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■INNOCENCE / ごめんね (限定受注)■

藤森イズノ
【7182】【白樺・夏穂】【学生・スナイパー】
どうして、すぐに謝らなかったんだろう。
理由を説明して、すぐに謝れば。
そうすれば、こんなことにはならなかったのに。
もう、丸二日、話していない。
キミの声を、聞いていない。
頭では、理解っているんだ。
今すぐにでも駆け寄って、謝って。
仲直りがしたい。きっと、簡単なことなのに。
どうしてだろう。どうして、意地を張ってしまうんだろう。
互いに歩み寄れぬまま、今宵も夜空に月が灯る。
INNOCENCE // ごめんね

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OPENING

どうして、すぐに謝らなかったんだろう。
理由を説明して、すぐに謝れば。
そうすれば、こんなことにはならなかったのに。
もう、丸二日、話していない。
キミの声を、聞いていない。
頭では、理解っているんだ。
今すぐにでも駆け寄って、謝って。
仲直りがしたい。きっと、簡単なことなのに。
どうしてだろう。どうして、意地を張ってしまうんだろう。
互いに歩み寄れぬまま、今宵も夜空に月が灯る。

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「あら。なっちん、おかえりなさい」
取り込んだ洗濯物を抱えて微笑む千華。
夏穂は、お気に入りの日傘をカラカラと引き摺りながら歩いていた。
返事はない。ボーッと、一点を見つめたまま歩いて行く夏穂。
(あら…?)
様子のおかしい夏穂を気にかけ、パタパタと歩み寄る千華。
「どうしたの?具合、悪い?」
ぺたっと額に触れてみるも…熱はないようだ。
それよりも何よりも。至近距離にいるっていうのに、まだ無反応。
どう見ても様子がおかしい。
千華は、ぱふっと夏穂の頭に手を乗せた。
「なっちん?」
「……!」
ハッと我に返る夏穂。
そこで、ようやく千華の存在に気付く。
「あっ…ごめんなさい。ボーッとしてて」
「うん。…何か、あったの?」
「…いえ、何もないです」
「………」
淡く微笑んで返したものの、引きつる。
きちんと笑えていないのは百も承知だ。
けれど、夏穂には微笑み返すことしかできない。
それ以外、どうすれば良いのか、理解らないから。
何か悩んでいる。それは、明らかだ。
けれど、その悩みを明かしてくれそうにないのも事実。
千華はフゥ、と息を吐き、微笑んで言う。
「最近、頑張りすぎじゃないかしら?ゆっくり休みなさい?」
「…はい。失礼します」
ペコッと頭を下げ、中央階段を上って自室へ向かう。
頼りない足取りと、寂しげな小さな背中。
千華は、クスッと笑って、洗濯物に顔を埋めた。
あの表情は…やっぱり、あれよね。恋の悩みっていうか?
男の子が絡んでいるのは間違いないわ。
…どこのどいつかしらね〜?その、罪な男は。

