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■【妖撃社・日本支部 ―桜―】■

ともやいずみ
【7510】【霧島・夢月】【大学生/魔術師・退魔師】
「奇妙で奇怪な事件に巻き込まれている、人外の存在に脅かされている、そんな方……ようこそ「妖撃社」へ。
 我が社は誠心誠意・真心を込めてあなた様のお悩みにお応えいたします。
 どんな小さなことでも気軽にご相談ください。電話番号は0120−XXX−XXXまで。
 専門家たちがあなたの助けになること、間違いありません」

 バイト、依頼、それとも?
 あなたのご来店、お待ちしております。
【妖撃社・日本支部 ―桜―】



「こんにちは。支部長さん、いらっしゃいますか?」
 日曜日、妖撃社の事務室のドアを開けて入ってきた霧島夢月に、すぐに現れたメイド姿の少女が微笑む。
「あら。いらっしゃいませ。
 フタバ様でしたら支部長室にいらっしゃいますので、こちらへどうぞ」
「あ。はい」
 室内に足を踏み入れた夢月は少女について歩き、部屋の一番奥にあるドアのところまで案内された。
 軽くノックして、彼女は中に声をかける。
「フタバ様、キリシマムツキさんがいらっしゃいました」
「入ってもらって」
 中からそう声が返ってきて、メイド少女は夢月に道を開ける。ドアを開けて中に入れということらしい。
 夢月は軽く息を飲み込み、ドアをノックしてから開けた。
 支部長室は、事務室に比べて狭い。一番奥に双羽の座る机があった。
 彼女は書類に目を通して難しい表情をしている。こつこつと、左手に持つボールペンの尻で机を叩いていた。
「いらっしゃい」
 最初の面接と違い、彼女はこちらに気軽に話しかけてくる。そうだ。今はもう、自分は彼女の部下なのだ。たとえバイトでも。
「お邪魔します。お仕事中なのにすみません」
「いいのよ。それで、何か用かしら?」
 書類から目を離して顔をあげ、こちらを見てくる。やはり年下なのに、しっかりしている娘だ。
 机に近づき、夢月は一度視線を伏せてから、まっすぐに双羽を見た。
「やはり仕事を請ける上で、私の能力の説明は詳しくしておいたほうがいいかと思いまして」
「……わかった。ちょっと待って」
 双羽は立ち上がって壁に立てかけてある折りたたみのパイプイスを持ってきた。夢月にそれを渡して座るように促し、部屋から出ていってしまう。
 だが数秒で彼女はすぐに戻ってきた。双羽に続いて入ってきたのは、黒髪の美しい娘だ。あまりの美貌に夢月は唖然としてしまう。
 まるで作り物のような白い肌と顔の造作。気持ち悪いほど、だ。
 二人は小声で何か話し、双羽は席に戻った。もう一人の娘は彼女の机のすぐ横の壁に、腕組みして立つ。
「あの……?」
 戸惑ったような声を出す夢月に、双羽は苦笑いをしてみせた。
「彼女は遠逆未星さん。退魔士をしていて、一応うちの社員なの。色々と詳しいから、同席してもらうことにしたのよ。彼女のことは気にしないで」
「はぁ……そうですか」
 未星に視線を遣る。未星は冷たい表情でこちらを見ていた。まるで観察されているようだ。
 夢月は気を取り直して話し始めた。
「私の家の魔術形式は少し特殊で……様々な魔術の根底の理論を組み合わせて形作ったものです」
「…………」
「なので、黒や白などのように魔術特性が限定されないんです。霧島家が代々伝え、新たに生み出したものであるので系統はいくつかに分類されますが……」
「つまり……魔術といってもそれは霧島さんの家で独自に作られて改良されたとみたほうがいいということですか?」
「そうですね。
 私が得意とするのは魔力の転換と放出、結界魔術です。門外不出なのでこれ以上の詳細は無理なんですけど」
「………………」
 双羽は嘆息し、それから未星に視線を投げる。未星は軽く頷いた。
 視線をこちらに戻した支部長は手を組んで、口を開く。
「霧島さんへの認識を改めないといけないのね。わかったわ。
 つまり、霧島さんの得意とするものは霧島さんの家に伝わる魔術全般であり、一般的な魔術は範疇外である、ということかしら?」
「……根底の理論というからには流れ自体はあるんでしょ。だけど、専門的な知識を問われても応えられないことも多いと見たほうがいいわよ、双羽」
「難しいわね、なかなか」
 苦い顔の双羽に未星は不適に笑う。
「そんなものよ。こればっかりは派閥とか色々あるし、奥が深くて大変なの」
 肩をすくめる未星の言葉に双羽は溜息で応えた。
 夢月は未星を見つめる。この人はタイマシをしていると言っていた。うちの家と同じ、だ。
「遠逆さん、遠逆家でもそうなんですか?」
「うちには魔術はない」
 きっぱりと言い放つ未星に、双羽はさらに難しい表情を向けていた。なんだか会話が微妙に噛み合っていない気がする。
「うちは法術、神道、陰陽が一番近いから」
「ホージュツ?」
「方術じゃないわよ?」
「???」
 双羽はすごい顔をしている。頭の上に疑問符が山ほど浮かんでいる様子が、みえるようだった。
 彼女はこほんと咳をしてから、背筋をピンと立てて夢月を見た。
「とりあえず了解したわ。わざわざありがとう」
「あ、いえ」
 理解、してもらえただろうか? 一応未星がフォローのようなものを入れていた気はするが。
 イスから立ち上がった夢月は未星を一瞥した後、双羽に「あの」と声をかける。
「社員の方、いらっしゃる方だけでもいいのでご挨拶をしておきたいんですけど」



