■【妖撃社・日本支部 ―桜―】■
ともやいずみ |
【7511】【霧島・花鈴】【高校生/魔術師・退魔師】 |
「奇妙で奇怪な事件に巻き込まれている、人外の存在に脅かされている、そんな方……ようこそ「妖撃社」へ。
我が社は誠心誠意・真心を込めてあなた様のお悩みにお応えいたします。
どんな小さなことでも気軽にご相談ください。電話番号は0120−XXX−XXXまで。
専門家たちがあなたの助けになること、間違いありません」
バイト、依頼、それとも?
あなたのご来店、お待ちしております。
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【妖撃社・日本支部 ―桜―】
うー、と霧島花鈴は唸った。目の前には姉のノートパソコンの画面。
開かれているのは検索ページだ。
カタカタとキーボードを打つ。すると画面上に文字が入力されていく。
「…………」
検索ボタンをクリックし、表示されたページを花鈴は睨んだ。目を細めるその様子は、見る人が見たら、ちょっと怖い。
「…………」
無言のまま用意していたメモ用紙に、画面を見ながら書き込んでいく。
花鈴はシャーペンから手を離して再びキーボートを打った。
そんな感じで土曜の深夜は更けていった……。
*
「こんちはー。アンヌ先輩、いま部長いますか?」
妖撃社の事務室ドアを開けて入ってきた花鈴は一直線に奥に進む。
社員の使う一角ではアンヌただ一人が掃除をしていた。
「うわぁ、掃除ですか?」
「はい。この間随分汚くなりましたからね」
にこっと微笑むアンヌに花鈴は苦笑しか返せない。いや、ここをズタボロにしたのは自分ではないのだが……。
(汚い、で済むようなものでもないと思うけど……)
そう思いつつ、花鈴は「部長は」と問う。
「フタバ様でしたら支部長室で書類とにらめっこをしていらっしゃいますよ? 呼びましょうか?」
「え、あ、自分で行きます!」
つい力んでそう答えると、アンヌはくすりと微笑んだ。
「そうですか。頑張ってくださいましね」
うっ。見抜かれてる。
ぎくしゃくしながら花鈴は奥へと歩いていき、支部長室のドアの前で足を止めた。
何度もここに来るまでに練習してきた。部長、今から私とでかけません?
(絶対セリフをかまないようにしないと)
かっこわるいことになるのは避けたい。
コンコンと軽いノックを二回。中から「はい」と返事があった。あ、部長の声だ。
(なんていうか、部長のお仕事用の声って背筋がピンとするよね)
なんてことを考えながら「霧島です」と元気よく言い放った。
「どうぞ」
許可が出たのでドアを開く。奥の机では私服姿の双羽がファイルを開いて眉間に皺を寄せていた。
(うわっ、なんかすごくムズカシー顔してる)
早くも嫌な予感。いやいかん。誘ってもいないうちから諦めるな自分! いけ、いくんだ!
