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■INNOCENCE / ごめんね (限定受注)■

藤森イズノ
【7433】【白月・蓮】【退魔師】
どうして、すぐに謝らなかったんだろう。
理由を説明して、すぐに謝れば。
そうすれば、こんなことにはならなかったのに。
もう、丸二日、話していない。
キミの声を、聞いていない。
頭では、理解っているんだ。
今すぐにでも駆け寄って、謝って。
仲直りがしたい。きっと、簡単なことなのに。
どうしてだろう。どうして、意地を張ってしまうんだろう。
互いに歩み寄れぬまま、今宵も夜空に月が灯る。
INNOCENCE // ごめんね

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OPENING

どうして、すぐに謝らなかったんだろう。
理由を説明して、すぐに謝れば。
そうすれば、こんなことにはならなかったのに。
もう、丸二日、話していない。
キミの声を、聞いていない。
頭では、理解っているんだ。
今すぐにでも駆け寄って、謝って。
仲直りがしたい。きっと、簡単なことなのに。
どうしてだろう。どうして、意地を張ってしまうんだろう。
互いに歩み寄れぬまま、今宵も夜空に月が灯る。

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「…はぁ」
テーブルに頬杖をつき、溜息。
これで、何度目だろう。
「辛気臭いなぁ」
落ち込んでいる蓮のグラスにワインを注ぎつつ言う藤二。
二人は今、レストラン…窓際の席で酒を酌み交わしている。
夜空に浮かぶ、綺麗な月。
美しきそれさえも、溜息で染まる。
溜息の理由は、些細な喧嘩。
…梨乃からして見れば、些細じゃないけれど。
いつものアレだ。ナンパが原因。
けれど、今回は過激だった。内容が。
部屋に呼んだ、新入りエージェント。
可愛らしい、お人形のような女の子。
彼女も蓮を気に入っており、すんなりと部屋に来た。
拒むことなく部屋に踏み入ったこと。
それをオーケーサインと見なすのは当然のことで。
蓮は、ソファで彼女と触れあい、キスを交わす。
甘い囁きに対する反応も上々だ。
今夜は、このまま…? そう思い、囁こうとしたときだった。
ガチャリと開く扉。
入ってきたのは、アイロンがけが終わった蓮の服を届けに来た…梨乃だった。
数秒間の静寂と硬直。
目の当たりにする "現状"
梨乃は、服をバサリと投げつけた。
潤んだ瞳に罪悪感。もちろん、謝ろうとした。
けれど梨乃は、大声で叫んだ。
「最低!」
その一言が、どうしてだろう。
あの時、何故かカチンときて。
思ってもいないことを口にしてしまった。
「女の子は、梨乃ちゃんだけじゃないよ?」
その言葉に、何も言い返すことなく。梨乃は部屋を飛び出した。
追いかけようとも…思わなかった。
どうしてだろう。どうして、あそこで意地を張ったのか。ムキになったのか。
服に埋もれつつ、蓮は苦笑した。
そんな雰囲気の中、甘い愛撫の続きを…なんて出来るわけもなく。
一人、部屋に残された蓮は笑った。
楽しくもないのに、笑った。笑うしか、なかった。
「サクッと謝ればいい話じゃないの?」
目を伏せ微笑む藤二。
そう。その通りだ。
謝れば済む話。いや、謝らねば済まない話。
それは理解ってるんだ。でも、どうしてか…。
変に意地を張ってしまって、謝ることができない。
ただ一言「ごめん」そう言えばいいのに。
すぐには許してくれないかもしれないけれど、
このまま放ったらかしにしておくより、ずっと良い。
仲直りのキッカケに。謝ることは大前提なのに。
喧嘩から三日。
蓮と梨乃は、互いに歩み寄れぬまま。
擦れ違っても、ふぃっと顔を逸らし合う。
いつも一緒に仕事に出かけるのに、
この三日間、パートナーは別の女の子。
こともあろうに、仲良く現場へ向かう様を見せ付けたり、
手を繋いで帰ってきたりもした。これみよがしに。
その繰り返しで、溝は深まるばかり。
ハマッていってることは明らかなのに。
何をやってるんだろう…とは思うのに。
それでも、止めなかったのは。意地以外の何物でもなくて。
声を聞かない、触れ合わない、そんな時間を経て、俺は気付いたよ。
キミのことを、本当に愛してるんだってこと。
でもね、止められないんだ。
女の子に声をかけることも、触れることも。
そうしていないと、不安で堪らないんだ。
キミさえいれば…そう言えたら、格好いいなって思うんだ。
でもね、口にすることは出来ない。怖いんだよ。
キミしかいない、そう言って、その先どうなるのか。
不安で堪らないんだ。俺はね、臆病な男だよ。
すごく格好悪くて、情けない、弱い男なんだ。
キミを愛してるって、キミだけを愛してるって。
言いたいけれど、言えないんだよ。
テーブルに突っ伏して、ブツブツと何かを呟いている蓮。
目を伏せたまま、想いを呟き吐いて。
蓮は、いつしか、そのまま眠りの中へ。
「…やれやれ」
蓮の頭を、ぱふぱふと撫でて笑う藤二。
想いを呟いた蓮の為。
藤二は席を立って迎えに行く。
必要な人物を。
蓮にとって必要な人物を。