 支部長室のドアを開けたそこは、事務室として使っている部屋。夢月が面接を受けたのもここだ。
 だが衝立で区切られているので……ドアを開けたすぐ目の前が社員の使う場所だとは知らなかった。
 仕事用らしい簡素な机が4つ。それに長イスが一つ。長イスでは寝ている娘がいる。
「うちの正規の社員はここにいる4人。遠逆さんは借りてる人なの」
「あ、さっきの」
 背後に立っている未星は目を細めた。
「遠逆未星」
 ……しーん。
(……えっと、もしかして今の、自己紹介のつもり……なんでしょうか)
 きょとんとしてしまう夢月は軽く会釈した。
「霧島夢月です。よろしくお願いします」
「ん」
 未星は頷いただけだ。……変な人なんだろうか、美人なのに。
「一番奥の端……窓際からね。あそこに座ってるのがクゥよ」
「クゥといいます。よろしくお願いします」
 にこっ、と天使のような笑顔を浮かべる少年は、未星に劣らないほどの美少年だ。夢月は反射的に頬を赤く染める。
「霧島夢月です。よろしくお願いしますね」
「キリシマ?」
 クゥは二度ほど瞬きをして、ふぅん、と意味深に微笑んだ。しかしこんな子供が社員だなんて……危険な仕事だってあるはずなのに。
「あの長イスで寝てるのがシン。それから、クゥの前に座ってるのが露日出マモルさん」
 フードを深くかぶった青年が立ち上がり、こちらを振り向いた。かなり身長がある。
「露日出です。よ、よろしく」
「よろしくお願いします」
 顔がはっきりと見えないが、自分とそれほど年が離れていないような印象を受けた。
 マモルの横の席に座っていたメイド少女が立ち上がる。振り向いて彼女は微笑んだ。
「アンヌ=ヴァンと申します。よろしくお願いします」
「あ、はい。こちらこそ」
「これで社員は全員ね」
「全員?」
 双羽の言葉に夢月はもう一度メンバーを見回す。双羽を入れても6人だ。少ない。いくらなんでも少なすぎる。
「あの、本当にこれで全員なんですか?」
「そうよ」
 支部長はあっさりと頷く。
 そんなバカなともう一度一同を見遣った。全員、どう見ても夢月より年下か、同等くらいの若さだ。全員バイトだと紹介されても違和感がないほどに。
(あ、でも……支部長さんも妹くらいだし……ここではこれが普通なのかしら)
 そんな風に無理やり納得した。
「霧島さんはうちのバイトに採用したの。みんな、仲良くね」
 双羽の言葉に全員頷く。支部長は夢月を見た。
「ちょっと癖のある連中だけど、くじけないでね。
 あぁ、えっと、あそこで寝てるシンはそのうち起きるから放っておいていいわ。
 それと……仕事について説明するわね」
 彼女は壁際にあるホワイドボードのところへと歩く。夢月もそれに続いた。
 ホワイトボードには2種類の書類がはられている。微妙に違うのが、見ただけでわかった。
「こっちが依頼概要書。依頼人からの依頼に関して簡単に説明してあるものね。これは調査をすることが目的。
 それから、こっちのが報告書。ややこしいんだけど、これは依頼概要書で調べた依頼内容のことを社員とバイトが書いたものなの。これは調査が済んだから依頼を解決するのが目的になるわね」
「なぜ段階をわけるんですか?」
「得意不得意が分かれる、というのも理由の一つだけど慎重にいきたいの。仕事だから。
 この2つとも、どっちも私に報告書を提出してもらうわ。
 仕事に行く際には武器の使用は申請してもらうことになってるの。建物などを破損したら、それもきちんと書いてね」
「そこまで……」
 驚いてしまう。大学のレポートでもこんなに詳細を書くことはないのに。
「ここに貼ってあるものから、自分でできそうなものを選んで私のところに持ってきて。私がそれを認可したら、仕事に行ってもらうわ。できないと思ったら認可しない。
 それに、もしも危ない仕事で命に危機が迫っていたら仕事を放棄して逃げて。後始末は社員にさせるから」
 夢月は瞬きをしてしまう。夢月の実家では仕事を優先させていた。ここでは優先順位が違うようだ。
 まっすぐにこちらを見て双羽が言う。
「あなたはバイト。つまり、一番責任が軽いわ。責任がまったくないというわけではないのはわかってると思うけど。
 仕事よりも命のほうを優先して。やり遂げることも大事だけど、ここにはあなた以外もいる。困ったら誰かがフォローしてくれるから、自分の命をなにより大切にしてね」
「…………はい」
 複雑な心境になった、正直。夢月が知っている退魔の仕事のあり方と、ここは大きく違う。
 自分でもわかっていたはずなのに……こうして目の前にしてしまうと違和感を感じないと言えば嘘になる。
 ここにはここのルールがある。まずはそれを覚えなければ。
「あの、他にありますか?」
「そうね。面接の時に言ったけど、依頼者の多くは一般人だから、なるべく彼らの立場でものを考えて欲しいの」
「一般人の立場?」
「こちらの常識や考えを押しつけないようにすればいいわ。仕事をしていくうちに、わかってくるから」
「わかりました」
 天才肌で、何事もうまくそつなくこなしていた自分。けれどもなんだか、ここでは違う気がする。今までの自分の常識や考えは、ここでは通用しないだろう、きっと。
 夢月はホワイトボードを見つめた。妖撃社――か。
(こんな私でも助けになるなら……いいけど)



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7510/霧島・夢月(きりしま・むつき)/女/20/大学生・魔術師・退魔師】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、霧島様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 面接の補足となっております。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。