「ぶちょー、今から私と出かけません?」
「ん?」
双羽は顔をあげてこっちを見てくる。少しズレた眼鏡を軽く押し上げて、だ。
花鈴は視線が合致したことで急に恥ずかしくなってきて赤面した。
「てか出かけましょう、ぜひ! お昼ごはん食べに行きましょう?」
「お昼?」
彼女は机の上の置き時計の時間を確認した。まだ朝の10時半だ。
「部長! ほらほら!」
「えっ?」
近づいてきた花鈴は無理やり双羽を立たせる。彼女は困惑してこちらを見た。
「こんなところで一日中座ってたら腰が痛くなりますし、気分転換しましょう! ね!」
「い、いいけど……なんだかテンション高いわね」
双羽は「じゃあ用意するからちょっと待ってて」と苦笑したのである。
*
こうして並んで歩くと本当に女子高生の友達みたいだ。
(……部長の服の趣味って私と全然違うんだなぁ)
カジュアルなものを好む花鈴と違い、双羽はシックで露出の少ない衣服を好んでいる。
「えーっと、部長、パスタとか好きですか?」
「嫌いじゃないけど……」
「じゃ、じゃあそこに行きましょう! いいお店があるんです! 美味しいって評判の!」
「う、うん。じゃあお任せするわ」
戸惑う双羽の前では花鈴は緊張をなんとか隠していた。気に入ってもらえるといいなあ、お店。昨日あれだけ調べたんだもん。
(値段も手ごろでランチがあって、美味しくって……。高校生のお金なんてたかが知れてるし)
あ、でもそうか。双羽といい自分といい、多少は働いているのだから少しは余裕があるのか。
「こっちこっち、部長」
ぐいぐいと手を引っ張る。握った手は小さくて、花鈴は驚く。自分の、少しごつい手とは違う。女の子の手だ。
(そっか……部長は戦うわけじゃないもんね)
誰かを殴るとかそういうものとは無縁の人なのだ。
調べた住所を目指して歩いていると、やがて見えた。通りに面して建っている店は少し地味な印象を受ける。
「あそこです、部長!」
「ふぅん。外からは営業してるかわからない感じね」
「ちゃんとやってますって! 定休日は火曜日なんです、ここ! さぁさぁ!」
あのネット情報が古かったらお手上げだが……。近づいてみると、小さな看板が出ていた。今日のランチメニューが書かれている。よかった、ちゃんと営業をしているようだ。
「追加料金を出すとデザートがつくんですね!」
「……ランチのパスタはクリーム系のものか、トマト系かなのね。あ、他にもある」
まじまじとメニューを眺めていた双羽の手を花鈴は強く引いた。
「もー! こんなところで決めなくても、中に入って決めましょうよ!」
「えっ!? あ、うん、そうね」
「たのもー!」
調子に乗ってドアを開けて中に入る。「いらっしゃいませ」と店内のあちこちから声がかかった。
「二名様ですか?」
「はいっ」
やって来た店員に元気よく答えてしまう。なんだろう。すごく力んでいるのがバレバレだ。なにやってるんだろう私。
席に案内され、向かい合って座った。
テーブルの上に水の入ったコップとメニューが置かれる。店内はそこそこ人で賑わっていた。
「部長! 部長はどれにする? 私、パスタも美味しそうだけどこっちのピザのメニューもいいかなって。あ、でもこっちのオムライスもおいしそ〜!」
目移りしてしまう。この店を彼女が気に入ってくれるかどうかは食事の味の良し悪しで決まってしまうだろうし、どきどきしてしょうがない。
「どれもなんだか興味を引かれるわね。でもここ、パスタが美味しいのよね?」
「え? はい!」
「じゃあせっかくだし、パスタにしようかしら。お昼だしあっさりめがいいかもね。ペペロンチーノのパスタセットにしようかな。霧島さんは?」
「うぇっ!? わ、私は、えっと……じゃあ魚介のトマトソースで」
「追加料金でデザートを頼めるみたいだけど、どうする?」
「や、でも部長、お仕事忙しいんじゃ」
「そこまで忙しくないわよ。きちんと毎日処理できるところまでやってるし、アンヌとかがフォローしてくれるしね」
にっこりと微笑む双羽に花鈴はぎこちない笑みを返す。やっぱりアンヌは頼られているのだ。いいなぁ。
「ゆっくりできるなら、頼んじゃいましょうか部長!」
「そうね。じゃあデザート追加で。ケーキかアイスってことだけど、どっちにする?」
「ケーキにしましょうよ、部長!」
「うん、そうしましょ」
楽しそうに頷く双羽に安心してしまうと、少し疲れが肩にかかってきた。
