■INNOCENCE / ごめんね (限定受注)■
藤森イズノ |
【7403】【黒城・凍夜】【何でも屋・暗黒魔術師】 |
どうして、すぐに謝らなかったんだろう。
理由を説明して、すぐに謝れば。
そうすれば、こんなことにはならなかったのに。
もう、丸二日、話していない。
キミの声を、聞いていない。
頭では、理解っているんだ。
今すぐにでも駆け寄って、謝って。
仲直りがしたい。きっと、簡単なことなのに。
どうしてだろう。どうして、意地を張ってしまうんだろう。
互いに歩み寄れぬまま、今宵も夜空に月が灯る。
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INNOCENCE // ごめんね
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OPENING
どうして、すぐに謝らなかったんだろう。
理由を説明して、すぐに謝れば。
そうすれば、こんなことにはならなかったのに。
もう、丸三日日、話していない。
キミの声を、聞いていない。
頭では、理解っているんだ。
今すぐにでも駆け寄って、謝って。
仲直りがしたい。きっと、簡単なことなのに。
どうしてだろう。どうして、意地を張ってしまうんだろう。
互いに歩み寄れぬまま、今宵も夜空に月が灯る。
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きっかけは、些細なこと。
いや、実際のところ、些細なことでもない。
梨乃からしてみれば、一大事だ。
見覚えのある女性……。
そう、あの女性は、以前、見たことがある。
凍夜が藤二に連れられて、ナンパに行ったときに。
それを叱りに行ったときに、確かに、あの女性はいた。
凍夜の隣にいた。 寄り添うように。
後から聞いた話で、向こうから声を掛けてきたんだとか、
俺は相手にしてなかっただとか。
勘違いだったって、すぐに理解できたんだけど。
そう、理解できていたのに。
どうして、一緒にいるの?
仲良く、話してるの?
二人で、見せつけるみたいに。
どうして、話してるの?
笑顔で、言葉の遣り取りをしていた。
それはもう、楽しそうに。
イノセンス本部に、遊びに来た女性。
凍夜目当てで来ていたのは、明らかだった。
やたらと体に触れつつ話すし、上目遣いを酷使するし。
誰が見ても、凍夜を狙っている。それは、あきらかだった。
千華に、いいの? と言われて見に行って、愕然とした梨乃。
話しているだけなら、別に何とも思わなかった。
どうせ、女の人が勝手に寄ってきてるだけなんだろうと思えた。
けれど、そう思えなかった。思わせなかった、凍夜の態度。
そんなに楽しそうに話すなら、ずっと喋ってればいい。
好きなだけ、話してればいい。 もう、知らない。
その時、手に持っていた古書をバサリと投げつけて、自室へ逃げた梨乃。
振り返り、本を拾い上げて、梨乃の背中を見やり……凍夜は呆然とした。
どうしてだ? 何で怒ってる? 理解出来なかった。
確かに楽しそうに話していたかもしれない。
けれど、それは一時的なもので。
興味深い魔物の話をしてきたからで。
長々と話すつもりなんて、なかった。
あの日は、お前と食事に行く約束をしていたし、
適当に付き合って、後はあしらおうと思ってた。
お前との約束を、忘れていたわけじゃない。
忘れるわけがないだろう。
あれから三日。
言葉を交わしていない二人。
喧嘩していることは、誰が見ても一目瞭然。
いつも何だかんだで一緒にいるのに、距離を保ったまま。
互いに、歩み寄ろうとしない。
それは、意地の張り合いでもあった。
いつしか、互いに芽生えた理不尽な苛立ち。
どうして、謝ってこないの?
互いに自分は悪くないと思うが故に、エンドレス。
仕事も食事も、全て別々。
二人が付き合って、初めての大喧嘩。
些細なきっかけで、ここまで拗れるものなのか。
二人の嫌な雰囲気に、メンバー達は苦笑するばかり。
仲直りしたら? と薦めてはみるものの、どちらも頷かない。
俺は(私は)悪くないから。 その一点張りで。
いつになったら仲直りできるのやら。
他人事とはいえ、二人はムードメイカーだ。
その二人が気まずいと、組織全体が気まずくなってしまう。
どうしたものかな、と頭を悩ませはするものの、どうしようもない。
互いに歩み寄らない限り、二人の距離は縮まらないだろう。
*
どうして、意地張るの?
素直に、謝れば良いじゃない。
謝ってくれたら、すぐにでも許すのに。
何故、意地を張るんだ?