三日間、ありえないほどに任務を遂行した。
千華が "がんばりすぎ" といったのも、ごもっともだ。
夏穂は、三日間で三十もの依頼を請け負い、完遂。
どれも見事な働きっぷりだった。結果に不備は一つもない。
けれど、気持ちは晴れないまま。
どんなに仕事を、たくさんこなしても。
気持ちは、晴れない。晴れてくれない。
きっかけは、些細なこと。
夏穂が大切にしている、救急箱。
彼女の七つ道具の一つであるそれは、三日前に壊れた。
原因は衝突。
いつものように、ノンビリと本部内を歩いていた所、
部屋の片づけをしない海斗が、梨乃に追いかけられていた。
出会いがしらに衝突してしまい、空高く舞い上がった救急箱。
ガチャン、と床に落ちて数秒間、夏穂は身動きがとれなかった。
中から飛び出した道具、取れてしまった取っ手。
目の前の光景を、夢であれとすら願った。
両親の形見。大切な宝物。
壊れた救急箱を手に取り、夏穂は俯いた。
そこへ、悲しい言葉が振ってくる。
「わりっ!今度ベンショーすっから!どこに売ってたの?それ」
困り笑顔で、いつものように。微笑んで言った海斗。
海斗が放った言葉に、夏穂の中で何かが弾けた。
パチン―
「いっ…!?」
瞳に涙を浮かべ、お見舞いした平手。
そういうことじゃないの。弁償とか、そういうことじゃないの。
同じものは、二つとないの。どこを探しても、見つからないの。
壊れた救急箱を抱き、夏穂はタタッと駆け出した。
紅く腫れた頬を押さえる海斗は、キョトンとしていた。
殴らなくても良いじゃないか。
しばらくすると、叩かれたことに対する苛立ちも生まれ。
三日前の、些細な事件。些細な、きっかけ。
以降、夏穂と海斗は口を聞いていない。
廊下で擦れ違っても、食事のときも。一言も言葉を交わさない。
二人の異変は、周りから見ても明らかだ。
妹や相棒の悪戯猫に、何度も聞かれた。
何か、あったの?どうしたの?と。
けれど、言えない。
先程の千華に対する態度と全く同じ。
何でもないの、と淡く微笑み返すだけ。
笑えていないのは理解っているけれど。
そうすることしか、出来なかったから。
(馬鹿だな…私…)
自室、ベッドに寝転がり、天井を見上げて思う。
あれから三日。もう、十分だ。もう、理解ってる。
形あるものは、いつか必ず壊れて朽ちてしまうの。
どんなに大切に扱っていても、朽ちてしまうの。
それが、自然の摂理。
ついカッとなって殴ってしまったけれど。
間違いだったの。間違いだったんだよ。
私、どうして、あんなことしちゃったんだろう。
うつぶせになり、枕に顔を埋める夏穂。
熱くなってくる目頭。目を伏せて瞼の裏。
焼きついているのは、元気な笑顔。
自分の手を引き、色んな所へ連れて行く、元気な笑顔。
声が聞きたい。お話したい。
何でもいいの。くだらないことでも、何でもいいから。
目を伏せ、溜息を落とす夏穂。
そんな夏穂を、じーっと見やっていた蒼馬と空馬。
三日間、主はずっと浮かない顔をしていた。
その原因、主の表情を曇らせる原因。それは、理解ってる。
寝言で、何度も聞いたから。原因である人物の名前を。
互いに顔を見合わせ、コクリと頷く二匹。
二匹は、主を部屋の外へ無理矢理引っ張り出す。
「…な、なぁに……」
二匹の強引っぷりに驚く夏穂。
戸惑っている夏穂は、そのまま運ばれる。
二匹に背中をズイズイと押されて、辿り着くのは、海斗の部屋。

部屋の前、モジモジして…どのくらいの時間が経っただろう。
部屋の中からは、ラウド・パンクが聞こえてくる。
中にいる。それは確か。でもだからこそ、戸惑ってしまう。
モジモジしている主の背中を、もう一度。トンと叩く二匹。
一歩踏み出し、扉の前。意を決して、扉の前。
夏穂は、目を伏せて深呼吸し…ドアを開けた。
すぐに目に映る、見慣れた背中。
ヘッドホンから漏れている爆音。
部屋の中心で、海斗は窓の外をボーッと見やっていた。
考えているのは、夏穂と同じこと。
いつもならノリノリで。
ベッドをステージに、ギターを抱えてショータイム。
でも出来ない。気分がノらない。
どんなに熱いラウドもシャウトも、心に響かない。
猫の…捨て猫の背中のように丸まった海斗の背中。
夏穂は、一歩ずつ、ゆっくりと歩み寄る。
背後に立ち、また深呼吸。
しゃがんで、立ち膝をついたまま。
ギュッと後ろから抱きつく。
「!」
驚き、肩を揺らす海斗。
甘い、お菓子のような美味しそうな香り。
背中に感じる鼓動が誰のものか。海斗は瞬時に理解した。
無言のまま、ヘッドホンを取る海斗。
解き放たれた耳へ、夏穂は囁く。
「ごめんね」
ヘッドホンから漏れる爆音に掻き消されてしまう小さな声。
けれど、ちゃんと届く。聞こえてる。
海斗は抱きつく夏穂の頭を撫でる。
「うん。俺も、ごめん」
ディスクチェンジ。その合間。
僅かな、その合間に二人は淡く笑う。
次のディスクも、熱い一枚。
一曲目は、海斗が大好きな曲。
夏穂を後ろから抱っこするような体勢で。
海斗は口ずさむ。耳元で響く、めちゃくちゃな英語。
包み込む腕をキュッと抱きしめ、夏穂は目を伏せた。
頬を伝う涙を、指で拭われながら。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7182 / 白樺・夏穂 (しらかば・なつほ) / ♀ / 12歳 / 学生・スナイパー
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! おいでませ、毎度様です^^
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ…^^

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2008.06.01 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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