運ばれてきたサラダとスープ。それにパスタ。湯気がのぼるパスタを見て急におなかが減ってくる。
「じゃあいただきましょう」
「はいっ」
食べてみるとかなり美味しい。パスタはもちもち感があり、ソースも魚介の美味さが上手に引き出されたものだ。
「あれ? なんか部長のはスパゲティ、細いですね」
「同じものを使ってないみたい。美味しいわ、これ」
嬉しそうな双羽を見て花鈴はじわっと心が温かくなった。昨日の睡眠時間を削って調べたかいがあったというものだ。
(う、うぉ……せっかく美味しいパスタ食べてるのに急に疲れが……)
先ほどの軽く感じた疲労とは比較にならない。いやいや、頑張れ花鈴。せっかく部長とランチ中なのに。
パスタを堪能した後、デザートが運ばれてくる。二人はケーキセットにしたのだが、どちらも違うものだった。
「ぶ、部長のはチョコレートケーキだ! 私のはミルクレープ?」
横に生クリームがそえてある双羽の皿には、フルーツも少し飾られている。花鈴のほうもフルーツと、細くスライスされたアーモンドをキャラメルでコーティングされたものが乗せてあった。
一緒に頼んでいた飲み物も運ばれてきた。花鈴も双羽も紅茶にしておいた。ミルクティーである。
「ん? やっぱり紅茶はアンヌ先輩の淹れたのが一番美味しいですね」
一口飲んだ後に言うと双羽は苦笑した。
「そうね。確かにアンヌの淹れたお茶を飲むと、どうしても比較しちゃうわよね」
「あ。このケーキけっこういける」
「ほんと。甘さ控えめがいいわね」
「部長も甘さは控えめなほうが好きなんですか?」
「そ、そりゃ年頃の娘としてはカロリーを考えちゃうわよ。過剰なダイエットとかはしないけどね」
「へぇ。部長もそういうの考えるんだぁ」
「考えちゃ悪いの!?」
キッとこちらを睨んでくるので笑って誤魔化す。
(そっかぁ。まぁ私も気にしちゃうもんね。二の腕のプニプニなところとか……なぜか太ももが最近気になるとか……)
女の子の悩みというのは尽きないものだ。
「永遠に太らないならいいんですけどね。でも甘いものはどうしても別腹というか」
「時々急にこういうの食べたくなる時ってない?」
「ありますあります! 夜中とかに唐突に目が冴えちゃって、なんだか急にショートケーキ食べたいなあとか!」
「突然たこ焼き食べたくなったりするわよね。ソースもの食べたいっていうか」
「そうそう!」
楽しく笑いながら会話をしていく花鈴は、小さく息をついた。
なんだ。やっぱり部長も普通の女の子なんだ。普段の双羽の雰囲気から、自分より年上の人のような感じを受けていて緊張しっぱなしだったのだ。
自分のおすすめのお店に連れて行かなかったのは、子供っぽいと思われるかもしれないと……不安になったから。わざわざ調べて、双羽も気に入りそうなところを見つけたのはそれが理由だ。
高校生がランチに来るようなお店じゃない。周囲だって、女子大生やOL風の若い女が多い。
「部長、このお店気に入りました?」
「うん。美味しいし、それほど事務所から離れてないからいいわね」
「……あの、部長」
「ん?」
勇気を出せ花鈴! 今がチャンスだ!
「えっと、その……部長のこと、名前で呼んでもいいですか……?」
心臓がうるさい。顔が引きつってしまう。
双羽はきょとんとしていたが、軽く首を傾げた。
「仕事中じゃない時なら別にいいけど」
「ほんとに!?」
「な、なんで嘘を言わなきゃならないのよ。そもそも仕事じゃない時は同い年でしょ? 私たち」
唇を尖らせて照れる双羽に花鈴は満面の笑みを浮かべた。
「やった! よっしゃ!」
「な、なんなの?」
よくわかっていない双羽は、不思議そうにしているのみ――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7511/霧島・花鈴(きりしま・かりん)/女/16/高校生・退魔師・退魔師】
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございます、霧島様。ライターのともやいずみです。
双羽とのランチということで、いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
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