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■第3幕:片隅のアース■

川岸満里亜
【2863】【蒼王・翼】【F1レーサー 闇の皇女】
●熟考
 まずは、形勢を建て直し、状況の把握が必要だ。
 誰を仲間とし、誰を敵とするか。
 どんな結末を求めるのか。
 何が、誰にとって、幸せなのか。

 皆、それぞれの思いを胸にこの場に立っていた。
 呉・水香のゴーレムの機能が止まった。だが、その身体はこの場に残っている。
 襲いくる魔族は、どう対処すべきか。

 解放されたフリアルの心はこう語る。
『兄も、私も、ミレーゼも思っていました。望んで皇族に生まれてきたわけではないと。しかし、分かっていました。自分達は、自分だけではなく、多くの人々の命に干渉できる立場にあることを。私もミレーゼも、何の責任も持たず、誰かに護られて生きたかった。ジザス兄さんは、口には出さずとも、自身の自由を諦めて、私達を解放する方法を常に考えていてくれました。
 ――しかし、それは叶わず。兄はこの世界から旅立った私に、助けを求めてきました。
 私には、兄のような、感情を押し殺した冷淡な判断は下せません。
 姉のように、策略を巡らせることもできません。
 だから……』

 皆が必要だと、フリアルの心は語った。
 教えて欲しい、進むべき道を。
『第3幕:片隅のアース』

●拠点突入
「空気が変わったような気がするです」
 広瀬・ファイリアは、吹き抜けた風から緊張が消えたように感じていた。
「それは僕も感じている」
 蒼王・翼も同じだった。
 ファイリアは翼とアリス・ルシファールを見て、強く頷くと虚空に魔法陣を描いた。
「風さんはきつく縛られて殺伐した風を吹かせるよりも、自由に楽しく吹いてるほうが似合っていると思うから、風さんを自由にするために協力してほしいです」
 魔力と絡めて、風に語りかける。
 自分達に協力してほしいと。
 自分達は、風を縛り付けたりはしない。
 自由に吹き渡っていて欲しいから……。
 吹き渡る風が、建物の中の音をファイリア達に届ける。
 足音が、一方に向かっていっている。
「行きましょう、先輩達の所へ!」
 腕の模様を軽く見た後、アリスが駆け出す。
 その後に、ファイリアと翼が続いた。

 扉の前で振り返ったアリスは、皆に謳術で防御の魔法をかけた。
 建物は出来れば残したい。また、先に入っている仲間達を助けなければならない。
 故に、大きな技を放つことは出来なかった。
 皆に風の防壁を施した後、アリスと翼で扉を開いた。
 人々が集まっている方向、そこが目的の場所だ。
「なんだ、てめぇら!」
 早速、男がアリス達を目に留め、仕掛けてきた。蝙蝠のような羽を生やしている……魔族だ。
 アリスとファイリアは左、翼は右に避け、男を躱すと、魔族が集っている方向へと駆け出す。
 廊下での交戦の為、敵側も大技を放てないらしい。
 しかし――。
「きゃあっ」
 ファイリアが声を上げた。
 空気が爆発をした。
 アリスと翼は吹き飛ばされつつも、受身をとり、即座に立ち上がった。
 戦闘慣れしていないファイリアは、痛む体に顔を顰めながら、立ち上がる。
 至近距離からの爆発系の技は風の力では防げない。寧ろ、美味く利用されてしまったようだ。
 3人は近付いて背中を合わせた。
 早くも囲まれている。混戦状態と化している廊下から焙れた者はこちらをターゲットにすることに決めたらしい。
「奴等の仲間か、やれ!」
 リーダー格らしい男の声と共に、男達が一斉に飛びかかる。
 ファイリアは魔法陣を描き、風の力を爆発させる。
 アリスは謳術で、皆の身体能力を上昇させる。
 翼は敵を振り払いながら、風の刃で牽制する。
「吹き飛ぶですっ!」
 ファイリアが一際大きな声を上げた途端、魔族達は後方へと飛ばされる。同時に、ファイリア達に魔術が放たれる。
 ファイリアは風を操って、魔術の軌道を変える。
 翼は自らの魔力で、放たれた空間術が発動される前に、相殺を試みる。
 響き渡るアリスの謳術が、皆の力をより引き出し、敵の術は消滅し、風は敵を更に後方へと押しやる。
「一か八かですが――やってみます」
 そう言って、アリスは袖を捲くった。
 腹に力を入れて、アリスは叫んだ。
「下がりなさい。私はフリアル・ブレイデイズの娘です。父に呼ばれてこの世界に来ました」
 そして、腕の模様を見せる。
 ――エントランスの魔族の攻撃が、一瞬にして止んだ。
「ルクルシー・ブレイデイズの力が弱まったことは、皆様既にご存知ですよね? 私達に逆らうのは得策ではないと思いますけれど?」
 “父”のような嘲りを込めた眼を作ろうとしたが、少し顔が引き攣ってしまったかもしれない。
「父と面会を希望します。皆様も、無意味なことはおやめ下さい。私に手を出さねば、父は皆を許すでしょう。私も無意味な戦いは好みません」
 魔族達が、戸惑いの表情を浮かべている。
 効果覿面であった。アリスは腕の模様と、自分の演技力に感謝をしたのだった。
「それ、本当の話やで!」
 廊下の向うから、女性の声が響く。同時に、魔族が2人エントランスに吹っ飛んできた。
 廊下の向うに、ちらりと見えたその女性は――。
「先輩!」
 アリスは安堵の声を上げた。
 柚月は群がる魔族を術で吹き飛ばしながら、にやりと笑みを浮かべた。
「その子はこの国の第一皇子が留学した際に儲けた、第一子や。腕の模様と、アンタ等と互角に戦える力が証拠や。そうじゃなきゃ、他の2人が一緒にこの世界に来るわけがないやろ? 何のつながりもあらへんからな」
 不敵に笑い、力を振るう柚月の様子に、魔族達の攻撃が完全に止まった。
 そして男が2人、前に出てくる。
 一人は柚月を一番手間取らせた男。深い傷を負っている。
 もう一人はアリス達に襲い掛かってきたリーダー格と思われた男だ。

