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■ワンダフル・ライフ〜特別じゃない一日■

瀬戸太一
【7192】【白樺・雪穂】【学生・専門魔術師】
 お日様は機嫌が良いし、風向きは上々。

こんな日は、何か良いことが起きそうな気がするの。


ねえ、あなたもそう思わない?


ワンダフル・ライフ〜Twin one






 普段と同じようにドアベルが響き、私は来客を確認しに玄関に駆け寄った。
今日はどんな客人かしら。初めての人かしら、それともおなじみのあの人かしら?
そんなワクワクを胸に秘め、私は来訪者に顔を見せた。
「いらっしゃいませ! あらっ」
 彼女の姿を見たとたん、私はぱぁっと顔を輝かせた。
ゆるく編んだ白銀色の長い髪は肩にかかり、フリルのたくさんついた可愛らしいふわっとした衣装。
手には衣装に合ったデザインの日傘と手袋。
その姿は先日うちの店にやってきた”彼女”そのものでー…
「ようこそ、またいらして下さって嬉しいわ! この前お渡しした道具の調子はどう? もしかして具合が悪いの? とりあえずお茶でも飲みながらお話をー…」
「ちょっとまって、店主さん」
 久しぶりに会えた喜びから、少しばかりハイテンションになっていた私は、苦笑を浮かべて片手を挙げた彼女にさえぎられ、きょとん、とした。
「どうかしたの?」
「というかね。多分店主さんは人違いをしてると思うんだ」
「へ?」
 私の目は点になった。
「でも、だってあなた白樺ー…」
「うん。でも僕の名前は白樺雪穂。店主さんとは今日がはじめてのはずだよ」
「っ!?」
 あれ? 苗字が同じで、でも名前が違って、はじめましてって言われたし、でも姿形はそっくりでー…ということは。
「…ご姉妹?」
「ま、そんなものかな。多分店主さんが知ってるのは僕の片割れ。大丈夫、気にしてないよ。
その彼女から話を聞いて、今日はお邪魔したから、こういう間違いがあるかもって予測してたんだ。
だから、はじめまして」
「はっ、はじめまして!」
 爽やかにニコリと笑う彼女に、私はぺこりと頭をさげた。同時にかぁっと頬が赤くなるのを感じる。
同じ血が入ってる人たちだからとしても、こんなに堂々と人違いしちゃうなんて、客商売失格だわ…!
「大丈夫だって、ホントに気にしてないから。それより店主さん?」
「は、はい?」
 おそるおそる顔を上げた私に、彼女はにっこりと微笑みかけた。
「”とりあえずお茶でもお話を”。だったよね?」









 


 落ち着いて事情を聞いてみると、彼女ー…雪穂もまた魔術を専門としているそうで、私のことに興味を持ち、今日こうやって来訪したのだという。
「ということは、雪穂さんは特にお仕事のご依頼ってわけじゃないのね?」
「うん、そう。あ、仕事じゃなかったらまずい?」
「いいええ! まさか。こうやって遊びに来てくれるだけでも嬉しいわ」
 私は首をぶんぶんとふり、そう答えた。それは本心である。
ただでさえ客の少ない我が『ワールズエンド』だもの、遊びに来てくれる人がいなくなったら廃墟になっちゃうわ。
「そ、よかった」
 雪穂の笑みを見てホッと胸をなでおろし、私は紅茶のカップを傾ける。
この紅茶は彼女が手土産に持参してくれた葉っぱで淹れたものだ。珍しい葉だとうちの使い魔も驚いていたっけ。
「…あら」
 カップを傾けると、ふわっと花のような芳香が鼻をくすぐった。まるで目を閉じると花園にいるような感覚がする。
「気に入ってくれた?」
 そう、雪穂が好奇心で満ちている子供のような顔で笑う。私は、ええ、と頷いた。
「とても美味しいし、良い香りのするお茶ね。雪穂さん特製なの?」
「うん。結構評判良いんだよ」
 と、嬉しそうに自分のカップの紅茶をこくこくと飲む雪穂。
 うん、でも本当に美味しい。口当たりがよくてさっぱりとしていて、これなら何杯でもイケちゃうわ。



