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■人形の館 ギミック■ |
織人文 |
【1091】【鬼灯】【護鬼】 |
街はずれにポツンと建つ、二階建ての洋館の玄関ポーチに立って、あなたは石の壁にはめ込まれた金のプレートを確認した。
『人形の館 ギミック』
プレートには、たしかにそう書かれている。
あなたは小さくうなずくと、玄関の二枚扉を押した。
扉の向こうには、広々としたエントランスホールが広がっている。床は灰色がかった白の幾何学模様が描かれたタイルが貼られ、ホールの隅には色とりどりの花を生けた大きな花瓶や、ゆったりとしたソファ、テーブルなどが置かれていた。更に、ソファやテーブルの上には、さりげなく人形たちが置かれている。どの人形も、ぱっちりとした目と愛らしいふっくりした頬を持ち、レースやベルベットのドレスに身を包んでいた。
天井は吹き抜けになっており、見上げるとはるか頭上から、やわらかな光が落ちて来る。真上は、光を取り入れるための丸窓になっているようだ。
あなたがここへ足を運んだのは、噂に高い人形師のクォーツが、人形の製作や修理、売買をここで行っているらしいと、人づてに聞いたためだった。あなたにそれを教えてくれた人物は、彼の持つ蒐集品をただ見るだけでも、価値があると興奮した口調で語っていたものだ。
しかし、あたりは静かで、人の気配もない。ただ、どこからか芳ばしいお茶の香りが漂って来るところを見れば、誰もいないわけではないようだ。
あなたが、声をかけようかどうしようかと迷っていた時。ホールの右手奥にある扉が開き、小柄な少女が姿を現した。十五、六歳ぐらいのその少女は、長く伸ばした黒髪を後ろで束ね、濃紺のドレスに白いエプロンをまとっている。
「いらっしゃいませ。ようこそ、『人形の館 ギミック』へ。私は、当館の案内係、ファ・スヨンと申します」
明るい笑顔で言って一礼すると、少女はあなたを見やった。
「それでお客様。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
さて、あなたは――?
■以下の中から選んで、プレイングをお書き下さい。
・人形製作を依頼する。
・人形の修理を依頼する。
・人形を買う。
・人形を売る。
・蒐集品の人形を閲覧する。
・それ以外。
なお、上記の「人形」の中には自動人形(オート・マタ)も含まれます。
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人形の館 ギミック
ファイル03――鬼灯 【まどい】
《1》
自動人形の体に人の魂を持つ鬼灯は、長らく人間に戻りたいと願い、その方法を求め続けて来た。この世界にやって来たのも、その方法を探してのことだ。
そして一年前、彼女は都のはずれに館を構える人形師クォーツから、一つの方法を教えられた。
まず自動人形の体から魂を分離し、そして死んで二十四時間以内の体か、生まれて間もない赤子の体に魂を移し変える――それだけで、彼女は人間になれるというのだ。
そのおりには彼女は、他人の生を押しのけてまで己の望みをかなえる気はないと、その方法を視界から押しのけたものだ。
けれども、わずかに見えた希望を、完全にふり払うことは彼女にはできなかった。
本来いた世界に戻り、主にクォーツから教えられた方法を告げたところが、主の口からは意外な答えが返って来た。彼女の魂の年齢に見合う幼児の死んで二十四時間以内の体でも、生きた赤子でも望むなら用意できるというのだ。
もとよりそこは、そういう世界だった。そこでは人の命は、存外軽い。
ただ――と主は、続ける。人になっては、護鬼として自分の下にいる理由がなくなると。
言われてみれば、そのとおりだった。
人の体は脆いが、六歳の子供の体はもっと脆く、非力だ。
むろん、護鬼としてではなく、ごく普通の女たちのように女房として仕えることもできるだろう。また、主は貴族の養女となって、人の女の幸せを得ることもできると言ってくれた。
けれども――そのどれがいいのか、正直、鬼灯にはわからない。
