■INNOCENCE / 梨乃の手料理 (限定受注)■
藤森イズノ |
【7403】【黒城・凍夜】【何でも屋・暗黒魔術師】 |
フラリと立ち寄ったINNOCENCE本部。
とりあえず依頼板でも確認してみようかと、リクエストルームへ向かう。
その途中。
大きな紙袋を抱えて歩く梨乃を見かける。
紙袋には、野菜や肉、果実などあらゆる食材が入っているようだ。
梨乃の足取りは、フラフラしている。重いのだろう。
「っとと…」
バランスを崩す梨乃。
傾いた紙袋から、オレンジが一つ零れ落ちる。
コロコロと、足元へ転がってきたオレンジ。
それを拾い上げると、梨乃はパタパタと駆け寄って言った。
「すみません。ありがとうございます」
拾い上げたオレンジを渡すと、
梨乃はペコリと頭を下げ、ジッとこちらを見やった。
「…?」
何だろうと首を傾げると、
「お腹、空いてませんか?」
梨乃は、ニコリと微笑んで言った。
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INNOCENCE ニックネームと絆創膏
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OPENING
特に何の用もないのだが、近くを通りかかったので、
INNOCENCE本部に顔を出してみる。
まぁ、相変わらず。
本部内には、様々なエージェントがいる。
これから任務に出掛けるであろうエージェントから、
そこらへんに転がって仮眠をとっているエージェント、
他愛ない話でキャッキャと盛り上がっているエージェントなどなど…。
来たものの、どうしようか…と思いつつ、
とりあえず二階へ行こうと階段を登りだした時だった。
「あ!」
背後から聞き覚えのある、いや…ありすぎる声が。
振り返ると、そこには笑顔の海斗と、ペコリと頭を下げる梨乃がいた。
何か用かと二人に尋ねると、海斗は楽しそうに笑って、
「ちょっと来いよ。会わせたいヤツがいるんだ」
そう言って、またも強引に手を引き、どこかへと連れて行く。
どこへ行くのかと思いきや、連れてこられたのは、本部二階の医療室。
任務で怪我を負った者や、具合の悪い者が利用する、
学校でいうなれば、保健室のような場所だ。
アルコール消毒液の香りが漂う医療室。
そこで、二人のエージェントと出会う。
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「あっはは!まーた怪我してんのか」
ケラケラと笑いつつ医療室へ入り、近場にあったソファに腰を下ろす海斗。
消毒液の漂う医療室には、二人…見慣れぬエージェントがいた。
一人は女性、まぁ…普通に綺麗な。美人に類される女性。
もう一人は、男性。というよりは少年か。
少年は腕に擦り傷を負っているようで、女性に手当てしてもらっている。
ペコリと軽く頭を下げる凍夜。
すると梨乃が、見慣れぬエージェント二人に凍夜を紹介した。
「えと、彼が…凍夜さんです」
その言葉に反応するエージェント二名。
女性エージェントはクスクス笑い、少年の鼻に絆創膏をペタリと貼りつつ言った。
「なるほど。キミが噂の”すぺしゃる新人くん”ね」
(すぺしゃる…?)