「…でね」
 彼女の紅茶と、こちらがお出ししたお茶請けのクッキーを楽しんでいるとき、雪穂がふいに言った。
心なしか身を乗り出しているような雰囲気がする。
「僕、魔術師といっても、召喚と魔法具作成が専門なんだよね。だからルーリィさんのことが気になったんだ」
「へえ…そうなの?」
 なるほど。ただ魔術、魔法といってもその分野は様々だものね。同じ分野の者を見つけたら、コンタクトを取りたいって気持ちはわかるもの。
それに魔法具作成者って、いまいち数が少ないというか、マイナーっていうか…まあ、同類を見つけるのが難しいのよね。
「うん。前に僕の片割れに、動物と話せる道具を作ってくれたでしょう。ああいうのは専門外だったからね」
「ふぅん。確かに、宗派によって、得手不得手が分かれるものだものね…。ね、雪穂さんはどんなものを作るの?」
「僕?」
 雪穂は一瞬驚いたように目をぱちくりさせた。自分のことを聞かれるとは思っていなかったのか、うーん、と暫く首をかしげたあと、
「得意の召喚と組み合わせて、こんなものをよく作るよ」
 どこから取り出したのか、雪穂はぱらぱらとカードのようなものをテーブルの上に並べた。
その一枚を手に取り、裏を私に見せてくれる。
「これ、スペルカードっていうんだ。魔法文字が組み込まれてて、読み上げると様々なものを召喚できる。ま、文字は持ち主しか読めないけどね」
「へえ…」
 私は自分の好奇心がむくむくと沸いてくるのを感じていた。
 そう、そうなのよ。魔術師、魔法使いの中でも、特に道具作成を主に扱う者っていうのは、大抵他の人の技術やテクニックが気になるのよね。
これはどう作られてるんだろう、これはどんな魔法がかけられてるんだろう、そんな好奇心に胸を付かれると、もう居てもたってもいられなくなっちゃう。
 だからホントに、雪穂さんがうちの店にやってきた理由もよくわかるの。
特に、私があの”彼女”に作ってあげた道具は、雪穂さんの専門外だったといっていた。
そんなものを目にしたときの気持ちは、今の私の気持ちと大して変わらないと思う。
 とにかく知りたくて、触りたくて、たまらない。
そんな気持ち、あるじゃない?
「でっ、これでどんなものを召喚するの?」
「うーん、炎の魔犬に、水の龍。氷の鳥…あと、僕が作ったほかの魔法具も呼び出せるよ。愛用の魔剣とレイピアを仕舞ってるんだ」
「へええ…! すごいものを持ってるのね! というか雪穂さんって、割と見た目によらず、アグレッシブというか…」
「攻撃的?」
「あっ、ううん、そういう意味じゃなくって…!」
 あはは、とごまかしてみるけれど、雪穂にはもうお見通しのようで、にっこりと笑いながらもその目は厳しく光っている。うう、ちょっと怖い。
「まあ、魔術師としての仕事をするときはね、こういうものも必要になるんだ。
自分の身を守ることも必要だし。ルーリィさんはそういう道具は作らないの?」
「私? ん…そうねえ。幸か不幸か、まだ武器作成の依頼はないわね」
 そう、私は話をはぐらかせるように肩をすくめた。
 なんていっても、私は武器の魔法具を作成した経験なんてないのだ。友人知人からは性格上無理だとも言われたし、必要性自体がなかったからとも言える。武器を使って戦う相手なんか、私の周りにはいなかったもの。
 でもそれは、私の環境がそうだった、というだけで。
 もし私が自らを戦いの中に置かなければいけない環境に生まれ育ったならば、彼女のように攻撃を主とする魔法の開発を志していただろう。
「…だからなのかしらね。私と雪穂さんの作るものが違うって」
「ん?」
 ふいに言葉に出したので、雪穂はきょとん、と首をかしげていた。
「あ…。ちょっとね、考えてしまって。人間と同じで、魔術師、魔法使いも環境によって変わるんだなー…って思ったの」
 私が複雑な気持ちを抱きながらそう答えると、雪穂は目をぱちくりさせて答えた。
「…そんなの当たり前じゃない?」
「…!」
「人は生まれてすぐにすべてを持っているわけじゃないよ。
生れ落ちてから、環境によって磨かれたり、逆に無くなっていったりする感覚や技能があるのは当然だよ。
さっき、ルーリィさんは僕のカードをすごいって褒めてくれたよね。僕も同じように、ルーリィさんの道具をすごいなって思った。
でも、妬んだり嫉妬したりはしないでしょう?」
「…ええ」
 私は小さくこくりと頷いた。
 雪穂はかすかに微笑んで続ける。
「それは僕たちが自分の技能を誇りに思ってるからだよ。無いものねだりはしないし、自分の育った環境を恨んでもいない。
ならそれでいいんじゃないの? たまにこうして、自分の知らない情報を交換できる相手がいれば、僕はそれで満足だな」
 私はその言葉を聴いて、暫く目をぱちくりしたまま硬直していた。
自分のほしかった言葉がダイレクトに響き、逆に反応できなかった。
 そんな私の硬直は、雪穂の「ね?」という声と笑顔で解放された。
「ね、そうでしょ?」
「ええ…そのとおりね」
 自分の知らないうちに迷いでもあったのだろうか。
 だけどそれは、雪穂の爽やかな笑顔で、一瞬の間に霧散していた。










 それから暫くの間、私たちは午後の紅茶と、同じ分野の魔術師同士の会話を楽しんだ。
道具の作成に気をつけていること、失敗談、困った依頼などなど…。
久しぶりのこんな会話は楽しくて、私はついつい時間が経つのを忘れていた。

「あ、もうこんな時間か。僕はそろそろ帰るね」
「あっ、そうね。今日はホントにありがとう! とても楽しかったわ」
「うん、こちらこそ。またね」
 そういって、雪穂は席を立つ。
 ばいばい、と手を振り、玄関に向かって軽やかに進む彼女の足元に、何かぼんやりした影が見えた…ような気がした。
(?)
 目を凝らすと、雪穂に従うように歩く、幼い白虎と黒豹のような動物だった。
それが何か、彼女に問いかける前に、雪穂は透けるような動物二匹を従えて、玄関から出て行ってしまった。

 …以前小さな鈴を客人からもらったことがある。
それは今、腰にアクセサリーとしてつけているのだけれど、確かそれは、お守りになるのだとかー…そんなことを言われた覚えがある。
霊的な存在に強くなる、とも。
(だからなのかしらー…?)
 だから、先ほどの動物が見えたのだろうか。
 それは定かではないけれど、彼女を護るように付き従う二匹を見て、私は自分の使い魔たちを思い出したのだった。

 …あんなにお行儀良くはないけれど。












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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【7192|白樺・雪穂|女性|12歳|学生・専門魔術師】

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▼ ライター通信
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お待たせしてしまって申し訳ありませんでした…!
はじめましてのご来訪、ありがとうございました。
会話中心のノベルになりましたが、気に入っていただけると幸いです。
雪穂さんのイメージを壊してなければいいなあと思いつつ…。

それでは、またどこかでお会いできることを祈って。