くように尋ねた。
「欲しいものは、手に入れないと気が済まないタイプ?」
少年はニコリと微笑み、傷だらけの頬を掻きながら返す。
「そーだね。そういうタイプかな。こういうタイプは嫌い?」
「…大嫌い」
「うわ、即答。女って引っ張ってってくれるような男が好きなんじゃねーの?」
「…あなたの場合は引っ張るっていうより、誘拐だもの」
「あいたたた…痛いトコつかれた」
ペシッとオデコを叩いてケラケラと笑う少年。
雪穂は呆れて溜息を何度も落としつつ、
スペルカード[回復]を取り出し詠唱して、少年の傷を瞬時に癒す。
「この子達、成獣形態にしたら少しは大人しくなってくれてたかしら」
雪穂のその言葉に、傷が癒え元気になった少年がふと見やると、
巨大な白虎と黒豹が雪穂を護るように立っていた。
(うへぇ…うん。これはちょっと…勘弁だね)
白虎と黒豹の大きさに怯み、少年が苦笑を浮かべていると…。
パコーンッ―
「ばかぁっ!!」
ようやく追いついた少女が、勢いそのままに少年の頭を叩いた。
「いっ…」
後頭部を抑えつつ、その場にしゃがみこむ少年。
「何考えてんのっ、あんたは!これじゃあ誘拐じゃない!」
「だって、お前…ダラダラ説明してっからさー」
「あたりまえでしょ?こういうのは、順番にゆっくりやらなきゃ駄目なの」
「めんどくせーじゃんかー」
「相手のことを考えなさいっ。まったくもぅ…!」
腕を組みプンスカと怒っている少女。
まるで、少年を叱る姉か母のようだ。叱り慣れている。
今日だけでなく、いつも苦労しているのだろう。
「ごめんなさい。本当に…こんな所まで連れてきてしまって」
申し訳なさそうに言う少女。雪穂は護獣二匹をポンと元の大きさに戻すと、
日傘でコツンコツンと地面を叩きつつ館を見やり、
「せっかく誘拐されたのだから、少し寄ってみようか」
そう言ってスッと目を伏せた。
仕方ないから付き合ってあげる…という優しさの一種だった。



館は外観だけでなく内装も真っ白だった。
壁も床も何もかもが純白。館に踏み入ると同時に、体は眩暈を覚えた。
瞬間的に歩むことをピタリと止め、雪穂は辺りを見回す。
そこでようやく、雪穂は気付く。
何もかもが真っ白に見えるのは、錯覚。
そう見えるよう、誰かが館全体に何かをしかけているのだ、と。
それに気付くことが出来れば、何のことはない。
一見、延々と真っ白な空間が続いているように見えるが、
きちんと、理解できる。どこに、何があって、館が、どんな構造であるかを。
雪穂は再びスッと一歩を踏み出し、歩き始めた。
前方から、その様子を伺っていた少年と少女は顔を見合わせて頷く。
ポィッと、白亜の空間に投げ込まれて、平常を保てるか。
また、からくりを見抜き理解に及ぶことが出来るか。
館に一歩踏み入った、その時。
ようやく、スカウトの最終段階は終了する。

館内を案内しながら少年は言った。
「…で、エージェントには個室が用意されるんだけどさ、キミ…いる?」
少年いわく、組織に所属するエージェントには、
一人一室、個室が与えられるという。
例えきちんとした自宅があっても、
個室は倉庫や仮宿として有効に使える為、不要だと言う者は滅多にいないが、
まったく必要ないというのなら、登録を抹消する手続きが必要だ。
個室も無尽蔵ではないので、必要とするエージェントへ優先的に与えねばならない。
組織で活動するにあたり、不満を抱いたまま動いて欲しくないという、
組織のトップ・ボスの計らいによる定めなのだ。
まぁ、実際…いる?と聞かれても雪穂は困る。
所属する、だなんて一言も言っていないのだから。
発言から、少年に諦めるという選択肢は存在していないことを悟り、
雪穂はフルフルと首を左右に振りながら溜息を零した。
「勝手に話を進めるクセ、何とかしなさいよ」
雪穂が呆れているのを見て、少女は少年にムッとした視線を向ける。
「へいへい。まー、とりあえずはマスターに会ってもらわねーとな」
案内と説明を受けている最中、幾度となく出てきた”マスター”という言葉。
彼等の話から察するに、組織のトップである人物なのだろう。
「あの…今日はとりあえず、見学ということで、このまま戻られても構いませんけど」
申し訳なさそうに提案してくる少女。
少年が無理矢理ここに連れてきただけであって、
雪穂は、同意してここへ来たわけではない。
せっかく連れてこられたのだから、少し見ていくとは言っていたものの、
マスターとの面会まで行ってもらうのは、気が引けてしまうようだ。
とはいえ、それは少女の提案。少年が、それに同意するはずもない。
「はっ?お前何言ってんの。会ってもらうに決まってんだろ」
「あんたねぇ…いい加減にしなさいよ」
「そりゃーこっちの台詞だっつーの」
「いい?いつも言ってるけど、勝手に話を進めるのは、失礼なことなのよ」
「お前なぁ、せっかくここまで来たんだぞ?」
「あんたが勝手に連れてきたんでしょ?」
平行線を辿るばかりの少年と少女の遣り取り。
まぁ、どちらの言い分も理解できないこともない。
雪穂はヤレヤレと肩を竦めると、一人勝手に階段を降りて行く。
「あっ、あの!ちょっと…」
慌てて後を追う少女。少年は満足そうな笑みを湛えている。
雪穂が向かう先は…一階、マスタールームだ。



