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■「あなたのお手伝い、させてください!」■

ともやいずみ
【6494】【十種・巴】【高校生、治癒術の術師】
 トラブルメーカー。迷惑を振りまく疫病神。
 などなど。
 彼女はそんなイメージを持つサンタクロース。
 宅配便を仕事にしてはいるが、世間は不況。彼女はいつも貧乏で、おなかを空かせている。
 そんな彼女とあなたの一幕――。
「十種さんのお手伝い、させてください!」 パート2



「ステラお願い! 一緒に買い物に付き合って!」
 そう言われて、ステラはぱちぱちと瞬きをする。
 目の前で、両手を合わせて拝むポーズをし、瞼を閉じて必死に言うのは……十種巴だ。
「はぁ、買い物、ですかぁ」
「どうしても買いに行きたいものがあるんだけど……一人じゃ、ちょっと勇気がいるの! お礼にパフェを奢るからお願いっ!」
「…………」
 ステラがちょっと考えて、頬を赤く染める。
「ゆ、勇気がいるんですか……。わ、わかりました。わたしでよければ買い物にお付き合いしますぅ」
「……ステラ、なんか勘違いしてない?」
「ええっ!? か、勘違いってなんですか?
 あ。ど、どういうものかは知りませんけど、誰にも言いませんから安心してください〜」
 小声でこそこそと耳打ちしてくるステラに巴は顔をしかめる。これは間違いなく……。
「絶対勘違いしてる……」



「なんだぁ、万年筆ですかぁ!」
 明るく言う少女は、両手を元気よく振って巴の横を歩いている。全身真っ赤な服。くるくると巻かれた金髪と青い瞳。ステラ=エルフだ。
(やっぱり勘違いしてたし……)
 なにかヤバいものを買うわけではないのに……。
 目的の場所までもうすぐだ。様々な店が並ぶ中を二人は進む。買い物客が多い中で、文具店にはそれほど客がいない様子だった。
「でも万年筆だなんて……今どき、古風というか」
「私のじゃないの」
「ほえ? 十種さんのじゃないんですかぁ?」
「う、うん」
 じんわりと頬が熱くなり、自然と視線を伏せてしまう。
「ひ、陽狩さんの誕生日プレゼントなの。お金は貯めたんだけど、いざ買うとなると……ちょっと緊張しちゃって」
「…………」
 ぽかんとしているステラを、巴は「なによ?」と照れ臭そうに肘でつつく。
「いや、十種さん……かわいらしいなぁと思いまして」
「えっ、かわいい?」
 仰天する巴に、はい、とステラは素直にうなずいた。
「恋、してるんですねぇ。本当に好きなんですね、その人のこと」
「………………………………うん」
 すき。
 巴は恥ずかしそうに小さく呟く。
「陽狩さんの前じゃ、いつもドキドキして余裕なんてなくて……必死よ。でも、それが嫌とか辛いとか思えないの。陽狩さんも、私のことすごく大事にしてくれてなんだか緊張してるって……感じるから」
 赤くなってもじもじしてしまう巴を凝視していたステラが、
「う、うわぁ」
 と呟いて赤面してしまう。
「な、ちょ、は、恥ずかしいほどラブラブじゃないですかぁ!」
「えっ!? そ、そんなことないわよ!」
 ないない! と右手を左右に振る巴は目的の文具店に入った。
 レジに向かおうとするが足が止まってしまう。胸がどきどきして、困惑してしまった。
 一人で買いに来た時もこうなった。一歩進むのが、とても難しい。大切な彼へのプレゼントだから緊張してしまうのだ。
 ステラのほうを見る。彼女はこちらを見上げてにっこりと笑った。笑い返すと自然と肩から力が抜けた。
「ちょっとレジに行って来るね」
「はい! じゃあわたし、店内をうろうろしてますから」
「うん」
 だいじょうぶ。もう大丈夫だ。
 巴はレジに向けて一直線に進み、店員がこちらに気づいて微笑んできた。
「いらっしゃいませ」
「あ。こ、こんにちは。あの、あそこに飾られている万年筆を買いたいんですけど」
「えっ?」
 驚いたように店員は目を見開いた。ケースに入れられている数本の万年筆のほうへ視線を遣った後、巴を見てくる。
「あ。はい。えっと、どちらのを?」
「一番端のやつ、です」
 店員は信じられないという表情をしていたが、さすがに接客慣れしているのかすぐさま万年筆を持ってきて巴に見せてきた。
「こちらでよろしいですか?」
「はい。あの、それプレゼント用にしてください」
 巴の言葉に店員は「なるほど」と納得した顔を一瞬、した。彼はすぐに微笑んで「かしこまりました」と応える。
 会計を済ませると、店員が包みますのでお時間をくださいと言ってきたので了承した。
「誕生日プレゼントなんです」
「かしこまりました。できましたらお呼びしますので、店内でお待ちください」
 そう言われて巴は頷くと、ステラを探すように歩き出した。彼女はすぐに見つかった。ぼんやりとボールペンの並ぶ一角を眺めていたのだ。
 こちらに気づいてステラはにこぉ、と笑ってくる。
「買いました?」
「うん。まだあって、良かった」
「ほんとですよぉ。世の中、早い者勝ちなんですよ?」
 笑いを含んで言うステラはとたとたとこちらに駆け寄って、巴が手ぶらなことに気づいた。
「あれぇ? 万年筆はどうしたんですか?」
「いま包んでもらってる。あぁ、どうしようステラ!」
「はへ?」
「買っちゃった! この後は、陽狩さんに渡すのよね? どうしよう!? 渡せるかな?」
「……渡せないと買った意味がないですぅ」
「それはわかってるんだけど、やっぱりその時のことを考えると……きゃー!」
 騒ぐ巴は、それでも声の音量は抑え気味にしている。こんな場所で大声で騒ぐほど常識がないわけではないのだ。
「受け取ってくれるかな? ねえ?」
「受け取ってくれないと人でなしですぅ。恋人からのプレゼントなんだから、そりゃ、受け取るんじゃないですか?」
「喜んでくれるかな? どう思う!?」
「……買ったあとに言わないで欲しいですぅ」
「う。そ、そうよね。だって本当に陽狩さんに似合うって思ったんだもの!」
 一人で百面相をしている巴にステラは驚くばかりだ。
「すみません、お客様! ご用意できました」
 店員が巴に向けて声を張り上げてくる。巴は慌ててレジに戻った。
 残されたステラは「はふ」と息を吐き出す。
「恋のパワー、おそるべし、ですぅ」



