コミュニティトップへ




■INNOCENCE / 38度5分 (限定受注)■

藤森イズノ
【7403】【黒城・凍夜】【何でも屋・暗黒魔術師】
どうやら、かなり大きな仕事だったようだ。
結果報告を兼ねて話すエージェントは、
見るからに着かれきった表情をしている。
「部屋で、ゆっくり休んだら?」
そう労いの言葉をかけたとき。
ドサッ―
突如、エージェントが その場に倒れこんでしまった。
「ちょ、ちょっと…!?」
慌てて抱き起こせば、その熱さに、すぐ気付く。
酷い熱だ。風邪を引いているのだろう。
こんな状態で過酷な仕事に行くなんて…無茶するなぁ。
とりあえず、運ばなきゃ。
看病…してあげなきゃね。
INNOCENCE // 38度5分

------------------------------------------------------

OPENING

仕事を終えて戻って来た凍夜。
衣服についた土埃を払いつつ、正面エントランスへ。
と、そこで、ばったり梨乃と遭遇。
どうやら、梨乃も今、仕事から戻って来たばかりのようだ。
凍夜は歩み寄り、声をかける。

------------------------------------------------------

「お疲れ」
「あ、お疲れ様です」
梨乃の請け負った仕事が、少し面倒で厄介なものだということを、
事前にリクエストボードで確認していた凍夜は、先ず梨乃を労った。
梨乃はニコリと微笑み、言葉を返す。
報酬の割に遂行難度が高い。
そんな仕事を、梨乃は友人の依頼だからと、すんなり引き受けた。
一人で大丈夫か?と凍夜は梨乃に声をかけたが、
大丈夫です、と微笑み梨乃は即答した。
事実、迅速に遂行できたようだ。
だから今、こうして一緒に歩いている。
夕方まで待って戻ってこないようなら、
勝手だけど、加勢にいこうと凍夜は決めていた。
(…問題なかったみたいで何よりだ)
仕事の結果や、途中経過などを話す梨乃の横顔を見つつホッとする凍夜。
だが…本部、セントラルホールに一歩踏み入った瞬間、梨乃に異変が起こる。
「…ぅ」
突如、ピタリと立ち止まる梨乃。
一歩先で凍夜も足を止め、振り返って梨乃を見やる。
「どうし…」
どうした?と聞こうとした矢先…梨乃が倒れこんできた。
「梨乃…?」
抱きとめ、様子を窺う凍夜。
何が起きたのか、一体どうしたのか。
凍夜は、それをすぐに把握する。
抱きとめた梨乃の身体が、異常なまでに熱を持っている。
額に滲む汗、辛そうな呼吸…明らかな体調不良だ。
おかしいとは思っていたんだ。
手伝おうか、と声をかけたときから。
どことなく元気がないような気がしていたんだ。
もっと追求して、止めておけば良かった。
こんな状態で過酷な任務を遂行するなんて。
(無茶しすぎだ…)
凍夜は、ハァ…と溜息を落とし、
梨乃をヒョイと抱きかかえて部屋へと運んだ。