「もう連絡は済ませてあるからさ。後は、適当に話せばいーから」
マスタールーム前、ニコニコと微笑みながら言う少年。
スカウトに成功した、ということで、
少年は既にマスターという人物に、その旨を報告しているそうだ。
何というか…この少年は、選択の余地なし…という状況に追い込むのが巧い。
今までも、こうしてスカウトを続けてきたのだとしたら…。
散々な目に遭っている人物が組織内に結構いるのではないだろうか。
雪穂は、そんなことを思いつつ…マスタールームの中へ。

マスタールームもまた、一見すると唯の真っ白な空間だった。
扉の先に、延々と…白亜の世界が広がる。
けれど心を研ぎ澄ませば、理解することが出来ると同時に、
この空間は球体内部だということに気付く。中心には…ソファ。
そこらじゅうに、紋章のようなものが刻まれている。
ソファには灰色のローブを纏った老人が座っていた。
テクテクと歩み寄り、少し距離を保った位置で止まって、雪穂は一礼する。
ゆっくりと顔を上げる老人。
フードを深く被っている為、表情はいまいちわからないが…男性のようだ。
老人はジッと雪穂を見つめ、淡く微笑んで言った。
「ほぅ…これはまた、立派な能力を備えておる。おぬし、いくつじゃ?」
「十二」
「ふぁっふぁっ…それはそれは。末恐ろしいのぅ」
雪穂の年齢を聞いて、老人は何かを悟りつつ、からかうように笑う。
まるで、全てを見透かされているような感覚に覚える、不快感。
雪穂はフゥと溜息を吐いて、老人に忠告した。
「あの男の子だけど…いったい、どんな教育してるの?」
雪穂の言う”男の子”とは、少年のこと。
自分を抱えて、無理矢理ここへ連れてきた、あの少年のことだ。
老人は、すぐに誰のことを言っているのか理解したのだろう。
少し困った顔で笑い、俯いて、こう返す。
「あれには…わしも手を焼いておるんじゃ、元気なのは良いんじゃが…なぁ」
どうやら、誰に対しても少年は、あの調子らしい。
上司にあたる、この老人にも、あの勢いで突っ込んでいるようだ。
やれやれ…と肩を竦める老人に、雪穂は淡々と告げる。
「私…ここにお世話になる気はないから」
「じゃろぅなぁ。顔を見ればわかるわい」
苦笑しつつ老人は言った。
ノリ気で来たのか、そうではないのか。
その位は、相手の顔…目を見ればすぐに理解る。
大方、少年に無理くり連れてこられたのだろうと老人は悟り、
無理に所属してもらう気はないから、
今日はこのまま、家に帰って構わない…と告げようとした。
だが、その時。
雪穂のスペルカードが、勝手に息づく。
(…あら)
懐でモゾモゾと動く自身のカードの鼓動に気付き、
彼等を抑えようと、胸をグッと押さえる雪穂。
けれど、どんなに抑えても無駄で。カードの鼓動は高鳴るばかり。
ポンッ ポンッ―
(…もう)
胸元から飛び出す二人に、呆れ返る雪穂。
彼等はスペルカードに宿る、二種の人格。
ごく稀に、こうして雪穂を無視し、勝手に飛び出してきてしまう。
スペルカード[剣]と、スペルカード[レイピア]
二種のカードに宿る人格は、対なる豪と柔。
飛び出してきた人格は、高い魔力を持つものには、普通の人間のように見える。
「ほぅ…」
雪穂の胸元から出現した二種の人格に感心する老人。
二種の人格は、何やら交互に雪穂に耳打ちをしている。
面倒くさそうな雪穂の表情から察するに、
何を耳打ちされているのかは、何となく把握できた。
微笑みながら、老人が様子を伺っていると、
ハァ…と大きな溜息を落とし、雪穂は勝手に出てきた二種の人格をカードに戻すと、
「所属はしないけど、手伝うくらいなら」
そう言って老人をジッと見据えた。
根底に変化はない。組織の一員としてではなく、
必要なときに、都合が合えば、協力する。その程度だ。
老人はファッファッと笑い「構わんよ。感謝する」と言ってスッと目を伏せた。



マスタールームから出てきた雪穂を笑顔で迎える少年。
「よっ。どーだった?」
雪穂は目を伏せて、少年に告げる。
「所属はしないわ」
「えぇー?」
「でも…手伝うくらいなら。都合が合えばね」
「………」
腕を組み、何だか納得いかないといった表情を浮かべる少年。
そんな少年の背中をパシンと叩いて、少女は言う。
「ありがとうございます。十分です」
エージェントとして所属してくれなくても、
必要なときに協力してくれるだけで、ありがたい。十分だ。
少女は微笑み、雪穂に告げる。
「私は梨乃。こっちは海斗です。あなたのお名前は?」
「…雪穂。白樺・雪穂」
「雪穂さん…ですね。えと…これから、よろしく御願いします」
「うん、まぁ」
ペコリと礼儀正しく礼をして言う少女に、
雪穂は溜息混じりで、言葉を返した。
少年は何だか不満そうにしているが、
雪穂が協力者として存在することは、
この先、組織に大きな変化をもたらすことだろう。
不満なんて、吹き飛ぶほどに。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

7192 / 白樺・雪穂 (しらかば・ゆきほ) / ♀ / 12歳 / 学生・専門魔術師

NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント

NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / INNOCENCE:マスター(ボス)  

■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは! 毎度さまです^^
ゲームノベル”INNOCENCE”への参加・発注ありがとうございます。
発注・参加 心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ幸いです。

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2008.03.06 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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