■INNOCENCE / 納豆 (限定受注)■
藤森イズノ |
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】 |
「はぅ………」
睨めっこしている梨乃。
そのお相手は…納豆。
梨乃は、どうしても、納豆が嫌い。
食わず嫌いというわけではないのだけれど。
どうしても、嫌い。美味しいと思えない。
じゃあ、美味しいと思わせることが出来たら?
美味しい、納豆料理を与えたら?
食べるだろうか…?
食べるかもしれない。
子供じゃないんだから。
何でもパクパク食べなきゃね。
好き嫌いをなくそうキャンペーン、実施。
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INNOCENCE // 納豆
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OPENING
マスターから、直々に依頼された仕事。
ちょっと異質な、その仕事の詳細は、このメモに。
メモには、ズラリと記されている。
各エージェントの、嫌いな食べ物が…。
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▼ 梨乃が嫌いな食べ物 "納豆"
納豆ですか。うんうん、これ、結構多いのよね。
とくに女の子は、匂いだとか食べにくさだとか、
そういうところで、毛嫌いしてしまうコが多いのよねぇ。
梨乃ちゃんも、そういうタイプなのかしら。
もしも匂いが駄目なら、それを除去しちゃえば良いわけで。
でも、納豆の匂いって独特な上に強力だからなぁ。
大葉を混ぜ込んでみたりだとか。これ、美味しいからオススメなんだけど…。
嫌い!って言ってるコには、大して効果ないのよね。
マヨネーズと一緒に混ぜる…っていうのも、同じことよねぇ。
どうしたものかな、と散々悩んだ結果。
シュラインが出した答えは…"長期戦"
酷かもしれないけれど、克服するには、これしかないわ。
多分、匂いだと思うのよ。嫌だって思わせる原因は。
だからね、その匂いさえも楽しめるようなことをしちゃうの。
というわけで、準備してみました。
テーブルの上に置かれた、小鉢(イン納豆)とお箸。
準備万端、一人で待つレストラン。
やがて、呼び出された梨乃がやって来る。
「ぅっ……?」
レストランに充満している納豆の匂いに、顔をしかめる梨乃。
これは一体……。
そう尋ねる隙を与えず、シュラインはヒラヒラと手を振った。
その優しい笑顔に、全てを理解するのは容易いことで。
テーブルの上の納豆。何て存在感……。
目を逸らし、泣きそうな顔をしている梨乃。
出来うることなら、今すぐにでも、ここから逃げ出したい。
けれど、シュラインが隣にピットリとくっついて座ってる為、それは出来ない。
がっしりと腕、掴まれちゃってるし……。
うぅ……と俯く梨乃は、断じて納豆を見ようとしない。
ふむふむ?匂いのほかに、見た目も苦手なのかしら。
それなら、余計に効果的なはずだわ。これは。
「はい、梨乃ちゃん。一緒に混ぜましょ」
「えぇぇ……あのぅ……」
「ほらほら。こうして、卵と出汁と混ぜるの。千回」
「せっ……!?」
「形もなくなって、ふわっふわになって美味しいんだって」
「そ、そうなんですか……?」
「うん。はい、混ぜて〜」
クルクルと掻き回し、混ぜ混ぜする納豆。
私もね、これ、やったことはないの。噂で耳にしただけで。
実際、こうして納豆を混ぜることに専念するとか、なかなか出来ないじゃない?
良い機会だと思って。梨乃ちゃんにとっても、私にとっても。ね。
ぐるぐると、並んで納豆を混ぜる二人。
端から見ていると、それはとても可笑しな光景。
軽食をとりに来たエージェント達は、皆キョトンと二人を見やる。
いつのまにか、混ぜることに使命感を抱き、
二人とも、真剣な表情で混ぜていた。
納豆かき混ぜ任務遂行中、といった感じで……。
ハッと我に返り、そろそろいいかな? と混ぜることをやめたとき。
なるほど、確かに。もはや、納豆の面影はない。
シュラインが言っていたとおり、ふわふわキラキラ。
こんなことを思うなんて、思ってもみなかったけれど。
おいしそう……。梨乃は、確かに、そう思っていて。
炊きたて御飯に、とろりと乗せる納豆。
一層、美味しそうに見えるそれに、抵抗はなくて。
ぱく、と口に運んだ瞬間、梨乃はキョトンとした。
まるっきり納豆じゃない、ってことはないけれど、美味しい。
これは納豆だ、ってことは理解るのに、すごく美味しい。
「お、美味しいです……」
驚き、クスクス笑う梨乃。
シュラインは、はむはむと、御飯を口に運びつつ微笑み返す。
食べず嫌いっていうのも、少なからずあったんだと思うの。
こうして、ちょっと時間をかけて向き合えば、大したことないのよね。
確かに匂いはキツいと思うわ。
でも、その分、美味しいと思うの。
身体にも良いしねぇ。納豆は。
他にもね、結構いろいろなものと相性良いのよ、納豆って。
野沢菜とか、キムチとか、ごま油とかね。
あ、梅干とも相性良いわね、そういえば。
あとは〜……大豆どうしで、お味噌とも相性良いわね。
納豆のお味噌汁とか、どうかしら。 トロトロで美味しいのよ。
卵と相性が良いのは、この千回混ぜで立証済みでしょ?
納豆チャーハンとかも、良いわよ。
下ごしらえの出来次第だけど、粘り気もなくなるしね。食べやすいの。
「そ、そうなんですか。 覚えておきます」
「ふふ。あとはねぇ〜……」
納豆御飯を肴に、弾む弾む料理談議。
元々、料理好きである梨乃にとっては、非常に興味深いものだ。
嫌いだということで、食材から除外していたもの故に、
それが使えるとなると、かなり料理が楽しくなる。
そんな使い方もあるのか、そういう使い方をするのか……。
話を聞きつつ、梨乃は、ふむふむと頷いている。
ぴょこんと口元から伸びている、納豆の糸が、何だか可愛らしい。
うんうん。多分、これからは、彼女の料理バリエーション、増えるんじゃないかな。
もっともっと、料理上手になれちゃうね。
見事、梨乃が嫌いな食べ物『納豆』を克服させたシュライン。
他愛ない話をしつつ、心の中でシュラインは、にんまり。
よしよし、これで二人目……と。順調ね。
さぁて、お次は……?
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
シナリオ参加、ありがとうございます。
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2008.06.19 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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