素直に、歩み寄って来てくれれば、
何事もなかったかのように受け止めるのに。
自室で、同じようなことを考えている二人。
けれど、さすがに限界が近付いてきている。
一人でモヤモヤするのは、気持ちが悪い。
心のどこかでは、ちゃんと理解ってる。
意地を張ってる自分が悪いんだってこと。
けれど、素直になれない。
ただ、一言。
その一言が、言えない。
このままじゃ、駄目だと思う。
このままじゃ、ずっと距離は縮まらないまま。
それも理解ってる。でも……どんな顔をすればいいのか、わからない。
相手の目を、真っ直ぐ見れる自信がない。
時間が経つ毎に、どんどん深みにはまっていく。
出来うることなら、一秒でも早く逢いに行くべき。
わかってる。わかってるの。
わかってる。わかってるんだ。
(でも……出来ないんだよ)
恋人同士だからこその迷いでもあるだろう。
付き合う前なら、もっと素直になれたのかもしれない。
けれど、相手のことを、ある程度知ってしまっているから難しい。
とても無様な、探り合い。
無意味なことをしていると、二人は気付けない。
気を紛らわそう。
そう思ったが故の行動。
だが、こともあろうに、その行動が被った。
ある意味、チャンス。 絶好のチャンスだ。
「「あ……」」
書庫で、ばったりと顔を合わせる凍夜と梨乃。
先に来ていたのは梨乃の方で、隅っこで、しゃがんで本を読んでいた。
気まずい雰囲気。 入ってきて早々、出ようかとも思った。
けれど、まるで逃げるようで。 それは格好悪い気がした。
こんなときだからこそ、プライドが邪魔をしてくる。
ツカツカと歩き、棚から適当な本を取り出す凍夜。
まるで興味のない、歴史の本。
何故、それを手に取ってしまったのか。
椅子に座り、パラパラと捲って、ようやく気付いた。
動揺している自分がいる。 ……どうすべきか。
戸惑っている凍夜と同じく、梨乃も気が気じゃない。
駆け出して、ここから去ってしまえば楽になるんじゃないか。
でも、それって逃げるみたいで格好悪いような気がする。
似たもの同士。 プライドが邪魔をする。
けれど、このまま、ずっと二人きりで書庫にいるのは耐えられない。
格好悪くても、もう構わない。
息が詰まりそうな、この状況から脱出できるのなら。
そうして、プライドを渋々捨てたのは、梨乃。
スッと立ち上がり、読んでいた本を棚に戻す。
戻す……戻す……。も、戻したいのに、戻せない……。
動揺しすぎなのと、背の低さもあって、目的地に手が届かない。
よく考えろ、そして思い出せ。
そこから、その本を取ったとき、踏み台を使ったでしょう?
少し考えれば、すぐ気付くことなのに。
梨乃は、必死に背伸びして自力で本を戻そうとする。
ピョンピョン飛び跳ねる梨乃。
もう少しで届きそうなのに、あと少し……足りない。
必死になっているというよりは、ムキになっているような状態だ。
そうなってしまうと、余計なトラブルも起きる。
バサバサバサッ―
「きゃ!」
「!」
棚から、雪崩のように落下してきた無数の本。
思わず身を屈めて、目を瞑った。
けれど、痛みが、まるでない。
ふと目を開けると、そこには影。
更に、視線を上にやれば……そこには、凍夜がいた。
落下本の衝撃を、一身に負った凍夜。
咄嗟に、体が動いた。
危ない、そう思った次の瞬間には、駆け出していた。
何のことはない。 当然のことだ。
彼女の身に危険が迫ったら、身を挺して守る。
それは、男として当然の行為だ。
けれど、何とも気まずい至近距離。
「大丈夫、か……?」
小さな声で、探るように言葉を発した凍夜。
梨乃は、コクリと頷くだけで、言葉を返さない。
沈黙、静寂。
離れればいいのに、それも出来ない。
待て。考えろ。離れないのは、何故だ?
気まずいのに、離れないのは、どうしてだ?
そうだ。 簡単なことじゃないか。
こうして傍にいる。 それに、安心しているからじゃないか。
呼吸を確認できる距離に、安心を覚えるからじゃないか。
二人は、同時に理解した。そして、同時に声を放つ。
「あ、あの……」
「あのよ……」
重なり合う声に、凍夜は見下ろし、梨乃は見上げ。
バチリと交わる視線。 久しぶりに見る、互いの瞳。
自分が映っている、その瞳に、二人は揃ってクスクスと笑った。
喧嘩のきっかけが些細なことだったのと同じ。
仲直りに必要なのも、また些細なきっかけ。
互いに照れつつ、ずっと言えなかった一言を放つ。
「「ごめんね」」
またも重なる二つの声。
クスクス笑う梨乃。 凍夜は、肩を竦めて苦笑した。
それまでの意地っぱりは、どこへやら。
キュッと凍夜に抱きつく梨乃。
凍夜もまた、梨乃の頭を撫でて受け止める。
薄暗い書庫で、二人きり。
仲直りの口付けを交わして、二人は笑う。
甘い甘い、仲直りの一部始終。
それを、こっそりとメンバーが見やっていることに、二人は気付いていない。
意地を張って、周りが見えなくなるのもアレだけど、
見惚れて溺れて、周りが見えなくなるのも、どうかな。
まぁ、そっちの方が、可愛らしいけれど。
仲直り、できて良かったね。
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7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
シナリオ参加、ありがとうございます。
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2008.06.20 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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