■ファムルの診療所β■
川岸満里亜
【3368】【ウィノナ・ライプニッツ】【郵便屋】
 ファムル・ディートには金がない。
 女もいない。
 家族もいない。
 金と女と家族を得ることが彼の望みである。
 その願いを叶えるべく、週に3日、夕方だけ研究を休み診療所を開いている。
 訪れる客も増えてきた。
 しかし、女性客は相変わらず少ない。
 定期的な仕事も貰えるようになったのだが、入った金は全て研究費に消えてしまう。
 相変わらずいつでも金欠状態である。

「ファムルちょっと、魔法ぶっぱなしてみていいかー!」
 声の直後、爆音が響く。
「言いながら、放つのはやめろ!」
 慌てて駆け込んで見れば、壁に大穴があいている。
「わりぃわりぃ、外に向けたつもりだったんだけどさー」
 頭を掻いているのは、ダラン・ローデスという富豪の一人息子である。
 ファムルは大きくため息をつきながらも、心は踊っていた。
 修理代、いくら請求しようかー!?
 くそぅ、もう少し大きく吹き飛ばしてくれれば、一部屋リフォームできたのにっ!
 貧乏錬金術師ファムル・ディートは相変わらず情けない日々を送っている。
『ファムルの診療所β〜ダランのポリシー?〜』

 ラスガエリを入手して数日後、ウィノナ・ライプニッツはダラン・ローデスを診療所に呼び出した。
 普段ダランが使用している診療室の奥の部屋で、ウィノナはダランと向かい合って座った。
「あらかじめこれだけは言っておくよ、ダラン」
 ウィノナは真剣な表情で言葉を続ける。
「キミのこれからの選択次第では、二度と取り戻せないものが出てきてしまうと思う」
 ウィノナのその言葉に、ダランは軽く眉根を寄せた。
「ボクが色々やってきたから、ボクのやり方を選ぶ、というように他の人に気を使って選ばないでね。キミが選んだ選択に覚悟を決められる、その決意を固められる選択をしてほしい」
「そんなの……やだ」
 今度はウィノナが眉を寄せる番だった。
「なんで?」
 とりあえず、ダランに訊ねてみる。
「二度と取り戻せないものなんて、作りたくないし、そういう重大なことを自分で選択できる程、知識ないし、物事わかってねーし」
 優柔不断というか、我が侭というか、自主性があるようでないというか……。
 ウィノナは少し考えた後、こう言葉を発した。
「別に突き放してるわけじゃないんだ。ボクも相談に乗るし、他の人にも相談して、どうするか考えて自分で決断して欲しい」
「うーん」
 それは曖昧な返事だった。
 ウィノナは軽く吐息をつく。
 でも、そういうものかもしれない。
 人生を決める重要な選択が出来るほど、自分達はまだ大人ではない。
 ウィノナだって、意見は出せるけれど、自分の決めた選択で、ダランの一生を決めてしまうような選択や押し付けは絶対に出来ない。
「とにかく、これから出来る指輪を、キミがどういうふうに扱っても、ダランが決めたことならボクは何も言わない」
「結局、それって自分で責任持てってことだろ? 俺の人生だし、ウィノナの言っていることは当然だとは思うんだ。だけど、俺としては、何も失いたくないし、欲しいものは欲しい。それが俺のポリシー! それが俺の行き方だ、わっはっはっ」
「…………」
 ウィノナは力なく笑った。
 その割にはこの少年、金を惜しげもなくばら撒いているようだが。まあ、彼にとってお金は失うものではないのだろう。何もせずとも、勝手に入ってくるものだから。
「で、指輪にするんだ?」
「あ、うん」
 ウィノナはノートを開き、簡単な図案を見せた。
「今ダランが身に付けている魔法具のうち、手放す可能性が一番高いのが指輪だと思ったし、指輪なら複数つけていても、おかしくはなさそうだから」
「そだな〜」
 図案を見ながら、ダランはうんうんと頷いた。
 ウィノナは箱を取り出して、蓋を開ける。
 中には、米粒ほどの石――ラスガエリが入っている。
「ダラン、手出して」
 ウィノナの言葉に応じ、ダランが右手を差し出した。
 その中に、ラスガエリを幾つか乗せる。
「お、おお?」
「魔力抑えられる感覚ある?」
「うん、持った瞬間変な感覚受けたけど、すぐ慣れた」
「そっか、じゃ身体調べてみるから」
 そう言って、ウィノナはダランの肩に触れて気づいた。
 魔力を封じられたダランに触れていては、自分も満足に魔術が発動できないということに。
 触れていなくても、近くにいるだけで多少の影響は受けそうだ。
「ダラン、一個返して」
 そう言って、ウィノナはダランに渡したラズカエリを一粒回収し、箱にしまって、箱を遠くへ押しやった。
 そして、ダランから少し離れて、呪文を唱え、出来る範囲でダランの体内を見た。
 触れて診る時ほど鮮明に見ることはできない。
 集中して流れを見ていく。
 ……ラスガエリの力により、魔術の流れが止まっている。人間の魔力に混ざっているであろう魔女の魔力だけ流れているなどということもなく、すべての魔力の活動が抑えられていた。
「うん、大丈夫そうだね。じゃ、石この箱の中に入れて」
 ウィノナが差し出した箱に、ダランがラスガエリを入れた。
「それじゃ、作成に入るけど、他に何か希望ある?」
「魔力の調節が出来るタイプがいいなー。今は特に必要ないけど、少しずつ抑える力が必要になってくるんだろうし」
「うーん、それは難しそうだけれど、一応考えてみるよ」
 成長に応じて服を買い換えるのと同じで、状況に応じて作っていくという方法がいいかもしれない。
「一番いいのはさ、2つの魔力を使い分けることなんだよな」
「使い分ける?」
 ウィノナの言葉に、ダランが強く頷いた。
「混ざった状態で1つの魔術的効果を生み出すことが難しくても、俺が体内で魔術編む時に、片方だけを使えるようになればいいんだ。人間の俺にはそういう能力がないみたいだけど……ここをどうにか出来ればな〜」
 ダランの言葉に、ウィノナは苦笑した。
「そうなんだよね。それは最初からわかっているんだけど」
「ま、本当に危ない時にはファムルの薬があるし。ウィノナの作ってくれる魔法具で、護ってもらえるようだし。のんびり探してみるよ」
「うんそうだね。ボクに出来ることがあったら、また協力するよ」
「へへへ、ありがと。なんか俺、兄弟いないけどさ、ウィノナってねーちゃんみたいだな!」
 そう言って、ダランは笑った。
 姉というか……同じ年なんだけどなーとウィノナは思いながらも、一緒になって笑ったのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
【NPC / ダラン・ローデス / 男性 / 14歳 / 駆け出し魔術師】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
魔法具完成まであと少しですね。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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