もちろん彼女にも、誰かと結ばれ子を成したいという思いはある。そしてそのためには、この成長することも子を宿すこともできない作り物の体ではなく、熱い血の通った、時の流れと共に熟して行く体が必要だった。
しかし一方では、今の主にただの女房として仕えることや、ましてや貴族の養女となって生きることが護鬼としての生よりも幸せなのかと、まどう部分もある。
答えを見出せないままにこちらの世界に戻って、彼女は何日もそのことについて考えあぐねた。
その中で、意識に上って来たのが、クローンやホムンクルスといった人造人間、そしてサイボーグやガイノイドなどの改造人間の話である。
それらは、他の世界へ情報や技術の収集に赴いた際に得た知識だったが――そうしたものに、魂を移し変えることは、できないのだろうかとふと彼女は思ったのだ。
完全な無機物ではなく、一部分でも有機的な部分があれば、成長することも子供を成すことも可能かもしれない。また、そうした体ならば人の肉体よりは頑丈で、護鬼としての務めも果たせるかもしれない。
だが、果たして魂を移し変えることは、可能か否か。
(……あそこへ、もう一度行ってみても良いかもしれませんね。人形の館ぎみっくに。人形師のくぉーつ様にお会いするために)
鬼灯は、しばしの逡巡ののち胸に呟き、つと立ち上がった。
《2》
「いらっしゃいませ。ようこそ、人形の館ギミックへ」
訪れた鬼灯を迎えたのは、一年前と同じく、薄紅色の花の耳をした少女ファ・スヨンだった。その彼女に、クォーツに相談したいことがあって来たのだと告げる。
「承知いたしました。少々お待ち下さいませ」
答えてスヨンは、広々としたエントランスホールの隅に置かれたソファを彼女に勧めてから、出て来たのと同じ扉の向こうへと消えて行った。
ややあって、同じ扉からクォーツが現れる。三十半ばの、長い黒髪と光の加減で琥珀色にも見える茶色の目をした、長身の男だ。その姿に、鬼灯は慌てて立ち上がり、軽く頭を下げた。
それを見やって、クォーツは言う。
「鬼灯……か。たしか以前、人形や自動人形(オート・マタ)を人間にする方法はないかと、ここへ来た者だな」
「わたくしを、覚えていて下さいましたか」
鬼灯は、少しだけ驚いて返した。
「ああ。珍しい問い合わせだったからな」
言って彼は、尋ねる。
「それで? 私に相談とはなんだ」
「はい……」
うなずくと、鬼灯は主に言われたことと自らが考えついたことを簡潔に語り、問うた。
「――それで、くろーんやほむんくるす、あるいはさいぼーぐやがいのいどなどに、魂を移し変えることは可能でしょうか?」
「できなくはないだろう」
思い詰めた顔で答えを待つ彼女に、クォーツは幾分そっけなく返す。
「クローンやホムンクルスも、『人間の肉体』という意味では、同じことだ。以前私が見つけた方法を使えば、おそらく可能だろう」
「本当に、そう思われますか?」
あまりに簡単に告げられた答えに、鬼灯は信じられない思いで問い返した。
「ああ。……ましてやガイノイドやサイボーグは自動人形に近い。あの方法でなくとも、それこそおまえの主にでも魂を移し変えることはできるのじゃないか?」
「え?」
言われて、彼女は思わず目を見張る。それへクォーツは口元を小さくゆがめて、言った。
「ガイノイドだのサイボーグだのといった名称に幻惑されたか。あれらは結局、自動人形と同じものだぞ。たしかにサイボーグは生身の体に機械部品を融合させたものだから、多少は人の肉体に近いが、ガイノイドは精巧な機械部品で造られた、いわば自動人形の進化系だ」
「で、ですが……」
思わず反論しかける彼女に、クォーツは続ける。
「本当に、誰かと結ばれ子を成して、普通の女のようにくらしたいと思うなら、本物の人間以外の体に魂を移すなどという考えは、捨てることだ。クローンやホムンクルスにしても、厳密な意味では人間ではない。どちらも普通に成長し、子を成すことができるとは限らないのだぞ」
「それは……」
言われて鬼灯は、小さく唇を噛みしめた。人の肉体を得ながら、なおかつ護鬼としての役目も全うしようとは、欲張りな考えだったのだろうか。
しばしの逡巡の後、彼女は決然と顔を上げた。
「それでも、わたくしは人としての生も、護鬼としての役目も全うしたいのです。……厳密な意味では人間ではないとおっしゃいましたが、それでもくろーんやほむんくるすは生身の肉体には違いないのでございましょう?」