「梨乃」
「…あ。何ですか?」
二階テラスで本を読んでいた梨乃に声をかける藤二。
梨乃は微笑んで返すが、どことなく…悲しそうな笑顔。
何だかな。本当、世話のかかるコだわ、お前達は。
まぁ、理解るんだけどな。気持ちは痛いほどに。
でも、だからこそ見ていられないんだ。
俺みたいに、後悔して欲しくないから。
「禁断症状も出てるしな」
「え?な、何…ちょっと、藤二さん?」
梨乃の手を引き、ツカツカと歩き出す藤二。
読んでいた本は、ソファに置き去り。

レストランへ連れて来られた梨乃。
「じゃ、頑張って」
ポンと背中を叩いて去って行く藤二。
「ちょ、藤二さ……」
声を掛けるも、藤二は振り返らないまま。
ヒラヒラと手を振って去って行く。
窓際の席、テーブルに突っ伏して眠る蓮。
頑張ってって言われても…。
どうすれば良いのか、わからないよ。
戸惑いつつ、梨乃は蓮の向かいに座る。
テーブルの上には、ワインボトルが三本。
一本だけ、半分程度残っているけれど、他は空っぽ。
ヤケ酒のように、浴びるように飲んだ証。
情けない自分から、逃げるように。

*

一時間。
眠る蓮を、じっと見つめていた。
月明かりに照らされる髪や、長い睫、綺麗な肌。
目に映る蓮は、何一つ変わらない。
ほんの三日、されど三日。
こうして、じっと見つめるのは…三日ぶり。
どうすれば良いのかは、まだ理解らないまま。
苦し紛れに手に取るグラス。
二の舞?真似っこ?逃げるの?
そうは思うけれど、手に取ってしまった。
もう、後には引けない。
こうなったら、自分も…酔い潰れてしまえ。
強くもないくせに、好きでもないくせに、ワインを口に運ぶ梨乃。
喉に落ちる、葡萄酒。
纏わりつくような喉越しに、う…と顔をしかめたとき。
ふっと蓮が目を開く。
ぼんやりと映る、梨乃の姿。
夢現…美味しくなさそうにワインを飲んでいる梨乃。
あぁ、駄目だよ。そんなに飲んじゃ。
キミは、すぐフラフラになっちゃうんだから。
どうしたの?キミらしくないよ。
そんな、まるで、ヤケ酒みたいな…。
(…!)
ハッと目を覚ました蓮。
夢じゃない。今、目の前に梨乃がいる事実。
けれど蓮が目を覚ましても、梨乃は変わらずワインを口に運ぶ。
無我夢中で、ゴクゴクと。
けれど、飲めども飲めども酔えない。
いつもなら、すぐに眩暈を覚えて眠るのに。
どうして、どうして酔えないのか。
逃げることすら、させてもらえないの?
じわりと浮かぶ涙。
そんな梨乃の手を、蓮はキュッと握る。
「…あっ」
手を掴み、微笑んでいる蓮に気付いて俯く梨乃。
逃げようと必死になる姿。
その姿に、迷いが晴れた。
そんな苦しそうな顔してまで、逃げようとしなくていい。
キミの、そんな顔、見たくないよ。見たくないから。
「ごめんね」
冷たい梨乃の手に口付けつつ呟く蓮。
ただ一言、その一言の威力は絶大。
お酒なんて、てんで相手にならない。
その言葉で、何もかもから救われるから。
「ごめんなさい」
小さく、呟き返した梨乃。
蓮はグィッと腕を引き、想いを込めた口付けを。
テーブル越しに、甘いキス。
いくら飲んでも酔えなかったのに、どうしてだろう。
その暖かさに、眩暈を覚えた。
離れる唇、その隙間。
蓮はクスクス笑って言う。
「許してくれる?」
「………」
横には振らない、縦に振る。
コクリと頷いた梨乃。
涙ぐんでいる梨乃の頭を撫でる蓮。
小さな声で補足が聞こえた。
「…この先のナンパも」
「…………」
さすがに、そればかりは。縦には振れない。
けれど、微笑むことが出来た。
仕方ない…そういう諦めとは少し違う。
ゆっくり時間を掛けて、変えてあげる。
あなたが、そういう生き方しか出来ないのなら。
変えてあげる。私が、変えてあげる。
賢くなった?強くなった?違うよ。
ただ、そうしたいだけ。私が、そうしたいだけ。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! おいでませ、毎度様です^^
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ…^^

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2008.06.01 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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