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■【妖撃社・日本支部 ―桜―】■

ともやいずみ
【7510】【霧島・夢月】【大学生/魔術師・退魔師】
「奇妙で奇怪な事件に巻き込まれている、人外の存在に脅かされている、そんな方……ようこそ「妖撃社」へ。
 我が社は誠心誠意・真心を込めてあなた様のお悩みにお応えいたします。
 どんな小さなことでも気軽にご相談ください。電話番号は0120−XXX−XXXまで。
 専門家たちがあなたの助けになること、間違いありません」

 バイト、依頼、それとも?
 あなたのご来店、お待ちしております。
【妖撃社・日本支部 ―桜― 面接】



 霧島夢月は携帯電話の液晶画面を見ながら番号を押していく。間違い電話なんてかけたくない。
 コール音が響き、相手が出た。
<はい。妖撃社、日本支部です>
「あの、そちらで……バイトはまだ募集していますか?」
<バイト……。あぁ、バイト希望の方でいらっしゃいますか>
 随分と若い娘の声だ。彼女もアルバイトなのだろうか。
 そう思いつつ、夢月は「はい」と応えた。
<わかりました。では面接をおこないますので、履歴書をご持参のうえ、こちらまでいらっしゃってください。都合のよろしい日時はありますか?>



 履歴書はきちんと持っている。夢月は目的の場所へとやって来ていた。
 人があまり通らない細い路地。そこを通って進むと、四階建ての建物がある。
 二階に人の気配があるのであがるべきだろう。奥にエレベーターが見えたが、入ってすぐ階段が目に付いたのでそちらをあがることにした。
 二階へとあがるとすぐにわかった。事務室らしきドアがある。なんだかクリニックみたいだ。
 ドアに手をかけてそっと開いた。約束の時間のちょうど10分前だ。
 日曜日だから人がいるかと思っていたのだが……室内はなんだか静かだ。
「あのー、すみません……」
 恐る恐る声を出す。
「あら。いらっしゃいませ。お電話をくださったキリシマさんでいらっしゃいますか?」
 唐突に横から聞こえた声に夢月はそちらを見遣る。いつの間に居たのか、ちょうど右の壁際にメイド姿の少女が立っていた。
 夢月は一秒ほどその場に硬直していたが、すぐに姿勢を正して軽く頭をさげた。
「すみません。面接に伺いました、霧島です」
「はい。こちらへどうぞ」
 愛想よく微笑むメイドが夢月を案内する。衝立で区切られた場所に、来客用らしきソファとテーブルのセットが置いてある。
「支部長を呼んできますので、こちらでお待ちください」
「あ、はい」
 頷く夢月に再び微笑み、彼女は夢月の視界から消えた。こつこつと足音が遠ざかり、部屋の奥にあるらしいドアをノックする。
 そんな音を聞いていた夢月ははぁ、と息を吐いた。
(面接なんて、緊張します……ね)
 自分をアピールしなければならない。どうすればいいんだろう。
 こつこつと足音が近づいてきて、夢月はハッと我に返る。そして緊張に肩をはった。
 姿を現したのは夢月の妹とそう年の変わらない少女だった。瞬きをする夢月は不思議そうにする。
「お待たせしました。私が妖撃社、日本支部の支部長をしています、葦原双羽です」
「ぇ……」
 小さく洩らす夢月は内心、非常に驚いていた。
 支部長? 彼女が? だってどう見ても……。十代の中盤くらいの……。
 向かいのソファに座った双羽は夢月に向けてにっこり微笑んだ。
「キリシマさんですね」
「は、い。あ、履歴書はこれです」
 持っていた肩掛けのバッグから履歴書を取り出す。受け取った双羽は封筒から履歴書を出して、中に目を通した。
「……キリシマは、こういう字でしたか」
「え?」
「いえ、こちらのことです。これはお預かりしておきますね。
 では早速ですが、うちのことはどこでお知りになりました?」
「広告を拝見してきました。そこにバイト募集と載っていましたので」
「なるほど」
 頷く双羽の前で、膝の上で手を組んでから夢月は言う。
「ここにいれば、もっと多くの人の助けになれると思ってこちらにうかがいました」
「……人助け、ですか」
 観察するように見てくる双羽は「ふぅむ」と洩らした。
「うちは確かに人助けをモットーとしていますが、あくまで仕事です。単純に善意で人助けをしたいならば、ボランティアをされたほうがいいのでは?」
「え……」
「わざわざうちでなくてもよろしかったのではないですか?」
 意地悪な訊き方をする彼女に夢月は絶句する。
 黙ってしまう夢月に双羽は苦笑してみせた。
「お金をわざわざ受け取る必要は、ないわけでしょう? 人をただ、助けたいなら」
「それは……そうですが。私も普通に生活する身ですのでお金は必要です」
 善人ぶるなとでも言いたそうな発言をしてくる双羽に、正直に言ってしまう。自分にだって生活があり、養う者がいる。なんだかんだと雑費は出るし、働かなければならない。
「すみません。少し意地悪が過ぎましたね。利己的な理由のほうが納得できるもので……」
「いえ……疑われて当然ですから」
 考えてみれば……胡散臭すぎる。たくさんの人を助けたいなら彼女の言うとおりにボランティアをすればいいのだ。だが、こういうところのほうがそういう情報が集まることも多い。
「うちは賃金をいただいて仕事をするプロです。遊びで仕事をしていただくわけにはいきませんよ?」
「わかっています。わきまえています、私も」
 実家は退魔師をしているのだ。わかっている。だが……なんということだろう。自分よりも彼女のほうがそれらしいなんて。
「仕事は善意とはまったく違うものです。そこもわかっていただけます?」
「もちろんです」
「そうですか。なら良かった。