 巴がおすすめのカフェに入る。ステラに約束したパフェをおごるためだ。
 窓際の席に腰かけて、巴は大事に大事にプレゼント包装をされた万年筆を袋から取り出す。
「わ〜……」
 そう言って巴はそわそわしだした。
「ね、ねぇ、やっぱり文具店てあっさりしてるわね、包装紙。だ、大丈夫かなぁ」
「…………」
「うん、でも陽狩さんてそういうシャレっ気とかないし……気にしないかな。でもせっかくのプレゼントだし……。他にも何かつけたほうがいいかな?」
「十種さんて、恋する乙女なんですねぇ」
 メニュー表から顔をあげて呟いたステラに、巴は反応できなかった。
 コイするオトメ。そりゃ、そうだけど。でも。
「そ、そそそ! そんなこと……!」
「わはぁ。どもってますぅ! 図星です〜!」
 やってきたウェイトレスにそれぞれ注文し、再びおしゃべりが再開される。本当に女の子のおしゃべりというのは、際限がない。
「それでいいんじゃないですか? 男の人ですし、華美な装飾は好まないと思いますから」
「……うん。そうだよね」
 巴はなんとか納得して、袋に戻した。気分がふわふわしている。どきどきとは違う緊張だ。
「ねぇねぇステラ! 本当に喜んでくれるかな?」
「……まだ言ってますぅ。わたしは彼氏さんのことは詳しくは知りませんけど、喜ぶんじゃないですか?」
「なんでそう思うの?」
「ええー? だって十種さんが好きになったお相手なんでしょう? それに……話を聞いている限り、なんというか実用性を好むタイプではないと思いますぅ」
「そう?」
「損得勘定で行動しないんじゃないですか、その人」
 ……あたっている。
 彼は、困っている人を無償で助けていた。賃金の発生など、期待していなかった。損得で動くような人では、ない。
 巴は嬉しそうに照れる。
「さすがステラ! わかってくれてる!」
「いや、単なる想像なんですが……」
 ちょうどそこに、用意できたらしいものが運ばれてきた。ステラはフルーツパフェ。巴はケーキセットだ。
「おいしそ〜!」
「ですね! さっそくいただきましょうっ」
 二人はそれぞれ注文したものを口に運ぶ。口の中に甘さが広がって、「おいし〜!」と声をあげた。
「やっぱり甘いものって最高よね。太っちゃうのがイタいけど」
「なにを言ってるんですか。充分痩せてるくせにぃ」
「痩せてないわよ! これでも気にしてるんだから、色々と。油断しちゃうとすぐにおなかに脂肪がたまるのよ? ここ。ほら二の腕とか、むにむにしちゃって困ってるし!」
「男の人は少し太ってるほうが好きらしいですぅ」
「それはそれよ! だって太ると、服が着れなくなるのよ? せっかく買ったワンピとかがきつきつになるなんて、私耐えられない……!」
「おぉう……リアルな女の子の意見ですねぇ」
「いいなぁステラは。なんか、どこも太ってないし」
「……そ、ソウデスカ……ね」
 自身の幼児体型を気にしているステラとしては、ちょっと複雑だ。
「恋人の……えっと、遠逆陽狩さんでしたか。あの人は十種さんが太っても気にしないと思いますけどねぇ」
「ひ、陽狩さんが気にしなくても、私が気にするの! ……陽狩さんて、本当にその、美形なのよね。横に並んでるとやっぱり気にしちゃうもん」
 周囲からの目を気にしてしまう……。だって、彼は誰よりもかっこいいと思うから……。
(不釣合いって……思われたくないよ)
 自分はいいけど、陽狩にそういう目を向けられたくない。
「誰よりも綺麗にはなれないけど、陽狩さんの横にいても変じゃないくらいにはなりたいもん」
「一度お会いしてますから遠逆さんの美形っぷりは知ってますけど……あるがままの十種さんでいいんじゃないですか?」
「わかってるんだけど、気にしちゃうの!」
 唇を尖らせる巴は、皿の上に乗っているアイスをすくって食べた。バニラアイスだ。おいしい。
 彼がそういう人ではないことは、はっきりわかっている。でも自分が納得できないのだ。
 生クリームを口に運ぶステラは「うーん」と唸った。
「複雑な乙女心ですねぇ。でも遠逆さんが、本当はオレはトモエが欲しい! とか言ったらどうするんです? 心の中ではそう思ってたりして」
「ええ〜っ!? でもそれはそれで嬉しいかも! 奥手な陽狩さんが言うわけないけど」
 けらけらと笑う二人の少女は楽しそうにおしゃべりに華を咲かせ続けたのだった――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【6494/十種・巴(とぐさ・ともえ)/女/15/高校生・治癒術の術師】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、十種様。ライターのともやいずみです。
 女の子の買い物にはおしゃべりがつきもの。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。