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■INNOCENCE / チーズ (限定受注)■

藤森イズノ
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
「むむぅ………」
睨めっこしている浩太。
そのお相手は…チーズ。
浩太は、どうしても、チーズが嫌い。
食わず嫌いというわけではないのだけれど。
どうしても、嫌い。美味しいと思えない。
じゃあ、美味しいと思わせることが出来たら?
美味しい、チーズ料理を与えたら?
食べるだろうか…?
食べるかもしれない。
子供じゃないんだから。
何でもパクパク食べなきゃね。
好き嫌いをなくそうキャンペーン、実施。
INNOCENCE // チーズ

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 OPENING

 マスターから、直々に依頼された仕事。
 ちょっと異質な、その仕事の詳細は、このメモに。
 メモには、ズラリと記されている。
 各エージェントの、嫌いな食べ物が…。

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 ▼ 浩太が嫌いな食べ物 "チーズ"

 これもまた意外ね。浩太くん、チーズが駄目なのか……。
 てっきり、辛いものが駄目なのかと思ってたわ。
 あんな極甘カレーを美味しいって食べるんだもの。
 そういうわけでもなく、ただ単に甘党なだけなのね。
 うーん。でも、勿体無いわね。
 浩太くんの大好きなカレーとも、チーズは相性良いのに。
 甘いものが好きなら、そうねぇ……。
 フルーツチーズから始めてみるのは、どうかしら。
 パンに挟んで食べたり、アイスに添えたりして食べるの。美味しいのよ。
 よし、このフルーツチーズを使って、スフレ作ってみましょうか。
 ヨーグルトを、ちょっと添えたりしても美味しいと思うわ。
 お酒のおつまみに、だとかね、そういうオトナな食べ方しなくても良いの。
 元々、浩太くんってお酒飲めるコじゃないし。
 こうしてスイーツにしちゃえば良いのよ。
 そうすれば、克服は、きっと簡単よ。
「じゃ、作ってみましょうか」
「は、はい…」
 キッチンにて、調理開始。
 突然呼びつけられて、何をするのかと思いきや。
 チーズを使った料理を作るとは……聞いてない。※まぁ、言ってないですし。
 何度か、克服しようと頑張ってはみたけれど無理だったんだ。
 きっと、僕にはチーズは向いてない。そう思うんです。
 思うんだけれど……。隣で微笑みつつ調理するシュラインを見て、
 無理です、だなんて言えるわけがない。
 自分の為に、何とかしようと時間を割いてくれているんだ。
 無理だとか嫌だとか、そんなことを言うのは失礼というもの。
 そうは思うんだけれど、何て匂いだ……。
 充満しているチーズの香りに、うぅ、と俯く浩太。
 藤二や千華が、よくワインのつまみに口にしているのを見るけれど、
 その度に、うわぁ……と顔を背けてしまう。
 どうして、そんなに美味しそうに食べれるんだろうと疑問を抱きつつ。
 そもそも、浩太からしてみれば、
 料理にチーズを使う、という行為自体がありえない。
 どんなに美味しいものでも、一瞬で臭いもの、に変わってしまう。
 そう思うが故に、浩太の中でチーズは兵器的な扱いとなっている。
「わぁ。上手に出来たわ」
「そ、そうですね」
 完成したスフレを前に、大喜びのシュライン。
 うん、これなら皆にも、おすそわけできるし。最高ね。
「はい、浩太くん」
「は、はい……」
 フォークを差し出して、ニッコリと微笑むシュライン。
 受け取ったものの、浩太は動揺しまくりだ。
 確かに、すごく良い出来だと思う。
 でも、美味しそうだなんて微塵も思えない。
 だって、これチーズ入ってるんだもん。
 そんなの美味しいわけないじゃないか。
 (う〜……)
 嫌だなぁ、と強く思っても、
 それと同じくらいに使命感もある。
 せっかく、自分の為に作ってくれたんだから、
 食べなきゃ失礼だし、申し訳ない。
 (あぁぁぁ……)
 意を決し、スフレを口に運ぶ浩太。
 いつものように、気持ち悪くなったらどうしよう。
 まさか、吐き出すなんて出来ないし。
 何とか、飲み込まなくては。
 せめて、一口、飲み込まなくちゃ。
 そんなことを、必死に考えていた。
 けれど、意外や意外。チーズ入りのスフレは、
 いつも食べるクリームたっぷりのスフレよりも美味しかった。
 見事なアクセントになり、舌の上で蕩けるチーズ。
 今まさに、自分が口にしているのは、極上のスイーツだ。
 ぱくぱくと料理を口に運ぶ浩太。
 もはや、すっかり夢中になっている。
「………」
 夢中でスフレを口に運ぶ浩太は、時々首を傾げる。
 何でだろう、どうして美味しいんだろう。
 それを理解できないことに戸惑っているようだ。
「もっと甘さが欲しいって思ったら、これ、添えてみて?」
「は、はい」
 差し出したのは、クリームとジャム。
 それらを追加することにより、スフレは更なる極上スイーツへと変貌する。
 ガツガツと食らいつく浩太の姿は、とても可愛らしい。
 んー。こういうところは、海斗くんに似てるのよね。
 似たもの同士、って感じかしら。
 よしよし、ばっちり克服できたわね。
 意外と、単純なことなのよねぇ。
 一度、脳が美味しいって覚えてしまうと、
 抵抗しなくなってしまうんだもの。
 浩太くんも、元気に外で遊ぶタイプだからね。
 いっぱい体を動かして、たくさん汗かいて。
 そういうときに、こうして、お菓子として与えて、
 一旦、口にしちゃえば、克服は簡単だと思うのよね。