●フリアル・ブレイデイズ
 朝霧・垂は、フリアルの力を行使し、自らの傷を癒した。
 深く、息をつく。危ない状態だった。
 身体を動かしてみるが、痛みはない。ただ、酷い眩暈を感じる。流れた血液までは元に戻らないようだ。
「時雨……いや、フリアル」
 自分の中にいる魔族の皇子に話しかける。
「ジザスはこの部屋にいたはずだよね。……でも今はいない。どういうことだかわかる?」
『恐らく、肉体を完全に消滅させられたのだと思います』
「……彼の魂はどうなったのかな? まだここにある?」
『わかりません』
 垂は今にも息を引き取りそうな女性――ルクルシー・ブレイデイズに近付いた。
 自分の中のフリアルの動揺が感じ取れた。
 憎んでいるはずの相手。
 生かしては置けない相手。
 その力を奪わなければならない相手……それなのに、フリアルの心は、彼女を手にかけたくないと思っている。
 彼はとても優しい。
 だけれど、優しさだけでは、国は治められない。
 その優しさで彼女を見逃したら、自分も兄弟達の魂も、この国に生きる人々も、更なる苦しみを受けることになる。
「どうする? 覚悟を決めて、フリアル・ブレイデイズとして生きる? ……それとも、他の方法を考える? 例えば、ジザスを生き返らせるとかさ。ジザスの魂がまだここにあったのなら、外の魔族の命と引き換えに蘇らせることも可能なんじゃない? そして、ルクルシーの身体から皇族の力を奪えば、ジザスは皇族として完全に復活できる」
 その言葉に、フリアルは答えなかった。
 垂は眉を顰めた。
 ルクルシーの命は消えかけている。迷っている時間はもうない。
 バン!
 突如、ドアが開かれた。
 後方に飛び退きながら振り向いた垂は、安堵の吐息をつく。
 現れたのは、柚月とアリスであった。

