■INNOCENCE / もしもの話 (限定受注)■
藤森イズノ |
【7433】【白月・蓮】【退魔師】 |
見慣れた後姿。見紛うわけがない。
紙袋を抱えたまま駆け寄り、声を掛けた。
けれど…素っ気無い。
ただ「…どうも」と返しただけで…何とも素っ気無い。
自分が、何か機嫌を損ねるようなことをしたかと思い返してみるが、
思い当たる節はない…。多分…。
ということは、何か悩んでるとか、どんなところかな?
そう思い、再び声を掛けた。
「何か、あったの?」
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INNOCENCE // もしもの話
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OPENING
見慣れた後姿。見紛うわけがない。
紙袋を抱えたまま駆け寄り、声を掛けた。
けれど…素っ気無い。
ただ「…どうも」と返しただけで…何とも素っ気無い。
自分が、何か機嫌を損ねるようなことをしたかと思い返してみるが、
思い当たる節はない…。多分…。
ということは、何か悩んでるとか、そんなところかな?
そう思い、再び声を掛けた。
「何か、あったの?」
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「………」
黙ったままの梨乃。
俯いている、その顔は…何とも切なく儚げだ。
悩みがあるなら、話して欲しいな。
ほら、話すだけで気が楽になるとか、そういうことあるじゃない?
うん…勘弁して。そんな顔、しないでよ。
どうしていいか、ちょっとわからなくなるよ。
うぅん…と首を傾げ、覗き込んでみる。
すると梨乃は、小さな声で呟いた。
「蓮さん」
「ん?」
「私の…」
「うん」
「私の命が、あと僅かだと知ったら…どうしますか?」
「………」
キョトン、と呆ける蓮。
命が…あと僅か?梨乃ちゃんの?
それって、あれ?もうキミと話せなくなるってこと?
こうして向かい合って見詰め合って、些細な話をしたり、
俺の言葉、一つ一つに真剣に反応してくれるキミを撫でたり、
触れ合って耳元で囁いたり、抱き合って微笑みあったり…。
キミを感じることが、できなくなるってこと?
そんなの…そんなの無理だよ。うん…。
「嫌だよ、そんなの」
ポツリと呟く蓮。
梨乃はフッと顔を上げて蓮を見やる。
紙袋を持つ蓮の手が、僅かに震えている。
静かなセントラルホールにカサリ、と響く紙袋の音。
蓮は梨乃に歩み寄って少し屈み、耳元で囁く。
「キミがいなくなったら…どうしていいか、わからないよ」
ぽそぽそと…聞き取れぬほどに小さな声で囁いた蓮。
偽りのない、蓮の想い。
痛いほどに伝わってくる、その想い。
通じ合う心の所為だろうか。梨乃は、スッと目を伏せた。
俯きがちに目を伏せて "待って" いる梨乃を見て…蓮は笑う。
(っくくく…可愛いなぁ、ほんと……)
もう、バレてるよ。残念ながら。
でも、ちょっと驚いたな。
梨乃ちゃん、意外と演技派なんだね。
一瞬だけ、ほんとに、一瞬だけ焦ったよ。
けど…俺を見縊ってもらっちゃあ困るな。
これでもさ、好きなんだよ、俺。
することない時とかは、結構観てるしね。
クスッと笑う蓮。
その零れ笑みに、んっ?と思った梨乃がパッと目を開く。
その瞬間に、いただきます。
蓮はチュッと梨乃に口付けし、彼女を、わふっと抱きしめた。
「あっははは!もう駄目だ、限界!あははははっ!」
「れ、蓮さん…もしかして…」
「知ってるよ〜?S−MILEでしょ?」
「うわぁ…。知ってたんですか……」
「ふふ。良い映画だよね」
「は、はい。そうですね……」
苦笑している梨乃は、何だか悔しそう。
何のことはない、ちょっとした悪戯だったのだ。
S−MILE(エスマイル)という恋愛映画。
恋人の命が残り僅かだと知った主人公が、
残りの時間、恋人に笑顔と幸せを送り続けようと奮闘する恋愛映画。
ラストは、腕の中で眠る恋人に、
主人公が「幸せだったかい?」と笑顔で問いかけて終わる。
この映画を、つい先程、観終えた梨乃は感化され、
ばったり出会った蓮に、ちょっとした悪戯を仕掛けた。
蓮さんなら、どうするだろう。
私の命が残り僅かだと知ったら…どうするだろう。
命を悪戯に使うことに若干の戸惑いはあったものの、気になった。
イケないことなんだろうけれど…どう思うのか、気になった。
悪戯半分、探り半分。
切なげな表情で、どうすればいいかわからない…と言った蓮に、
心を打たれてしまい、うっかり目を瞑ってしまった梨乃。
けれど…蓮は全て知っていた。
映画の内容も、台詞も、何もかも。
これじゃあ、どっちが悪戯を仕掛けたのか、わからない。
ささやかな悪戯は、クルッとそのまま引っくり返されて…。
(…んー。悔しいな…何だか…)
いつまでたっても、自分は蓮の思うがまま。
掌の上で、突かれて撫でられて…転がされてばかり。
いつだって一枚上手な蓮。梨乃は、はふぅ…と溜息を落とす。
残念そうな梨乃の頭を撫で、蓮は言う。
「さ、じゃあ、行こうか」
「え?どこにですか?」
「デート」
「え。デートって…」
「あの映画みたいに、海でも行こうか。ね」
梨乃の手を引き、歩き出す蓮。
紙袋の中には、美味しいカクテル。
一緒に飲もうと思って買ってきたんだ。
部屋でゆっくり…と思ってたんだけど、
波の音を聞きながら…っていうのも良いよね。
まぁ、キミと一緒なら、どこだって楽しいんだけど、さ。
ぽてぽてとついて来る梨乃に、蓮はクスリと笑う。
ねぇ、梨乃ちゃん。ちょっとオーバーだったかもしれないけれど。
キミを大切に思っているのは本当だよ。
でもね、俺は臆病だから。
一番の存在になったキミを失うのが怖いんだ。
軽口、悪戯、余裕の笑み。
その裏に隠れている、蓮の秘密。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■
こんにちは! おいでませ、毎度様です^^
翻弄されても幸せだと思えてしまう時点で、梨乃の負けです。
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ…^^
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2008.05.26 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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