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■【妖撃社・日本支部 ―桜―】■

ともやいずみ
【7511】【霧島・花鈴】【高校生/魔術師・退魔師】
「奇妙で奇怪な事件に巻き込まれている、人外の存在に脅かされている、そんな方……ようこそ「妖撃社」へ。
 我が社は誠心誠意・真心を込めてあなた様のお悩みにお応えいたします。
 どんな小さなことでも気軽にご相談ください。電話番号は0120−XXX−XXXまで。
 専門家たちがあなたの助けになること、間違いありません」

 バイト、依頼、それとも?
 あなたのご来店、お待ちしております。
【妖撃社・日本支部 ―桜―】



 そっと、ドアを押す。何を遠慮しているのだろう?
(……なにやってんだろ、私。バイトなんだよ?)
 自分に言い聞かせて、霧島花鈴は息を吸い込む。そして勢いよくドアを開ける。
「こんにちはー。バイトの霧島ですけどー……」
 徐々に声に力がなくなっていく。
 入っていきなり、目の前に衝立ではやる気がそがれる……。
「あら。こんにちは」
「あ。ど、どうも」
 ぺこっと頭をさげる。面接に来た時もいた、あのメイド姿の娘だ。彼女は花鈴に近づいてきてにっこりと微笑んでくる。
「キリシマさん、ですわね。わたくし、アンヌ=ヴァンと申します。一応これでも社員ですの。よろしくお願いします」
「あ。こ、こんにちは。バイトの霧島です。バイトの手続きと仕事の説明を受けに来ました」
「まぁ。そうでしたか。ではフタバ様のところにご案内しますね」
 こちらへどうぞ。
 アンヌに案内されて部屋の一番奥へと進む。奥にはドアがある。簡素なものではないので、何か重大な部屋でもあるのかと花鈴は警戒してしまった。
 ドアをノックすると、中から声がする。アンヌは応えるように口を開いた。
「バイトのキリシマさんがいらっしゃいました。説明を聞きにこられたそうです」
「入って」
 そんな返事を受けて、アンヌはドアを開けた。そして花鈴のほうを振り向く。どうぞ、と手で示された。
 花鈴はアンヌの横を通ってドアの向こうへ進む。
 部屋は事務室より狭いが、大きな机が威圧的に在った。そこに座っているのは面接をした、支部長の双羽だ。
 彼女はこちらをちらっと見てくると、うっすらと笑みを浮かべた。
「こんにちは」
「あ、こ、こんにちは」
 返事をしたのと同時に背後のドアが閉まる。おそらくアンヌが閉めたのだろう。
「どうぞ。そこに座って」
 双羽が座るデスクの前には、折りたたみのパイプイスがある。こんな場所で面接をしなくてよかった。必要以上に緊張しそうだ。
「バイトの手続きだったわね。ちょっと待って。書類があるから、そこに記入してもらうことになるわ。必ず文面には目を通してね」
 作業をしながら言う双羽を、花鈴は見つめる。
 なんだかとても忙しそうだ。今日は土曜日だというのに……。
 双羽は気づいたようにこちらを見てきた。
「……そうね。ここ、書くための机がないわ。この間の面接したところで待っててくれる? すぐ行くから」
「えっ。あ、はい」
 立ち上がった花鈴は数秒考えてから、ぎこちなく問う。
「……やっぱり、支部長って呼んだほうがいいですよね?」
「そりゃ、私は支部長だもの」
 不思議そうに見てくる双羽に微妙な笑みを浮かべてみせ、花鈴は部屋を出て行った。うぅむ、同い年くらいの女の子に対して、目上の人のように接しなければならないのか。できるかな、自分に。



