■INNOCENCE / モテ期 (限定受注)■
藤森イズノ |
【7433】【白月・蓮】【退魔師】 |
軽く食事してあげるだけで良いんだ。
それで、きっと満足するだろうから。
そう言って両手を合わせ、何度も「オネガイ!」と頼み込む。
何とも必死な、その姿に、うーんと苦笑…。
参ったなぁ…正直、面倒くさいっていうか、
気乗りはしないんだけど…。
そこまで頼まれちゃあ、断れないよね。さすがに。
|
INNOCENCE // モテ期
------------------------------------------------------
OPENING
軽く食事してあげるだけで良いの。
それで、きっと満足するだろうから。
そう言って両手を合わせ、何度も「オネガイ」と頼み込む。
何とも必死な、その姿に、うーんと苦笑…。
参ったなぁ…正直、面倒くさいっていうか、
気乗りはしないんだけど…。
そこまで頼まれちゃあ、断れないよね。さすがに。
------------------------------------------------------
「わかった。いいよ」
読んでいた雑誌をパタリと閉じて蓮は返す。
両手を合わせて御願いしていた梨乃は、ホッと安堵の表情。
きっかけは、この間…組織の宴で撮った写真。
写真を見ながら、友人は楽しそうだね、と微笑んだ。
すごく楽しかったよ、あ…でも、こんなこともあってね…。
写真を見やる友人に、精一杯、その場の楽しさを伝えている内。
気付いてしまう。
友人が、一枚の写真に釘付けになっていることに。
写真に写る仲間は、自分と親しいエージェント。
友人は言った。
「この人、名前…何て言うの?」
照れくさそうに笑って言う友人を見れば、すぐに理解る。
映る人物に、どんな感情を抱いているか。
わかりやすいんだ、この子は、本当に。
その結果、案の定。
紹介することになった。
一度だけ、話がしてみたいの。
そう切に願う友人を、ないがしろにできるはずもない。
色々と細かく事情を説明して、何度も御願いを繰り返す内、
乗り気ではないようだけれど、応じてくれた。
友人の名前と携帯番号が書かれた可愛らしい名刺を渡す。
「ふぅん。レナちゃん…ね」
名前を確認し、早速電話をかける蓮。
少し離れた位置、窓の外、中庭を見下ろして話す蓮。
話している相手は、自分の友達。
蓮に、想いを寄せる、自分の友達。
きっと電話の向こう、友人は可愛らしく微笑んでいるのだろう。
耳に触れる、確かな蓮の声に、微笑んでいるのだろう。
デートの約束を交わす蓮の後姿に、梨乃は俯く。
沸々と、込み上げてくる感情に戸惑いながら。
*
「あ。えぇと、レナちゃん?」
「はっ、はいっ…!」
「どうも、初めまして。白月・蓮です」
「あ、あの、はい。レナ・マークレンです」
デートの場所、蓮がチョイスしたのは、街にあるオシャレな喫茶店。
人気カフェ『エクレノ』は、今日も賑わっている。
店先で待ち合わせた二人は、挨拶と微笑みを交わし、中へ。
案内される、窓際の席。
外を歩く通行人の雑踏が、やけに近く感じられた。
目の前に、一目惚れした相手がいる。
その事実に、リオは興奮と戸惑いを隠せない。
「ここはね、カフェモカが美味しいんだ」
「そ、そうなんですか。じゃあ、それでっ」
「あとね、洋梨のタルトも美味しいよ」
「そ、そうなんですか。じゃあ、それもっ」
「それからね、カルボナーラも美味しいよ」
「そ、そうなんですか。じゃあ、それも…」
「あははっ。そんなに食べれないでしょ?」
「そ、そうですね…」
メニューで顔を隠し、恥ずかしそうに俯くレナ。
一言一言に過敏に反応する様は、見ていて飽きない。
(緊張してるんだろうなぁ…)
動きのぎこちないレナを見つつ、蓮は頬杖をついてクスクス。
淡い、余裕ある蓮の笑みは、レナを更に動揺させる。
そ、そんな…見ないで下さい。私、どうすればいいか…。
沈黙は気まずい、と必死に言葉を放つものの、
どれも突拍子のない、わけのわからないことばかり。
何言ってるんだろう、私。
せっかく、こうしてお話できているのに、こんなんじゃ呆れられちゃう。
も、もう呆れられてるかもしれない…。
焦れば焦るほど、想いの強さは空回り。
山になるほど砂糖をコンモリ盛ってしまったり、
それに気付いた直後、ガシャンとカップを引っくり返してしまったり…。
数え切れないほどの小さなドジが重なって、レナはすっかりションボリ。
すみません…と、しゅんとして謝るレナに蓮は笑う。
(可愛いなぁ。それに、何だか…懐かしいね)
優しい言葉と絶妙なフォロー。
その繰り返しの中、次第に落ち着きを取り戻していったレナ。
まだ動きは少しギクシャクしているけれど、緊張は解れて…。
他愛ない会話に、微笑み合う二人。
(楽しそう……)
二人を、離れた位置から見やっている人物が……梨乃だ。
帽子を深く被り、眼鏡をかけて…男の子のような格好をしている。
無粋だけれど、いけないことだとは思うけれど。
でも、仕方ない。気になって、仕方なかった。
心配とは少し違う…不安のようなもの。
それは、仲良く話す二人をみて、更に大きくなっていく。
何やってるんだろう、私。
こんな風に監視みたいな、覗きみたいなことやって。
痛くなるのは、わかってたのに。
キュッと、胸が痛くなるの、わかってたくせに。
どうして来たんだろう。来てしまったんだろう…。
埋め尽くす後悔。梨乃は紅茶を飲み干し、逃げるように店を出ようとした。
伝票と鞄を持って、席を立つ。お勘定をすませようとレジへと向かう、その途中。
「私と、お付き合いして頂けませんか?」
(…!)