首を傾げる凍夜。女性はニコリと微笑み、
スッと立ち上がって頭を下げ、自らの名前を名乗った。
「はじめまして。青沢・千華です」
「あ?あぁ…」
言葉を返すと同時に、少年もスッと立ち上がり、
同じように頭を下げ、自らの名前を名乗る。
「僕は浩太。黄田・浩太です。よろしく御願いします。お噂はかねがね…」
「あ?…あぁ」
言葉を返しつつ、凍夜は疑問を抱く。
女性が言った”すぺしゃる新人くん”と、
少年が言った”お噂はかねがね…”という言葉が、どうも気になる。
凍夜は梨乃に尋ねた。
「なぁ、よくわからないんだが…」
梨乃はクスクス笑い、凍夜の背中をポンと叩く。
「すっかり有名人ですよ。凍夜さんは」
「はぁ…?」
初任務での活躍っぷり、迅速且つ的確な判断力。
それらは、初任務に同行した海斗と梨乃によって、
レポートという形になり、マスターへと報告された。
その報告レポートをマスターが先日、
本部一階にあるリクエストボード横に掲示したらしい。
それを見て、エージェント達は一斉に凍夜の存在を知る。
レポートが張り出されて今日で、ちょうど三日。
既にINNOCENCE本部にて、凍夜の名前を知らぬ者はいない。
この見知らぬエージェント二人も、その類…というわけだ。
「掲示って…知らないんだが…」
レポートが掲示されたということを知らなかった凍夜。
それどころか彼は、あの初任務の後、
海斗と梨乃が報告レポートなんてものを作成していたことさえ知らなかった。
「っはは。見るー?ここにあるよ。じゃーん…!」
懐から一枚、紙を取り出して見せる海斗。
それは報告レポートのコピーだった。
凍夜はジッと、それを見やる。
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初任務報告レポート
遂行エージェント:黒城・凍夜
遂行レベル:S
討伐対象モンスターである『ガルカス』を、
『ブラッディソード』にて一撃粉砕。
戦闘時の姿は、鬼神の如し。
加えて同行エージェントである梨乃の危機に対し、
迅速な対応を行い彼女を難なく救出。
判断力、行動力 共にトップクラスである。
※写真は、梨乃を救った瞬間のもの。
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レポートの最下部には、凍夜が梨乃の前に立ち、
ガルカスを迎え討っている様の写真が二枚貼られていた。
かなり、格好よく映っている。
カメラアングルからして、何というか、こう…。
姫を救う王子…のような。
あの任務の際、現場にいたのは凍夜と梨乃と海斗のみ。
ということで、この写真は海斗が撮ったものだということが判明する。
「…いつの間に」
「っはは。すげーカッコいーっしょ?モッテモテだよ、これで」
「………」
「ほら、お前に渡してくれって頼まれた手紙。いいねーニクイねー」
懐から数枚、封筒を取り出して凍夜に差し出す海斗。
報告レポートの文面と写真の効果により、
女性エージェント達の間で、凍夜は『王子』的なポジションと化したようだ。
凍夜は封筒を受け取るも、すぐさま、それをテーブルの上にポィッと投げやる。
「あっ、何だよー。読めよー。ここで読めよぉぉぉ」
「…興味ない」
凍夜にとって、見えぬところでキャーキャー言う女は興味を引かないらしい。
接触したいなら、自分で渡しに来い、という思いもあるようだ。
うーん、クール。それでいて筋も通っている。
「…っていうか、俺のあれ…こんな名前じゃねぇから」
レポートにある『ブラッディソード』の表記を示して言う凍夜。
任務の際に凍夜が自身の血液を変換させ、出現させた剣。
それを見た瞬間に海斗は『ブラッディソードだ!』と騒いでいた。
この文を記載したのは、明らかに海斗である。
凍夜のあの剣には、名前なんて存在しないのに…。
「いーじゃん。カッコいーじゃん。俺好きだよ、ブラッディソード」
「だから、名前なんてないんだって……」
海斗と凍夜の言い合いに、
梨乃と女性エージェント、少年エージェントはクスクスと笑った。
名前を名乗った見知らぬエージェント。
女性の方は千華、少年の方は浩太。
千華は古株エージェントで、藤二の幼馴染だという。
また、任務の合間に副業としてモデル業も行っているとのこと。
浩太は海斗や梨乃と、ほぼ同期のエージェント。
あまり大っぴらにしたくないらしいが、
彼はIO2のレイレイと付き合っているとのことだ。
「レイレイと付き合ってるのか…大変だろ」
ポツリと呟く凍夜。浩太はキョトンをして返す。
「え?何がですか?」
「ディテクターだ。あいつ、過保護だから」
「あ。あぁ〜…。そう、ですね。はい」
クスクスと笑う浩太。
凍夜が言ったとおり、ディテクターは過保護である。
妹であるレイレイを大切にしており、その度合は溺愛と言える。
ディテクターやレイレイと食事に出掛けたり、
IO2の仕事を少し手伝ったりしている為、凍夜は彼等と親交深い。
ディテクターの性格や過保護っぷりは、いつも目の当たりにしている。
実際どうなのかというと。
レイレイとデートをする際、
浩太は、いつもどこからか妙な視線を感じるそうだ。
間違いなく、ディテクターが尾行ているのだろう。
手を繋いだりすると、空き缶が飛んでくるらしい。
「…俺から、今度言っておくよ」
「え?」
「そんなんじゃあ、ゆっくりできないだろ」
「そ、それは…そうですね」
照れ笑いする浩太。凍夜が釘を刺すことで、
ディテクターも、これからは少し大人しくなる…かな?