 来客用のソファに座っていると、アンヌが紅茶を淹れてきてくれた。ことん、と小さな音をさせてソーサーとカップを置く。
「ミルクかレモン、お要りでしたらおっしゃってくださいませ」
「お気遣いなく、です」
 そういうやり取りをしていると、支部長室から双羽が出てきた。手にはファイルを一つ。
 彼女は花鈴の向かい側のソファに座るや、テーブルの上にファイルを広げて何枚か書類を取り出した。
「こっちに名前の記入ね。契約書みたいなものだから。写しは渡すから、安心してね」
「……ちゃんとしてるんですね……」
「? ちゃんとしてないところがあるの?」
 ある、と言いそうになる。バイトでも、中にはこういう契約書のようなものがないところがある。労働に関しての記述があるので、基本的にはないとおかしい。だが、おかしなことにないところがあるのだ。
「賃金を支払うんだし、働いている霧島さんも、きちんとうちが違反してないか気になるでしょう?」
「…………」
 無条件に働き先を信頼してしまう心理を、双羽は持っていないようだ。
(……ここ、アタリ、だったかも)
 ここまで厳重にされているのなら、給料を誤魔化されることもないはず。なにより、信用できる。
 書類を読み終えた花鈴は、書類に名前を書き込む。そしてうやうやしく双羽に渡した。
「はい。確かに受け取りました。
 えぇっと、それじゃあ説明を簡単にするわね」
「はい」
「ここからは見えないけど、この部屋の奥に社員が使うデスクが並んでる一角があるの。そこに仕事の依頼掲示板があるわ」
「依頼掲示板?」
「そこに、二種類の書類が貼ってあるから、そこから気に入った仕事、もしくは自分にできそうな仕事の書かれた紙をとって、私に持ってきてね」
「ふむふむ」
 頷く花鈴に、双羽は丁寧に説明していく。
「二種類のうち一つは、依頼概要書。依頼者がこういうことがあって困ってます、っていう内容が簡単に書かれてるの。それを調査するのが仕事になるわね。
 もう一つは、その調査を終えた調査報告書。調査が済んでるから、その解決に向かうのが仕事になるわ」
「ふ〜ん。調査と、解決、ですか」
「その際に気をつけて欲しいことがあるの。
 面接でも言ったけど、うちの依頼者の多くは一般人。彼らを怖がらせないように、また、生活を脅かさないように行動しなければならないの」
「どうしてですか?」
 パパッと片付けてしまえばいいのに。わざわざそんなことをする意味はなんだろうか?
「一般人は、幽霊が見えないのが当たり前。人でないものの存在など、知らない。そんな人たちに我々の常識を押し付けてはいけない。わかった?」
「えーっと、つまり、私たちにとって当たり前の妖怪とか悪霊とかの存在を知らないから、相手に合わせて行動しろってこと……ですか?」
「そうなるわね。霧島さんは退魔師の方だからわからないかもしれないけど、普通に暮らしている人たちは異常なことに敏感なのよ。
 私たちみたいないかにも怪しげな者が周囲にうろついていたら、近所で噂になるかもしれない……。そういうことがないようにして欲しいの」
「けっこう制約とかあるんですね〜。へ〜」
「大変だから、あまりバイトの人数も増えてないの。まぁ、大暴れしたいって人には不向きなところよね」
 苦笑する双羽は肩をすくめてみせた。そういう仕草をすると、同い年の女子高生にみえる。
「気持ちは、すごくわかるんだけどね。自分の、他人が持っていない力を使いたいとか……そういうの。でも仕事っていうのは、自分が活躍するのが前提になってないじゃない?」
「そうですね。うん、たしかに」
「依頼者のことを第一に考えないとダメだと思うの。だって接客商売だから」
 せっきゃく……。
 そういう言い方をする双羽をまじまじと見てしまう。確かに退魔の仕事は言ってみれば接客商売だ。だが……なんというか、そういう露骨な言い方をする者を花鈴は見たことがない。
「大変だと思うけど……霧島さんには頑張って欲しいかな」
「あっ。は、はい!」
 大きく頷く花鈴に、双羽は微笑む。やはりこの人は責任者なのだ。同い年くらいなのに……。
「えっと、まずはその掲示板でできそうな仕事を探して……それで、見つかったら支部長のところに持っていけばいいんですよね?」
「そういうことになるわね。あと、難しそうな仕事だったり、危ないものだったらうちの社員を同行させるから安心してね。仕事は大切だけど、命のほうが大事だもの。危なかったら逃げてもいいから」
「は〜。なんか……色々、勉強になります」
 今まで自分がたずさわってきたこととはまったくタイプが違う。新鮮だった。
 紅茶の入ったカップに口をつける。
(う! こ、これ美味しい! え? なんかお店で飲むのより美味しいんだけど!)
 どうやったらこういう淹れ方ができるんだろう?
 不思議そうにしていた花鈴に、双羽が声をかける。
「仕事を探しに来るのはいつでもいいわ。気に入った仕事がなければ、出てくるまで待ってもいい。難易度の高い仕事は危ないし、夕方から夜中になる場合もあるから必ず保護者の方の了承を得てね」
「……あの、支部長さん」
「はい?」
「質問」
 はい、と片手を挙げる。
「支部長ってことは、ここで一番偉い人……なんですよね?」
「ま、まぁ……この日本支部ではそうなるわね」
 困ったように返事をする双羽のほうへ、ずいっと身を乗り出す。
「この会社で一番年上の人って、何歳なんですか?」
「…………えーっと、日本支部だけ、で?」
「はい」
 生真面目な表情の花鈴に、双羽は困惑している。彼女はやや沈黙してから、視線をさ迷わせて答えた。
「一応、24歳、かしら」
「24……。わ、若い」
 二十代? 三十代がいてもおかしくないのに。
「うちはわりと若い人ばかりで揃ってるから。あ、そうだ。ついでだし、社員の紹介をするわ。こっちに来て」
 立ち上がった双羽に慌ててついて行く。部屋を迷路のようにしている衝立を過ぎると、デスクが4つあるひらけた場所に出た。
 そのデスクには全員座っており、各々で作業をしている。長いすに座っている女の子がこちらをじろりと見てきた。
「今度バイトで入った霧島花鈴さんよ。みんな、自己紹介」
「わたくしは終わっております」
 アンヌはこちらを振り向いてにっこりと微笑んだ。その横の席に座るフードをかぶった青年がぺこ、と頭をさげた。
「露日出マモルです。よろしく、ね」
「あたしはシン! よろしく」
 アンヌの向かい側に座るポニーテールの少女が元気よく笑って言ってきた。その横には幼い美少年がおり、彼もうっすらと色気のある笑みをこちらに向けた。
「クゥです。よろしくお願いしますね」
 全員が名乗った名前を花鈴は内心で何度も反復して確認する。最後は長イスに座る――美少女。
「遠逆未星」
 ぼそっと、呟いて終わった。なんだか変な人っぽい。
「霧島花鈴です。よろしくお願いします」
 花鈴は体を曲げて挨拶しながらふと思った。全員若い。あれ? もしかしてこれで全員なんてこと、ないよね?
(24歳……いた? いや、いないよね)
 どこにもそれらしき人は、見当たらなかったのだが……さてはて。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7511/霧島・花鈴(きりしま・かりん)/女/16/高校生・退魔師】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、霧島様。ライターのともやいずみです。
 社員全員と面識を持ちました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。