*

可愛らしい ぬいぐるみが並ぶ梨乃の部屋。
ベッドに寝かせた梨乃は、依然 苦しそうだ。
とりあえず、と梨乃の額に冷たいタオルを乗せる凍夜。
(着替えは…無理だな、さすがに)
苦しそうな梨乃を見つつ、凍夜は一旦部屋を出て看病の支度へ。
医療・調剤室で体温計や、風邪薬を調達し、そのままキッチンへ。
手際良く卵粥を作って…氷のうも準備して…。
一通りの支度を済ませた凍夜は、
あらゆるものを抱えて梨乃の部屋に戻る。
両手が塞がっている為、失礼ながら足で扉を開け、中へ…。
梨乃は、相変わらず苦しそうだ。
(とりあえず、熱…)
解熱剤を数種類持ってきた凍夜は、まず梨乃の体温を測る。
適当な薬を飲ませた方が、治りは早いだろうから…。
測っている最中は、タオルを新しいものに変え、その上に氷のうを。
身震いするほどに冷たかったタオルがぬるくなっている…。
まずいな…と思ったとき、ピピッと体温測定完了の音。
首に貼り付けた体温計(※魔法道具の一種)を剥がし確認して凍夜は唖然。
表示されているのは、38度5分。
(…こんな状態で、よく遂行して戻ってこれたな)
感心と呆れを混じえた苦笑を浮かべ、凍夜は溜息。
薬を飲ませたいけれど…どうするべきか。
無理矢理、抱き起こして飲ませるか…。
少々強引かもしれないが、飲ませないわけにもいかない。
凍夜はそっと梨乃を抱き起こし、声をかけつつ薬を飲ませる。
口を開けて、と言われて、ゆっくりと口を開くものの、
意識は朦朧としているようだ。目は伏せたまま。
凍夜は薬を飲ませると、ゆっくりと梨乃を横たわらせ、
ふぅ…と息を吐いて、ソファに腰を下ろす。
(少し…様子見だな)
手元にあった古書を手にとりパラパラとめくる凍夜。
だが、凍夜は元々それほど書物に興味がない。
内容なんて頭に入らない、完全な流し読み。
凍夜は、チラチラと梨乃の様子を窺う。
何だかな…慣れないことをしてる。
そうは思うものの、ほうっておけるはずがない。
凍夜は、しきりに梨乃の様子を伺い、
その都度、必要な処置を…それを繰り返す。
妹を看病したときの経験が生きてか、
凍夜の看病は実に手際の良いものだった。

*

あれこれと看病を続け、二時間が経過したとき。
眠っていた梨乃が、ふっと目を覚ます。
状況を把握できないのだろう。
梨乃は虚ろな目で、ゆっくりとまばたきしている。
「大丈夫か?」
覗き込み声をかける凍夜。
梨乃は「凍夜さん…?」と首を傾げる。
倒れたことも運ばれてきたことも覚えていない梨乃。
凍夜が説明すると、梨乃は申し訳なさそうに、
何度も、ごめんなさい…と謝罪を繰り返す。
だいぶ、よくなったみたいだ。
倒れたときと比べて、顔色も良くなったし。
呼吸も…落ち着いている。
まだ、油断はできないけれど。
「腹は…どうだ。減ってないか?」
「…少し」
「待ってろ。持ってくる」
立ち上がり部屋を出てキッチンへ行き、
作っておいた卵粥を温めなおして持っていく凍夜。

凍夜手作りの卵粥を食べさせてもらう梨乃。
乾いた喉に落ちる、柔らかな暖かい卵粥。
梨乃は「美味しいです…」と心から微笑んだ。
いつもの、可愛らしい笑顔だ。
まだ、少し弱々しい感じはするけれど。
凍夜は、つられるように淡く笑み、「それは良かった」と頷いた。
悪化することなく、回復していく梨乃。
ベッドに横になったまま、梨乃は凍夜に何度も言う。
「ありがとうございます」と。
お礼を言われる度に凍夜は、もう聞き飽きたよと苦笑。
この言葉にクスリと笑い、
梨乃は横たわったまま、凍夜の目を見つめ、
大変な仕事だったんですよ、と報告の続きを話し始めた。
梨乃の話を、うん…うん…と頷きつつ聞いてやる凍夜。
凍夜の確かな優しさを全身で感じつつ、微笑み話し続ける梨乃。
何だか、ほのぼの…良かったね、梨乃。
木漏れ日が差し込む部屋で、
たくさんの暖かさに包まれて…。
きっと、すぐに良くなるよ。

------------------------------------------------------

■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 退魔師・殺し屋・魔術師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! 毎度様です〜! ヽ(‘ ∇‘ )ノ
ゲームノベル ”INNOCENCE” への参加・発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ!

-----------------------------------------------------
2008.05.18 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
-----------------------------------------------------