聞こえてきた声に、思わず立ち止まってしまう梨乃。
食事をするだけで満足。そう思っていたけれど。
あなたと言葉を交わして、微笑みあって、実感したんです。
このまま、ここでサヨウナラなんて、嫌です。
また今度、って約束を交わすことは簡単だけど。
それじゃあ満足できないんです。
欲張りだなって思います。でも、伝えたい。
気持ちを、想いを。留めておくことが、できそうもないんです。
想いを伝え、そのまま頬を染めて俯くレナ。
心臓はバクバク。返ってくる言葉を、聞きたくないような矛盾。
目を閉じて待つレナ。蓮はクスリと笑い、伝票を手にとって言う。
「いいよ」
「…えっ?」
(えっ!?)
レナよりも驚いたのは梨乃だ。
いいよ、って…そんな、あっさりと。
それ、どういうことか理解ってますか?蓮さん。
そこで、いいよって言うことが何を意味するか、わかってますか?
「………」
ギュッと帽子を更に深く被り、いそいそと店を出た梨乃。
逃げた。一目散に。だって、しょうがないじゃない。
あのまま、微笑み合って手を繋いで…帰る二人を見ていろとでも?
そんなの無理。耐えられないよ。絶対に。
*
公園のベンチ、鳩をボーッと見つめている梨乃。
色々と考えすぎて、もう何も考えられない。
散々考えて出した答えは一つだけ。
良かったね、って祝福してあげることだけ。
そうするしかないもの。それ以外に、どうしろと。
日も暮れてきた。そろそろ帰ろう…梨乃は重い腰を上げる。
バササササッ―
「わっ…」
腰を上げた直後、それまでゆったりとお喋りしていた鳩が一斉に飛び立った。
飛んでいく鳩と、オレンジ色に染まる空、その先にシルエット。
目を細めて見やれば、そこでは…蓮が微笑んでいた。
「見つけた」
「………」
発した言葉で、すぐに悟る。
隠れて様子を窺っていたことが、バレていたということに。
フワリと舞う、柔らかい風。
この風が止んだら。口にしよう。
良かったですね、って口にしよう。
友人にも、メールをしよう。
良かったね、って伝えよう。
キュッと目を伏せ、風が止むのを待っている梨乃。
蓮は、そんな梨乃にツカツカと歩み寄ると、彼女の手を握って言った。
「少し歩いてから、帰ろう」
「…あの」
「うん?」
「…何でも、ない、です」
「綺麗だねぇ、夕焼け」
「そうですね…」
言えるわけがない。良かったね、なんて言えるわけがない。
だって、良かったですね、なんて微塵も思っていないから。
心に決めた言葉を発せなかったことが何を意味するか。
もう、わかってる。誤魔化すことなんて、出来やしない。
けれど、どうすれば良いのか。わからない。
繋いだ手に、確かな温もりは感じるけれど。
そこに、素直に喜べない自分がいるから。
この手を、この温もりを。
独り占めしたいと思うのは、いけないことですか?
夕焼けに染まり、風に揺れる蓮の髪を見つつ自問自答。
梨乃は、知らない。
あの後、蓮が条件を出したことを。
あくまでも、ガールフレンドとして。今は、誰とも付き合う気になれないからさ。
------------------------------------------------------
■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■
こんにちは! おいでませ、毎度様です^^
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ…^^
-----------------------------------------------------
2008.05.27 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
-----------------------------------------------------
|