■INNOCENCE / 15時、時計台で (限定受注)■
藤森イズノ |
【7433】【白月・蓮】【退魔師】 |
十五時、時計台で。
交わした約束、デートの約束。
おしゃれして、部屋を出る。
今日は、忘れて楽しもう?
任務だとか仕事だとか、そういうことは忘れて。
めいっぱい、楽しもう?
さぁ、何する?どこ、行きたい?
何でも言って。仰せのままに。
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INNOCENCE // 15時、時計台で
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OPENING
十五時、時計台で。
交わした約束、デートの約束。
今日は、忘れて楽しもう?
任務だとか仕事だとか、そういうことは忘れて。
めいっぱい、楽しもう?
さぁ、何する? どこ、行きたい?
何でも言って。仰せのままに。
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ドキドキしつつ待つ、時計台の下で。
チラリと確認する時計、時刻は十四時四十五分。
鞄から手鏡を取り出し、ちまちまと前髪を弄って、ふぅと息を吐く。
そわそわと、落ち着かない気持ち。
あと十五分。 たった十五分。
けれど、それが凄く長く感じる。
早く、早く時間にならないかな。
早く会いたい。 声が聞きたい。
まだかな、まだかな……。
そわそわと時計台の下で落ち着きない梨乃。
彼女は、待ちぼうけ。
約束の時間は十五時。
みだしなみはバッチリ。
お気に入りの服、お気に入りのフレグランス。
髪も、いつもより高めの位置で結ってみた。
お察しのとおり、彼女が待っているのは男。
それも、一癖ある男。
男の名前は蓮。 白月・蓮。
ん? そんなこと言われなくてもわかってるって?
まぁまぁ、雰囲気というか。 良いじゃないですか、たまには。
二人の、初デートなわけですし。
仕事に出掛けたり、本部で話していたり。
蓮と梨乃は、いつも一緒にいるけれど、
こうして二人きりでデートというものを実施するのは今日が初めて。
タイミングを逃していたというのも、あるだろう。
そもそも、帰る場所が同じとなると、
デートというのは、なかなか難しい。
いつでも会いたいときに会えるが故に、ないがしろになりがちだ。
ん? そもそも、付き合ってるわけじゃないでしょ、って?
うーん。 まぁ、それはそうなんだけれど。
それもまた、今更って気がしませんか。
いっそのこと、付き合ってしまえば良いんですけども。
それもまた、タイミングを逃してたり……するんでしょうね。
デートのお誘いは、梨乃から。
蓮が実家に戻っていたことを好機と捉え、メールを飛ばした。
一緒に、アクアリウムに行きませんか?
メールを確認して、まず蓮は驚いた。
梨乃ちゃんから誘ってくるなんて、珍しいなぁ。
しかもデートのお誘いですか。 ふふ、嬉しいね。
まぁ、俺も常日頃思ってはいたんだ。
一度ちゃんと、デートするべきなんじゃないかなぁって。
実際、俺達って曖昧だよね。
手を繋いだり、キスをしたりするけれど、恋人同士ってわけじゃない。
俺は、このままでも別に構わないと思ってるんだけど。
キミは、モヤモヤしてたんだろうね、ずっと。
真面目だからなぁ。キミは。
まぁ、そろそろハッキリさせるべきだとも思うし。
良いですよ。 お付き合いしましょう、喜んで。
(……可愛いけど、ちょっと可笑しいね)
クスクス笑う蓮。 視線の先には、そわそわしている梨乃。
約束の時間、五分前。 待ち合わせ場所に到着した蓮は、
こっそりと、物陰から梨乃の様子を伺っていた。
落ち着きなくキョロキョロしている様は、何とも初々しい。
もう少し見ていたいところだけど、待たせちゃ可哀相だし。行こうか。
ヒョコッと姿を見せ、手をヒラヒラさせながら歩いてくる蓮。
蓮を発見した途端、梨乃は硬直。
わ……。 何だろ、これ。 すごい緊張するなぁ……。
記念すべき初デートの、はじまり、はじまり。
*
どこへ行きたいの? どこでも、お供するよ。
そう告げて微笑んだ蓮。
梨乃は、ちょっと照れくさそうに笑いつつ言った。
アクアリウムへ、行きたいのだと。
幼い頃、まだ両親が生きていた頃、連れて行ってもらったアクアリウム。
あれから、十余年。 久しぶりに踏み入る思い出の場所。
一人で来るようなところでもないし、
他に誰かを誘ってみるという気持ちにもならなかった。
心のどこかで、恐怖を感じていたのかもしれない。
踏み入ることで、色々と思い出して泣き出してしまうんじゃないかって。
来たいと思えたのは、あなただから。
あなたと、来たいと思ったの。
そう思えた理由も、ちゃんと理解ってる。
今日はね、それをね、伝えようと思ってる。
うまく伝えられるか、すごく不安だけれど……。
「おぉ。サメだ。こうして見ると、迫力あるよね」
「………」
「ん? どうしたの?」
「は。あ、い、いえ。何でもないです。可愛いですね、サメ」
「あはは。可愛いかなぁ。怖くない?」
「可愛いですよ。ほら、目とか歯とか」
巨大水槽を見上げて、楽しそうに笑う梨乃。
水中を舞う動物、一匹一匹に感想を述べていく。
楽しそうに笑ってはいるけれど、バレバレだったりもする。
何だかんだで、かなりの時間を一緒に過ごしてきた。
加えて、梨乃は隠し事が驚異的にヘタだ。
更に加えて、蓮は感が鋭い。
故に、何か耽るところがあることはバレバレ。
ふふ。何を考えてるのかな? 教えて欲しいな?