「不思議な能力ね、それにしても」
凍夜を見つつ言う千華。
彼の『血液』に興味を抱いているようだ。
確かに、かなり珍しい能力。貴重な人材である。
「…そんなに、良いものでもないさ」
目を伏せ、苦笑して返す凍夜。
彼の能力…それは、とある存在から与えられたもの。
欲して得た大きな力ではあるが、それを自慢するような真似を、彼はしない。
力を欲した理由が、胸を張って誇れるようなものではないから…。
「…そうだ!ニックネームつけなきゃね」
何だか重苦しい雰囲気になったところを、千華がニコリと微笑んで払う。
「ニックネーム…?」
「そう。そうねぇ…何が良いかしら。うーん…」
腕を組み、真剣に悩む千華。
彼女が悩んでいる様に、海斗と梨乃、浩太はクックッと笑っている。
「…?」
三人が笑っている理由がわからずに首を傾げる凍夜。
と、そのとき。千華がポンと手を叩いて言った。
「とーやん。コレにしましょ。うん、いいわ」
「と…」
目を丸くする凍夜。
海斗、梨乃、浩太が一斉にケラケラと笑い出す。
そう、千華の趣味というか性格というか…。
彼女は、気に入った人物にいつもニックネームをつける。
そのネーミングセンスの拙さは、本部内でも有名なのだ。
「よろしくね、とーやん」
ニコッと微笑み、手を差し伸べる千華。
それに続くよう、浩太も手を差し伸べる。
「よろしく御願いします」
いまだにクスクスと笑っている浩太。
海斗はゲラゲラと笑っている。その隣の梨乃も…。
「とーやんだって、めっちゃ可愛いじゃーん!!あっははは!」
「ちょっと、そんなに笑ったら失礼でしょっ?」
「お前だって笑ってんだろーがよー」
「わ、笑ってないよ」
「ほっぺ、ピクピクしてんだろーがよー!あっははは!」
「…う」
ゴメンナサイ…といった表情で頭を下げる梨乃。
けれど、顔は笑っている。堪え切れていない。
凍夜はハァ…と大きな溜息を落とす。
(取り消せって言っても無駄…なんだろうな)
そのとおりである。一度決めたニックネームを、
取り消すなんてこと、千華は絶対にしない。
諦めも肝心。そう思いつつ、凍夜は千華と浩太の握手に応じた。
気さくな美人、けれどネーミングセンスの拙い千華。
無数の擦り傷に絆創膏、レイレイと恋仲の浩太。
二人との出会いも、とても騒々しいものとなった。
(こんなんばっかりか…この組織は…)
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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■
7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 退魔師・殺し屋・魔術師
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 黄田・浩太 (おうだ・こうた) / ♂ / 17歳 / INNOCENCE:エージェント
■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■
こんにちは! 毎度さまです (^ー^* )
ゲームノベル ”INNOCENCE” への参加・発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ。
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2008.03.21 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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