真っ直ぐにこちらを見上げて来る彼女の黒い瞳に、クォーツはしばしの間、唇をひき結んで黙り込んだ。が、ややあって、低い吐息をつく。
「……クローンは、おそらくおまえの望みには向かないだろう。これは私の考えだが、あれはオリジナルのコピーにすぎないからな。本物の人間の肉体よりは脆く、魂の定着率が悪いのではないかと思う」
言って、彼は続けた。
「もっとも、ホムンクルスについては私も詳しい知識を持たない。なにしろ、専門は人形だからな。それとの関連で、ガイノイドやサイボーグに関する知識は多少はある、という程度に過ぎないのでな」
「いえ……そうしたものに魂を移し変えることができると知れただけでも、ここへ来た甲斐がございました」
鬼灯は、笑みを浮かべて答える。そう。これで長い間、求め続けて来た宿願の成就に、一歩近づいたのだ。
「ありがとうございました」
深々と頭を垂れる彼女に、クォーツは小さく肩をすくめた。
「いや。……今度も、あまり役には立てなかったようだな。だが、せっかく来たんだ。隣の喫茶室で、お茶でも飲んで行け。今、スヨンが用意している」
「はい。ありがとうございます」
飲み物や食べ物は、彼女にはあまり意味がないのだが、今日はその心づくしに甘えて行くことにする。それが、今回も対価を取らず、彼女にとっては有意義な助言をくれた男への謝意を表すすべでもあると思ったからだ。
《3》
クォーツがエントランスホールを立ち去ると、鬼灯は言われたとおり、ホールの隣、向かって左手の扉の向こうにある喫茶室へと足を運んだ。
中はフローリングの床と半円形の木のカウンターのある、こじんまりとした空間で、椅子やテーブルもカウンターと同じ飴色の木製品だった。カウンターの真上の天井からはドライフラワーが下げられ、壁や部屋の隅に置かれた小さなスツールの上には、ポプリを入れた籠が置かれている。室内に満ちているのはその香りと、そして紅茶の香ばしい匂いだ。
鬼灯が入って行くと、扉につけられたカウベルがやわらかな音を奏でる。それを聞きつけて、カウンターの中からスヨンが姿を現した。
「いらっしゃいませ、鬼灯様。主とのお話はお済みですか? でしたら、お茶をどうぞ」
言って、奥をさし示す。鬼灯は、しばし店内を見やった後、一番奥の窓際に位置する二人掛けの席に腰を降ろした。ほどなくスヨンがティーサーバーとカップの乗った盆を手に、テーブルへとやって来る。
「鬼灯様はなんだかお疲れの様子ですので、本日はダージリンのアップルティーを入れさせていただきました。お砂糖は、お好みでどうぞ」
盆の中身をテーブルの上に並べ、ティーサーバーの中の紅茶を白磁のカップに注いでから、スヨンは言った。
「ありがとうございます」
鬼灯は軽く頭を下げると、カップを取り上げる。砂糖は入れなかった。どちらにしろ、自動人形である彼女には、味覚は意味をなさないものなのだ。それでも、カップから立ち上るリンゴの甘酸っぱさを含んだ独特の香りは感じられたし、口に含んだ時の熱さはこれを入れてくれたスヨンの心遣いを感じさせた。
その紅茶を飲みながら、彼女は先程のクォーツとの会話を改めて頭の中で反芻する。
ガイノイド、サイボーグ、クローン、ホムンクルス。この四つの内から己の肉体とするものを選ぶのならば、結局はホムンクルスが一番妥当だということになりそうだ。
たしかに改めて考えてみれば、ガイノイドやサイボーグは彼女自身が得ている情報でも、今のこの自動人形の体とさして変わらないといえばそうだ。この今の体は、主を守るために変形し、戦うことができる造られた肉体だった。なめらかな皮膚の下にあるのは、鋼の歯車の群れである。そういう点ではガイノイドも、そして一部は人間であるとはいえサイボーグもさほど変わりはないだろう。
(くろーんは魂の定着率が悪いかもしれないとなれば……残るは、ほむんくるすというわけですね。それについては、わたくしもさほど多くを知っているわけではありませんが……人工的に人の体を造る技術だと聞いた覚えがあります。……ここを出たら、それについてもう少し詳しく調べてみることにいたしましょう)
胸に呟き、彼女はカップの紅茶を飲み干した。そして、立ち上がる。