 広告をみられたということですが、退治する霊や妖怪、とか、妖魔とかそういうものに感情移入してしまうことはありますか?」
 試されているとはっきりわかった。自分の発言が、失敗だったことに夢月は気づいたのだ。
「仕事中は、そういうことはしません」
「本当に?」
「はい」
「そうですか。うちは情けをかけることはあまりないので……そこは割り切ってもらわなければならないんです。たとえどんな理由があるにせよ、依頼者の願いを最優先にしますから」
 双羽は支部長なのだ、間違いなく。きちんと線引きをしている。
 長く退魔に触れてきた夢月だったが、それでも同情してしまう相手もいた。見逃しても害にならなければそれでいいとさえ思っていた。
 けれどもここではそうはいかないのだ。上からの指示に従い、成し遂げなければならない。……過酷だ。
「では次に、霧島さんの能力についてうかがってもいいですか? 何か能力があればですが」
「各種魔術、それに符術や結界術などもかじっています。私の家がそういう家系なので、私も自然とその道に進みまして」
「……各種ということは、どれくらい精通しています? 専門家には敵うほどですか?」
「魔術に関してはかなり……。黒と白と、精霊と……」
「しかし相性の悪いものを扱うのは難しいのでは?」
 さすが支部長というだけある。魔術にも相性というものがあることを知っているようだ。黒魔術と白魔術は完全に別のものだし、正直言って両方使えるというのはあまりないのだ。それはそれぞれの持つ考え方や方向性が違うからというのもある。それとは別に精霊魔術もまったくジャンルが違うものだ。
「はっきりと黒と白というわけではありませんから。ご存知の通り、魔術にも様々なものがあります。ケルトやルーン魔術もありますし」
「……具体的にどの方面なのか訊くのはここではやめておきます。とにかく魔術に関しては自信があるとのことですね」
「はい」
「……そういう家系とおっしゃってましたが、うちはご実家でのお仕事とはまったく種類が違うと思いますよ?」
「というと?」
 ちょうどそこに、先ほどのメイドがお茶を淹れて現れた。二人の前それぞれに、湯のみをおいていく。
 双羽は「ありがと」とメイドに礼を言ってから、こちらを見る。
「うちには2種類の仕事があります。調査と、解決」
「ふたつ……ですか」
「そのどちらも私に報告書を提出してもらうことになります。仕事をする上ではかなり制限もつきます」
「制限というと、どのようなことでしょう?」
 今までの仕事からそれほど窮屈な思いはしたことがない。
 双羽は「まず」と言ってから説明する。
「依頼者には極力接触しないこと。これは依頼者に一般人が多いため、彼らの生活を保護する意味での制約です。
 次に、仕事中とはいえ、物を破壊したりするのは極力控えること。破壊したものの修繕費は当社がもちますが、ひどすぎると給料から差し引くことになります」
「………………」
 唖然、としてしまった。そんなこと、今まで一度も……ない。物を壊してしまうのは破壊力の強い術を使うなら当然のことなのだから。
「仕事だからって何をしても許されるわけではないです。勝手に建物の中に入れば不法侵入として訴えられても仕方がない。そういう社会のルールは頭に入れてくださいね」
「みなさん……守っていらっしゃるんですか? それを……」
「……あなたは、自分の住んでいる部屋を、悪霊がいるからと言ってズタズタにされて黙っていられますか?」
「…………」
 無理、だ。そうなればさすがに弁償をしてもらうしかない。どうしようもない時は別として。
「もう一度言います。依頼者は、一般人のことが多いんです」
 ああそうか。だとすれば……住処を破壊されたりするのは、些細なものを壊されたとしても……黙ってはいられないだろう。直すにはお金が必要なのだ。
 夢月はきゅ、と拳に力を込める。
「覚悟は、あります」
「そうですか。では結果はおって連絡します。携帯電話のほうでいいですか?」
「はい」



 なんだか非常に疲れた。大学の講義よりも疲れたかもしれない。
(なんだか……今まで考えたこともないことをたくさん言われたなぁ)
 普通の人に混じって生活しているが、それでも自分は特殊だと思っていた。周囲に合わせて普通に振る舞っていても、それでも心のどこかでは思っていたのかもしれない。昔から天才だなんだと、もてはやされたこともあって。
(普通の人の生活を、守る……)
 結局そうなのだ。自分たちのような異能者だって、彼らの生活を脅かす存在に違いない。それなのに簡単に人を助けたいだなんて……傲慢もいいところだ。自分にそういうつもりがなくても、助けたいだなんて……上からの目線で。
(支部長さんは……それを見抜いていたのかな)
 だとすれば、本当に侮れない。
(……私にも嫌な部分があるって、なんだか露骨に気づかされた感じだわ)
 嘆息しながら帰り道を急いだ。

 その日の夜……ちょうど19時を過ぎたあたりに電話がかかってきた。相手は双羽だった。そして内容は……バイト採用の知らせだった――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7510/霧島・夢月(きりしま・むつき)/女/20/大学生・退魔師】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、霧島様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 バイトには無事、採用されたようです。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。