 柚月は部屋に入るなり、ルクルシーの状態を確認し、応急処置を施した。
「さて、今後のことやけど」
 簡単な状況報告は済ませてある。
 この奥の部屋に現在集っているのは、フリアルを憑依した垂と、翼、ファイリア、意識不明のルクルシー、そして柚月であった。
「この人が兄弟達……ジザス皇子をも殺害したのは明白なんやし、時雨……ううん、フリアルがどう扱っても、私達は見届けるまでや」
 そう言って、柚月は垂の中のフリアルに答えを促した。
 この国の人間でも、この世界の人間でもない自分達には、選ぶ権利などない。
 これはフリアルが決めねばならないことだ。
 だけれど、垂の中のフリアルは答えない。酷く迷っているようだ。
 倒れて動かない姉に、止めを刺すことなど、彼にはできない。
 そう垂は感じ取り、小さくため息をついた。
「城の状況だが」
 一人、風の声を聞き、城の状況を探っていた翼が声を発した。
 皆の目が一斉に翼に向けられる。
「ジザス皇子の妻――サリラと彼女の兄は、共犯だ。主犯はルクルシー皇女のようだが、この2人がジザス、フリアル皇子にとって敵側の魔族であることは間違いがない。息子のロッドだが、まだ言葉もまともに話せない赤子だ。人見知りが激しいらしく、母親以外の人物には決して近付こうとはしない」
 翼は皆を見回した後、フリアルを憑依している垂に真直ぐ眼を向けて、こう語った。
「非情な意見をいうならば、将来に禍根を残さないよう、3人共始末してしまい、ロットの命で別の命を蘇らせるという方法もある」
 自分とジザス以外の兄弟であったのなら、迷わずその道を選んだだろう。
 しかし、フリアルにはその選択は選べるものではなかった。
『ロットは、兄の子です。兄にとても懐いていたと聞きました。私も会ってみたい』
 フリアルの思いは、垂の口から語られた。
 やはり、彼には冷徹な判断はできないようだ。
 翼にしても、命を軽々しく扱うまるでゲームのようなこの世界の法は、自身が嫌うやり方でもある。
「何も知らないことにして、上手く手を組めれば一番なんだが」
 言いながら、翼は腕を組んだ。
 目を閉じて、再び風の声に耳を傾ける。
「フリアルさんが力を取り戻して、他の皇族に力を認めさせて、一時的にでも支配者として認めさせれば良いんじゃないですか?」
 ファイリアの提案に、皆頷きはするが表情は厳しかった。
 翼が口を開く。
「そうして城に入り込んだとして……問題は、あの2人の野心だ。この国はもちろんのこと、隣国をもいずれは手中に治めたいと考えているらしいからな、策略を巡らしてくるだろう」
「そんな人達とフリアルが互角に渡り合えるわけないよね」
 それは垂の言葉だった。
「やっぱり、ジザスの意見を聞くべきだよね。とりあえずジザスを話せる状態にしたいんだけど……」
 垂の言葉に、柚月が動いた。
 部屋の中に転がっている透明の箱を拾い上げる。
「この中に、魂が1つ封印されてるみたいや。多分これが……」
「そっか」
 垂は軽く目を伏せた後、その箱を受け取った。
「時雨の身体に入れるっていうのはどうかな? 生命としての機能は働かなくても、会話くらいは出来るよね?」
『しかし、魂を別の肉体に入れるためには、やはり対価が必要になります』
 垂の問いに、フリアルがそう答えた。
「必要ならば……垂、キミには出来ないのか?」
「へ?」
 翼の言葉に、垂は眉を顰める。
「今、フリアル皇子を憑依して、その心を聞いているんだろ? 同じように、ジザス皇子をキミの中に呼ぶことは不可能なのか?」
「ああ、うーん」
 確かに、その方法は考えられる。
 フリアルを復活させた後なら、ジザスの魂が拒否しなければ、契約を行なえるだろう。
