■INNOCENCE / 15時、時計台で (限定受注)■
藤森イズノ |
【7403】【黒城・凍夜】【何でも屋・暗黒魔術師】 |
十五時、時計台で。
交わした約束、デートの約束。
おしゃれして、部屋を出る。
今日は、忘れて楽しもう?
任務だとか仕事だとか、そういうことは忘れて。
めいっぱい、楽しもう?
さぁ、何する?どこ、行きたい?
何でも言って。仰せのままに。
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INNOCENCE // 15時、時計台で
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OPENING
十五時、時計台で。
交わした約束、デートの約束。
今日は、忘れて楽しもう?
任務だとか仕事だとか、そういうことは忘れて。
めいっぱい、楽しもう?
さぁ、何する? どこ、行きたい?
何でも言って。仰せのままに。
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「ふぁ……」
自室にて、大きな欠伸。
仕事もないし、あいつらもウルサくないし。
何て平和な昼下がりだ。 ここまでノンビリするのは久しぶりだな。
平和なのは良いことだ。 でも……。
(暇だな)
ぶっちゃけ、暇だ。
ふと時計を見やれば、十三時。
まだ、あと二時間もあるのか。参ったな。
丸一日、フリーというわけでもない。
十五時から、予定がある。
まぁ、デートなんだけど。
梨乃は、昨日から友人宅でお泊り会をやっていて本部にはいない。
待ち合わせは、十五時。 時計台の下で。
朝、梨乃からメールが届いた。
おはようございます。 遅刻しちゃ駄目ですよ。
可愛いらしいメール。 デコレーションメールってやつか。
メールを受け取って早々、凍夜はクスクスと笑った。
忘れるわけがないだろう。
俺が、そんな、しょうもない男に見えるか?
同じ組織に身を置いて、帰る場所も同じ。
それなのに、こうしてメールの遣り取り。
何だか不思議な感じがした。
傍にいないことを実感すると同時に、
付き合ってるんだなぁ、と実感出来たりもして。
退屈なのと、約束の時間を待ちわびること。
それらが重なり、時間の経過が果てしなく遅く感じる。
駄目だ。 もう耐えられない。
暇すぎて発狂しそうだ。
身支度を整え、部屋を出た凍夜。
時間まで、街でもブラつこう。
そう思っていた。
*
(………)
ぱちくりと、瞬きして目を擦った。
街へ向かう、その途中にある待ち合わせ場所の時計台。
そこに、梨乃がいるではないか。
ベンチで本を読んでいる。
また、神話だとか、そういうものを読んでいるのだろう。
ページを捲る梨乃の表情は、何とも楽しそうだ。
何故だ。 何故、いる? まだ十三時半だぞ。
いくら何でも早すぎるだろう。
苦笑しつつ、こっそりと後ろに回って声を掛けてみる。
「早すぎだろ」
「!」
パッと顔を上げて振り返る梨乃。
交わる視線に、二人は揃って笑った。
何のことはない。 ただ、待ちきれなかっただけ。
友達と話していても、時間ばかりを気にしてしまって。
逆に迷惑を掛けてしまうからと、帰ってきた。
そのまま、その足取りで時計台へ。
本を読みつつ、時間まで待っていようと思った。
まさか、凍夜がこんなに早く来るとは思ってなくて。
また逆に、気を使わせてしまったんじゃないかと梨乃は謝る。
待ちきれなかった……ね。 ふぅん。
何ていうか、こういうの、嬉しいもんだな。
まぁ、俺も似たようなもんだよ。
微笑み合い、手を繋いで歩き出す二人。
約束の時間より、一時間半も早く。
二人の甘いデートの始まり。
以前から、梨乃が行きたいと言っていた場所。アクアリウム。
何でも、幼い頃、両親に連れて行ってもらったきりらしい。
海や川、湖など、水辺が好きな梨乃にとって、
アクアリウムは楽園のようなものだ。
入場手続きを済ませている間も、いざ入館というときも、
梨乃はニコニコ満面の笑顔。 まるっきり、子供のようだった。
「イルカ! イルカがいますよ!」
「だな」
「か〜わいいですね〜〜〜〜〜…」
「……何か、微妙に情けない顔してないか、こいつ」
「そういうところが可愛いんですよ」
「そうか」
「あ、ねぇねぇ、イルカって哺乳類なんですよ。 知ってました?」
「へぇ、そうなのか? (知ってるけど)」
「そうなんですよぉ。 あ、そうそう。イルカの声って……」
楽しそうに自慢気に、まくしたてるように喋る梨乃。
普段のおとなしい梨乃とは、まったく別人だ。
知っていることを、全部教えようと、一生懸命話す。
水槽が変わる度、そこにいる動物にキャッキャとはしゃぎ、
ここが可愛いだとか、あそこが可笑しいだとか。
自分の思うことを、躊躇うことなく口にする。
タコやクラゲを、ただジーッと眺め(見惚れ)たり、
サメや魚群を見て大騒ぎしたり。
全身で「楽しい」と表現する様が、とても可愛くて。
水槽中の動物よりも、お前を見てる方が楽しいよとか思ってしまったり。
すっかり子供に戻って、オーバアクションで楽しむ梨乃を見つつ、
本当に好きなんだなぁ、と微笑む凍夜。
あまり はしゃぐと転ぶぞと注意するものの、
梨乃のテンションは上がりっぱなしのようで。
「はふ……」
満足そうに微笑みつつ息を落とした梨乃。
アクアリウム内にあるレストランで休憩。
コクコクと紅茶を飲む梨乃の頭を撫でて凍夜は笑う。
「はしゃぎすぎて疲れたか?」
「ふふ。ちょっとだけ」
「楽しそうだな、お前」
「はい。楽しいですよ。……凍夜さんは、楽しくないですか?」
「いいや。 すげぇ楽しいよ」
「ふふ。ですよね! じゃあ次は、ペンギンショーに行きましょ!」
不思議だな。
お前が、そうやって笑ってると、俺も楽しくなってくる。
驚いたりウットリしたり、お前の百面相は、見ていて飽きない。
傍にいて、隣で笑って、頷いてやる。
それしか出来ないけれど、それで十分なんだな。
いろいろ考えてはいたんだ。
こうしてデートらしいデートをするのは初めてだし、
どうすれば、お前を楽しませてやれるんだろうかって。
でも、そんなこと考えなくても良かったんだな。
一緒にいれば、何処だって何だって楽しいんだ。
隣にいるのが、お前であれば。
*
初デートの記念に、とプレゼントしたイルカのぬいぐるみ。
それを愛おしそうに抱きつつ歩く梨乃。
幸せそうな横顔に、目を伏せ淡く微笑む凍夜。
夕暮れの中、二人仲良く手を繋いで帰る。
帰る場所は、同じ場所。
せっかくだから、今日は一緒に眠ろうか。
「問題です」
「ん?」
「最後に見た、不思議なサメの名前は何だったでしょうか」
「あ〜〜……と。 何だっけ。ノコギリ、じゃねぇな。えーと」
「5,4,3,2……」
「え。時間制限付きかよ。 えーと…えーと…。 駄目だ忘れた」
「時間切れ〜。 正解は、ハンマーヘッドシャークでしたっ」
「あ〜〜〜〜」
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
シナリオ参加、ありがとうございます。
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2008.06.21 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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