「すよん様。ごちそうさまでした。たいそう、美味しゅうございました」
カウンターの傍にいるスヨンに声をかける。
「いえ。鬼灯様のお口に合って、うれしいです。もうお帰りですか?」
スヨンはうれしそうに返して、問うた。
「はい。そろそろ、おいとまいたします」
「では、主からの伝言をお伝えいたします」
うなずく鬼灯に、スヨンは言う。
「来週の午後三時、この喫茶室にて茶会を開きたいので、ぜひ鬼灯様にも立ち寄っていただけるように、とのことでございます」
「茶会……ですか」
鬼灯はとまどって問い返す。一年前と今と、たった二度ほど相談事を持ちかけただけの客にすぎない自分を招くとは、いったいどんな集まりなのだろうかと思ったのだ。ましてや、食べ物や飲み物は自分には意味がないとは、クォーツも知っているはずのことだ。
「都合がつけば、参ります」
どう考えていいのかわからず、曖昧に答えて彼女は、そのまま踵を返したのだった。
《4》
一週間後。
鬼灯は、迷った末に再びギミックを訪れていた。
最初はいったいどういうつもりかととまどった彼女だが、次第にこれは何か意図することがあるのではないかと思うようになったのだ。
訪ねてみると、はたして彼女の考えは当たっていた。
ギミックには主たるクォーツの姿はなく、留守を守るスヨンに案内された喫茶室には、彼の知人だという初老の男が一人、先日彼女がお茶を飲んだあの席に座して、紅茶とスコーンをつまんでいたのだ。
男は、アルマ通りにある書店の主でフランクと名乗った。
「クォーツがいないんで、退屈していたところさね。お嬢さん、しばらくわしの話し相手をしてはくれんかね?」
問われて鬼灯は、少しためらったものの、結局うなずいてフランクの向かいに腰を降ろした。きっと、この男から何か聞かせたい話があるのだろう。そう感じたためだ。
その彼女の前にも、スヨンがフランクのと同じものを運んで来る。それへ礼を言ってから、彼女は改めてフランクを見やった。フランクは、自分のカップの中身を一口飲んで、口を開く。
「わしは今、ホムンクルスというものにひどく興味を惹かれておっての。お嬢さんは、それが何か知っておるかね?」
「人造人間だと聞いております。……女の胎内に宿ることなくして、この世に誕生した人間だと」
鬼灯は軽く目を見張りながら、静かに答えた。
ちなみに、この一週間で彼女もホムンクルスについて調べてはみたものの、あまり成果は上がっていない。他の世界でもそうだが、この世界にあってもそれは、半ばおとぎばなしや伝説の類としてしか扱われていないのだ。
「ふむ。……まあ、それは間違ってはいない見解だな」
うなずいて、フランクは語る。
ホムンクルスとは、異世界においては錬金術師たちが独特の製法を用いて造るものとされているのだと。
その方法とは、蒸留器に男の精を入れて四十日間密閉して腐敗させ、そこに現れた透明な人間の形をしたものを、馬の胎内と同じ温度で保温し、人の血液を与えて四十週育てるというものだ。そうすると、人間の子供が誕生するという。ただし、成功例は一例しかないともいわれているらしい。
「――ただのう、この世界では、それはもっと別な方法で造られるのだそうだ。風火地水、いわゆる四大元素の力と、光と闇を合わせての」
言って、フランクは更に話を続ける。
彼によれば、この世界でのホムンクルスは、土くれで作った赤子の胸元に火のついた炭火を埋め、術者の血を数滴垂らし、息を吹きかけることで生成されるという。もっとも、これだけでは赤子の体が出来上がるだけで、命を灯すためには、光と闇をその中に練りこまねばならないらしい。
「何よりそれが肝心のところだが――というのも、命の灯らぬホムンクルスは数日で腐ってしまうそうだからな。だが、それが一番難しいらしいぞ。命を灯すことさえできれば、ホムンクルスは普通の人間と同じように喜怒哀楽も持ち、成長することも、他人と睦みあい子を成すこともできるとさ。……ただ、そんなものを造れるのは、深い魔法の知識を持つ、遠見の塔のルシアン・ファルディナスぐらいだというがのう」
「遠見の塔の、るしあん・ふぁるでぃなす……」
鬼灯は、思わずフランクの告げた名を、口の中で反芻していた。
その名は、彼女もむろん聞いたことはある。聖都エルザードの南に位置する『遠見の塔』に住むと伝えられる兄弟の弟の方だ。