 フリアルがこのままの状態ならば、彼の魂の拠所を用意せねば、不安ではある。
「時雨の身体やけど、水香さんに返さなあかんから、私が異空間に預かっとこか」
「そうだね、置いていくわけにもいかないし。お願い」
 垂の返事を聞いて、柚月は機能停止状態の時雨の身体に近付いた。両手を翳して、呪文を唱える。
 浮かび上がった光が、時雨の身体を異空間へと運んでいった。
「フリアルさん」
 ファイリアが、垂の前に立って、目をじっと見つめた。
「ファイはこの国の人と、数日間一緒に過ごしましたです。羽を生やした人ばかり、楽しそうにしてましたです。人間の皆は、とてもとても辛い思いをしてましたです」
 ファイリアが見聞きした街の様子、人々の言葉を、フリアルの魂に向けて語った。
「……これが、今の国の様子です。フリアルさん達が生きていた頃と同じですか? 水菜ちゃんもこんな世界で生きていたのですか?」
 哀しげに、ファイリアが訊ねた。
 垂の頭がゆっくりと縦に振られた。
「では、どうしたいですか? フリアルさんの大切な人達をどうしたいんですか? そして、フリアルさん自身も、何がしたいんですか? どうなりたいんですか? 思ったことを実行すればいいです。難しく考えても進めなくなるだけですから」
 ファイリアの言葉を受けたフリアルの心が、1つの意思を示し始めることに、垂は気づいた。
 身を彼に委ね、自由に会話をさせることにする。
『私も、ミレーゼもこの世界にはそぐわない性格の持ち主でした。今、私達の大切な人は誰一人生きてはいません。そして、私自身も、ミレーゼも既にこの世界での生を終えました。……私は、地球で暮したい。終えた命ではなく、新たな命、地球人として生まれてきたい』
 それが、フリアルの記憶を持つ、魂の本当の気持ちであった。ゴーレムの支配もなにもない、純粋な彼の気持ちだ。
『皇族の誰もが国を治める能力を持っているわけではありません。確かに、私は皇族の力を有していました。しかし、国を治める能力は一切備わっていませんでした。適していなかった。だから、利用されることもなくただ殺された。結局、フリアルとして蘇っても同じことが繰り返されるだけでしょう……』
 苦悩に満ちた言葉であった。しかし、それは真実だろう。
 フリアルに国を治める能力はない。それは垂も感じていたことだ。
「それなら、やっぱり、フリアルさんも、水菜ちゃんも、地球で暮すですっ」
 ファイリアが垂の腕をぎゅっと掴んだ。
「そのためにどうしたらいいのかを考えるです。ファイ達はこの国を救うために来たわけではないんですよ。ファイは水菜ちゃんが好きだから、ここに来たです。他のみんなも、水菜ちゃんや水香ちゃんや、時雨さん達のことを大事に思ってるから来たです。だからフリアルさんや水菜ちゃんが幸せになることが一番大切なんですっ」
「そうやね」
 柚月が垂の方をぽんと叩いた。
「どう転ぶかはわからんけど、最初の目的を一番に考えるべきやね」
「ミレーゼの魂は、ルクルシーが管理しているらしい。正確な位置まではわからないが、城にあると思われる。ではミレーゼ皇女とフリアル皇子の魂を地球に連れていくことを第一目的に。国の安定は可能な範囲で考えることにしよう」
 翼の言葉に、一同が頷いた。
 カチャリ……
 ドアが開いて、アリスが顔を出した。
 彼女は少しやつれたような顔をしていた。
「なんとか信用してもらえたようです。それにしても……無茶ですよ、先輩」
 柚月に近付いて、疲れ果てた表情を見せた。
「ご苦労さん。全然無茶じゃないやろ。ちゃんと成功したんやし」
 言って柚月はにっこり笑った。
 アリスは、肩を落としてため息をついた。