なんて。わかってるんだけどね。
デート前日、蓮のセッティング。
友人が勤務している、夜景の綺麗なレストラン。
他の子とのデートのときにも、よく使うそこは、蓮のお気に入り。
日替わりの如く違う女の子を連れてくる蓮に、
初めのうち、友人は呆れて笑っていたけれど、
今やすっかり慣れたようで、快く迎えてくれるようになった。
蓮の友人だから、ということもないが、空気の読める男だ。
事前連絡の際、友人は任せろと誇らしげに笑った。
店長にお願いして、一番良い席を取っておいてくれるとのことで。
「梨乃ちゃん。夕食は、俺に任せてくれる?」
「え?」
「良い店、知ってるんだ」
「は、はい。わかりました」
*
高層ビルの最上階。
周りは、あからさまにセレブな雰囲気。
(こ、これは……)
着席してから、ずっとソワソワしている梨乃。
こんな店に入ったのは初めてだ。
どうすれば良いのか、さっぱりわからない。
テ、テーブルマナー。 ど、どんな感じだったっけ。
千華さんに教えてもらったんだけどな。 うぅ……。
極度の緊張で、頭の中は真っ白。
俯き座っている梨乃は、湯気を噴きそうな勢いだ。
梨乃の様子を、テーブルに頬杖をついて見やっている蓮。
そこへ、友人がワインを持って歩み寄ってくる。
「いらっしゃいませ」
「ふふ。毎度どうも」
「……へぇ。随分と可愛らしい子だな。 …今日は。※小声で」
グラスにワインを注ぎつつ苦笑する友人。
でしょ。羨ましい? などと笑って返す蓮。
気さくに、砕けた感じで話す二人だが、梨乃は俯いたまま。
自分について話されていることにも気付いていないようだ。
ごゆっくりどうぞ、と耳元で呟き、去って行った友人。
微妙に含みのある、その口調に笑いつつ、蓮はグラスを手に取る。
「大丈夫だよ。そんなに緊張しなくても。さ、乾杯しよう?」
「はっ。は、はい。すみません」
慌ててグラスを手に取り、テーブルの中心で軽く合わせるグラス。
喉に落とすワインは、とても爽やかな……林檎のワイン。
美味しいです、と微笑む梨乃。
緊張を解すワインなんだよ、などと笑い、蓮は目を伏せる。
美味しい食事とワイン。
他愛ない話をしつつ、過ごす二人だけの時間。
ここの夜景、綺麗でしょ?
そう言って微笑む蓮の横顔を見やる梨乃は沈黙。
言葉が返ってこないことで、蓮は、んっ? と梨乃を見やった。
じっと、自分を見つめる瞳。
(うわ)
咄嗟に、目を逸らしてしまいそうになったのは、
別にやましいことがあるからだとか、そういうことじゃなくて。
そんな目で見ないでよ。 さすがに焦るよ。
って、焦るとか……。 ありえないよねぇ。
俺が、女の子に見つめられて戸惑っちゃうとか。
ないない。 ありえないよ。 ……今、この瞬間まではね。
「どうしたの? 何か、ついてる?」
微妙に動揺しつつも、微笑み声をかけた蓮。
すると梨乃は、じっと蓮を見つめたまま、小さな声で言った。
「蓮さん。 私……」
「うん?」
「その……。 えぇと……」
「うん」
「あなたのことが、好きです」
「………」
沈黙したのは、驚いたからじゃない。
いや、まぁ、ある意味、ちょっとビックリしてるところはあるかも。
もう少し、躊躇うんじゃないかなって思ってた。
言えるまで、微笑んでいようと思ったよ。
キミが、伝えたいと思うことを。
どんなに時間が掛かっても。
けど、意外とすんなり言ったね。
しかも、こんな所で。 言えちゃったね?
たくさん人がいるよ? みんな、俺達を見てるよ。
いつものキミからは、想像できないよね。
俯き、顔を真っ赤に染めている梨乃。
十分だ。 これ以上、求めるなんてこと出来ないよ。
キミの気持ちは、十分。 痛いくらいに伝わってる。
そっと梨乃の手に触れて微笑む蓮。
ビクッと揺れる肩。 梨乃は、おそるおそる顔を上げた。
自身の手に触れている蓮の、優しい笑顔。
「うん。俺も」
その言葉を、返答を。
どれほど待ちわびただろう。
想いを言葉に、口にしたのは今日が初めてだけど、
いつもいつも、想ってた。
この想いを、きちんと形にしたいって。
そうすることで、すっきり出来ると思った。
ぐっすり眠ることも出来るようになると思ったし、
ボーッとすることもなくなる。 そう思ってた。
ずっと、ずっと、伝えたかった想い。
その想いは、二人とも一緒。
ようやく重なり合う、二つの心。
もう、曖昧だなんて言わせない。
もう、はぐらかしたりしない。
今日から、俺とキミは二人で一つ。
頬を赤らめつつ、幸せそうに、キュッと指を絡める梨乃。
その顔を見ながら、部屋も取っておくべきだったかなぁ。
なんて、ほんのり後悔してるのは、とりあえず内緒にしておこう。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
シナリオ参加、ありがとうございます^^
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2008.06.24 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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