「命とは、魂と同じと考えてもよろしいのでしょうか」
これこそは、彼女が最も欲しかった情報だ。その名をしっかりと胸に刻みながら、鬼灯は尋ねる。
「まあ、そうだろうな。……うん。そうだな、クォーツが人形にやるように、ホムンクルスに死者の魂を宿すことができれば、それで命が灯ったということになるのかもしれんのう」
少し考え込んでから、フランクはふいに思いついたように言って、うなずいた。
「おお……!」
鬼灯は、思わず低い声を上げる。ようやく、人間に戻るための道筋に、明かりが灯ったように感じたのだ。
自分の魂が宿れば、ホムンクルスはごく普通に成長することのできる人間として目覚めるだろう。土くれを人型に造る際に、赤子ではなく、六歳程度の女児の姿にしておいてもらえば、魂の年齢とも違和感がなくなるに違いない。また、魔法によって造られるものならば、この自動人形の体に秘められているのと同じ力を付与してもらうこともできるだろう。つまり、護鬼としての務めも全うできるかもしれないということだ。
ただ問題は、遠見の塔の兄弟は、興味を持った人物でなければ好意的に接してくれないということだ。
(いいえ、それでも……それでも、なんの手がかりも光明もなかったころよりは、ずっとましには違いありません)
彼女は胸に呟いた。
やがて、その後は別の話題に移って行ったフランクの話につきあい、カップのお茶とスコーンがなくなるころ、彼女は腰を上げた。
「今日は、有意義な時間を過ごさせていただきました。わたくしがとても感謝していたと、くぉーつ様にお伝え下さい」
辞去する際に、彼女は見送りに立ったスヨンに告げる。
「はい。お伝えいたします」
うなずいて、スヨンは小さな籠に盛られたポプリを差し出した。
「こちらをお持ち下さい。今日の記念に」
「はい」
やわらかな花の香りにうなずいて、鬼灯はそれを受け取る。だが、ポプリの間に差し込まれているカードに気づいて、軽く目を見張った。取り出してみると、そこにはメッセージが記されていた。
『本当はどうしたいのか、何が望みなのか、じっくりと考えてみることだ。考えすぎるのはよくないが、まどったままに結論を出せば、後で後悔することになるぞ。時間は、いくらでもあるのだから』
流麗な文字のわりにぶっきらぼうな文章は、メッセージの主が誰なのかを鬼灯に教えてくれた。
(くぉーつ様……)
彼女はメッセージを読み下し、思わずそれを胸に押し当てる。それは、長年の望みがかなう光明が見えたとて、焦る彼女への戒めだった。
(そのお言葉、肝に命じます)
胸の中で答えて、彼女はカードを着物の胸元に納めると、改めてポプリの籠を持ち直した。
「くぉーつ様に、どうぞ、よしなにお伝え下さい」
もう一度スヨンに言って、彼女は踵を返した。
外に出てみると、すでに日は傾きかけ、あたりはどこか物悲しい風情に染まっていた。だがその中に、春の花の甘い香りが漂っていることにも、鬼灯は気づく。
(どれほど寒くとも、冬はいつかは終わり、春が来るもの……。それは、人の生も同じなのかもしれませんね)
ふと胸に呟いて、彼女は外へと足を踏み出した。空気に混じる花の香りと、手の中の香りの両方に包まれながら――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1091 /鬼灯(ほおずき) /女性 /6歳 /護鬼】
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■ ライター通信 ■
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●鬼灯さま
PCゲームノベルに参加いただき、ありがとうございます。
ライターの織人文です。
前回の内容を踏まえて――ということで、こんな感じにまとめてみましたが、
いかがだったでしょうか。
鬼灯さまにも楽しんでいただければ、幸いです。
それでは、またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
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