●出発を控え
「さてと、方針も決まったことやし、どう城へ向うのかを考えないとね」
 そう言って、柚月はアリスに目配せをした。
 アリスは頷いて、ドアの外で待機していた2人の魔族を部屋に入れた。
 柚月を手間取らせた男と、リーダー風の男の2名である。
「ハグザさんと、ステバニズさんです。ルクルシーさんの両腕のような存在だったそうです」
 倒れているルクルシーを見て、2人の男は厳しい目で一同を睨んだ。
「まだ鼓動は完全に止まっちゃいない。誰が国を支配するに相応しいか、決めかねてるからね」
 そう言い、柚月は男達の視線を自分に向けさせる。
「城に行きたいんやけど、ここからどうやって行ける? 罠とかはあるん? もちろん、罠くらいここの皇女様にはなんてことあらへんのやけど、同行者にもしものことがあったら、怒りで城の半分吹き飛ばしちゃうかもしれへんやろ?」
 アリスを指しながら、柚月がにやりと笑う。
(そんなことしませんっ)
 アリスははらはら先輩を見守る。
「ここには、城への転移装置がある。罠はない。転移先はルクルシー皇女の部屋のバルコニー。だが、皇女の力が弱まったことは、既に城に知られているだろう。警戒態勢をとっていると思われる」
 答えたのはハグザだ。
「了解。最悪、1万の兵と戦うことになるやろなー」
「まずは、ジザス皇子の妻、サリラと、義兄に会い、交渉をすることを第一に考えよう。その方法だが……」
 翼が一同を見回し、言葉を選びつつ説明をしていく。
「我々はルクルシー皇女、つまり皇族の力を手中に収めている。そして、その力を継げる者1人と、復活できるもの1つと、方法によっては復活ができる魂を1つ確保している。我々と交戦をするのは得策ではない。……そう切り出し、相手の出方を見て、交渉に持っていく」
「うん。だけどさ、どちらにせよ、城に居る奥さんと子供を如何にかするには、やっぱりジザスが必要だとおもうんだよね。まぁ、ケジメをつけさせると言うかなんと言うか、ね」
 垂がそう言い、魔族の男達に目を向けた。
「ちなみに、ジザス……皇子って城ではどんな人だったの? 魔力はフリアル皇子より弱かったの? 『第一皇子』って、魔力を一番引き継いでる感じがするんだけど?」
「ジザス皇子は、人望のある方でした。そしてご自身の力の使い方が非常に上手く、力の鍛錬は決して欠かさない人でした。それがバルツを治める者として一番重要なことですから。しかし、潜在的な皇族の力に関しては、類い稀なる力を秘めていたフリアル皇子には適わなかったと思われます」
 垂の質問にはステバニズの方が答えた。
『俗説ですが、我が国では愛し合う者から生まれた子供は強い魔力を持って生まれてくると言われています。私の母は父に寵愛されていましたので、私は兄達より強い魔力を持って生まれてきたのかもしれません』
 垂の中のフリアルはそう答えた。
「そっか……」
 ジザスをどうすべきか、垂は迷っていた。
 そんな垂の迷いを感じてか、フリアルが語りかけてきた。
『兄もまた、この世界での生を終えています。全ての柵は消え去っていいはずなのです。蘇るということは、その柵にまた縛られて生きるということ。そして命を終えるまで、その柵は消えることがないのです。だから、私は、兄に皇子として生き返って欲しいとは思っていません……』
「あなたの身体を復活させていたとしたら。同じことが言えた? お兄ちゃんの助け、絶対必要と感じたと思うんだけどね」
 意地悪気に言って、垂はちょっと笑った。僅かに切なげに。
「出発は急いだ方がええね。それじゃ、各々休憩をとって、1時間後に出発しようか」
 柚月が目を煌かせた。
 アリスはかすかに力を感じる腕の模様を見た。城でも、自分はジザスの子供だと偽ることになるだろう。
「ジザ……お父様の息子……弟が気がかりです。早く弟の元に向かいたいと思います。まだ幼い子供の様ですから、これ以上の大人の都合に振り回させたくないです」
 そう言って、目を伏せた。
「でも、注意せなあかんよ。皇族の力を持った子供やからね。周囲の者の行動が、どう影響するか判らへんのやから」
 柚月の言葉に、アリスはゆっくりと頷いた。
 ファイリアは考え込んでいる垂を見た。
 ミレーゼの気持ちは恐らくフリアルと一緒だろう。だけれど、彼女の本当の言葉を聞くには垂の力を借りなければならないかもしれない。聞く必要があるのか。連れて帰っていいのか……そもそも、彼女の元にたどり着けるのだろうか。
 翼はドアの隙間から入り込む風に、耳を傾ける。城に続々と兵が集っているようだ。
 垂はジザスの魂を手に考え込んでいた。
 どうすべきだろうか。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2863 / 蒼王・翼 / 女性 / 16歳 / F1レーサー 闇の皇女】
状態:普通

【6424 / 朝霧・垂 / 女性 / 17歳 / 高校生/サマナー(召喚師)】
状態:貧血

【6029 / 広瀬・ファイリア / 女性 / 17歳 / 家事手伝い(トラブルメーカー)】
状態:普通

【7305 / 神城・柚月 / 女性 / 18歳 / 時空管理維持局本局課長/超常物理魔導師】
状態:普通

【6047 / アリス・ルシファール / 女性 / 13歳 / 時空管理維持局特殊執務官/魔操の奏者】
状態:軽い疲労

【NPC / 時雨 / 男性 / ?歳 / ゴーレム(バルヅ帝国第五皇子)】
状態:機能停止、異空間に保護

【NPC / フリアル・ブレイデイズ / 男性 / 享年23歳 / ゴーレム(バルヅ帝国第五皇子)】
状態:垂に憑依中

【NPC / ルクルシー・ブレイデイズ / 女性 / 31歳 / バルヅ帝国第一皇女】
状態:重体

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
『第3幕:片隅のアース』へのご参加、ありがとうございました。
今回は城への突入まで到達しませんでしたが、次回はエピローグとなりそうです。
どんなラストを迎えるのか、楽しみにしております。
あと1回、どうぞよろしくお願いいたします。