 *

 キッチンには、皿の山。
 それは、皆が嫌いな食べ物を克服した証。
 見事に、任務を完遂したシュライン。
 綺麗に平らげられた皿を洗っていれば、
 背中に、皆の楽しそうな笑い声が聞こえてきて響く。
 スフレを食べつつ、克服できたことを互いに自慢し合う楽しそうな声を聞きながら、
 シュラインは鼻歌して皿を洗い、ニッコニコ。
 さてさて。完遂できたことだし。
 マスターに報告しに行かなきゃね。
 ご褒美、オネダリしなきゃね。ふふふ。

 この任務を完遂できた、そのあかつきには、
 何でも好きなものを報酬として贈呈しよう。
 メモを渡す前、マスターは、ハッキリとそう言った。
 忘れるもんですか。 絶対に言ったからね。
 まぁ、マスターが嘘をつくなんてことはないと思うけど。
 完了しました、とマスターに報告を済ませ、
 欲しいものを、単刀直入に告げたシュライン。
 彼女が欲したのは、絶版となっている古書。
 イノセンス本部の書庫にあるそれを、
 自分のものに出来やしないかと、彼女は日々思っていた。
 書庫に通って読み明かすのも良いけれど、
 やっぱり、自宅でゆっくりと読みたいの。
 仰せのままに、と古書をシュラインにプレゼントしたマスター。
 自分のものとなった古書を抱きかかえ、満面の笑みを浮かべるシュライン。
 実のところ、全員克服させるのは無理だろうと思っていた。
 無謀ともいえる依頼だったのに。
 まぁ、無理だったとしても、
 彼女が、あの本を欲していたのは知り得ていたから、
 プレゼントするつもりではいたけれど。
 まさか、見事全員克服させて戻ってくるとは……意外じゃったのぅ。
 手に入れた古書を手に、ウキウキ気分で自宅へと戻るシュライン。
 しばらくは、徹夜続きになりそうだ。
 寝不足は お肌の大敵だから、気をつけてね。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 NPC / 黄田・浩太 (おうだ・こうた) / ♂ / 17歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / INNOCENCE:マスター(ボス)

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.06.19 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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